世界観でInstagramを制したボタニストの次なる戦略はマスメディア強化!徹底したリサーチと情報収集でテレビ露出は昨年比2倍、売上やSDGsにも貢献する広報とは —「I-ne」広報・山田新さん

今回は、経営理念に「Chain of Happiness」を掲げる、ビューティーテックカンパニー、株式会社I-neの山田新さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集部 若林)

広報課設立以来、初のMVPを受賞!

2021年上半期のMVPに広報課が選ばれる。

2021年上半期のMVPに広報課が選ばれる。

若林:まずは、 2021年上半期のMVPに広報課が選ばれたそうで、おめでとうございます! MVPに選ばれたのは、どういった実績が評価されたからなのでしょうか。

山田さん:ありがとうございます。売り上げに直結する露出数が史上最高だったということやインフルエンサーPRの新たな仕組みづくりなどを評価いただき、広報課設立以来はじめての受賞となりました!過去に広報メンバーが所属する各ブランドチームや個人での獲得はあったけれど、課としてMVPを獲ったことがない、獲りたい!とメンバーから聞いていましたので、マネージャーになった際に、裏目標としてこのメンバーでMVPを獲る!ということを掲げていたので、すごく嬉しかったです。

若林:授賞式もつい最近だったということで、すごくタイムリーな時に取材させていただけて良かったです。今日は、いろいろお話を伺えたらと思っております。改めて、ご経歴や広報体制についてお聞かせいただけますか。

山田さん:まず経歴ですが、2020年5月に入社しまして、現在、広報課の課長をしております。その前は、海外ファッションブランドのPRや一部上場企業のコーポレートとプロダクトの広報を経験し、その後フリーランスPRとしても活動してきました。現在のI-neの職務に関しては、2020年9月の東証マザーズへの上場に伴いまして、コーポレートPRに注力しつつ、広報課のマネジメントを行っております。

広報課は、販売本部ブランドプロモーション部に所属しています。一般的に広報は、マーケティングや経営管理系の部門にあることが多いかと思いますので、営業系の部署にあるのは特殊かもしれません。

横並びで、広告宣伝を担うADプランニング課があります。ひとつのブランドプロモーションにおいて、広報で訴求しきれないことはADプランニング課がカバーし、逆に、ADプランニング課がアプローチしきれないメディアは広報がカバーするといった形で、連携してシナジーを生んでいます。広報課内について詳しく説明しますと、コーポレートPRとブランドPRを担っていまして、ブランドPRはメディアリレーションチームとインフルエンサーリレーションチームの二体制で運営しています。メディアリレーションチームのメンバーは、それぞれ担当のメディアとブランドを持っているという体制です。

若林:御社は、ブランドも商品数もたくさんありますし、新商品も結構出ますよね。これらをどうやって広報課だけでPRしていくのだろう、手が回らないのでは、と思っていたのですが、今、広報課は何名体制なのでしょうか。

山田さん:6名です。コーポレートPRは私ひとりで、ブランドPRのなかのメディアリレーションチームは3名おり、それぞれがメディアとブランドの担当を持っています。同じくブランドPRのインフルエンサーリレーションチームに2名という体制です。
もともとこのようなすみわけはしていなかったのですが、それぞれが得意なこと、やりたいこと、目指していきたいキャリアなどを改めて確認させてもらって、それぞれに適した場所を考えた結果、この2体制がいいのではないかとみんなと話し合い、21年1月から組織化しました。

若林:たとえば、あるブランドの担当者が自分の担当するメディア以外に、担当の商品を紹介したい時は、どうされているのですか。

山田さん:メンバー全員が全ブランドについて説明できる状態になっていますので、メディアへのキャラバン時は、メディア担当者が代表して、I-neのブランドを一通りご紹介させていただくことが多いです。ブランド担当を設けているのは、社内のブランドチームと折衝する際、担当者を明確にするためです。

若林:なるほど!ブランド担当は、社内的なやりとりのためということですね。ちなみに、おひとりあたり、どのくらいの数のメディアを担当されているんですか?

