シュールな展示で人気爆発 PRコンサルタントが見た「竹島水族館」の戦略とは

こんにちは。
地方の採算が取れない水族館や美術館は、続々と閉鎖に追い込まれています。愛知県の蒲郡市の「竹島水族館」も2005年には年間入館者数が12万人まで落ち込み、閉館の危機にあったそうです。
しかし魚の見せ方や展示法をがらりと変えたことで再びにぎわい、2015年度は年間約30万人の大台を初めて突破しています。PRコンサルタントである筆者が実際に行って感じたことから、そのワケを解説したいと思います。

「お金がない」を売りに⁉

外観は心配だけど中はちゃんとしていますと紹介

1956年に建てられた水族館の外観は、年季が入り寂れた雰囲気を漂わせています。蒲郡市のホームページでも「外観は心配だけど中はちゃんとしています」と紹介するほどでした。市の施設なので入館料は安く大人1人500円。チケットを買いさっそく入ると、外観からは想像できないほど親子連れがあふれていました。奥へ進むと珍しい淡水魚や深海生物が小さな水槽に展示され、幼い子どもは釘付けになっていました。

一方そのお父さんやお母さんたちは手書きの解説をじっくり読む姿が印象的でした。悪者扱いされがちな外来魚は「それでもボクは悪くない」と映画タイトルのパロディーに、“気持ち悪さ”で人気を集めたウツボへは嫌味のような“感謝状”が飾られクスッと笑えます。マツカサという魚の履歴書ならぬ“魚歴書”には「名前:マツカサ弘樹。数々のヤクザ映画に出演」とシャレの効いたコメントまでありました。

たびたび「たけすい(竹島水族館)はお金がないので…」という自虐的な解説を目にしましたが、あえてそのようにオープンにして開き直り、手作り感を出してネタにしているのが他にはない面白さなのではないかと感じました。

規模の小ささも逆手にとる

公営の水族館はレジャー施設でありつつ文化施設・研究機関として位置づけられるため、採算よりも研究を重視しがちです。
しかしここは飼育展示に力を入れ、規模の小ささも逆手にとっています。思わず人に伝えたくなるユニークな展示はSNSで拡散され、遠方の若い層にも認知されたといえそうです。

スタッフのキャラクターを前面に

飼育員が食べてみました

一番度肝を抜かれたのは、魚を「飼育員が食べてみました」という体を張ったコーナーでした。一人のスタッフが“グルメハンター”として、未知の深海生物や食用に不向きな生き物を調理して食べた感想を記しています。
オオグソクムシという深海巨大ダンゴムシは「さっと洗ってフライパンで長めに焼き、身を食べるとエビやシャコに近い味」だそうです。展示しているものを食べるという、スタッフの斬新な発想をいかした切り口も他との差別化となります。

選挙ポスターのような飼育員

入り口付近には飼育員10名ほどの自己紹介が展示され、なかには趣味嗜好を生態や成分など魚に例えるものもあります。どのスタッフも魚への愛が強く、個性的なので思わず見入ってしまいました。みな20~30代で、館長は35歳と大変若いため、どことなく学生のようなノリが伝わってきます(この館長が竹島水族館の改革の立役者となり、施設閉鎖の危機を救ったそうです)。
選挙ポスターのような飼育員の写真も並び、気づくと誰かのファンになってしまいそうです。

裏側もオープンに リピーター確保

飼育日記も公開する

通常は展示に合わせて、ある程度成長した魚を買うそうですが、竹島水族館は赤ちゃんの魚を安く手に入れて育てながらお客さんに見せています。そのため来場者が来るたびに成長を楽しみにすることができ、私が訪れたときも子供が「○○大きくなったね!」と歓声をあげていました。
アシカやカピバラのショーも毎日行なわれ、カピバラは生まれたての赤ちゃんの飼育日記も公開するなど何度も訪れたくなる工夫が随所に感じられました。

誰がツアーを担当するかは当日あみだくじで決める

1日20人限定のバックヤードツアーにも参加しました。飼育員が解説しながら水槽の裏側やえさを作る「調餌室」を30分ほど案内。ここでも「照明は飼育員が手作り」「えさの保管は他の水族館のように冷凍室ではなく冷凍庫」と自虐的なエピソードを交えながら、お金がないなかでも運営する工夫を紹介してくれました。
話す内容は飼育員ごとに違うらしく、誰がツアーを担当するかは当日あみだくじで決めるので、二度三度このツアーに参加しても楽しめそうだと思いました。

当初は1時間ほどで帰る予定でしたが思いのほか満喫し、昼食の時間も入れて3時間近く滞在しました。

企業経営やPR施策のヒントに

地方自治体が運営する施設は今後ますますオリジナリティーが求められていきそうです。資金に余裕のある都会の施設の真似をせず、ありのままの環境やスタッフの個性をいかすことは、企業経営やPR施策のヒントになりそうですね。
どういったことで他と差別化できるのかが分からずお困りでしたら、どうぞお気軽にご相談ください。

【ニックネーム】週末ボーカリスト
【これまで担当した業界】人材コンサルティング会社、化粧品、飲食、ホテルなど
【趣味】ボーカル活動(ゴスペラーズを輩出した大学アカペラサークル出身。オリジナルのポップスやジャズのバンドでライブ経験あり)、国内外の島巡り、ミニシアター系映画鑑賞、フルマラソン(2回完走)
【プチ自慢】2007年に滋賀県彦根市で行われた「世界一長いコンサート(連続184時間)」にアカペラで参加し、ギネス記録達成!