採用広報からも注目を集めるWantedlyが重視する「ストーリー」訴求型のPRとは?

企業や経営者がいつの時代も頭を悩ませるもの。
それが「お金」と「人材」だろう。

ここ数年でTwitter上にも「採用広報」という肩書をもつ方が増えたように思う。
それほど、どの企業も優秀な人材を求めているということだ。

そんな「採用広報」の方とお話しすると、ほぼほぼ名前が挙がるのがWantedly(ウォンテッドリー)だ。たとえ世の中的には知名度が低かったとしても、コンテンツを充実させることで上位表示されるため、運用を頑張っているというお話を聞く。

逆に言うと、採用情報を掲載しておけば人が集まってくるというわけではないので、手間をかける必要はあるようだ。しかし、これだけ採用広報から支持されるようになるまでには、「認知」や「ポジショニング」戦略が不可欠だったはず。

そこで、今回はウォンテッドリー株式会社でコーポレート広報を一手に担う奈良英史さんに広報PR戦略を伺った。

(編集長)

「データ×ストーリー」で、時流に合わせた露出を実現

ウォンテッドリー株式会社、奈良英史さん。

ウォンテッドリー株式会社、奈良英史さん。

編集長:最近、採用広報に注力する企業も多く、そういった企業の広報に話を聞くと、かなりの確立でWantedlyを活用しているとおっしゃいます。
ここまで採用に欠かせないツールとしてのポジショニングを確立される過程において、サービス広報やコーポレート広報は欠かせなかったのではないかと思い、今回取材依頼をさせていただきました。

まず、御社の広報体制からお聞かせいただけますか?

奈良さん:採用広報や社内広報を担当している者は別にいるのですが、コーポレート広報は、私が一人で行っています。コーポレート広報としては、自社に関する話題やプロダクト関連の社外向け発信を中心に行っています。その他には、最近ですと、Wantedlyが10周年を迎えた際のプロジェクトの企画・遂行をメインで行ったり、ブランドコミュニケーションや「ぼくらの転機」というオンライントークイベントのマーケティングキャンペーンを進めたりと、色々携わっています。

編集長:お一人にしては、かなり幅広い業務を担当されていますね。

奈良さん:勝手に領域を広げてしまうので、どんどんやることが増えていっています。(笑)

編集長:2019年4月に奈良さんが入社した際、Wantedlyの広報PRという意味ではどういった課題があったのでしょうか。

奈良さん:現在もですが、認知度が課題でした。認知度を高めるために何ができるのかを最初に考えました。テックカンパニーとしては、プロダクトのリリースやアップデートのタイミングでメディアに掲載してもらうべく動くというわかりやすい取り組みも必要ですが、毎月そういったトピックスがあるわけではありません。

そこで、2つの取り組みを意識的に行いました。一つは、新しいプロジェクトやキャンペーンを始め、それをメディアに取り上げてもらうというもの。もう一つは時流に合わせた情報発信です。

編集長:「時流に合わせた情報発信」に関しては、例えばどのようなことをされたのですか。

奈良さん:例えば、去年頃よりパーパスという言葉が日本でもよく聞くようになってきたのですが、この文脈を活用して、「パーパスをアピールして採用活動するなら、Wantedlyがいいよね」といった露出を獲得していきたいと考えました。

時流に合わせて、自社を露出させるには、「データ×ストーリー」が必要と考えています。そこで、社会の流れとして、働き手や企業の方の考え方や動きについて、ある程度仮説を立てて調査を行い、さらに、その結果と同じ事象が起こっている企業を取材候補先として準備し、メディアにアプローチするということはよく行っています。

Wantedlyのユーザー数は350万を突破し、導入社数は4万3000社と非常に多く、アンケートをお送りすると、1000~2000名(社)くらいから回答いただけるからこそ実現できている取り組みでもあります。

編集長:調査リリースは、出典元として社名が出るくらいにとどまってしまうことも多いですが、取材先の事例を入れることで、記事内にもWantedlyの紹介が入りやすくなりますか。

奈良さん:100パーセントとは言えませんが、70~80パーセントくらいは出していただけています。

数値目標にとらわれるPR活動はしない

奈良さん「Wantedlyがいかに人と会社の素晴らしい出会いを創るのか、そのストーリーを伝えることがミッションと定義しています。」

奈良さん「Wantedlyがいかに人と会社の素晴らしい出会いを創るのか、ストーリーを伝えることをミッションとしています。」

編集長:広報PRのミッションとKPIについて教えてください。

奈良さん:Wantedlyがいかに人と会社の素晴らしい出会いを創るのか、そのストーリーを伝えることがミッションと定義しています。それを伝えるために、プロダクトの作り手の話や想い、実際に人と会社が出会った事例を出していくといった方向性で時流に沿った話題を最大限出していくという方針です。認知度を上げることも重要なミッションで、年1~2回は認知度に関する定点調査を行っていますが、認知は中長期的な視点で考えていますので、具体的な数値目標を掲げているわけではありません。それよりは、決めた方向性で進めていけているかのほうを重視しています。

