PRだからこそ着手できる、中長期を見据えた“成長の種まき”とは―「ビットキー」広報・北島香織さん

今回は、テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」 ことをミッションに掲げる、株式会社ビットキーの北島香織さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集部 若林)

大学時代、成果報酬型バイトで、結果にコミットする思考を身に付ける

当時、ソフトバンクの代理店に所属し、ちょうど新たに出てきたiPhone4の契約を獲得するというアルバイトをしていました。

北島さん「当時、ソフトバンクの代理店に所属し、iPhone4の契約を獲得するというアルバイトをしていました。」

若林:今回、MyRefer(マイリファー)の岩田さんから「北島さんのPR手法がすごい」と聞き、取材を打診させていただきました。

北島さん:恐縮です。正直、広報/PR担当としては、あまり目立たないようにしていたのですが、今後を見据えると、広報やPRに対して積極的な会社は対外的にも評価いただけるのではと思いまして。また、こういった形でお話しする機会もめったにないと思いましたので。今日はよろしくお願いします。

若林:そうだったのですね!取材を受けていただいて嬉しいです!ありがとうございます。
早速ですが、これまでのご経歴を拝見すると、すごく体育会系なメンタルをお持ちなのが伝わってくるのですが(笑)。大学時代は、フルコミッションの訪問販売と投資用不動産のテレアポをされていたということですが、フルコミッションの訪問販売では何を売っていたのですか。

北島さん:携帯電話です。当時、ソフトバンクの代理店に所属し、ちょうど新たに出てきたiPhone4の契約を獲得するというアルバイトをしていました。
その代理店は少し特殊で、よく皆さんが見かける「ショップ」と呼ばれるような路面店があるタイプではないんですよね。代理店の名刺だけ渡されるんです。株式会社○○みたいに。名刺には、通信キャリアの文字はどこにもなく、正直、これでどうやって売ろうかなと思いましたよね(笑)。
しかも、訪問販売で飛び込み営業をしてこの名刺を出したとしてもなかなか購入してもらえないだろうと思いました。そこで、SNSで「iPhoneを替えたい、新たにiPhoneが欲しい」とつぶやいている方を対象にDMを送るということから始めました。

若林:それで、反応は得られました??

北島さん:非常にありました!例えばトラック運転手の方や小さなお子様がいらっしゃるお母様に意外とニーズがありました。ショップの営業時間に携帯を買いに行けなかったり、他の方の目が気になって、よく泣いちゃうお子さんを連れてショップという場所に行けなかったりと。
商品自体は、世界に流通しているiPhoneという安心感もあったと思います。お会いするときは、ファミレスやカフェなどで契約書を書いていただいて、所属している代理店経由で通信キャリアの審査をして、後日iPhoneがお客様のもとに届くという、そういう仕事をしていました。

若林:失礼ですけど、それを聞いた上でも知らない方なので不安が残りませんか?(笑)
DMから会うという行動に移させるものすごいし、契約まで行くのもすごいなと。要は、北島さんという人間を信頼してもらわないといけませんよね。

北島さん:会社自体の安心感は、社名を調べるとWebページもあるので、一定の信頼は得られたと思います。ただ、アルバイトという立場なので、人としてどう信頼を勝ち取るかは工夫しました。例えばFacebookで自分の名前が検索された時に安心していただけるよう、プロフィールを仕事に寄せて書いたり、名刺に記載するメールアドレスも、アルバイトだと個人のアドレスを使うことになっていたので、会社名と自分の名前で構成したアドレスをGmailで取得したりしていました。

若林:それは誰かに教えてもらっていたわけではなく、ご自身で考えたのですか。

北島さん:そうです。自分が逆の立場で知らない人からDMがきたらどうするかと考えると、まずその人の名前を検索したり、怪しい会社じゃないか会社名を調べたりすると思うんです。そういった想像の範囲の中でできる対策は行っていました。

若林:大学生でそこまでできるなんて、すごいですね~。

北島さん:当時の置かれた環境が大きかったと思います。大学に通学するのに片道2時間かかっていたので、毎日終電で家に帰るような生活をしていました。なので、居酒屋やコンビニなどでバイトをするのは難しかったんです。そこで、働く“時間”で稼ぐ仕事ではなく、“成果”で稼げる仕事を選ぶ必要がありました。

