「千葉ロッテマリーンズ」と聞いて、何をイメージするだろうか。
球団カラーのブラック?佐々木朗希選手?ZOZO?
どれくらい野球に詳しいかによっても違うだろう。
ただ、野球好きな方でなくても、選手の顔をみたら「あ~!テレビでみたことある」という方も多いかもしれない。なぜなら、最近千葉ロッテマリーンズの選手たちがバラエティなど、テレビ番組にでる機会が増えているからだ。
もし、「プロ野球選手だから、テレビにでることなんて普通じゃない?」と思った方がいたら、実はそうではないことを知ってほしい。
その理由は、本編に任せるとして、ここ最近、千葉ロッテマリーンズの選手たちが影響力のあるバラエティ番組等に出始めているのは、広報戦略によるものだ。
そこで、今回は千葉ロッテマリーンズ広報・和中一真さんに話を伺った。
(編集長)
この記事の目次
芸人のマネージャーから球団広報へ
編集長:和中さんは元高校球児で、大学卒業後は、吉本興業のマネージャーをされていたのですね。
和中さん:はい、新卒で吉本興業に入り、約6年半マネージャー業をしていました。
その後、2021年1月に千葉ロッテマリーンズに広報としてジョインしました。
編集長:現在は、どのような広報体制なのでしょうか。
和中さん:広報室には、私を含め7人が所属しています。その中でチーム対応をしているのが、室長と私ともう2名の4名です。その他3名は場内アナウンスを担当している者や兼務で社長秘書をしている者、バックオフィス業務を行っている者です。
編集長:チーム対応をしている広報の方々の業務というのはどういう内容なのでしょうか。
和中さん:千葉ロッテマリーンズ 広報室のTwitterとYouTubeは選手のインタビューを撮るところから運用まで我々で行っています。あと、記者会見はすべて担当しています。選手の入団会見や契約更改、交流戦前の記者会見、年始の社長会見など様々です。
編集長:広報体制7名といっても、カバーする領域も広く、記者会見など規模が大きなものも多々あり、なかなか大変そうですね!
球団の新たなファン層獲得へ
編集長:現在、千葉ロッテマリーンズの広報としては、どのようなミッションを掲げているのでしょうか。
和中さん:一番は球団のブランド力向上です。
そのため、イベントを開催したり、球団のメインとなる選手や監督・コーチのPRを強化しています。
編集長:イベントの企画も広報が?
和中さん:別の部署が担当していますが、イベントの情報発信・拡散といったところは広報が行っています。たとえば、メディアに大きく扱ってもらうことで、「そんな楽しいイベントがあるなら行ってみよう!」と思ってもらい、イベントをきっかけに千葉ロッテマリーンズや野球に興味がそこまでない方からも、試合を見に行ってみようかな、と思ってもらえるようなきっかけを作れればと思っています。
編集長:特に選手のPRは和中さんが入社されてから強化されたようですね。
和中さん:そうですね。私の入社前も広報には注力していたのですが、オフシーズンにテレビやラジオ等へ選手を露出させるといったことは、積極的にしていませんでした。テレビやラジオだけではなく、スポーツ誌やネット媒体なども含め、選手の魅力を知ってもらう機会を増やし、そこから球場で本人を見てみたい!と思ってもらえればと思っています。
オフシーズンに選手のメディア露出を強化~その意図は?