編集長:となると、メディア露出件数や露出から問い合わせがどれくらい増えたといった数字は追っていないですか。

奈良さん:問い合わせ件数は追っていませんが、メディア露出は毎月の件数と主観も入りますがインパクトに応じポイント付けをして、露出量が大きく増減していないかなどはチェックしています。ただ、目標値にコミットしようと、本質的ではない内容でも露出を獲得するために自分の時間やメディアの方の時間を奪うようなことはしないようにしています。

PR視点で企画を立ち上げ、メディア露出につなげる

PR発企画「賛同企業募集型プロジェクト」

PR発企画「賛同企業募集型プロジェクト」

編集長:奈良さんが入社されてから約3年半経ちますが、その間の広報の変遷を教えてください。

奈良さん:当初は、無形商材かつITサービスは、どのようにしたら興味を持ってもらえるかと考えるところから始めました。その後、広報PRのミッションを定義し、先ほどお話したような調査PRに着手しました。そして、プロダクトリリースが多くない時期でも安定的に情報発信できる環境をつくり、Wantedlyという会社の存在自体や実現しようとしていることを世の中に発信していけるようにしていきました。

その後、新型コロナウイルスにより新しい生活様式が始まり、就職や採用活動にも変化があり、それを浮き彫りにするような調査も行いつつ、新たに賛同企業募集型プロジェクトを行ったり、漫画とのコラボなどPR視点で企画を立ち上げ露出につなげるということを2020年くらいから始めました。

2021年頃からパーパスという流れがようやく日本にも訪れ、そこからはパーパスという文脈でのPRに注力していこうと決めました。この頃、「戦略」をより強く意識するようになり、リソースをどこに集中させるのかということが、まさに戦略だなと考えるようになりました。
パーパスというところに集中し、アンケート調査等の施策を行った結果、NHKをはじめ様々なメディアに取り上げてもらえるようにもなっています。

整理された情報よりも「ストーリー」が人の心を動かす

10周年プロジェクト『シゴトの#転機文庫』

10周年プロジェクト『シゴトの#転機文庫』

編集長:Wantedlyの10周年プロジェクトにも携わられたとのことですが、 広報としてはどのような関わり方をされていたのでしょうか。

奈良さん:プロジェクト自体、広報の私とクリエイティブディレクターが二人三脚で進めました。
ユーザーさんに対しての感謝も伝えたかったのですが、ただWantedlyの10年を淡々と振り返っても伝わらないですよね。そこで、感謝も伝えられ、かつ「10周年だからこそできること」は何かを考えるのに一番時間を費やしました。足掛け1年弱かけたプロジェクトでした。

編集長:結構かけたんですね!

奈良さん:そうですね、色々考えた結果、社会が大きく動くさなかで転職にふみきった人たちの物語にフォーカスすることにしました。個々人の意思決定の中にこそ、これからの「はたらく」を考えるためのヒントが隠されているのではないかと思ったからです。

そこで、転職にまつわる「エピソード」を募集しました。2,700名もの方から「人と会社の出会いの物語」が寄せられ、その中から3エピソードを選び、作家さんにエッセイとして作品化していただきました。

編集長:ユーザーからの反響はどうでしたか。

奈良さん:何か価値を伝えるときに、整理された情報を届けるよりも、ストーリーにのせて届ける方が効果的だと思っていまして。なので、事例インタビューという形ではなく、作家さんの力を借りることにしたという経緯があります。

結果、3作品のうち1つは3,000リツイート、6,000いいねと数字でみても非常に反響がありました。実際、Twitter上では「マジで泣きました。」といったコメントがかなり多く、Wantedlyを通じた実際の人と会社の物語を心動かすコンテンツにでき、読者さんからも反響が得られたということで、一定の手応えは感じられました。

地方PRを全国一斉展開せず、広島から始めた理由とは?

ひろしま好きじゃけんコンソーシアム、発表会の様子。

ひろしま好きじゃけんコンソーシアム、発表会の様子。

編集長:その他、PR戦略上の目的を達成するのに、取り組まれている施策があれば教えてください。

奈良さん:先日、ひろしま好きじゃけんコンソーシアムという広島大学を中心とした産学官金連携の取り組みに参画しました。その際に、在京メディアと広島ローカルメディア、教育系メディアにお越しいただき、広島大学の教授や地元の名士の方々などを登壇者として招いたオンライン記者発表会を実施しました。

編集長:地方でのPRにも注力されているのですか。

奈良さん:Wantedlyを活用してくれる企業さんは、東京の会社やITベンチャー、スタートアップ系が中心です。地方企業さんからの認知はまだまだなので、地方に対しても情報を発信し、相性がいい企業さんに活用いただきたいと思っています。
そこで、まずは地方での可能性がどのくらいあるか、広島からトライしているところです。

