“ちょっとだけ”と思ってYouTubeを見始めると、あっという間に結構な時間が経っているということはないだろうか?
その中でも、いつもつい見てしまうチャンネルがあるという方も多いのでは?
私にとって「JAL、サブチャンネルはじめました。」は、その一つで、新たな動画が公開されるとついつい見てしまう。(普段、長尺の動画は途中で見るのをやめてしまうことも多いが、結構な確率で最後までみてしまう…)
最初は、パイロットやCA、グランドスタッフの方が面白い企画に挑んでいて、JALってこんなことも始めたんだな、くらいだったのだが、何回か見ているうちに、これだけの企画をこのペースで公開し続けるってすごいくない!?と思うように。
さらにその後、「メインチャンネルもあるのに、どうしてわざわざサブチャンネルを立ち上げたのだろう?」と、企業としての戦略も気になるように。
そこで、「JAL、サブチャンネルはじめました。」のYouTubeチャンネル広報担当者宛てにお手紙を出した。(あとから知ったが、チャンネル宛てに月間200通を超える手紙が届くそうで、よく見てもらえたなと…!)
今回は、日本航空株式会社マーケティングコミュニケーション部に所属する「JAL、サブチャンネルはじめました。」の広報担当、谷口朋代さんにお話を伺った。
(編集長)
この記事の目次
SNS運用は「媒体特性×JALとの距離感」を意識
編集長:マーケティングコミュニケーション部に所属されているということですが、主にどのようなことをする部署なのでしょうか?
谷口さん:チャンネル発足当初は広報部に所属しSNS関連の業務を担当しておりましたが、2025年4月に従来の宣伝部と私の所属するSNS担当のグループが合流し、マーケティングコミュニケーション部が発足しました。
広告やSNSなど、自社の情報を能動的に発信する部署という位置づけです。
編集長:「JAL、サブチャンネルはじめました。(以下、サブチャンネル)」は谷口さんが1名で担当されているとのことですが、その他のSNSは別の方が運用されているのでしょうか。
谷口さん:SNSグループは、JALの公式アカウントを4~5名で運営しています。私は主にYouTubeとX、JALの旅コミュニティである「trico(トリコ)」を担当しており、他にInstagram、Facebook、TikTokの担当がおります。
編集長:情報発信量のわりに、少数精鋭での運用体制なのですね!
各SNSを拝見したのですが、コンテンツの使いまわしをほとんどされていないですよね?
これはやはりSNSの目的やターゲットが違うからなのでしょうか。
谷口さん:はい、そうです。
各媒体のデモグラだけではなく、「JALとの距離感」を意識してターゲット設定を行い運用しています。
Instagramは、旅行には興味があるけど航空会社にはこだわりがないといった、JALとの距離が遠い方にもコンテンツが届くように意識しています。
そのため、JALの情報を発信することだけに比重を置くのではなく、素敵な旅先をご紹介することで旅行需要の喚起につながるようなコンテンツも積極的に投稿しています。そして、コンテンツをみて旅行に行きたいなと思ってくださったその先にJALとの接点があればと考えています。
一方Facebookは、JALへのロイヤルティが高い、つまりJALとの距離が近い方をコアターゲットとしています。そのため、整備士がマニアックなクイズを出題するといったこともしています。
TikTokは、比較的若い方に向け、JALという航空会社があることを知ってもらうきっかけになればと思い運用しています。
飛行機好きの方は別ですが、「JALと聞いたことはあるけど、正式な名前はなんだっけ?何色のどんなマークの会社だっけ?」という方も多くいらっしゃいます。
そういった方々が、就活を始められた際や旅行を考えた際、一つの選択肢としてJALを思い浮かべていただけるようになればと思っています。
ただ、TikTokで多くの方にご覧いただくには、一方的にJALがお伝えしたいことを発信するだけでは効果が期待できないため、TikTokのトレンドを取り込むことも意識し、パイロットやCA、整備士、グランドスタッフなどに協力してもらいつつ、ノンバーバルなコミュニケーションをメインに行っています。
#JAL は2026年1月から新たに東京(成田)-デリー線を開設✈️
インドと日本を結ぶ路線ネットワークを拡充します✨
また日本とインドを結ぶ路線においても、インディゴとのコードシェアを開始予定です😊
→https://t.co/Z3kgCsEmnh✈️[プレスリリース(機材・ダイヤ)]#JALPressRelease pic.twitter.com/VnPY7lTxlZ
— JAL's now【公式】 (@JALs_now) October 6, 2025
Xは、媒体の特性に鑑み、JALの情報を知りたいと思ってくださっている方に迅速にお伝えするという目的で運用しています。
JALもプレスリリースを頻繁に出していますが、基本的にはメディアを対象としていて、一般の方が目にする機会はほとんどないと思います。ただし、プレスリリースもメディアを通し、一般の方に知っていただきたい情報ですので、プレスリリースの内容をX風にアレンジして発信しています。
サブチャンネルを立ち上げた理由は「YouTubeのアルゴリズム」
編集長:YouTubeについて、より具体的にお話を聞かせてください。
YouTubeは「JAL 日本航空【公式】」チャンネルがありますよね。それがあるのに、なぜサブチャンネルを立ち上げたのでしょうか?
