皆さんは「ChatGPT」をどんなことに活用しているだろうか?
ニュースをみながら、随分すごいものが登場したんだなぁ~と思っていたが
やはり百聞は一見に如かず。
PRマガジンの取材候補先も上手く見つけられるか?と
「広報活動が上手な日本のベンチャー企業を教えて下さい」
と質問してみた。
そこで、最初にリストアップされたのが、SmartHRだった。
以前から、一度話を聞いてみたいとは思っていたこと、またChatGPTがなぜ選んだのかを確かめたく取材を依頼。
今回は、株式会社SmartHRの広報、洪 由理さんと山王 千聡さんにお話を伺った。
(編集長)
この記事の目次
広報ユニットは役割で細分化
編集長:今回、取材を申しこませていただいたのは、今話題のChatGPTに「広報活動が上手な日本のベンチャー企業を教えて」と聞いたところ、御社の名前が一番に上がったからなんです。
色々お話を伺えればと思いますが、まず、本日、2名で取材対応いただいていますが、御社の広報体制を教えていただけますか。
洪さん:マーケティンググループ内に全社の広報活動を担う広報・PRユニットというチームがあり、その中で「社外広報」と「社内広報」と「採用広報」というかたちで役割に応じてわけています。人数で言うと、マネジメントも入れて全員で7名です。
編集長:お二人はどこをカバーされているのですか。
洪さん:山王さんは、社内広報を担当されています。私はユニットチーフというプレイングマネージャーの役割を担っており、全ての広報メンバーに伴走しています。
編集長:広報としてのミッションを教えてください。
洪さん:私たちは、広報を「社会との関係構築を担う役割」だと捉えています。社外・社内・採用とステークホルダーは変わりますが、より良い関係を築いていくことが我々のミッションです。
それがSmartHRの価値を高めていくことにつながると思いますし、ステークホルダーと対峙することで、私たち自身の現在位置を知ることができるので、それを社内に還元することも重要だと考えています。
編集長:ユニット内で社外・社内・採用と役割を分けていらっしゃいますが、かなり前からなのでしょうか。
洪さん:2020年までは、細分化していませんでした。2021年に社内広報という役割を作り、2022年に採用広報ができました。
社員が急増~課題が顕在化する前に対策を講じるのも広報の役割
編集長:今、社内広報にすごく注力されているそうですね。その理由など伺えますか。
洪さん:従業員が倍々で増えているのですが、従業員が増えても弊社が創業時より大切にしているカルチャーや価値観を維持し、アップデートしていけるよう、理解を促進し浸透させていくことが非常に重要だと考えています。
組織が急拡大すると、予期しないネガティブな変化が起こることもあると思うのですが、 課題が顕在化する前に対処できるよう、社内広報という役割が誕生しました。
編集長:具体的にはどのような取り組みを行われているのでしょうか。
山王さん:一つは、従業員サーベイをベースとした取り組みです。
従業員サーベイ自体は組織人事が主体となって月次で実施してくださっています。組織の状態を定点観測し、まだ顕在化していない小さな変化を見逃さず早めに対応したり、中長期的な組織づくりに活かすことを目的に実施されています。
全社員の回答を必須とし、質問数は約10問です。毎回聞く質問とその時々の状況に合わせた質問で設計されています。
そして、集計結果は組織人事から全社へ必ず開示されており、社内広報でも施策に落とし込む際の参考材料としています。
二つ目が、インナーコミュニケーション実験室という経営・組織人事・総務など部署横断のプロジェクトがあるのですが、そのPMを社内広報が担っています。
