なぜシャトレーゼはメディアからも消費者からも注目を集めるのか?広報が掲げる5つの戦略に迫る

この数年、バラエティでも経済番組でもSNSでもシャトレーゼの話題を多く目にするようになった。そして、調べたわけではないのに、シャトレーゼのことをよく知っている自分がいる。さらに、わざわざ店舗を検索してお気に入りの商品を買いに行っている。

私に何があったんだ?きっとそこにはシャトレーゼの人を動かすコミュニケーション戦略があったはず…と、広報室の中島室長に直接話を伺った。

(編集長)

殺到する取材に、わずか2名で対応

シャトレーゼ店舗での、TV取材受入の様子。

シャトレーゼ店舗での、TV取材受入の様子。

編集長:本日はよろしくお願いします。実は私、シャトレーゼの糖質オフ商品はおそらく全商品食べたことがあるくらい、お世話になっているんです。糖質オフとは思えないくらい美味しいなと。

中島さん:シャトレーゼの糖質オフ商品は、元々、糖尿病などで食事制限が必要な方々にもおやつを楽しんでいただけるよう開発した商品です。実は、小麦や卵、牛乳を使用しないアレルギー対応の商品もそうなのですが、お菓子屋として、家族全員で同じものを美味しく食べられるようにという想いから開発しました。
お菓子屋なので、当然、開発者は美味しいお菓子を作ることにこだわっているんですね。なので、機能性が加わることで味を落とすという選択肢はないんです。だから、糖質オフやアレルギー対応のお菓子であっても「美味しい」ということが大前提になっています。

編集長:そういった美味しさへのこだわりや価格の魅力もあり、この数年は経済番組やバラエティ番組などでも非常によく見るようになったと感じています。中島さんを含め、何名体制で広報活動を展開されているのでしょうか。

中島さん:広報室は室長の私と、私のサポートをしてくれる社員が1名、そして、工場見学やフードバンク対応、ホームページでの商品管理をしている社員という3名体制です。
最近は、取材が殺到していることや事業の拡大に伴い、カバーしきれない仕事もあるので、今期中にもう1名入れたいと思っています。

編集長:シャトレーゼはSNS、特にTwitter運用でも注目を集めていらっしゃいますが、それは広報ではないのですね。

中島さん:SNSは販売促進チームが主導で行っています。

オープン懸賞企画を広報主導で進めた狙いとは

編集長:広報がどういった戦略のもと、どのような取り組みをされているか教えていただけますでしょうか。

中島さん:3月22日に、「チョコバッキー累計2億本突破!!記念キャンペーン」というものをホームページで密かにアップしました。
チョコバッキーという商品は、チョコレートがたくさん入っていて、触感も楽しんでいただける商品です。かじる場所によって違う音がでるんですね。2018年3月に既存のアイスをリブランディングして誕生したのですが、そこから4年経ち、シリーズの販売累計が2億本を突破したことから、チョコバッキーの咀嚼音を当てるというオープン懸賞を企画しました。前々から2億本を突破するタイミングで仕掛けようと思っていました。

22日の段階では、ホームページにアップしただけで、SNSなどでの告知はしなかったのですが、それでも一日で1万弱の回答がありました。23日にはSNSでも告知したので、3月末時点で回答は3万件を超えています。

オープン懸賞のキャンペーン

編集長:なぜ、オープン懸賞のキャンペーンを展開しようと思われたのですか。

中島さん:コロナ禍でチョコバッキーの認知はさらに上がったのですが、一方で食べたことがないかたもたくさんいらっしゃいました。オープン懸賞の良いところは、購入していなくても食べたことがなくても、誰でもクイズに参加できるということです。チョコバッキーの場合、音を聴くというブランド体験を通し、より商品に対し興味をもってくださるのではないかと思い企画しました。広報では、こういった一歩踏み込んだブランド施策を展開しています。

編集長:一見販促よりの取り組みに見えますが、「ブランド体験」というところに重きを置いているのが、広報が取り組んでいるからこその視点ですね。
ちなみに、2018年のチョコバッキーのリブランディングは、中島さんがリードし、行われたんですよね。