山田さん:世の中に存在するメディアを、おおよそ、単純に割る4した数ですね。

若林:お一人あたり、かなりの数を担当されているのですね。

デジタルでリーチできない層にアプローチするためマスメディアを強化!徹底した媒体分析でテレビは昨対比2倍の露出量に

テレビ取材の様子。

テレビ取材の様子。

若林:今、山田さんはおひとりでコーポレートPRをされているということですが、どういった目的で、どういうことをされているのでしょうか。

山田さん:まず、現在のフェーズでの主な目的は、I-neやブランドのビジョンやミッションをメディアさんを通じて広く社会に伝えることによって、ファンを創っていくこと、そして採用広報と株主投資家様向けの広報になります。
2020年下期から、各事業部の課題に対して、私たち広報課が解決できることは何かを考えた時に、大きく3つの軸を設けました。ひとつは、I-neが得意とするデジタルで、とりきれていない層の認知とトライアルの獲得。特に、広報が販売本部に属している意味を考えて、売り上げに直結できるような露出の獲得。2つ目が、会社がより成長するための人材確保に向けた採用広報。3つ目が、投資家や株主様向けの広報です。

さらに、I-ne全体として「Chain of Happiness(チェーン オブ ハピネス)=商品を通じて、世界中を幸せにする」という経営理念をもとに、経営やブランドの開発運営、そして社会課題の解決やサスティナブル活動に力を入れていますので、そういった「Chain of Happiness」に紐づく取り組みについての発信もしています。
そして、コーポレートPR・ブランドPRともに、広報のミッションはすべてこの「Chain of Happiness」紐付くような形になっていまして、さらにブランド別に、コンセプトやターゲット、成長のフェーズが全然違いますので、そこは細かくKPIの設計をして戦略を立てています。

Chain of Happiness

Chain of Happiness

若林:一番ポイントで、かつ結果が出てきているのは、デジタルでは取り切れない層への訴求だと思いますが、この半年でどういった取り組みをされたのでしょうか。

山田さん:まずは、全社課題に対して広報で解決できることを改めてと整理しました。そして、最大のインパクトを出せる解決法を考えた時に、オンライン・オフラインセールス両方の売上に直結しやすく、これまでカバーできていなかったマスPR、特にテレビ露出獲得にコミットするということになり、昨年比で2倍の件数を達成できました。

若林:それは、すごいですね! 御社は女性向けのプロダクトが多いので、女性誌を分担し注力されてるのかなと思ってたのですが、テレビもみんなで分担してアプローチした結果が2倍になったということですよね。

山田さん:そうですね、もちろん女性誌も引き続き注力しつつ、テレビ露出獲得も、ですね。テレビのほうは、最初の頃はテレビ向けのプロモート資料を作成して、直接アプローチしたこともありましたが、成果には結びつかなかったんです。そこで一度、情報の流通網を整理し、番組のプロデューサーやディレクター、リサーチャーさんたちが情報収集する際に、どういうキーワードで検索するのか、どういった媒体を見るのか調べ、逆算して、そこに届くようなコミュニケーション設計をしっかり行いました。

たとえば、まずは新聞や業界誌などの一次メディアで掲載していただき、そこから拡散が期待できる2次メディアの「Yahoo!」や「SmartNews」などへ転載されていくことを逆算し、立体的に情報が流れていくように設計することを心がけております。具体的には、まずは、各メディアさんのインサイトの仮説立てをして、メディアフックを整理します。例えば、トレンド系のメディアさんであれば、ある商品が完売、もしくは売上好調など、人気の裏付けになりやすい情報を載せたリリースを配信してご掲載いただくこともそうですし、インフルエンサーリレーションチームによるSNSのUGC獲得で、話題になっているという事実をしっかり作り込むなどして、テレビが「今取り上げる理由」を着実に積み上げるようにしたり。TBS「がっちりマンデー」さんや「ヒミツの昼顔」さんも、その積み重ねでお声がけいただきました。

