実態なくしてメッセージは伝わらない

こんにちは。
最近のスポーツニュースでは、続々と北京五輪代表者の決定が報じられています。
これに関連して、私の興味津津なニュースといえば、中国のチベット
政策問題。世界中のメディアから注目を浴びています。


今や、欧州の首脳が続々と、北京五輪開会式の不参加を表明するといった
事態にまで発展しているほどです。
過去の五輪の中で、国の代表者が開会式を欠席するという騒動が、これほどまでに
大きく取り沙汰された事はなかったのではないでしょうか。
中国としては、北京五輪を成功させて、一気に経済大国の仲間入りを目指して
いたに違いありません。
それが、思わぬ形で窮地に追い込まれてしまいました。
そもそも、中国の北京五輪誘致には、PR会社が関わっていたことは
ご存じの方もおられると思います。
それでは、巧みなPR戦略によって北京五輪誘致を成功させたにもかかわらず、
なぜ今回の騒動に発展してしまったのでしょうか?
もともと、中国北京で五輪が開催される事については、
誘致合戦の頃から疑問視される2つの大きな問題点がありました。
それは「人権問題」と「環境問題」です。
人権問題では、誘致合戦当時の中国は、チベットや新疆ウィグル自治区において、
信仰の自由を奪い、教育を受ける権利や労働権を保障していないといった点を、
米国を中心とする各国に非難されていました。
また、環境問題では、経済発展至上主義ともいうべき、急激な経済成長を優先させ
る政策が生み出す大気汚染、砂漠化、酸性雨などが大きな問題点となっていました。
これらの問題が、五輪開催には相応しくない国としてのイメージを、膨らませてし
まったのです。
そこで中国は、ウェバーシャンドウィック社という米国のPR会社の力を借りて、
中国のネガティブなイメージとなったこの2つの問題を払拭することを試みたので
す。
PR会社は人権問題に対し、少数民族出身者が北京五輪を支持しているということ
を強くアピールして、中国の人権問題を社会問題として取り上げにくい
雰囲気を創り出そうとしました。
その方法は、シドニー五輪金メダリストのオーストラリア先住民族アボリジニーの
出身者、キャシー・フリーマンと、中国系アメリカ人のプロテニス
プレーヤーのマイケル・チャンに白羽の矢を立て、「二人のマイノリティ代表が
北京五輪開催を支持した」というメッセージを全世界に発信したのです。
それに加えて、米国でたった一人で運営している環境NGOの発言をうまく活用
し、「北京五輪は緑化を促進する」というメッセージを世界中に広めました。
それが、中国の環境問題に対するイメージを少なからず好転させることが
出来たのです。
こうした巧みな戦略を実施した結果、中国は五輪誘致合戦に勝利したのです。
(詳細は、弊社代表玉木の著書『影響力』ダイヤモンド社刊をご参照下さい。)
中国が国を挙げて仕掛け、五輪誘致合戦に勝った立派なPR成功例と言うことが
出来るでしょう。
ところが問題はここからなのです。
五輪開催を前に、施設や交通網など、インフラの整備を急速に進め続けたために、
環境問題は悪化。二酸化炭素の排出量に関して言えば、今や米国を抜いて世界最大
の二酸化炭素排出国として名が通ってしまいました。
さらに、今回騒ぎの発端となった、3月のチベットで起きた抗議独立運動に際して
は、柔軟な対応が必要だったにもかかわらず、画一的に弾圧してしまったのです。
これでは、五輪誘致前に発信していたメッセージ、
「マイノリティーが北京五輪を支持している」という内容の信憑性を疑わざるを得
ません。
この問題から、私がPRマンとして考えたことは、
PR戦略を立てる際には、キーメッセージと実際の行動との一貫性を終始貫き、
対策を練らなければ、一番重要な『信憑性』を失いかねないということです。
それは国であろうと企業であろうと、その大小にかかわらず、十分に注意すべき
点、配慮すべき点であると実感させられました。
残念ながら、今回は誘致の時のキーメッセージとその後の実際の政府の行動には
乖離があったと言わざるを得ません。
何はともあれ、北京五輪に向けて頑張っている選手のためにも、安心して大会がで
きるよう、問題解決の対応を進めてほしいものです。

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