最近話題の「昆虫食」。皆さんはすでに食べたことがあるだろうか?
栄養価が高く、環境にも良いそうだ。
ただ、どうしても昆虫そのままは見た目が苦手な人もいるかもしれない。
じつは、我が家でも先日、家族が昆虫スナックをお土産に買ってきてくれた。小さい昆虫だったので、さほど抵抗もなく食べることができた。子どももパクパク食べていた。香ばしくて美味しく、普通にイケるなと。(笑)
この私も思った「普通にイケるな(笑)」から、『食べ物として美味しい』と思ってもらい、『食文化として根差す』ところを目標に掲げているのが、徳島大学発のテックベンチャー・グリラスだ。大学で昆虫食を30年以上研究していたそう。
同社のコオロギ製品は、国際線の機内食や無印良品の商品にも使われ、各方面から注目を集めている。そこで、今回は株式会社グリラスのPR & Sales Managerである川原 琢聖さんに広報PR戦略を伺った。
(編集長)
この記事の目次
話題作りから着手し、メディア露出数にこだわった結果、「第一想起される」会社に
編集長:非常にたくさんプレスリリースも出されていますし、メディアにも露出されていますが、現在、広報PRはお二人でされているのでしょうか。
川原さん:はい、そうです。今年3月までは私ひとりだったのですが、4月に池田が新卒で広報PRに配属され、今は2名体制です。
編集長:川原さんは広報PR畑を歩まれてきたのですか?
川原さん:PR会社出身です。グリラスが2021年6月にC. TRIAという自社ブランドを立ち上げたのですが、それを機に、広報PRを強化することになり入社しました。
編集長:入社されてから約1年半経ちますが、どのようなことに着手され、どんな変化がありましたか。
川原さん:業界1位になれたことが一番の変化だと思います。これは売上額の話ではなく、「コオロギ食」といえば『グリラス』という市場からの評価を得られたという点でです。
じつは、2年前くらいに日経トレンディのヒット予測コオロギフードが取り上げられたのですが、他社さんは軒並み名が挙がっていたのに、グリラスだけ掲載されていなかったんです。もっと言うと、グリラスのコオロギパウダーを使ったメニューを提供しているレストランやグリラスの技術提供を受けてゴオロギパウダーを生産しているファームは掲載されているのに、グリラスは掲載されていないという…。
私が入社する前のことではあるのですが、当時はみんなすごく悔しい思いをしたと聞いています。その頃も自分たちでは業界1位だと思っていたけど、世間からの評価は違ったというところから、第一想起されるまでになれているので、それは大きいかなと思っています。
編集長:なぜ短期間でそこまで認知を高められたのでしょうか。
川原さん:一番の要因は、日経新聞をはじめ、頻繁にメディアで露出できたことだと思います。グリラスは、社員30名弱の会社なのですが、その規模で広報PRが2人いるので、結構リソースを使っています。ただ、業務領域も広いんです。
新商品が出た際や事業の進捗があった際の情報発信はもちろんですが、自分でイベント企画し、そこにメディアを誘致するといった意図的に話題をつくるということも積極的に行っています。
編集長:例えばどんなイベントを広報PRマターで企画されたのですか?
川原さん:例えば、以前、阪急うめだで昆虫食イベントを企画され、そこに呼んでいただいたのですが、その際、地元メディアを中心に多くのメディアに取材いただきました。これを別の県でも再現できないかと思い、福岡の岩田屋や仙台のJRの駅で昆虫食イベントを実施させてもらいました。これは自分で営業もしましたし、他の昆虫食メーカーさんにもお声がけして実現しました。そして、「○○(地域)初の昆虫食イベント」として打ち出し、地元メディアにもたくさん取材いただきました。
編集長:すごい!メディア向けのイベントではなく、一般の方向けイベントも企画・実行してしまうんですね!