若林:「ヒミツの昼顔」のように、仕事の内容や製品のこだわりが伝えられる番組に出られるのは、ブランドだけではなく、コーポレートPRという意味合いでも大きいですよね。

山田さん:はい、テレビは特にわかりやすく反響があります。今回も売上や話題量、ホームページ、LPへの流入量、株価の面で非常に大きな影響がありました。

若林:7月2日の放送から、HPやLP、株回りで良い動きがあったということですね。

山田さん:そうですね、テレビに出たあとは、必ずECの売上やポスデータからわかる小売りさんでの数字などを追いかけています。おおむね、どの数字も伸びる結果となっています。

若林:今回、取材させていただくにあたり、色々情報を拝見し「CHILL OUT(チルアウト)」と「DROAS」をAmazonで初めて購入させていただきました!私もそうですが、知れば買いたくなるという人はまだまだきっといますよね。“世界観”という言葉でInstagramを席巻したように、テレビや新聞に注力することで新たな客層にリーチできるというのは間違いないですね。
テレビの露出獲得のために情報の流通網を調べたと仰ってましたが、専門的なPR会社であれば、検索システムがあったり、スタッフも多数いるので比較的やりやすいのではと思いますが、御社のように、通常の広報PRを進行しつつ調べるのは大変だったのではないですか。どれくらい時間をかけて、どうやって調べたんですか。

リラクゼーションドリンク「CHILLOUT」

リラクゼーションドリンク「CHILLOUT」

山田さん:2~3ヶ月でリサーチから分析、設計まで行いました。テレビに限らず、ブランドごとにターゲットメディアを細かく決めていますので、ブランドとして誰にどう伝えてパーセプションチェンジをしたいのかは、ブランドマネージャーやチームとしっかり握り、それに合った設計を細かく行っています。出たい番組は、番組テロップに制作会社やプロデューサー、ディレクターさんの名前なども出ますので、個人のSNSがあれば見させていただき、どういうことに興味関心をお持ちかをリサーチするということもしていました。

若林:ん~、すごいですね!そこから、番組で放送していたキーワードをもとに、過去にほかのメディアで同じようなことを発信していないか、ネットメディアや業界誌で特集が組まれた実績はないかを調べて、どの媒体に出すことで目標とするテレビ番組に最短で露出できるかを調べていかれたということですよね。

山田さん:上場の際にも実は同じことをしていまして、似たような業種で、同じマザーズに上場した会社や、弊社がベンチマークしている企業さんが上場前後でどのくらいのメディア露出があったのか、どういうメッセージを出して、どういう露出を獲得したのかなど、1年間分リサーチしました。もちろん、プロのリサーチ会社ではないので、出来る範囲ではありますが・・・。

若林:これらの戦略は、山田さんご自身で考えた部分も大きいと思いますが、徹底的にリサーチした上で戦略を立てるというのは、社風でもあるのでしょうか?と言いますのも、御社が導入されているAIインサイドスコープ「KIYOKO(キヨコ)」は、世界239カ国のニュースサイトや口コミサイトからトレンドを収集することができ、ヒットを生み出すための新ツールとして活用されているんですよね。御社自体がデータから解を導き出すような社風があるのかと思いまして。

山田さん:そうですね、社内のカルチャーとして、根拠となるデータが必要というのはあります。ただ、データも重視される一方で、パーパスも重要で、定性と定量の両輪のバランスをしっかりとるという社風だと思います。

若林:結果的にテレビ露出が昨対比2倍ということで、売り上げにもすごく紐付いているということですよね。

山田さん:そうですね。あと、従業員のみんながすごく喜んでくれたのが私たちのモチベーションにもなっていまして、「親から連絡来ました」と言われたりするのは、すごく嬉しいです。経営理念である「Chain of Happiness」を、私たち広報課では、広報課の持つステークホルダーごとに、どういう風に届けたら良いかまで考えています。たとえば従業員だったら、こういうメディア露出ができたら喜んでもらえるよね、ECのみんなだったらAmazonの売り上げが上がったら喜んでくれるんじゃない?だったら何ができるかな?とか、メディアさんにとっては鮮度の高い情報を渡すことが喜ばれるよねといったように。活動の軸が全部、「Chain of Happiness」からステークホルダーごとに整理されていて、そこをみんな意識して動いていると思います。