若林:随分メンタルも鍛えられたでしょうね。

北島さん:確かに鍛えられましたが、どちらかというと、投資用不動産のテレアポの方が、メンタル的にはきつかったです。今もあると思いますが、突然電話がかかってきて「年金対策されてますか」みたいなトークから投資用不動産の営業を受ける方っていると思います。あのお仕事ですね。
電話口では「なんで、この番号を知ってるんだ」、「おまえは何者だ!」などはまだいい方で、とてもここでは口にできないような罵りや汚い言葉もたくさん受けるんです。隣の席のアルバイトさんが、お手洗いに離席したらそのまま帰ってこないということもあるくらい過酷な場所でした(笑)。

若林:どのくらいの期間そこでアルバイトされていたのですか。 

北島さん:携帯電話の代理店は1年半くらいで、投資用不動産のテレアポは、2〜3ヶ月くらいです。大学の長期休み期間にフルタイムで入っていました。

営業畑から、未経験で広報にチャレンジ

当時、ビットキーにジョインされていた方からお声がけいただきました。そこから、広報/PRという選択肢をより深く考えるようになりました。

北島さん「当時、ビットキーにジョインされていた方からお声がけいただきました。そこから、広報/PRという選択肢をより深く考えるようになりました。」

若林:大学時代のアルバイト経験から、新卒では、BtoBマーケティングの会社に入社されたのですか。

北島さん:大学時代、営業という仕事は好きだったんです。私の母は現在70代ですが今も不動産業界にて現役でバリバリ働くセールスウーマンで、当時からその母の姿を見ていた影響も大きいと思います。営業という仕事自体は、相手に新たな気づきを与えることができるので、本来相手にとってすごくいいことをしていると思っていました。しかし、アルバイトで経験した営業の世界は、相手に嫌われやすい印象でしたし、自分自身も辛いときがあり「いいことをしているはずなのに、なんで辛いんだろう」と思っていました。
その辛い部分が和らぐのであれば、本来あるいい側面がもっと浮き上がるのではと考えており、そんなときに出会ったのがマーケティングという手法です。相手も嫌な気分にさせず、押し売りではないので、売る方も気持ちが楽になります。当時は、マーケティングというとBtoCのイメージでしたが、私はBtoBの世界に踏み込みこもうと決め、BtoBのマーケティング支援会社に入社し、約5年間働きました。

若林:そこから、なぜ広報に職種をチェンジしようと思われたのでしょうか。

北島さん:在籍していた5年間で私の所属していたクラウドサービス事業の市場環境が大きく変わったことが背景にあります。入社した2014年当初は、まだBtoBマーケティングという取り組みが日本で当たり前のようには広がっていない時代で、市場はこれから盛り上がる雰囲気が強く、非常に活況でした。
しかし、退職前の2018年、セールスチームでマネージメントをしていた時、みるみる市場でマーケティング支援ツールの競争が激化するのを感じていました。外資系ツールの勢いが増していましたし、どの企業も類似の施策でマーケティング施策を行っており、パイの奪い合いに近い状況で事業成長の鈍化を感じるようになりました。その時、これは市場自体を広げていかないとまずいなと思ったんです。そこで、市場を広げる活動に興味を持ち、注力したいと考えました。しかし、さまざまな要因が重なり、当時取り組むまでには至りませんでした。

そんな時に、当時、ビットキーにジョインされていた方から「営業経験のある広報が欲しい。北島さん興味ない?」とお声がけいただきました。そこから、広報/PRという選択肢をより深く考えるようになりました。

それが2018年11月頃です。当時のビットキーは、まだ創業から3ヶ月くらいのタイミングで、「bitkey platform」というテクノロジーの根幹は出来ていたのですが、それで何を実現するかはこれからという時期でした。正直、そのタイミングで入る決断をするのは不安もありましたが、未経験で広報/PR業務にチャレンジできるという環境とCEOの江尻の経営者としての面白さ、そして当時お話をくださった方への信頼、自身の当時の年齢的に、大きなチャレンジがしやすい状況だったことなどからビットキーへの入社を決めました。