中島さん:はい、当時私は企画チームだったのですが、ネーミングもパッケージも全部変えようというプロジェクトを主導で進めました。ネーミングは私自身もたくさん案をだし、その一つに「チョコバキ」という案がありました。音を混ぜてわかりやすく商品の特徴を表現したかったんですね。でも、「バッキー」のほうが、響きとしてすわりがいいのでは?というメンバーからの意見があり、「チョコバッキー」で商標登録もできたので、チョコバッキーに決まりました。

広報ミッションは話題創出により、購買・来店の動機をつくること

中島さんは、「シャトレーゼブランドの戦略的な露出により、菓子業界における話題創出のトップリーダーになること」を広報室の使命としている。

中島さんは、「シャトレーゼブランドの戦略的な露出により、菓子業界における話題創出のトップリーダーになること」を広報室の使命としている。

編集長:創業者の齊藤寛会長も、創業当初から“広告はださない”という方針を貫かれていますよね。そういった中で、「安いのにおいしい」ではなく「おいしくて安い」というブランドの認知やファンを増やすために、どういった広報活動を展開されているのか、具体的に教えていただけますでしょうか。

中島さん:まず、シャトレーゼグループは菓子事業を主軸にワイナリー事業やリゾート事業、ゴルフ事業などを展開しているのですが、全てに共通した経営方針が「プレミアム品質の商品・サービスを、手の届く価格でひとりでも多くのお客様にお楽しみいただくこと」です。

お菓子でいうと、素材・鮮度に非常にこだわりを持っているため、通常だとお客様に提供する値段も高くなっていますが、そこは企業として仕組みを作ることで、「安さ」も実現することができています。そういったことが評価いただいた結果だと思いますが、10期連続売上増となり、2022年3月期も過去最高の売上となる見込みです。広報としては、今後さらにこういった企業努力の部分を発信していかなくてはと思っています。

話が少しそれましたが、今お話した経営方針の基、広報室の使命としては、「シャトレーゼブランドの戦略的な露出により、菓子業界における話題創出のトップリーダーになること」です。

そして、『ブランド認知』『ブランド理解度』『ブランド好意度』を向上させ、シャトレーゼのファンを増やすこと。結果として、購買や店舗訪問の動機をつくることまでが広報の役割だと考えています。

編集長:そのために、どういったことをされているのでしょうか。

中島さん:いま重視しているのは、次の5つの戦略ですね。

【1】創業精神、経営理念の伝達
【2】「おいしさ」素材製法へのこだわり伝達
【3】ターゲット別露出媒体の設定
【4】話題を創出する広報企画
【5】エリア広報の強化

創業者の信念や価値観の発信が、ブランドエンゲージメントの向上につながる

ビジネス書「シャトレーゼはなぜおいしくて安いのか」書店売場にて

ビジネス書「シャトレーゼはなぜおいしくて安いのか」書店売場にて。

編集長:まず、一つ目の「創業精神、経営理念の伝達」から教えてください。

中島さん:シャトレーゼには、齊藤寛というカリスマ創業者(現・代表取締役会長)がおります。1954年に甘太郎という看板を掲げ、今川焼のような和菓子をわずか4坪ほどのお店で売っていたのですが、行列ができるほどのすごい売上を記録していました。そこが原点です。でも、この時売っていたお菓子は、焼き立ての温かいお菓子で、夏にはあまり食指が動かないものだったんですね。そこで、アイスクリームの製造を始めるのですが大手メーカーとの競争に敗れまして。でも、アイスクリームの製造工場で培った衛生管理や工業生産の技術で10円シュークリームを作り始めたら、これがまた大成功しました。当時、小売店には冷蔵庫がなかったのですが、リーズナブルな価格で「置いたそばから売れる」商品であれば売れると小売店を納得させ、実際置いたそばから売り切れる商品となりました。このように、困ったときにアイディアを出して、ピンチをチャンスに変えるのが創業者である齊藤の得意とするところです。そして、齊藤の生き方や考え方への共感がブランドのエンゲージメントにつながると感じています。