元々は各部署がそれぞれの視点で、社員のエンゲージメント向上を図るためのアクションをとっていたのですが、実は他部署でも同じような課題に直面したり、それに対する近しいアクションを行っていたり連携しきれていない面がありました。
そこで、部署を横断したインナーコミュニケーション実験室を発足し、経営の考えや各部署が持っている情報をタイムリーに共有し連携することで、全社視点でアクションの優先順位をつけ、効率的に動けるようにしました。。
編集長:インナーコミュニケーション実験室って、面白いネーミングですよね。
山王さん:エンゲージメント向上を目指すインナーコミュニケーション施策は、企業や状況によって必要な打ち手が異なるため正解がありません。ですので、考え抜いた上でまずアクションを起こし、PDCAを回しながら、自社にとっての最適解に近づけていくことが大事だと考えています。トライする姿勢を大事にしたいという想いから「実験室」という名前にしています。
編集長:実際、社員の皆さんからすると、インナーコミュニケーション実験室が発足し、どういった良いことがあったと思われますか。
山王さん:インナーコミュニケーション実験室を通して、各部署の担う領域が明確になり連携しやすくなりました。結果として社員同士のコミュニケーションを促進する場が増えるなど全体的なアクション量が増えたと思います。また、各部署が考えていることをリアルタイムで共有しあえるようになったことで、社員によりクオリティの高い施策が届けられるようになったと思います。
編集長:一つ目のコミュニケーションの場が増えたというのは、例えばどういうことでしょうか。
山王さん:元々、総務が主体となってリモートワーク下での社員間のコミュニケーション促進を目的にオンラインシャッフルランチという施策を行っていました。コロナが少し落ち着いてきたため、インナーコミュニケーション実験室で議論を重ねてより企画性を持たせたオフラインのランチを企画してみるなど新たな取り組みとしてアップデートしました。企画実施時には、必ず事後アンケートをとって目的に即した企画になっているかなど施策の有効性を検証しています。
編集長:社内広報として、今後注力したいことはありますか。
山王さん:SmartHRは創業当初からカルチャーをとても大事にしているのですが、従業員数が急増する中でもカルチャーが維持され、必要に応じてより良くアップデートしていける状態を目指したいです。今が過渡期とも言えますが、顕在化する前の課題を早い段階で見つけ、対策を講じるなど幅広いアプローチを行っていきたいと思っています。
ChatGPTは「情報発信量の多さ」を評価?「オープン」なカルチャーで自然と情報量が増加
編集長:続いて、社外広報についても伺っていければと思います。冒頭でもお話しましたが、なぜ今回ChatGPTで御社の名前があがったと思いますか?
洪さん:私たちも今回取材依頼をいただき、はじめて知りまして。ChatGPTは私たちの一体何を評価してくれたのだろうか?と。(笑)
恐らくなのですが、理由の一つに、 弊社の情報発信量が多いということがあるのではないかと思っています。これはプレスリリースの話だけではなく、全社的に「オープン」ということを大切にしているので、社員が自発的にSmartHRについてTwitterで発信したりnoteを書いたり、こういったことの積み重ねでポジティブな発信が増え、評価されているのではないかと思います。
そして、SmartHRというブランドや制作物のトンマナなどについても社内でしっかり定義されており、社員の理解も深いので、見え方が統一されているというのも大きいのではないかと思っています。
編集長:御社が大事にしている「オープン」というのが、情報の発信量を増やすことにつながっていたり、社員の方がブランドを意識するきっかけになっているのですね!