川原さん:グリラスでは広報PRがマーケティングも担っている部分があります。じつは、入社前から学校給食に昆虫食を導入したいという想いがあり、それが間もなく叶うところまできています。
コオロギの特徴からSNSで話題になるイベントを考案~「エコマッチョによるゴミ拾い」
編集長:2022年6月にC. TRIAの一周年のタイミングで、記者発表とイベントを実施されていましたね。
川原さん:記者発表会は、事業や今後の展望についてお話するビジネス寄りの内容だったので、日経新聞やBusiness Insiderなど、経済・ビジネス系のメディアにお集まりいただきました。
一方、イベントの方は会社からの要望もあり、SNSで盛り上がる企画を考えていたので、メディア誘致はあまり考えていませんでした。一般の方に楽しんでいただけるものにしたかったのでポップでキャッチーなものにしたいと考え、コオロギの特徴である、環境負荷の低いたんぱく源であるといった要素を面白く伝えられないかと考えた結果、エコマッチョが思いつきました。マッチョ30名を集めて、エコマッチョと書かれた服を着てもらい、渋谷でゴミ拾いイベントをするという。(笑)
予想外だったのは、そのタイミングで弊社に興味を持ってくれていたワールドビジネスサテライトにイベントのことも伝えたところ、イベントの撮影にも来てくれたんです。今になっては、イベントの方もメディア誘致をしても良かったかなと思います。
編集長:SNSは現在Twitter、Instagram、Facebookがあると思いますが、これらの運用も広報PRが担当されているのでしょうか。
川原さん:はい、我々広報PRの2名と新卒社員1名で行っています。
編集長:SNSは、やはりダイレクトに一般消費者に情報発信するために活用されているのでしょうか。
川原さん:アカウントにより、方向性が違うのですが、FacebookやTwitterなどはビジネスパーソンが情報取集で見てくださっていたり、徳島発の企業として応援したいとフォローしてくださっている方が多いです。というのも、昆虫食を扱う他社様は、エンタメや食事として提供しているのですが、弊社はコオロギをパウダーにして商品に入れており、昆虫の形をしたままの昆虫食が好きな方や興味のある方からすると、ちょっと違うんですね。
ただ、スタートアップの企業として注目してくださっている方がその分多いと思っています。
話題になる「強いネタ」づくり、効率的に地方メディアからの取材を獲得
編集長:ビジネスメディアでの露出もさることながら、地方メディアでの露出が非常に多いですが、これはPR戦略的に地方での露出を重視した結果でしょうか。
川原さん:地方メディアでの露出はすごく意識しています。メディア露出に関しては、大きく「専門メディア」、「中央メディア」「地方メディア」で見ているのですが、専門メディアに関しては、以前から継続的に注目いただいているので、私が入ってからは中央と地方に注力しています。
ただ、中央に関しては、こちらから働きかけても時流やトレンドがないと難しい面があります。もちろん100%無理なわけではなく、ビッグニュースがあれば別ですが。それこそ、国際線の機内食として初めてグリラスのコオロギパウダーが採用された際や良品計画(無印良品)とグリラスが共同開発した「コオロギせんべい」などは非常に多くのメディアから注目を集めました。
私の方針としては、ビッグニュースの時以外は、かけた工数に対する成果があまりよくないので、中央メディアに積極的にアプローチするということはしません。メディアが昆虫食を取り上げるとなった際に、グリラスが第一想起してもらえればよいという考え方です。
一方、地方メディアに関しては、自分で話題づくりを行うことで、メディアに取材にきてもらえる思っています。
編集長:地方メディアに来てもらうための話題作りで意識されていることは何でしょうか。
川原さん:基本のキではありますが、「○○(地域)初」とその地域に根差した企業や団体と組んだ意外性のあるイベントを企画することです。結果的に、地元の新聞やテレビなどが取材に来てくれ、それが転載され中央メディアにも届けられます。そのため、地方に関しては積極的に話題づくりを行っています。
編集長:地方メディアへのアプローチはどのようにされているのでしょうか。いっぱい電話をかけるとかファックス送るとか?
川原さん:いえ、こちらも個別のアプローチはほとんど行っていません。興味のない方に対し、電話をかけ続けるのは時間や精神がすり減るだけなので、直でのアプローチは非効率だと思っています。それよりは、地元の話題に関心をお持ちの記者が集まる場所に情報を提供するほうが良いと思っています。通常その方法で、テレビ3~4番組にはお越しいただけています。ただ、一番重要なのは、「強いネタづくり」ではありますが。
編集長:地方としては、他にどんな企画を進めているのでしょうか。
川原さん:小中高を対象とした学校向けの特別授業プログラムの募集というのを、11月より開始しました。学校でコオロギを使った商品の説明をしながら、学生がコオロギを食べている画が撮れるので、確実にメディアが取材に来てくれます。それを47都道府県で実施できれば、全国のメディアに取材いただけると思っています。
広報PRのKPIは、月40件以上(転載数を含まず)のメディア露出!
編集長:ほんと多岐にわたり、広報PRが主導で動いているのがわかりました。改めてお聞きしたいのですが、今、広報PRは何をミッションにどんなKPIを掲げているのでしょうか。
川原さん:グリラスのミッションの一つに「コオロギが当たり前になる未来を創造します」ということを掲げています。広報PRのミッションはこれです。そして、そのためのKPIは
◇月2本以上のプレスリリースを出す
◇月40件以上(転載除き)露出する
の2つです。
編集長:ちょっとびっくりのKPIですが!まず、現状、月2本以上プレスリリースを出せていますか?