この創業者のシグネチャーストーリーを伝えるためのコンテンツとして、2021年度の広報方針の一つに“書籍をつくる”ということを掲げていました。

なぜ書籍かというと、ホームページやウェブからシャトレーゼに関する情報はいろいろ得ることができますが、もっと詳しく知りたいと思ってくださるお客様やメディアの方に提供できる書籍がなかったのです。自費出版であればいつでも出せるのですが、そのつもりは全くなかったので、書籍を出版するため、様々な出版社と話をしました。「シャトレーゼに注目している方々は多いし、これからもっと増えるはずだから、書籍を買いたいと思う人も多いはずだ」とプレゼンして回りました。

そんな中、宝島社からお声がけいただき、2021年に作ったのが「シャトレーゼBOOK」です。シャトレーゼのネタ本として、商品紹介や商品に関するトリビア的なエピソード、シャトレーゼをご利用いただいている芸能人の方のコメントなどを掲載しています。コアなファンが増え、シャトレーゼに関する情報を発信してくれる方が増えるといいなというのが狙いでした。こちらはシャトレーゼのバイブル的な書籍として、メディアにも配布しました。

ただ、「シャトレーゼBOOK」はどちらかと言うと若い世代向けで、かつ期間限定での販売だったため、書店にずっと置かれるビジネス書も欲しいと思っていました。業界のリーダーが出す書籍は、その業界に就職したい人、その会社と仕事したい潜在オーナーに対してもニーズがあると思っていたからです。そんな時、CCCメディアハウスさんがすごく熱量の感じられる企画書を送ってきてくれ、編集担当の方にお会いした当日に出版を決めました。
それが『シャトレーゼは、なぜ「おいしくて安い」のか』です。
この書籍を出版した後、シャトレーゼに取材にいらっしゃるメディアの方が、この本を読みこんで来てくれるようになりました。会社の歴史アーカイブ兼PRのインフラになった感じですね。

ビジネスの肝となる部分は、「繰り返し」伝えていくことが重要

TBSがっちりマンデー収録時に、会長コメントを確認している様子。

TBSがっちりマンデー収録時に、会長コメントを確認している様子。

編集長:2つ目は、『「おいしさ」素材製法へのこだわりの伝達』ですね。

中島さん:我々は、商品力ありきの広報だと思っています。そして、その商品力をいかに正確に、おいしそうに伝えていくかが広報のミッションです。
「おいしさ」素材製法を伝える上でのカギとなっているのが、「ファームファクトリー」という中間コストを省く仕組み作りです。このおかげで、お値打ち価格を実現できています。

ファームファクトリー

「ファームファクトリー」は、山梨という自然豊かでフルーツが豊富な土地に拠点を置き、隣接するエリアからも新鮮な素材を手に入れられる地の利があるからこそできている仕組みです。フルーツだけではなく、牛乳や卵もそうです。毎朝生乳が入ってきて自社工場で牛乳にし、卵も近隣の養鶏所から入手し自社で割卵しています。鮮度のよい食材を使うからこそ余分な添加物を加えずに美味しいお菓子をつくることができています。こういったことを伝えていきたいと考えています。

編集長:広報として、そういったことを伝えるためにどういったことを工夫されているのでしょうか。

中島さん:これは都度繰り返し伝えていくということしかないですね。その成果でもあると思いますが、最近はメディアの方もシャトレーゼの取り組みを知ってくれていて、先方から「自社で精米をしたり卵を割卵しているシーンを撮らせてほしい」といったようなオーダーをいただくようになってきました。

ブームは怖い。だから、報道・ビジネス系媒体への露出が重要になる

過去最大の試練ともいえる、TBSジョブチューンのジャッジ企画収録の様子。

過去最大の試練ともいえる、TBSジョブチューンのジャッジ企画収録の様子。

編集長:3つ目の「ターゲット別露出媒体の設定」とは具体的にどういうことでしょうか。

中島さん:これは、報道・ビジネス系の媒体と情報・バラエティ番組での露出のバランスを意識するということです。お菓子は、わかりやすいモノですし、おいしそうな画もテレビとしては二―ズがあります。そこで、情報・バラエティ番組から、売れ筋ベスト5とか、タレントさんのお店訪問といった企画でたくさんの取材依頼をいただきます。
しかし、トレンド商品としてだけ紹介されると、ブームのように終わっていく怖さを感じます。特にお菓子の世界はそういった動きが顕著だと思います。それを織り込み済みで商品を企画するお店や企業もあるかもしれませんが、素材力に裏打ちされた定番商品を長く愛してもらいたいと考えるシャトレーゼの場合、その波に乗ってしまうとヤケドします。そのため、トレンドで動く取材がメディア露出の中心になってはいけないのです。