谷口さん:私が広報に着任した2022年頃、YouTubeの公式チャンネルはありましたが、YouTubeの運用を前提として動画をアップしているというより、YouTubeに動画を上げておいた方が宣伝や販促時に使い勝手がよいから上げておくといった使い方がメインでした。
ただ、コロナ禍でもあった当時、実家に帰省すると、いわゆる高齢者層の両親がテレビでYouTubeをみるようになっていました。おうち時間が長くなったこともあり、両親だけではなく、YouTubeが老若男女に対し、地上波と同じくらい影響力を持ち始めていることを感じました。であれば、JALももっとYouTubeを上手く活用すべきではないかと、最初は公式チャンネルのアイコンやバナーを刷新し、動画もカテゴライズし直すところから始めようと考えました。
編集長:でも、サブチャンネルを立ち上げるという道を選んだのですね。
谷口さん:はい、YouTubeを活用して、もっとJALを知ってもらいたいと欲が出てまいりまして。(笑)
公式にはテレビCMとしてはきれいな動画などが上がっていたのですが、YouTube上で魅力的なコンテンツかというとそうではなく、かといってそこへYouTubeライクな動画を追加したとしてもチャンネル運営のアルゴリズム上、効果的ではないと考えました。
YouTubeの場合、検索からの流入ではなく、おすすめ動画して表示されることが重要だと思うのですが、様々な動画が上がっている公式チャンネルにYouTubeライクな動画を追加しても、チャンネル属性があいまいでリコメンドしてもらいづらくなってしまうのではないかと。
そう考えながらYouTubeを見ていると、YouTuberでメインチャンネルの他にサブチャンネルを持っている方が多く、サブチャンネルのほうが自由度も高い印象だったため、サブチャンネルを立ち上げることにしました。これが2023年春のことです。
ちなみに、チャンネル名にあえて「サブチャンネル」と入れることで、メイン(公式)の真面目なチャンネルもあるということ、またサブチャンネルだからちょっと面白おかしいコンテンツを上げても理解いただけるのではないかと「JAL、サブチャンネルはじめました。」というチャンネル名にしました。
編集長:先ほど、各SNSの運用目的やターゲットをうかがいましたが、改めてYouTubeのサブチャンネルについてもお聞かせください。
谷口さん:目的は認知の拡大ですが、ターゲットについては、ここでもJALとの距離感を意識しました。
JALへのロイヤルティが高い方や航空機好きの方は、すでに公式チャンネルをみてくださっているだろうと思っていたので、サブチャンネルではJALについてあまりご存じない方や飛行機に興味がない方、飛行機にご搭乗いただく機会の少ない方、また中長期的に消費に影響力を与える20代前後の方々に向けて、サブチャンネルの動画がリコメンドで上がることを意識しています。
JALに対し、古くお堅いイメージを持っている方も多いようですが、実際、中で働いていると世間の認識とのギャップを感じます。そのため、サブチャンネルではJALグループ社員の飾らない姿をお見せすることで、親しみを感じていただければと思っています。
外部ディレクターの「第三者目線」が企業色を払拭
編集長:サブチャンネルの企画についてもお聞かせください。
御社のTikTokも非常に多くのフォロワーがいますが、こちらはTikTok内での流行りにいかに乗るかが重要だと思いますが、YouTubeはコンテンツとしての面白さがないと見てもらえないし、チャンネル登録もしてもらえないと思います。
まず、企画の重要な要素として、パイロットの窪田さんや和田さんがいらっしゃると思いますが、谷口さんがスカウトするところから始めたのですか?
谷口さん:窪田とは実は高校のクラスメイトで、JALグループの同期入社でもあります。窪田に関しては、谷口が始めるならということで協力してくれることになりました。和田は窪田と相性の良さそうなパイロットというところで紹介いただきました。
編集長:そうだったのですね!