若林:いろいろな広報や経営者の方にお話を聞く機会がありますが、一本通ったビジョンや理念を持ってる会社は本当に強いですよね。御社であれば、「Chain of Happiness」のフレーズだけで、全社員が何に向けて動けばいいかわかるというのはすごく強みですし、だから成長するんだなと強く感じました。

山田さん:ありがとうございます、「Chain of Happiness」のフレーズは本当に道しるべといいますか、お守りみたいなものなのかもしれません。社長に伝えます!(笑)

若林:ぜひ!

ブランドのフェーズに合わせ、PR目的やKPIを細かく設定

山田さん「2020年下期より、広報課から直接アプローチをして商品をご紹介するという取り組みを始め、半年で非常に成果を出すことができました。」

山田さん「2020年下期より、広報課から直接アプローチをして商品をご紹介するという取り組みを始め、半年で非常に成果を出すことができました。」

若林:ちなみに直近で、テレビ以外での反響があったPR事例を教えていただけますか。

山田さん:ブランドごとに、目的やKPIの設計を細かくしているのはひとつポイントだと思っています。たとえば主力ブランドの「BOTANIST」や「SALONIA(サロニア)」は、ある程度の認知を獲得できていますので、KPIでは質を重視していくフェーズです。ですので、ブランドの世界観や想いを知っていただき、共感いただけるような活動をしています。たとえば、「BOTANIST」ではロスフラワーへの取り組みを行いました。コロナ禍でイベントが飛んでしまい、たくさんのお花が廃棄されてしまうという現状があり、そのロスフラワーをなんとかしたいということで、お花を買い取りお客様にお配りしたり、店舗ディスプレイに活用するなどして、ブランドコンセプトの「植物とともに生きる」ということをお客様にも一緒に考えていただけるような取り組みを行っております。

一方、新規ブランドの「DROAS」は、まだまだ認知を獲得していくフェーズですので、KPIでは数をしっかり見ています。例えば、「BOTANIST」ではとらない手法なですが、「DROAS」ではNANAMIさんをアサインさせていただいて、個別取材会を実施しました。インフルエンサーさんに出ていただくと、オリコンニュースさん等に取材に来ていただけることが多く、まずその転載だけで50件くらい、全体で100件くらい露出の獲得につながりました。
また、「CHILL OUT」は、私たち広報メンバーに飲料PRの経験者がいなかったこともあり、飲料PRに明るい代理店さんの力を借りて活動し、ナレッジを貯めています。総括すると、個々のブランドの成長フェーズでの課題解決、最適解を模索しながら活動しているという状況です。

もう一つ上手くいった事例としては、インフルエンサーさんとのリレーションです。インフルエンサーさんもひとつのメディアと捉えられるほどに影響力をお持ちですので、2020年下期より、広報課から直接アプローチをして商品をご紹介するという取り組みを始め、半年で非常に成果を出すことができました。

若林:インフルエンサーへのアプローチというのは、お金が発生する形での依頼ではなく、メディアと同じように商品紹介等のアプローチで成果が出たということですよね。それはすごいですね。一般的なインフルエンサーを活用したPRは、お金が発生するケースも多いと思いますが、御社の世界観に合う方や、好きになってくれそうな方に紹介活動をしていったということですもんね。

山田さん:そうですね、フォロワー数が多いインフルエンサーさんへの広告案件に関してはADプランニング課がしっかりカバーしてくれています。広報課のほうでは、フォロワー数は少なくても、ブランドの世界観に合う方や、この方に発信してもらえたら嬉しいという方をリストアップさせていただき、まずはDMをお送りし、商品を送らせていただいています。、気に入っていただけた方は、どんどん投稿してくださっています。

若林:インフルエンサーまわりを担当している社員は2名ですよね。代理店などに頼むのではなく、自社でされているということですよね。リストアップして、やりとりして…って結構時間も手間もかかりますよね。

山田さん:一部を代理店さんにお願いするケースはあるのですが、ほぼ内製化しています。、非常に成果が出ているので、補強しようと考えています。

若林:それだけ成果が出ているならなおさら、大変になりそうですもんね!