だからこそ、ビジネス・報道媒体での露出も重要になってきます。先ほどお話した1と2の話題にも触れてもらえますし、潜在オーナーにも訴求できます。またバラエティや情報番組のプロデューサーやディレクターもビジネス・経済系の媒体はチェックされていますよね。

編集長:たしかに、最近ビジネス・経済系の媒体でシャトレーゼを見る機会が増えたように思います。

中島さん:ビジネス・経済系の媒体でいうと、特に日経系列ですね。実績としては「日本経済新聞」や「日経MJ」、「日経産業新聞」のほか「カンブリア宮殿」、「ワールドビジネスサテライト」といったTVメディアでも取り上げてもらっています。NHK甲府支局に取材してもらった内容が、「おはよう日本」で全国に放映されたこともあります。支局の記者にとっても地方の話題が全国で取り上げられるというのは一つの目標です。なので、我々も全面協力し、最初から全国で放送されることを目標に一緒に取り組みました。
「がっちりマンデー」にも創業者を出演させていただきました。プロデューサーに時間を作ってもらい、1時間ほどお話し、その場で取材を決めていただくことができました。

編集長:中島さんがアポ取りから提案に至るまで全て動かれたのですか!?

中島さん:「がっちりマンデー」の場合はそうです。企業広報が動かないと話を聞いてもらえない媒体もあります。こういった広報活動を通し、ビジネス・経済、そして情報・バラエティを両輪で上手く回していかないとブランドを成長させることはできないと考えています。

編集長:情報・バラエティでの露出というと、TBS「ジョブチューン」が印象的でした。

中島さん:放映後の反響も非常に大きかったです。撮影は、ホテルの宴会場で7時間近くかけ行われました。この収録のために、我々も想定問答を用意し、出演した開発の人間がどんな質問にもお答えできるよう万全の準備をして挑みました。
当日はカメラが何十台もある前で一品ずつ試食が行われるのですが、静寂の中で細部にわたる質問が飛び交うんですね。開発者たちは精神的にも体力的にも追い込まれていくので、演者も応援スタッフも自然と、合格ではうれし涙を、不合格では悔し涙を流しました。

編集長:私も実際そのやり取りを見ていました。不合格となったものって、そんなに言われるほどなのかな??と。放映のあと店舗に買いに行ったりもしました!

中島さん:ありがとうございます。実際、放映後、合格のものも不合格だったものも売上が上がりました。番組で生まれたエモーショナルなドラマが多くの人の心に残ったようです。SNSでもキーワードがトレンド入りするなど、シャトレーゼに対する好意的なコメントも非常に増えました。番組を通し、経営トップだけの露出では出せない、現場の人間の想いやどれだけ創意工夫し作っているかを示すことができたからだと思います。

このように、広報としては、社内にいる各分野のプロフェッショナルのものづくりに対する想いや姿勢に注目してもらうことで、企業を様々な角度から見てもらうことが大事だと考えています。というのも、デイリースイーツを提供する我々にとっては、ブランドを身近に感じてもらうことが大切だからです。

コロナ禍で、初のオンライン試食会を実施~ 一度で二度おいしい企画に

海外オンライン試食会の様子。シンガポールメディアを対象として行われた。

海外オンライン試食会の様子。シンガポールメディアを対象として行われた。

編集長:4つ目は「話題を創出する広報企画」ですが、例えばどういった企画をされたのでしょうか。

中島さん:広報にとって、ネタは商品だけではありません。他のお菓子屋さんにできない話題を創出するということが重要になります。

例えば、我々はお菓子を提供しているので、食べていただいてなんぼの世界です。しかし、新型コロナウイルスにより、店内で試食いただくようなロケはできなくなりました。こういった状況にも早く対応するべきだと考え、2020年5月に初めてケーキの試食会をオンラインで実施しました。メディアやインフルエンサーに商品を予め発送しておき、商品開発者がオンラインで説明するというものです。
これは実施し、非常に良かったと思っています。地元メディアに初めてオンライン試食会を開催すると伝えたところ、全国紙の支局も含め複数のメディアが取材してくれたのです。
つまり、試食に参加したメディアも商品について記事を書いてくれるし、その様子を取材したメディアも記事を書いてくれるという、一つの企画で二通りの露出を生み出すことができたからです。

