コミデザ的!カンヌライオンズ2022年PR部門受賞作品レビュー

こんにちは。
みなさんは社外取締役という存在をご存知でしょうか。ユニクロで有名なファーストリテイリングの社外取締役がソフトバンクの孫正義さんだったのは、有名な話かと思います。弊社にも社外取締役がいまして、PR業界では有名な本田哲也さんです。広報・PRに携わられている方の中にはファンが多いのではないでしょうか。

■本田哲也さん
https://twitter.com/hondatetsuya70

実は私もファンの1人で、Twitterをフォローして通知もオンにしているのですが、先日このような投稿をされていました。

世界的に有名な国際広告賞「カンヌライオンズ」のPR部門に関する解説記事です。

実は私も「戦略PR」の書籍の中で初めてカンヌライオンズにPR部門があるのを知り、勉強も兼ねて、過去の受賞作など一覧でないかなと思って探してみたのですが、なかなか動画やそのPR施策の全体像が開設されている日本語のぺージは少ないんですね。

そこで今回は、カンヌライオンズのPR部門の中から、本多哲也さんが取り上げた事例以外のGold Lionの事例をご紹介し、氏の提唱する戦略PRの6つの法則に自分なりに当てはめて考察するという試みに挑戦したいと思います。

①THE BVG HEMPTICKET-COME HOME, CALM DOWN

PR Lion 2022 Gold
実施国:ドイツ
実施主体:ベルリン市交通局(ベルリンの主要な公共交通機関)
https://youtu.be/tFL7VVCPdnk

動画ではクリスマスの準備に追われるベルリン市民の様子がまずは映し出されます。
ドイツではアドベントカレンダーやクリスマスマーケット、シュトーレンなど、クリスマス当日までの期間を楽しむ文化がある一方で、その準備は忙しい現代のベルリン市民にとってはストレスの原因にもなっているようです。

外出したあと、クリスマスのために家に帰るときにリラックスさせたいと考えたBVGは、そんな住民に対して、ストレスの多い休暇期間中に完全合法の大麻オイルを使った初の食用チケットを発売しました。一部の国では娯楽用大麻が合法となっており、大麻にリラックス効果や鎮静効果が認められています。

そして実はこのキャンペーンの少し前の11月24日、ドイツの次期連立政権は大麻の販売を合法化することで合意したと発表しており、社会的にも大麻は非常に関心の高い話題だったのです。
そして、この完全に安全なヘンプオイルを活用した上BVGはこのようなメッセージを発信します。

「違法か合法化を問わず、あらゆる種類の薬物使用に反対している」

このことは、すべてのBVG車両と駅で薬物とアルコールが厳しく禁止されている事実とBVGがいかに市民の生活を安全に支えているかを機知に富んだ形で伝えました。
「おおやけ」の関心事と、今回はSNSやニュースを通してこの強烈な「食用大麻チケット」というコンテンツに「ばったり」出会ってしまった。というのが、PRとしてうまいところだと思います。

ちなみに、ベルリンの公共交通機関であるBVGは、革新的なマーケティングキャンペーンで常に知られていて、長年にわたって広告のケーススタディになっています。

他にも面白い事例があるのでぜひ調べてみてください。

②GENDER SWAP

PR Lion 2022 Gold
実施国:France
実施主体:Woman In Games
https://dai.ly/x8bxtji

ビデオゲームユーザーの2人に1人、15億人が女性であるにもかかわらず、ビデオゲームスタジオで働く女性の比率は22%に過ぎないという現状があります。Woman In Gamesはそんなゲーム業界のジェンダーギャップ問題を解決するための団体です。

ゲーム業界の男女比率が原因なのか、多くのビデオゲーム内の女性キャラクターはステレオタイプな女性像の動きで表現されています。Woman In Gamesはそれが世の中の多くのビデオゲームユーザーに対してステレオタイプな女性像を刷り込む要因になっていると考えていました。
(これは現役ゲーマーに限らず、子どものころゲームに親しんだ人は分かるところがあるのではないでしょうか)

その問題を解決するために、男性キャラクターの見た目で、女性キャラクターの動きをさせるプロジェクトを思いつきます。まさにGender(性別を) Swap(取り替える)したのです。

私自身、初めて動画を見たときは衝撃的で、屈強な体格の男性キャラクターが極端な女性らしい動きをしているというのは正直なところ「気持ち悪い」と思いました。しかし、ということはそれだけ「女生とはこうあるもの」というイメージがあることを意味しており、世界中に議論を巻き起こしました。

ジェンダーギャップという「おおやけ」の問題に対して、ゲームだからこそできる、「身体と中身を入れ替える」という解決策は、まさに「その手があったか!」と感じました。まさに6つの法則の「かけてとく」的な要素ではないでしょうか。