洪さん:そうですね。「オープン社内報」という言葉を使い始めたのも弊社がはじめてかもしれません。2019年3月に創刊(現在は休刊)したのですが、「オープン社内報」という言葉は、社内のSlackから生まれた言葉です。この取り組みに各社様が興味をもってくださり、運営方法などを聞かれることも度々ありました。
CSRプロジェクトも広報発案で一貫して取り組む
編集長:御社では人事労務ソフトSmartHRの企業導入事例を非常にたくさん出されていますよね。
洪さん:そうですね、サービス広報という意味では、特にサービスサイトで意識的にそういった情報を出すようにしています。世の中的には、まだクラウド人事労務ソフトの導入率というのはそう高くないため、市場を広げるための発信とともに、導入を迷われている方の判断材料の一つになればと思い、導入のプレスリリースは積極的に出しています。
編集長:コーポレート広報という意味では、どういったことをされているのでしょうか。
洪さん:SmartHRは会社の規模も大きくなってきており、それに伴い社会に対する責任というものも大きく重くなってきています。社会に対してどういった責任を果たしていくべきかを考え、例えばサステナビリティサイトを公開したり、昨年7月からは「働くの学び舎(はたらくのまなびや)」というプロジェクトも始めています。
弊社に溜まった知見を社会に還元していくことを目的に、教育機関で講義をさせていただいたり、これから社会人になる大学生に、労務のお話をさせてもらったりしています。
編集長:「働くの学び舎(はたらくのまなびや)」は、広報発案で始まっているのですか。
洪さん:はい。企画から運営、発信まですべて広報で行っています。
講師は社員にお願いしているのですが、社員自身も新たな学びがあったりと刺激をいただいているようです。
メディア露出で意識していることは、「実態とかけ離れない」こと
編集長:御社のフェーズですと、メディア露出を増やすということは意識されているのでしょうか。
洪さん:そうですね。ただ、数よりも質を重視しています。広報ユニットでは、真摯なコミュニケーションを大事にしていて、会社やサービスを実態以上に大きく見せないこと、その反対に小さくみられている場合には適切な見え方に調整する役割を担っていると思っています。メディアを通して名前がただ知られていけばよいというわけではなく、どういう風に名前を広めていくべきか、そのためにはどういったメッセージを伝えればよいかをメディア露出においては大切にしています。
編集長:IRや危機管理は、社外広報の領域ですか?
洪さん:IRは別部署が担当していますが、危機管理は一部対応しています。
ですので、社外広報で担っているのは、サービス広報とコーポレート広報、CSRの一環として一部のサスティナビリティ、グループ会社の広報支援、そして危機管理ということになります。
危機管理は、広報単体ではなく部署横断でプロジェクト化されています。そのコアメンバーとして広報が入っているかたちです。
編集長:そのプロジェクトでは、どういった取り組みをされているのでしょうか。
洪さん:万が一のことが起こった場合の対処のフロー策定や危機管理についての社内への啓もうを行っています。
弊社は人事労務に関するプロダクトを扱っており、皆様の個人情報をお預かりしています。もちろん、セキュリティには万全を期していますが、万が一何かしらの事故が起きてしまった場合、被害を最小限にするため、どう対処すべきかなどを決めています。
また、小さなインシデントやトラブルでも、すぐに報告があがってくるよう、日ごろから危機管理に関する社内への啓もうも行っています。
事業の急拡大に合わせた広報活動を展開
編集長:広報のKPIについて教えてください。
洪さん:経営のミッションを実現するためには、SmartHRという会社やプロダクトが社会から見てどういう状態になっていればよいのか、というところから逆算して目標を設定しています。
ですので、社会に対しての責任を果たしていくというのも、こういった考えの中で起こしたアクションの一つです。
編集長:社外広報として、今後注力されたいことなどありますか。
洪さん:サービスの拡充に伴い、利用してくださるユーザー様も非常に増えていますので、正しくサービスを理解してもらう、上手く使っていただくためのアクションを増やしていきたいと思っています。
また、社会的責任ももちろん大きくなってきていますので、責任を果たすためにステークホルダーの皆様とどのようなコミュニケーションを取っていくべきかを常に考え行動に移したいと思っています。
編集長:確かに、事業やサービスの幅が広がると着手すべきことも変わってきますよね。
洪さん:これまでは、プロダクトとコーポレートという軸だけで考えればよかったのですが、プロダクトの中でもタレントマネジメント機能と労務機能に分かれていたり、SmartHRに紐づくアプリストアがあったりと複雑になってきているのでSmartHRとしての見え方をどう統一していくか、メッセージをどう打ち出すかが今後のポイントになってくると思っています。
余談)PRやブランディングが評価される背景には、こんな取り組みも
編集長:最後に、広報とはちょっと関係ないかもですが、御社のオリジナルグッズが販売されているSmartHR Storeを拝見して面白い取り組みだなと思っていまして。始めたきっかけを伺っても良いですか?