編集長:2020年5月というと、結構早い段階ですよね。このあと、様々な企業がオンラインでの発表会を実施し始めましたもんね。

中島さん:そうですね。オンライン試食会は他にも良い点がありました。それ以前はオフラインで会場を借りて試食会を行っていたのですが、たくさんの方に来場いただいていたため、運営なども行いながらだと、全員に目が行き届かないんですね。でも、オンラインは参加者の表情を見ることができますし、こちらからも声がかけやすくコミュニケーションも取りやすくなりました。

「これは、オンラインであれば国境も超えられるな」と、次はシンガポールとつなげての試食会も実施しました。現地のPR会社に協力してもらい、メディアやインフルエンサーをスクリーン上に集めて、山梨のフルーツをふんだんにつかったケーキのオンライン試食会を行いました。
この時も、当日、現地のスタッフが参加者のご希望の場所までケーキをお届けし、試食会が始まるとストリーミングでその様子を中継で伝えたり、食べながらラジオ配信している方もいました。さらに、甲府の会議室で展開されたこの様子はNHKなど日本のメディアでも紹介されました。

このように、業界のトップを走るための取り組みを行っています。舞台は日本だけではないので、今後もっと多方面に展開していきたいと思っています。

編集長:企画してから実現するまでのスピード感はどのくらいだったのでしょうか。

中島さん:かなり早かったと思います。オンライン試食会は、2020年5月に国内、7月に海外で実施しました。元々、オフラインでの試食会実施は決まっていたのですが、一旦はコロナで中止にしようと思いました。生菓子は、日持ちが長いものではないので。でも、お近くの店舗に取りに来ていただくといった方法を取り入れながら、直前にオンライン実施に切り替え実現しました。

地元で愛され、根付くお店になるために重要な地方PR

盛岡県月が丘店オープン日の大行列の様子。

2020年10月、盛岡県月が丘店オープン日の大行列の様子。

編集長:最後は「エリア広報の強化」ですね。

中島さん:我々のビジネスは、郊外のロードサイド型独立店舗がベースになっていることもあり、全国各地のお客様を対象としています。ですから、それぞれの店舗が地元のお客様から支持されることが大事です。

そのため、一番興味を持っていただける地元メディアに取材に来ていただくことも重要です。本来は、そういった地元メディアの取材に対しても我々広報が対応できればよいのですが、人数も限られているので、都度出張して対応することができません。そこで、ブランドイメージを崩さないためにも、地方メディアからの取材依頼も一旦はすべて本社に企画書を送ってもらい確認し、その後店舗やエリアマネージャーに対応をお願いしています。

ただ、初出店エリアにおける広報戦略はまた話が違います。それまでシャトレーゼがなかった地域への初出店は、メディアの方からも一般の方からも非常に注目を集めます。

例えば、2022年2月下旬に四国最後となる徳島に店舗をオープンしたのですが、地元新聞やテレビからの取材も殺到しました。お客さまも連日たくさんおみえいただき、記録的な売上が続きました。皆さんテレビでシャトレーゼの商品を見たり、聞いたことはあっても食べたことはなく、「待ってました!」とご来店いただけたのだと思います。

編集長:このときは、広報から積極的にメディアアプローチをされたのですか。

中島さん:そうです。グランドオープンの前々日にメディア向けの取材日を設けました。コロナ禍ということで、感染防止の観点からも一時間一社という枠を設けて取材を受け、翌日から記事が出始めオープンを迎えるという流れにしました。テレビなどは、オープン後に再度取材しに来て、お客様のコメントを取り放映してくれたところもあります。

現在(2022年3月末時点)で、未出店エリアは秋田・沖縄の2県です。秋田は2022年の秋にオープン予定です。沖縄がオープンする際は、国内では最後の未出店地域への出店ということで、かなり盛り上がるのではないでしょうか。

SNSとマスメディアでの露出を掛け合わせ、広報PRの効果を最大化させる!