編集長:この数年注力され始めた選手のPRについても教えてください。選手の露出を通し球団にも興味をもってもらうための取り組みということですが、具体的にどういったことをされているのでしょうか。
和中さん:オフシーズンの選手の稼働は全部任せされてます。
選手を求めているような媒体はないか、またどの媒体で取材を獲得できると選手の魅力が伝わるかを考えつつ、シーズン序盤から各メディアにアプローチしています。
編集長:シーズン序盤からアプローチしているんですね。
和中さん:はい、テレビ局やラジオ局は、シーズン序盤・中盤・終盤の3回に分けて、アプローチしています。シーズン中に、スポーツニュースのインタビューやスポーツ誌、ネット記事系のインタビューを受けるというのは以前からですが、オフシーズンにバラエティ番組に出すということは、私が入社してから強化していることです。ですので、この2年くらいですね。
編集長:オフシーズンに選手をテレビなどに積極的に出すようになって、何か変化はありましたか。
和中さん:特にテレビにでると、野球ファンではない、一般の方からの選手の認知があがると感じています。
例えば、有吉ゼミという番組には、2年連続で選手が出させてもらっています。昨年、シーズン後半で活躍した茶谷健太という選手が出させてもらったのですが、SNSなどでも話題にされていたなという印象があり、一般の方にも名前を知っていただく機会になったと思います。
また、選手を出演させた際のテレビ局側からの評価も良いですね。しゃべくり007に佐々木朗希が出た際、視聴率がすごく良かったそうです。
編集長:テレビ局内での反響も大きかったということですね!和中さん:NHK Eテレ『おとうさんといっしょ』に美馬学投手が出た際も、すごい反響でした。
ファンの方からTwitter上で「観たことない番組ですが、みてみます!」といったコメントがたくさん寄せられました。逆に、いつもこの番組をみているかたは、ファン層とはまた違う30~40代くらいの女性が多いと思うので、そういった方に千葉ロッテマリーンズを知ってもらうきっかけにもなったと思います。
個人の趣味もメディア露出のフックに
編集長:テレビをはじめ、マスメディアへのアプローチに注力しているということであっていますか。
和中さん:ゲスト出演できるトークバラエティ以外に、個人の趣味をきっかけとしたメディアへのアプローチもしています。
例えば、石川歩という選手がいるのですが、元々サウナが大好きということを聞いていまして、サウナの専門誌にアプローチした結果、連載を獲得できたというケースもあります。
今はサウナ雑誌からかなりインタビューを受けるようになっていますし、雑誌とコラボしたサウナグッズの話などもでていて、非常にうまくいっている例だと思います。
編集長:球団の広報で、サウナ雑誌にアプローチするところはないかもですね?(笑)
和中さん:最初は、媒体側からアンケートへの回答依頼が来ていたようなのですが、本人がすごくサウナ好きなので、インタビューしてもらえないかという話をしたら、逆にいいの!?とすごく喜んでくださいまして。当然ですが、こういう売り込みをしてくる球団はほぼいないと思うので、びっくりはされたと思います。3か月に1度出版される雑誌なのですが、それ以降継続して出してもらっています。それに加え、ネット上での連載も私から提案し、毎月インタビュー形式での連載がスタートしました。
編集長:こういったお仕事というのは、選手からしても嬉しいですよね。
和中さん:石川選手はすごく喜んでくれていますね。
サウナ関連の仕事はずっと続けたいと言っていて、サウナ関連の仕事はすべてお受けする方針です。(笑)
本人的のモチベーションにも繋がってるみたいなので、私としてもサウナ関連の仕事を増やしてあげられればなと思っています。
編集長:選手たちがメディアに出ることに対して、ポジティブなのは、広報として助かりますね!
和中さん:私が入社した頃は、選手たちはそこまでメディアに出ることに前向きではなかったんです。それがこの1年くらいで「この番組でたい」「このラジオ好き」と、遠回しのジャブを私に入れてくるようになって。(笑)
メディアに出ることが選手たちのモチベーションにもなっているなら、私も嬉しいです。
LINEで全選手にヒアリング~メディア向けプロフィールを作成
編集長:球団には非常に多くの選手が所属していらっしゃると思うのですが、個々の選手の情報はどうやって吸い上げているのでしょうか。
和中さん:2022年1~2月頃に、 全選手にLINEでヒアリングをしてプロフィールを作成しました。これは、マネージャー時代のノウハウを活かしてです。マネージャーは自分で担当芸人のプロフィールを作って局に配り営業するのですが、千葉ロッテマリーンズの選手もまだメディアの方にはそこまで知られていなかったので、こちらからアプローチしないと声がかかることはないなと思いまして。
編集長:どんな内容をヒアリングされたのですか。
和中さん:全員共通で、好きなタレント、好きな番組、好きなアーティスト、趣味、特技、好きなこと、好きな食べ物・嫌いな食べ物を教えてくださいとLINEしました。
ただ、メディアに紹介するにあたり、それだけでは情報として浅いので、直接会った時に、どのくらい好きなのかを具体的に聞いていきました。
先ほどのサウナの話のように、めちゃくちゃ好きならメディアに提案できますが、ちょっと好きくらいだと、メディアに売り込むほどではないので。
こういった形でヒアリングを進め、プロフィール資料を作成しました。ちなみに、選手の中には何らかの大使をしている人もいるので、そういった情報もプロフィール資料に入れています。
編集長:地元とか大使切り口で露出につながる可能性もあるからですね?