編集長:広島から始められた理由は何かあるのでしょうか。

奈良さん:46道府県に満遍なくアプローチするリソースもないので一つの県で集中的に取り組み、効果性の有無などをみていこうと考えていました。広島からはじめた理由は大きく2つあります。一つは、広島県がひろしまユニコーン10を掲げ、スタートアップ企業に対する支援を手厚く行われていて、Wantedlyとしてもご縁があったということ。二つ目は、他地域への横展開が前提なので、経済規模や産業、人口分布などが日本の縮図のような県であったことです。これが札幌や福岡など地方の中でも先進的で経済規模も大きいところだと、そこではできても他の県では実現できないことも出てくると思います。逆に広島において地方で広める手法を確立できたら、他県でも横展開できる可能性が高いと考えています。

編集長:ひろしま好きじゃけんコンソーシアムの記者発表会は奈良さんがリードされたのですか。

奈良さん:そうです。広島大学の副学長さんや広島の企業の方々をお呼びしてメディア向けの記者発表会を実施しました。最終的に15社が参加してくれました。5社が広島ローカル、10社が在京メディアという内訳です。

編集長:メディアを集客する上で工夫されたことなどありますか。

奈良さん: 工夫したこととしては、ひろしま好きじゃけんコンソーシアムへの参画だけを発表しても「で?」という感じになってしまうので、参画の背景にある地方での学生と企業さんの課題を解決するといった点を打ち出したことです。

地方は就活やキャリアに関する情報が得づらい状況にあります。例えば、インターンシップは、自分がどんな仕事が好きなのか、また向き不向きも気づくことができる良い機会です。しかし、地方ではインターシップ自体は知っているけど、どう進めればよいかわからないという企業も少なくありません。
そういった課題を浮き彫りにするとともにWantedlyがどういう立ち位置で解決していけるかを発信しました。

社内の横のつながりを強化し、アウトプットを最大化

奈良さん「PRの力を上手く活用し、人と会社の出会いの価値を伝えていきたいです。」

奈良さん「PRの力を上手く活用し、人と会社の出会いの価値を伝えていきたいです。」

編集長:今後、広報としては、どのようなことに取り組んでいきたいとお考えでしょうか。

奈良さん:コーポレートPRという意味では私1人なのですが、Wantedlyのコミュニケーション戦略やマーケティングに携わるメンバーは他に何名もいます。そのメンバー間でのナレッジ共有は今まで以上に進めていきたいです。そういった狙いも込めて Brand Creation Guild という部署横断の組織を22/9月に立ち上げました。これからはより一層、ブランド全体で対外的な情報発信に一貫性を持たせたり、アウトプットを最大化したいですね。

編集長:今日お話を伺って、やはりと思ったのが、「差別化」のお話はされないんだなということです。Wantedlyを採用ツールの1つと捉えている企業も多いと思うのですが、いわゆる採用広告掲載媒体とは並列でないポジショニングができていますよね。

奈良さん:そうですね。切り取り方次第で競合はいますが、直接的な競合はいないかなと思っています。ただ、ユニークなことをしている分、その価値はきちんと伝えていかなくてはいけないなと。そこで、このPRによる第三者目線からの情報発信は信頼性や説得力があるので、効いてくると考えています。PRの力を上手く活用し、「人と会社の出会いの価値」を伝えていきたいですね。

PRマガジン編集部の「編集後記」

編集後記:編集長

―自社のリソースを最大限活かし、情報発信を強化

広報にとって辛いのは、発信できる“ネタ”がないこと。
でも、毎月、新商品や新サービスがリリースされる企業の方が少ない。
だからこそ、広報はいかに“ネタをつくれるか”が問われる。

アンケートPRは話題作りの手法としては有効だ。
しかし、

・費用がかかる
・ほしい結果を導きだすための調査設計の難易度が高い
・出典元として社名がでるだけにとどまってしまうこともある

など、手軽な手法というわけではない。

しかし、Wantedlyは、350万を超えるユーザー、そして4万3000社の企業にアンケートを送れる環境がある。そして、時流に合わせた人と企業の動向を調査で明らかにし、さらに取材先とセットでメディアに提案する。この「データ×ストーリー」がNHKをはじめメディアからの取材を獲得するネタづくりのポイントだという。

データを自社で取るのが難しいという場合は、公的機関が発表したデータを活用し、そこに顧客やユーザーのストーリーを加えて発信するという方法でもよいかもしれない。

ぜひ、自社の強みを活かしたネタづくりを考える際の参考にしていただければと思う。

今回の注目企業紹介

ウォンテッドリー株式会社(https://wantedlyinc.com/ja

設立:2010年9月
事業内容:ビジネスSNS「Wantedly」の企画・開発・運営

お話を伺った方

ウォンテッドリー株式会社PR 奈良英史さん

ウォンテッドリー株式会社PR 奈良英史さん

ウォンテッドリー株式会社
PR
奈良 英史(なら・ひでふみ)