TBS「つぶれない店」共同企画商品発売の様子。

TBS「つぶれない店」共同企画商品発売の様子。

編集長:広報を展開する上では、売上を非常に意識されていると思いますが、広報のKPIはどのように設定されていますか。

中島さん:広報だけではなく、全社的に売上を意識して取り組んでいます。
広報のKPIに関しては、皆さん頭を悩ませていますよね。かつてはシャトレーゼも広告換算額を出していたこともありますが、今はしていません。今は、特に影響力のある企画に露出すると売上にも大きなインパクトがあることが裏付けされていますので、そのインパクトをポイント化し、露出の度、加算していくポイント制を採っています。

編集長:最後に、今後の広報展開についてお聞かせいただけますでしょうか。

中島さん:なかなか話せないことが多いのですが(笑)
様々な広報PR施策の効果を最大限まで引き上げるという意味で、インパクトのあるメディアに露出させるということを今後も継続的に行いたいと考えています。

例えば、シャトレーゼのSNSは一人の担当者がこまめに毎日投稿しています。およそ400種類におよぶ商品を取り扱っており、商品ネタという意味では、困ることがありません。どの商品を掘り下げ発信するかの選択肢が広いので、お客様を飽きさせない話題を発信できていると思います。

ただ、SNSだけではなくマスメディアとの相乗効果が大きかったと考えています。
昨今、マス離れが言われていますが、実態はまだマスが強いと思っています。特にテレビに露出した後は、商品が動くスケール感が桁違いです。そのことは、放映中のSNSの動きやHPへのアクセスからも見て取れます。HPへのアクセスと売上は相関しており、テレビで商品がどの程度紹介されるかが大きく影響します。

テレビで商品が取り上げられるとどういうことが起きるかというと、その商品をきっかけに、SNSで他の商品やシャトレーゼ自体の話題が一気に増え始めます。

池をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。SNSでは日常的にシャトレーゼの話題という石を投じており、小さな波紋があちこちで上がっているのですが、テレビ露出という大きな岩を投じると、そのインパクトにより、過去に投じた石のインパクトが新たな波紋となって一斉に湧き上がるのです。
これが、SNSとマスメディアの掛け合わせによる広報PR施策最大化の考え方です。

編集長:そのマス部分の話が今日のお話につながるところということですね。ありがとうございました!

PRマガジン編集部の「編集後記」

編集後記:編集長

―「バランス」を意識した広報展開

情報・バラエティと経済・ビジネス番組の露出量も、SNSとマスメディアの相乗効果にしても、シャトレーゼの広報活動においては「バランス」を非常に意識していることがよくわかる。

特にお菓子の世界では、よくブームが起こる。様々なメディアで取り上げられ、連日店頭に行列ができる。しかし数か月もすると閑古鳥が鳴くということも珍しくない。その状況を広報だけで解決するのは、なかなかに難しいと思っていた。が、今回シャトレーゼから話を伺い、なるほどと深く納得したことがある。

もしブームが去り、苦戦を強いられている企業やブランドがあるとしたら、そもそもの広報戦略が「話題の、あるいは人気商品としてお菓子を訴求する」という企業の枝葉部分にフォーカスしたものだけになってしまっていた可能性はないだろうか、ということだ。

事業が上手くいかないのを、広報だけのせいにするつもりは全くない。ただ、広報として事業に貢献できることは多分にあるということが今回のインタビューからおわかりいただけたのではないだろうか。

長く愛されるブランドになるためには、広報戦略が欠かせない。自社ブランドをどのように認知してもらいたいか。まずはそこから考え直すのも良いかもしれない。

さて、家の冷凍庫のシャトレーゼストックが切れたから、私もそろそろ店舗に買い出しにいかなくては!

今回の注目企業紹介

株式会社シャトレーゼ(https://www.chateraise.co.jp

創業:昭和29年12月20日
事業内容:和洋菓子、アイス、パン、飲料等の製造販売

お話を伺った方

株式会社シャトレーゼ広報室室長 中島 史郎(なかじま・しろう)

株式会社シャトレーゼ広報室室長 中島 史郎(なかじま・しろう)

広報室 室長 /Chief Communication Officer
中島 史郎(なかじま・しろう)