和中さん:はい、例えば「秘密のケンミンSHOW極」は、出身県のタレントさんが出ていると思いますが、あまりタレントさんの候補がいない県もあったりするので。そういった県が出身県の選手がシーズン中に活躍してくれたら、アプローチをしてみたいです。
編集長:ちなみに、1軍とか2軍とかに関係なく、所属している全選手のプロフィールを作ったということですか。
和中さん:はい、作りました。
写真やLINEでヒアリングしたような内容、過去の経歴や成績、過去にとったタイトル、あとは○○大使のようなアピールポイントを一枚にまとめています。
編集長:メディアには図鑑のように冊子で渡しているのですか。
和中さん:いえ、そういった使い方ではないですね。
まず、シーズン開幕前は挨拶回りだけして、シーズン中盤に選手を広報内でピックアップし、その選手たちのプロフィールをブラッシュアップします。
だいたい5~6選手なのですが、その選手たちのプロフィールを吉本興業時代のリレーションを活かしながら局で配っています。
マネージャー時代からですが、たぶん売り込みの仕方はしつこいと思います。(笑)
すごく有名で成績もよい選手なら、何もしなくてもメディアからオファーが来ると思うのですが、そうでない場合はしつこいくらいやらないとテレビに出させてもらえないですからね。
ただ、しつこくといっても手ぶらでゴリ押しするわけにはいきませんので、日頃からメディアへのアプローチネタを探して、選手と同郷で番組MCをされているタレントさんがいないかとか、何かしら切り口を見つけてプッシュしています。
編集長:やっぱりマインドセットが芸人さんのマネージャーだからこそできるアプローチかもしれませんね!
編集長:いわゆる企業広報の場合、バラエティ番組に積極的にアプローチすることは少ないと思うのですが、ニュース番組とバラエティ番組でアプローチの仕方はどうかえていますか。
和中さん: スポーツニュースの番組は選手を取り上げたいという思いがあるので、番組側からご連絡いただけますが、バラエティ番組はそうではありません。
なので、アプローチの仕方というよりアプローチする番組を選んでいます。
編集長:どういったバラエティ番組を選んでいるのでしょうか。
和中さん:選手が出演して、傷つかない番組です。
選手たちを尊重してくれ、芸人さんのように話が面白くなくても100%笑いに持っていってくれるような番組です。
編集長:実際、千葉ロッテマリーンズの選手もとても人気のあるバラエティ番組にゲスト出演されていましたが、人気な番組はゲスト枠も激戦区ですよね…。
和中さん:そうですね。最初、2022年のシーズンはじめに番組に佐々木朗希を紹介しました。その間に佐々木が完全試合をしたので、夏頃にもう一度番組担当者に会いに行き、改めて話をしたところ、出演の可能性はかなり高いと言っていただけました。そして、シーズン終盤くらいもう一度訪問した際、出演はほぼ確実という話をいただけました。
編集長:なるほど、そういった感じでシーズンのはじめ、中盤、終盤とプッシュしているのですね!
和中さん:そうですね、どうですか?どうですか?って。(笑)
選手を知ってもらうことが「球団の魅力」にもつながる
編集長:今後、実施していきたいことや目標はありますか。
和中さん:有名な選手はもっと作り上げていきたいです。選手が野球で活躍するのは大前提ですが、テレビやラジオにでることで、視聴者やリスナーが興味を持ってくださったら、一度プレーを観に行こうかなと思ってもらえるかもしれませんし、その積み重ねが球団としての魅力の一つにもなると思っています。
編集長:和中さん、ありがとうございました!
PRマガジン編集部の「編集後記」
―球団はもちろん、選手の将来にもつながるメディア露出
実は今回、社内にいる元高校球児に「千葉ロッテマリーンズの広報がすごいんですよ!」と紹介してもらい、取材に至った。
いわゆる「企業広報」を中心に情報収集をしているため、球団広報を取材するということは考えてもいなかった。
白状すると…野球も詳しくないので、紹介されてからはじめて千葉ロッテマリーンズの情報を調べはじめた。
そうしたら、「あ!しゃべくり007でみた選手だ!」、「あ!このイベント知ってるな」など、意外と自分も千葉ロッテマリーンズの情報に接していることがわかった。
なるほど、これは確かに何か仕掛けていそうだ!と取材させていただくことになった。
話を聞いて思ったのは、和中さんの元芸人マネージャーというスキルを活かした(しつこい?)メディアリレーションが結果につながっているということが一つ。
もう一つは、選手一人ひとりにと向き合いながら広報を展開しているということだ。
選手が傷つかない露出というのもそうだが、選手の趣味にクローズアップした露出を獲得するというのは、選手のモチベーションにもつながるし、それがもしかしたら第2の人生にも繋がっていくかもしれない。
選手のPRというのは、球団の魅力発信にもつながるし、選手の今のモチベーションや未来にもつながる、とてもあたたかいPRだ。
今回の注目企業
株式会社千葉ロッテマリーンズ(https://www.marines.co.jp/)
概要:日本のプロ野球球団。パシフィック・リーグに所属。
お話を伺った方
広報
和中一真(わなか・かずま)