③9/12-THE UNTOLD STORY OF RECONNECTING NEW YORK

PR Lion 2022 Gold
実施国:USA
実施主体:Verizon
https://vimeo.com/678776447

動画は2001年の9月11日に起こったアメリカ同時多発テロの映像から始まります。この事件自体は本当に多くの場所で語り継がれる大事件で、テロの標的となったニューヨークのワールドトレードセンター(WTC)が倒壊した跡地はグラウンド・ゼロと呼ばれています。

アメリカの大手電気通信会社のベライゾン(日本でいうとNTTのようなイメージでしょうか)はロウアーマンハッタンという地域の中央通信ハブを管理していました。そしてそのハブとなるビルはグラウンドゼロからわずか1ブロックの場所にあり、甚大な被害を受けて通信機能は完全に切断されていました。

国だけでなく、都市の復活にとってもこの通信を修復することは重要で、9.11の翌日、14,000人を超えるベライゾンの従業員が動員され、命がけでニューヨークに通信を再接続(Reconnecting)するために命を危険にさらしました。しかし、この物語はこれまで語られてこなかった物語でした。

このキャンペーンは9.11から20周年というメモリアルイヤーに、「語られたことのない物語を、これまでにない形式で伝える」というものになっています。

具体的には、

・9月12日に実際に起こった瞬間、行動、物語を記録したテキスト
・マンハッタンのダウンタウンの360度画像(VR)
・AR(拡張現実)を活用した当時のビルを再現した映像
・30人以上のベライゾンの従業員が受けたインタビュー動画
・電話をかけると当時の従業員として通話音声が流れる電話番号

といった内容が、1日中実際に9月12日に起こったタイムラインで情報が流れてくるのです。
ユーザーはその膨大な情報をどこで受け取るかというと、スマホのMMSというメッセージチャット機能で受信します。2001年、当時の革新的な技術の一つが、このテキストメッセージの送受信でした。

そんな当時からある基本的な技術に賛同する意味合いを込めつつ、現在の技術というひねりを加えることで、ユーザーにこの物語に没入感のある体験を与え、多くの議論を巻き起こしました。

④VIENNA STRIPS ON ONLYFANS

PR Lion 2022 Gold
実施国:Austria
実施主体:Vienna Tourist Board
https://youtu.be/37SOf1LJIa0

世界的に有名で、評価されている芸術作品の中には、裸婦画をはじめとして性的なモチーフを表現したものは少なくありません。しかし、そんな作品は人にとってはとても芸術的で価値のあるものだとしても、SNSのアルゴリズムにとっては性的で過激なポルノコンテンツとみなされて削除されるというのが業界では問題とされていました。SNSのアルゴリズムは人間の美的感覚や芸術性というのが判断できないのです。

ところで皆さんはONLYFANSというサービスをご存知でしょうか。イギリスのロンドンに拠点を置くソーシャルメディアサービスで、クリエイターは、自分の登録者または「ファン」専用のコンテンツを提供することができます。個人クリエイター版のサブスクという感じでしょうか。

実は、世界的なコロナウイルスの蔓延も手伝って、ONLYFANSでアダルトコンテンツを販売するクリエイターが増えており、ONLYFANSは何となくポルノコンテンツで稼ぐ人のWebサービスというイメージがついていました。そこにオーストリア観光局は目を付けました。

そんなにアルゴリズムがポルノコンテンツとして判定するのであれば、自主的に+18作品としてONLYFANSのコンテンツとして公開するという行動に出たのです。

コロナ禍での収入減により、ONLYFANSというサービスを使って仕事をする人が出てきたという社会的背景と、性的なモチーフを表現した芸術作品がSNSのアルゴリズムによって削除されてしまうという社会問題をうまく組み合わせたことで、多くのメディアで議論が巻き起こる結果となりました。

それに伴って、オーストリアの美術館やそこで展示されている作品に注目が集まり、結果として多くの人が美術館に訪れる結果となりました。

まとめ


いかがだったでしょうか。
今回、海外のサイトからも情報収集をしながら、出来るだけみなさんが分かりやすくこのPR施策について理解できるように努めたつもりですが、もし私の理解が間違っている部分があればぜひご指摘いただければと思います。

日々広報の活動に追われていると、パブリシティの掲載数だけに目が行きがちなります。
しかし、世界のPRの事例に触れることでPRという仕事は世の中を動かす仕事なんだと再確認できるように思います。

株式会社コミュニケーションデザイン PRコンサルタント

【ニックネーム】しいたけ君
【これまで担当した業界】食品、健康アプリ、美容など
【趣味】庭いじり、料理、旅行、占い
【プチ自慢】立ったまま寝れること