ミッションはあらゆるコミュニケーションのデザイン!メディアリレーションは全体の3割

北島さん「コミュニケーションをデザインし、各ステークホルダーとの良好な関係を構築することがメインのミッションです。」

北島さん「コミュニケーションをデザインし、各ステークホルダーとの良好な関係を構築することがメインのミッションです。」

若林:未経験で広報として入社されたということですが、最初、何から始めたらいいのかわかりましたか。

北島さん:正直、何もわからなかったです(笑)。前職まで、プレスリリースに直接触れたことはありませんでしたし、何のため・誰のために書いてるのかすら、ちゃんとわかっていなかったところからのスタートでした。

若林:どうやって広報として自走できるようになったのですか。

北島さん:当時、私ひとりだけだと、到底すべてが追いつかなかったので、業務委託で1名に加わっていただき、広報のイロハを教えていただきました。

若林:今、広報は何名体制なのですか。

北島さん:CEO Officeチーム内のX Relationsというユニットに2名おり、企業・事業・製品の広報/PR、社内広報を行っています。前者は主に私や、業務委託先で担当しています。社内広報はX Relationsユニットで私以外のもう一人が主に担当しています。これらをCEO Officeのマネージャーが統括しているという体制です。

若林:広報部のミッションをお聞かせいただけますか。

北島さん:ビットキーが目指す世界観、“テクノロジーの力で、あらゆるものを安全で便利で気持ちよく「つなげる」”を、より早期に実現させるためのコミュニケーションをデザインし、各ステークホルダーとの良好な関係を構築することがメインのミッションです。コミュニケーションの対象は幅広く、法人・個人のお客様、既存の株主様といった直接的な利害関係が太いところは専任の部門もありますが、それ以外の領域は我々が対応しています。

普段の仕事内容としてはメディアさんへのアプローチ、取材獲得はもちろん、パートナー企業や業界団体への働きかけなども行なっています。

若林:それは具体的に働きかけるということですか? それとも、その方々に響くメディア露出を獲得していくということですか。

北島さん:両方です!必ずしも、何か物事を進める時にメディア露出が必須かというとそうではないことも多いです。もちろん、メディアに露出することで、間接的に響くこともあるのですが、別の形で事業に貢献することも多々あります。

例えば、最近の例では、スタートアップ向けのアクセラレーションのフロント業務などです。アクセラレーションプログラムやコミュニティは様々な事業会社さんが展開されているのですが、その中でリレーションを作るということです。業界団体の勉強会や交流会に営業やプロジェクトメンバー、経営陣の参加や登壇を促すといったことも行っています。弊社製品やサービスの導入に興味をお持ちいただいた場合は、営業にパスしています。

若林:対メディアに働きかける業務と、それ以外の業務は何対何くらいで対応してるんですか。

北島さん:私自身、メディアさんとのコミュニケーション対それ以外の方だと、3:7でメディア以外が多いです。その7にはどういう方が含まれているかというと、業界団体の関係者の方や他社の広報・マーケティング担当者の方、大企業の新規事業系の部門の方など様々です。弊社の場合、新しい取り組みの多くは弊社単独ではなく、協業や共同製品開発など、他社さんと共に進めていることも多いので、一般的な会社と比較すると社外の方とコミュニケーションをとることが多いと思います。もちろん社内のコミュニケーションもあります。
230名ほどの社員で法人向けにも、生活者向けにも事業を展開していますし、スマートロック単独の提案もあれば、大型のスマートビル、シティ領域といった大規模な提案も多数展開されているので、常に目まぐるしく動く社内の状況のキャッチアップは欠かせないです。

若林:そうするとやはり、最初に話された、フルコミッションで働いてた時の営業経験がすごく役立たれているのではないですか。

北島さん:そうですね、当時のフルコミッションの時に今活きているものがあるとすると、「目標に対して、どんなアプローチであれ、達成するために何ができるかを自分の頭で考える」ということだと思います。自分の頭で考えないと商品が売れない環境にいたからこそ、目標を達成するためにどうしたらよいか、ゼロから組み立てるということはすごく学びになっています。