山田さん:はい、現在、インフルエンサーリレーションチームとブランドPRは人員を絶賛募集中です!

詳しくはこちら:https://recruit.i-ne.co.jp/

若林:記事をご覧になっている方で、興味をお持ちの方がいれば是非! 
山田さんご自身がコーポレートPRを担当されながら、ブランドのPRやインフルエンサーリレーションチームもまとめるというのは、すごく大変ではないですか。

山田さん:全体管理はしていますが、基本的に、ブランドPRはリーダー2名が各チームをしっかり引っ張っていってくれていますし、メンバーはみな自走できるので信頼してお任せして、カバーが必要な時にサポートするような形です。よく、「I-neの広報ってどういう人がいるの」と、面接でも質問いただくのですが、広報課は非営利組織ながら販売本部にあるということもあり、売り上げにコミットする方法を常に模索していて、最高のアウトプット、アウトテイク、アウトカムを目指してて、アイデアをひねり出すことを諦めない向上心の高いメンバーで構成されていています。KPIへのコミットと、チャレンジ精神が高い部署だと思っています。そして、メンバー自身が、「Chain of Happiness」の視点で、“各ステークホルダーにとっての最適”と日々向き合っている姿は、個人的にすごくステキだと思ってます。それだけに、尊敬できる仲間とともに、2021年上半期MVPをとれたのは本当に嬉しかったです。

時流やトレンドをキャッチしやすい環境を武器に、ネタづくり

テレビ取材の様子。

テレビ取材の様子。

若林:全社的にトレンドを非常に意識されていますが、広報に関しても、トレンドを先読みし話題化したり、メディアに取り上げられるように動かれていると思いますが、そのあたり、どのようにうまくPR活動に落とし込んでいるのでしょうか。

山田さん:広報メンバーがブランドの強みや独自性をしっかり時流に載せて、ナラティブにPRできているところがトレンドの発信に繋がっているのではと考えています。その前段階として、自社やブランド、メディアさん、生活者の理解のアップデートも重要で、そこをしっかりメンバーが押さえています。たとえば、SNSを含むメディアや、他社の情報発信に目を通すことはもちろんですし、「KIYOKO」もそうです。あとは、「社内アイデア起案制度」という月に1回、全社員がアイデアを出すという制度があるので、毎日誰かが部署横断で「こんなアイデアどう!?」と社内ツールで発信していたり、横並びのアドチームやブランディング部門からナレッジシェアをもらったりなど、積極的に取り組んでいます。さらに、広報課の場合はこの半年間、メンバーにインプットした情報を、広報課とブランドプロモーション部の定例会議でアウトプットしていて、そういった取り組みもチーム全体の広報力の底上げにも繋がったと思っています。

商品開発のアイデアに関しても同じで、「KIYOKO」やSNS、ビッグデータから、消費者さまの潜在的なニーズを読み解いて新しいトレンドの着想を得ることで、一歩先のブランド開発が可能になっているということがあります。また、I-neには7つのクレドがあり、その中に、“24時間1週間インプットし続けよう”、“そこで得た情報をメンバーや社内全体にシェアしていこう”という「24/7インプット」と「ナレッジ&シェア」という項目があります。日頃から、自身の行動がクレドに即しているかどうかを考える機会がすごく多い会社です。人事評価にも盛り込まれているくらいで、そのマインドが確実に根付いているというのはあります。

若林:ちなみに、広報も「KIYOKO」を使って何か企画を出すこともあるのですか。

山田さん:戦略を立てる際に活用することはあります。

若林:そうなんですね、「KIYOKO」に興味津々です。(笑)あと、先ほどもお話がありましたが、SDGsに絡めた広報活動もかなり積極的に取り組まれていらっしゃいますよね、ロスフラワー以外にはどういった取り組みをなさっているでしょうか。