コンテンツ企画という意味では、どういった点にこだわりをお持ちなのでしょうか。
谷口さん:いわゆる宣伝色の強い企業チャンネルにはしたくなく、純粋にYouTubeコンテンツとして皆さまに楽しんでいただけるものをご提供したいと思っています。ただ、その中でJALの良さを知ってもらいたいという思いはあるので、サブチャンネル開始時はどうしたら両立させられるか時間をかけて考えました。
その結果、取り入れたのが、外部ディレクターによる第三者目線です。
私がJALの良いと思う所を一方的にお伝えしても独りよがりになってしまいますし、見ている方も宣伝と受け取り冷めてしまうと思います。逆に、「JALって●●はどうなのですか?」と私が社員にインタビューをする構成にすると「広報なんだからそんなこと知っているべきでは?」と思われてしまうかもしれません。
そのため、第三者である制作会社のディレクターがJALの社員にインタビューするという形を多く取っています。
ディレクターが視聴者目線で気になることをインタビューすることで、視聴者も自己投影しやすくなるのではという狙いがあります。
ディレクターには、あえて外部の人間であることがわかるように「JALさん」という言葉を使い質問を投げかけていただくというのもこだわりの一つです。
そして、絶対にディレクターの顔を写さないというルールもあります。これは顔がでてしまうと、視聴者の方にとって”画面の向こう側の人”と見えてしまって自己投影しづらくなってしまうことを避けたいという考えがあるためです。
編集長:なるほど~!単にディレクターは外部の方だから顔を出すのが嫌なのかと思っていましたが、そんな深い理由があったのですね!!
企画は「エンタメ性」と「JALとして実施すべきか」の2軸で判断
編集長:ちなみに、企画自体はどのように決めているのですか?
谷口さん:私とディレクター双方がアイディア出しをします。
ディレクターの企画は私がJALとして実施すべきかを判断し、私が上げた企画はディレクターが一般視聴者の目線で純粋に見たいと思えるか、YouTubeライクなものかをジャッジしています。
それ以外ですと、最近ありがたいことに社内からもサブチャンネルで取り上げてもらえないかといった相談をもらうようになっています。例えば最近でいうと、国際線の預け入れ手荷物にモバイルバッテリーを入れられないということをサブチャンネルでも注意喚起してほしいという相談がありました。ただ、企業からの一方的な注意喚起をするだけの動画だとYouTubeコンテンツとしての魅力に欠けると判断し、ディレクターと相談し、グランドスタッフが預け入れ手荷物の重さを当てるといった要素も加え動画にしました。
編集長:再生回数がよかった企画を参考に、新たな企画を考えることもありますか。
谷口さん:YouTubeアナリティクスをみると、同じくらい再生回数が回っているものでも、新規ユーザーが多い動画もあれば、リピーターが多い動画もあります。
回数を意識して企画を検討するというよりは、リピーターの方が多くみてくださる動画が続いた後は新規の方が見てくださるような動画にしようなどバランスを見て企画の調整をしており、そういった意味では参考にしています。
編集長:動画の公開は曜日や時間帯を決めていますか?
谷口さん:サブチャンネル立ち上げ当初から、毎週金曜日19時と決めて動画を公開しています。
今では、金曜日19時というのが定着し、公開されるのを待って視聴してくださる方も多くいらっしゃいます。そうすると初速の伸びも良くなり、リコメンドされやすいというメリットもあります。
編集長:現時点でどのくらい先まで動画をストックされているのでしょうか。
谷口さん:ある程度ストックはあるのですが、実はパイロットやCA、整備士、グランドスタッフに協力をしてもらう動画がほとんどなのですが、皆さん本業で忙しいため、1日にまとめて4~6本の動画を撮影させていただいています。
ただ、それを順番に公開しているわけではなく、職種やテイストを上手くミックスさせて偏りがでないように意識し公開しています。
その為、撮影してから半年くらい経ってから公開するケースもあります。
こういった事情もあるので、「いつみても成立する動画にする」という点は意識しています。
YouTubeの効果測定で意識している3つのこととは?
編集長:YouTubeのKPIって難しいと思うのですが、サブチャンネルの場合は何か設定されていますか。
谷口さん:企業活動という観点においての理想は、サブチャンネルをみてくださったことをきっかけに航空券を購入してくださった方がどのくらいいるかだと思うのですが、我々SNSチームの活動は企業ブランディングが大目的で、これは一朝一夕で売上につながるものではないと考えています。
そのため、強いて挙げるとすると3つの観点は意識しています。
一つがコメントの内容と数です。
サブチャンネルには非常に多くのコメントが寄せられていまして、サブチャンネルをきっかけに
「次の旅行はJALで行くことに決めました」
「JALカードを作りました」
といった嬉しいお声をいただきます。
SNSのエンゲージメントの中でもコメントは深いコミュニケーションだと考えていますし、こういった行動変容につながった内容や数は控えています。
二つ目が、ブランドのイメージ調査です。
JALでは、定期的に様々な活動について外部による調査を行っています。この中にSNSに関する評価項目も入れてもらっており、どのように変化してきているかを定点観測しています。
三つめが、再生回数や登録者数です。
これはKPIというわけではないのですが、ありがたいことに、登録者数も再生回数も右肩上がりでして、この成長曲線を維持できるよう活動するといったところを私自身の目標にしています。
社員にあえてYouTube動画の公開を知らせない「納得の理由」とは?