川原さん:出していますね。案内状なども含めると4、5本だしている月もあります。
編集長:そして、メディア露出件数ですが、転載を除き40件以上というのはかなりな数だと思いますが…。
川原さん:たとえ、日経新聞の徳島版に出た内容が日経MJでも取り上げられても、徳島版のみカウントしています。転載はこちらからのアクションでコントロールできないので、KPIに転載数は含めていません。ただ、新聞に出てウェブにも出る場合は、ウェブだけの場合と差別化したいので、2件でカウントしています。
編集長:ちなみに、転載抜きで40件以上って…実際どうですか?
川原さん:2022年4月から9月までは毎月達成しました。多い月だと、70~80件出ていたこともあります。
編集長:!!!露出を拝見して、多いなとは思っていましたが!
川原さん:ただ、10月は達成できませんでした。おそらくここから件数自体は少し落ち着いていくと思います。
編集長:KPIとしては、この2つということですね。
川原さん:数字を見ているという意味では、コオロギの喫食率は見ています。年1、2回アンケート調査をしていて、目標数字を置くというよりは、確実に増えていっているのを確認するような意味合いが強いです。
コオロギ食を「珍しいもの」から「食べ物として美味しい存在」へ
編集長:今後についてどのようにお考えですか?
川原さん:先ほどもお話したよう、ここからメディア露出という意味では減ってくると思います。私が入社してから半年くらいは特にメディア露出件数の目標値などもなく、専門紙(誌)に取り上げていただけている状況で、その後、五大紙に取り上げてもらえるようになり、そこからどんどん取材が増えていきました。今はテレビの取材が増えています。平均2番組くらいから取材依頼をいただいています。でも、この流れはあと半年も続かないと思っています。
ですので、今と同じことをしていてはKPIを達成できないですし、広報PRとしての価値を示せなくなります。
そのため、今後はより本質的なところに着手し、足場を固めていこうと思っています。
そういった意味で、「教育に携わる」ことと、「地方」は重要と考えています。
今までリーチできていなかった層に対し、昆虫食やコオロギ食を伝えることができますし、ダイレクトに喫食者を増やすことにも貢献できます。
編集長:なるほど、確かにそうですね。
川原さん:もっと言うと、現状、コオロギはまだ「食べ物」にまでなれていないと思っています。メディア露出をご覧いただくと分かると思うのですが、「食べ物」としては露出していません。食べ物として露出するものは、「いかに美味しいか」が語られますよね。
一方、これまでの露出は「パウダーで練りこまれているからわからない」、「案外いける」という感じなんですね。
世界的にみると、東南アジアでは普通にコオロギが素揚げや炒め物で食べられています。本来は、食文化として成立するくらいの食材ですので、「美味しさ」の情報も出していきたいと思っています。
編集長:コオロギが美味しい食材として日本の食卓に並ぶまで、あともう少しってことですね!
川原さん:あとは機内食や学校給食での採用といった大きな動きは、事業部とも連携して作っていきたいですね。先ほどもお話したように、コオロギ食が市民権を得れば得るほど露出は減ってくるので、違う切り口をつくっていくのも広報の仕事だと思っています。
編集長:ありがとうございました。今は「珍しさ」もあり、メディアや一般の方から注目されていると思いますが、いかに食として定着させていくかが、今後の広報PRの力の見せどころですね!
PRマガジン編集部の「編集後記」
―広報PRって、手段が決まってないから面白い
今回、改めて感じたのは、広報PRは目的に対し、どんな手段を使ってもいいということだ。会社や事業部から上がってきた情報や新商品・サービスを広めるだけが広報PRではない。
そもそも何のために広報PRを強化しているのか?
そこから遡り、目標を達成するためなら、自らイベントを企画したり他社や自治体と提携やコラボしたり。
まさにそれをしているのが、グリラスの広報PRだ。催事を自ら企画し、出展企業にも自ら声をかけて実現するし、学校との取り組みも広報PRマターでどんどん実現していく。
「マーケティングも担う広報PR」。一番面白いかもしれない。
大手企業ではなかなか難しいかもしれないが、是非ベンチャー企業の広報PRは、こういったことにも積極的にチャレンジしてみてほしい!
今回の注目企業紹介
株式会社グリラス(https://gryllus.jp/)
事業内容:⾷⽤コオロギの⽣産や⾷⽤コオロギを⽤いた⾷品原材料および加⼯⾷品の製造、販売など
お話を伺った方
PR & Sales Manager
川原 琢聖(かわはら・たくま)