山田さん:事例として、2つのブランドを紹介させていただきます。
ひとつは、たばこを辞めるのではなく、ニコチンをゼロにしようという新発想の、ニコチンが入ってないヒートスティックタイプの「NICOLES(ニコレス)」というブランドです。吸うという行動やリフレッシュスタイルはそのままに、次世代型アイテムとして、ファミリーマートさんなどで取り扱っていただいています。辞めるのではなく、何か違う方法で健康を増進するという「ハームリダクション」という考え方は海外では大きく浸透している社会課題解決のひとつの在り方です。です。ただ…、商材的に、露出をとるのが結構難しいんですよね。

若林:そうだと思います~!

山田さん:それで、どうしたかというと、認知拡大に向けて、企業提携プログラムを作ろうということになりました。企業様に福利厚生の一環的な施策として「NICOLESS」にトライしていただき拡げていく、草の根活動を広報主導で展開中です。これが、広報課でゼロからアイデアを出し施策まで展開したひとつ目の事例です。

若林:先ほどお話されていたように、たばこ関係のメディア露出はすごく難しいですよね。だからといって、広報として何もしないという選択肢はなく、新しいことにチャレンジする社風だから、メディアに出すことにこだわらず、パブリックとのリレーションを広めていこうよというところで会社に企画をあげて通ったということでしょうか。

山田さん:はい、これだったら、ハームリダクションというトレンドキャッチーなワードでニュースとして取り扱ってもらえるのではないかと。メディアの視点で売上に繋がるような施策を設計できるのが広報の強みだと思っているますので、そこをメンバーと共有し、行動にうつしています。

若林:たしかに、たばこに替わる商品ができたとしても、メディアからは広告でお願いしますと言われてしまうと思いますが、企業での実績ができ、福利厚生という話題を発信できれば、メディアで取り上げてらえる可能性はありますもんね。

山田さん:そうですね、そういった減煙プログラムの記事が日経さんに多く出ていた時期がありまして、その辺もしっかりチェックしてリリースを書けるプログラムを作ることを意識しています。

若林:今、ネタとなるベースをつくりあげている最中ということですね。

広報発のPR企画を通じて社会課題解決に取り組む

プライベートは銭湯やサウナでリフレッシュされている山田さん。

プライベートは銭湯やサウナでリフレッシュされている山田さん。

若林:もうひとつはどういった事例ですか?

山田さん:「CHILL OUT」です。コロナ禍でストレスを感じてる方が多くいらっしゃるのではないかと思います。特に今年の4月は、新社会人や学生さんはとても不安を抱えられていたのではないかと。また、その時期は、黙って食べる「黙食」や、「黙浴」というキーワードが出てきた時期でもありました。その時期を逃さず、黙浴を推奨されていた渋谷の銭湯「改良湯」さんとコラボし、少しでもみなさまの心が軽くなっていただけたらと、銭湯の中でお花見ができるイベントを行いました。密を避けて、プレス向けの取材会も行い、黙浴というキャッチーなフレーズ、コロナ禍によるストレス増加という社会性と、銭湯でお花見という意外性や新奇性というところで多く取り上げていただいたPR施策でした。これも広報主導で立ち上げた企画です。

若林:「CHILL OUT」は新商品だと思っていたのですが、SNSを見ましたら開始日が2016年だったので、そこで以前からあった商品だと知りました。

山田さん:はい、もともとI-neで出していましたが、コカコーラさんと合同会社を作ることになったタイミングでリブランディングしました。
あとはCSRの観点になりますが、2020年は「BOTANIST」で、ホワイトラベルという、看護師さんなどに敬意を表した真っ白なラベルの限定品を作り、売上はすべて大阪看護協会さんに寄付させていただきました。少しでもリフレッシュしていただきたいという想いを込め、シャンプーやハンドクリームなどもお送りさせていただきました。

若林:すごくパワフルな広報部ですね! ちなみに私が「CHILL OUT」を買った理由は、LPを見た時に、“お昼時間をとれてない人が急増しています”というメッセージがあって、「わたしのことかな!?」と思い買ってしまいました(笑)。

山田さん:ありがとうございます、チル休みですね(笑)。

若林:私もチル休みしたいな~とミーハー心で買っちゃいました(笑)。山田さんも日々忙しくされていると思いますが、プライベートはどのようにお過ごしですか?