編集長:YouTubeでポジティブなコメントが多いのは嬉しいですね。
谷口さん:お手紙でもサブチャンネルをきっかけに航空系に興味を持ち進路を決めましたといただくこともあれば、実際JALに入社した新入社員やインターンで来てくれている学生がサブチャンネルをみてJALを選んだと言ってくれているのを聞くと、誰かの人生のお役に立てているようで嬉しいです。
また、最近は先ほどもお話したように他部署からサブチャンネルで取り上げてほしいといってもらえる機会が増えています。つまり社員でもサブチャンネルを見てくれている人が増えているということだと思いますが、自社の社員がもっとも厳しい目を持っているはずなので、面白いと思ってみてくれている社員が増えているのもすごく嬉しいです。
編集長:社員数も多いですし、初速を上げるという意味で動画公開直後に、社内に案内を出したりしないのですか?
谷口さん:あえてしていません。
それは、社員の属性とターゲットの属性が必ずしも一致しないためです。チャンネルのターゲットに確実にリコメンドされることを目指しているため、非ターゲットである社員にリーチしてしまうとYouTubeアルゴリズム上では不利に働く可能性があるためです。
編集長:なるほど!?確かにその通りかもしれませんね。
YouTubeのアルゴリズムを非常に意識した運用をされていますね。
ライブ配信では同時接続2万人超えでも、社内からの評価はまだまだ!?
編集長:立ち上げ当初から順調に視聴数など伸ばしていらっしゃると思いますが、大変だったことはありますか。
谷口さん:強いて言えば、社内からの評価を得るにはまだまだ頑張らないといけない…ということでしょうか。(笑)
ライブ配信をすると同時接続2万人超え、(以前YouTubeにあった)急上昇ランキングで最高2位、毎月サブチャンネル宛てのおたよりは200通超え、Googleからもお褒めの言葉をいただいたりと、運営側からすると大変光栄なことと思っているのですが、これは実際にYouTubeを運営したことがないとすごいことなのか判断しづらいと思います。
編集長:ありがちですよね。(笑)
SNS系は、社外から評価されて、それを受けて社内の評価も高まるっていう図式が出来上がっている気がします。
さいごに、今後、サブチャンネルをどうしていきたいとお考えか教えてください。
谷口さん:企業の取り組みである以上、社員の異動などもありますし、ずっと同じ形で続けるのは難しいと思いますが、SNSだからこそ、時代とニーズに合わせて「在り方」を変化させていき、視聴者のみなさまにとっても良い形でお届けできればと思っています。
編集長:サブチャンネルだからこそ、そういった柔軟性のある対応も可能かもしれないですよね!
PRマガジン編集部の編集後記
―「企業のYouTubeチャンネルはつまらない」は過去の話
様々なYouTubeが多数存在するが、そんな中で見てもらえる動画とはどのようなものか?
少なくとも、企業のCMや広告のような動画ではないだろう。
少し前まで、企業のYouTubeチャンネルというと、CMをストックしていたり、宣伝色の強いコンテンツが並んでいるチャンネルが多かったように思う。
でもそれでは見てもらえない。見てもらえないことには何の目的も達成できない。
そこで、まずはたくさんの人がファンになってくれるチャンネルであることが重要だと、趣向を凝らす企業が増えてきている。
そんな中でも大成功していると言えるのが日本航空の「JAL、サブチャンネルはじめました。」ではないだろうか?
あっという間にメインチャンネル(登録者数13万人/取材時点)を抜き、30万人を超えるチャンネルとなっている。
そして、チャンネル開設時は、日本航空という企業名は確かにアドバンテージになっていたと思うが、これほど登録者数を伸ばした背景には、“なるほど”な戦略が随所にあった。
企業チャンネルを開設したが、なかなか思うように進まないと課題感を感じている方がいれば、是非参考にしていただきたい。
今回の注目企業
日本航空株式会社(https://www.jal.com/ja/)
概要:航空運送事業を主力とし、国内・国際線合計で197路線、68か国(地域)、395の空港に就航(2025年3月31日現在)
お話を伺った方

日本航空株式会社 マーケティングコミュニケーション部 谷口朋代さん
中央:谷口さん、サブチャンネルに出演するパイロットの和田さん(左)・窪田さん(右)
マーケティングコミュニケーション部
谷口 朋代(たにぐち・ともよ)



