若林:今もそうですよね。御社のサービスを導入されてないところに話を持っていって、興味を持ってもらえたら、営業に引き渡すというのがさっきの話ですよね。

北島さん:そうですね。ただ、必ずしも、商品を売ることが目的というわけではなく、協業やビットキーへの出資という話に発展することもあります。なので、商品を売るというより、もっとスケールの大きな取り組みにつなげるほうが重要だと思っています。

若林:北島さん自身が、どの企業に声をかけようか決めて動いているのですか。

北島さん:リストアップして順番にテレアポするような動きはしていないです。「もしリリースを出せるようなプロジェクトになれば、お相手にとってもメリットがあるな」とか、「この先に控えているお相手の中期経営計画を踏まえると、お互いにWin-Winな関係になれるのではないか」といったことが期待できる企業とのコンタクトチャンスがあれば積極的にお声がけするイメージです。

KPIにはとらわれない~会社にとって有益だと思うことは何でもやる

北島さん「KPIを達成するというのはもちろん大事ですが、自分自身が事業成長にも寄与するネタを作れる広報/PRパーソンでありたいと思っています。」

北島さん「KPIを達成するというのはもちろん大事ですが、自分自身が事業成長にも寄与するネタを作れる広報/PRパーソンでありたいと思っています。」

若林:あくまでPRとしてはメディア露出数やリリース本数といったKPIをもたれていて、今聞かせていただいたような活動はKPIには入っていなく、「この会社いいかも」と思った時にコミュニケーション取りにいくという感じでしょうか。

北島さん:そうです。ちなみに、KPIを達成するというのはもちろん大事なのですが、自分自身が事業成長にも寄与するネタを作れる広報/PRパーソンでありたいと思っています。そのためには、弊社はもちろん、お相手の企業にとっても話題となり、売上にもなる、そして会社のブランドにも貢献できる取り組みというものが特に重要なので、足元のKPI達成に関係なくても積極的にそれらのネタにつながるアクションを起こすべきだと思って動いています。
ただし、これは会社や事業部の今の動きがわかっていなければ、むしろチグハグな活動になってしまうので、常に現場はどのような方針で、どんな動きをしているのかはキャッチアップし続けないといけないですね。

若林:なるほど、会社の利益になることなら何でも動くということですね。

北島さん:PRだからこそ、中長期を意識した行動ができると思っています。例えば営業チームだとどうしても四半期や半期といったスパンでの営業数字、採用チームであれば、今期に何名採用できるかという足元の数字が重要になります。全社がそうなると先々の芽を誰も作れなくなってしまいますよね。そういう意味で私たちのようなミッションを持ったチームは、足元の活動を実施しながらも未来のために種をまくことも大事にした方がいいのではと思っています。

若林:ちなみに、広報としてはメディア露出数やネタをいくつ作るというKPIも持たれているんですよね。

北島さん:そうです。それらのKPIに加えて、これまでお話ししたような取り組みも行います。ですので、他社の広報やPRの方と話をすると、経営企画っぽいねと言われたりしますし、採用面談の際に、「なぜそこまでやるんですか。それはもはや広報やPRがやる業務じゃないですよね」と引かれたこともあります(笑)。リリースを書くついでに事業部のサービスサイトに掲載する事例記事を作ることもあります。弊社の場合は事業部にマーケティングチームもいるので、同じような組織体制であれば、他社さんはマーケティングチームが担当されるかもしれない話なのですが、リリース案件だった場合、我々が取材しているので、少しリライトや編集すれば事例記事も制作できるんです。我々がやった方が全体最適になりますよね。このように、KPIを持っていなくとも全体としてやるべきで、かつ効率的だと思うことは動いています。もともと広報やPRをやってきていないからこそ、一般的な考え方にとらわれず、動けるので、これは素人から始めた強みでもあると思っています。

若林:KPIに関係なくても、会社から何かしら評価はされるのですよね。

北島さん:実施したことそのものが直接的にボーナスのような評価にはつながりません。でも、こういった活動により、営業やマーケティングチームはすごく協力してくれるようになります。その方がx Relationsユニットにとっては重要だと思っています。営業から「これ頑張ってメディアに露出して」と言われてもどうしようもないネタはやはりあるのですが、「その内容はPRとして貢献できないけど、別の形で貢献できるようにします!」といった感じで、事例の作成やSNS展開などで協力するようなイメージです。