山王さん:SmartHR Storeは広報ではなく、コミュニケーションデザイングループが企画・運営をしています。元々、社内のコミュニケーション課題を解決するために社内向けのグッズ制作を行っていたのですが、外部の方からご要望をいただく機会が増え、2020年にSmartHR Storeが立ち上がりました。。
当社が働きやすさを支えるための人事・労務ソフトを提供しているということもあり、プロダクトに限らず、働きやすさをサポートできたら、という想いから生まれたプロジェクトになります。
編集長:結構、売上もあるのですか?
山王さん:売上を目的にした活動ではないのですが、一例として「年末調整書類があつまる封筒」という商品を2021年から販売しています。コロナ禍で、突然年末調整の郵送対応が増えた人事労務担当者をサポートするための封筒として制作したのですが、累計で 約1万枚売れています。2022年は、前年比約2倍の売上ということで好評をいただいています。
編集長:おぉ!コーポレートカラーを全面につかって、ブランドの訴求にもつながるし良いですね!
山王さん:その他にも、カスタムemoji(無料)は、シリーズ累計DL数が 5,000以上となっています。
リモートワークになり、テキストコミュニケーションの難しさを感じておられる方もいらっしゃると思うのですが、emoji(無料)をご利用いただくことで、硬くなってしまいがちな業務上のテキストコミュニケーションをやわらげ、オンラインでの社員間のコミュニケーションを円滑にできたらという想いから誕生した商品です。
元々、弊社はテキストコミュニケーションが盛んで、Slackの絵文字も頻繁に作成されています。この絵文字が社内コミュニケーションを円滑にしている側面もあり、少しでも他社のコミュニケーション活性化の助けになればと無料でDLいただけるようにしています。
編集長:あ、カニのスタンプとかもありましたね。私はオッケーというときにカニを使ったりするのですが、、
山王さん:弊社はミーティングなどの場で「たしかに」と頷く場面で「(たし)カニ」とコメントするカルチャーがあります。Slackでも様々な種類のカニのスタンプが日常的に使われており、その中から使いやすいものを厳選して「カニの詰め合わせ20杯」編 を商品化しました。
編集長:他にも、『着る年末調整』のTシャツとか、ちょっとユニークすぎる商品もありますが、ブランドに愛着をもってもらうという意味では、私はすごく好きです!(笑)
PRマガジン編集部の「編集後記」
ChatGPTのサジェストから始まった今回の取材。
なぜ、ChatGPTが一番にSmartHRをリストアップかは誰も確かなことは言えないが、一つ確信したことがある。
それが、カルチャーを大事にした経営や広報活動が功を奏しているということだ。
特に、SmartHRのオープンなカルチャーは大きいだろう。
広報だけではなく社員も積極的にSmartHRのことを発信し、結果、世の中にSmartHRの情報が増えているのだ。
しかも、企業規模が急拡大していても、社員一人ひとりにSmartHRのカルチャーが浸透しているからこそ、アウトプットもブレがない。これはすごく大事だが難しいことだ。
広報は、企業フェーズに合わせた広報活動や広報としての役回りをすることが大切だ。SmartHRは会社もビジネスも急拡大している。
取材の中でも「過渡期」という言葉が何回もでてきた。
過渡期にいる広報が何を考え、どう動いているのか。
もし同じように迷われている広報がいれば、今回の記事がヒントになれば嬉しい。
今回の注目企業
株式会社SmartHR(https://smarthr.co.jp/)
事業内容:SmartHR の企画・開発・運営・販売
お話を伺った方
洪 由理(ほん・ゆり)
山王 千聡(さんのう・ちさと)