山田さん:そうですね…、銭湯とかサウナに行きますね。

若林:もしかして、「改良湯」の企画も山田さんのアイデアですか。

山田さん:これは、みんなで考えた企画です。もともと「CHILL OUT」がよく銭湯さんとご一緒させていただいており、銭湯愛好者としてはすごく面白い企画だなと。

若林:なるほど、そこでリフレッシュされているんですね。今日伺った情報流通網のお話はすごく大切だと思っていて、人海戦術でアプローチできるほどのマンパワーがあればいいですが、限られたメンバーで結果を出していこうと考えた場合は、非常に効率的で結果も出せるやり方ですし、ぜひ、今回の記事を通して、マンパワーがあまりないけど成果を出したいという方たちにも響けばいいなと思っています。

貴重なお話をありがとうございました!

PRマガジン編集部の「編集後記」

編集後記:編集部 若林

「知名度」にも「現状」にも甘えない

BOTANIST

BOTANIST

「BOTANIST(ボタニスト)」というブランドは、ヘアケアに関心がある人なら絶対知っているブランドだ。ドン・キホーテやドラッグストアでも非常に目立つ存在だから、ヘアケアに関心がない人でも、見たことがある人は多いのではないだろうか。

知名度もあり、売上も右肩上がりのブランドであれば、黙っていてもそれなりに取材が来るはずだ。でも、1秒だって立ち止まらず、新たな挑戦を続けるのが、I-neの広報課だ。ステークホルダーごとに「Chain of Happiness」をどう伝えていくかを考え、時には、広報の業務領域を飛び出してでも、貢献できることがあれば広報として動くという話がとても印象的だった。

SNS戦略からマスメディアへ回帰

Instagramの「世界観」といえば「BOTANIST」を想起するくらい、SNS戦略で認知や売上を上げてきた同社。しかし、山田さんがマネージャーに就任してから、デジタルでリーチできていない層へのアプローチを強化。テレビでの露出を増やすべく、「情報の流通網」の整理から始め、テレビから取材がくるキーとなる「メディア」や「人」を徹底リサーチ。結果、昨対比2倍ものテレビ露出に成功したという。

文章で書くと2行足らずのアクションだが、非常に時間と根気が試される業務だ。

取材中、山田さんは何度も広報課のチームワークや、個々人のパフォーマンスの高さについてお話されていたが、まさに山田さんの戦略と広報課のチームワークがあってこそ、なし得た結果といえるだろう。広報課として、初のMVP受賞、おめでとうございます!

今回のPRパーソン紹介

株式会社I-ne 山田新さん

株式会社I-ne 山田新さん

山田 新(やまだ・あらた)

海外ファッションブランドのプレスや東証一部上場企業でのコーポレート広報やプロダクト広報、フリーランスPRを経て、2020年5月に株式会社I-neに入社。 2020年下半期から広報戦略を大きく転換し、テレビ露出は昨対比2倍になるなど、過去最高の露出量となったことなどが評価され、広報課として初めて、2021年上半期MVPを受賞。

株式会社I-ne (https://i-ne.co.jp/

2007年3月設立。経営理念に「Chain of Happiness」を掲げる、ビューティーテックカンパニー。 主力商品である「BOTANIST(ボタニスト)」は、ヘアケア市場でシェアを拡大し、業界3位に。サスティナビリティを意識した取り組みにも積極的で、森林保全団体more treesの支援の他、コロナ禍においては「SAVE THE FLOWER」等の活動も展開。