PRだからこそ着手できる、中長期を見据えた“成長の種まき”とは―「ビットキー」広報・北島香織さん

「ビットキー 広報・北島香織さん」前編はこちら

メディア露出は、プロジェクトを円滑に進める潤滑剤にもなる!

若林:お話を聞けば聞くほど、結構大変そうですね。

北島さん:はい…(笑)。なので、我々のユニットは、社員でないとできない仕事を中心に担っています。例えば、メディアリレーション関連で言うと、どういった情報があるのか、などの情報をどこまで出していいのかという判断などです。そして、メディアリレーションについては、我々も行いますが、業務委託先に協力をお願いする部分もあります。

若林:そういう役割分担なんですね。露出を拝見していたら、2019年、20年は露出が多いのですが、専門系のITメディアが多く、2021年に関しては露出数こそ多くないものの、テレビやビジネス誌など、影響力の大きいメディアに出ている印象を受けました。2021年になり、PR方針が変わったのでしょうか。

北島さん:2019年4月に、初めてビットキーとして製品を世の中に出した時は、いかにプロダクトが注目されて、それが早期に売れていくかが重要でした。そのため、2020年に入る頃までは、とにかくプロダクトPRに注力し、ガジェット系のメディアを含めたIT系のメディアさんや不動産系の媒体さんなどにスマートロックを取り上げていただいてました。そして、2020年前半くらいから新しい構想として、homehub、workhub、experiencehubからなるhubシリーズ構想が動き出しまして、2020年10月にメディアさん向けに小規模な記者レクを開催し、発表しました。このあたりから、会社全体と、hubシリーズで実現できる世界観をより見せられるように、意図的にスマートロックの露出より、それ以外の露出を増やしていくという活動にシフトしていきました。

加えて取り組み自体も、より規模感が大きなものが増えていきましたので、そのあたりに興味を持っていただける媒体ということで、ビジネス誌の露出を強化していきました。

ちなみに、当時は、ビジネスの特性上、テレビでの露出はそこまで強く意識していませんでした。というのも、スマートロックは生活者の方に直接お買い求めいただくこともできるのですが、現状、法人(例えば賃貸管理会社など)に採用いただく方が圧倒的に大規模な受注になるからです。ビジネス・経済番組は別ですが、主婦層やファミリー向け番組はビジネスへの直接的なインパクトが大きくないと思い、アプローチはあまり注力していませんでした。ただ、結果的にテレビに取り上げていただき良かったと思った印象的な出来事がありました。

若林:というのは?

北島さん:とある企業様と進めていた実証実験についてPRする動きがありました。テレビも興味を持ってくれる情報だと感じていましたが、様々な背景から実験現場の公開などのメディアさんをお呼びする施策は想定せず、リリースの公開のみの準備を進めていました。

しかし、その後取材の場をセットできないのは機会損失になりそうだと考え、お相手の事業部の方にご提案してみたんです。

「試しに、本件の詳細は開示しない状態でメディアさんの関心を確認し、反応次第で現地見学可能な場をセットしませんか」と。そこから弊社側で、関係性のあるメディアさんにヒアリングを実施しました。そして改めて「これらのメディアさんが興味を持ってくれました。現地見学の場を設定してみませんか」と相談したところ、想定以上に好反応だったようで、広報部門の責任者の方を繋いでいただきました。そこで、「実施するからには、民放キー局全て集めましょう」と逆提案を頂戴し、両者ともに強い連動性を持って動くことになりました。のちに、この取り組みは民放キー局全てで放送になっています。

この活動では、お相手の実証実験推進部門・広報部門ともに嬉しいお言葉を頂戴しましたし、弊社プロジェクトメンバーからも「“広報ってすごい”と思った!」「この広報活動の前と後では、プロジェクトの進めやすさが全然違う!」などの声をもらいました。弊社に対する信頼や期待値が上がり、プロジェクトを進める上で現場でのコミュニケーションがスムーズになったようです。テレビ露出で弊社への問い合わせが劇的に増えたという話ではありませんが、企業間でのコミュニケーションが円滑になったという意味で、非常に良かったと思っています。

若林:露出によって問い合わせが増えたとか、売上げが上がったというお話はよく聞くのですが、法人間での取引がスムーズになったというのは初めて聞いたかもしれないです。

北島さん:弊社の場合、あらゆる企業さんの製品との連携であったり、今存在しているビルや既存インフラとの連携ができてはじめて、理想とする体験が実現します。生活者の方がどれだけ「こんな体験がしたい」と望んでも、企業同士が手を組んで協力しない限り、最終的に欲しい体験は手に入らないんです。
でも、企業と企業が同じ方向に動くのには相当なパワーが必要です。企業内のあらゆる部署のあらゆる想いをもった方々が、取り組みに対して「いいね、やろう!」といってくれて、オーソライズがなされないと本当の意味で前には進められません。そのための原動力として、マスコミが動くパワーは大きいと、この会社では感じています。

メディア以外での「種まき活動」が露出に結び付くことも

採用担当と打ち合わせ中の北島さん。

採用担当者と打ち合わせ中の北島さん。

若林:これまでのお話を聞くと、メディアアプローチは、業務委託先にお任せしている部分が多く、社内ではネタや企画を考えたりがメインなのでしょうか。

北島さん:メディアアプローチについては、大きく3つの動きがあります。一つ目は、過去に御取材いただいたメディアにコンタクトを取るものです。これは主に弊社から直接コンタクトを取っています。

二つ目に、今、業務委託でお願いしている会社さんが、IT業界やスタートアップ系のメディアさんと比較的に関係構築できてらっしゃるので、その領域は情報提供をお任せしたり、弊社に合う企画があればお声がけいただくという形です。

三つ目は新規開拓です。これはメディアさんからお声がけいただくこともありますし、弊社や業務委託先から企画を持参し、ご提案することもあります。

若林:なるほど。2021年は東洋経済オンラインや日経ビジネスなど、御社にとって重要であろう媒体の露出を獲得していらっしゃいますよね。営業が得意な方はメディアリレーションも得意な傾向にあるので、絶対、北島さんだなって思っていたんです(笑)。

北島さん:確かに、メディアリレーションにおいては、メディアさんにアタックして断られてもめげない精神は大事なので、営業の経験はすごく活きていると思います。あと、相手が求めていることをきちんと理解して情報を渡すというのは、営業をやってたからこそできるところもあると思います。なので、広報と営業のシナジーはすごく高いと思います。

若林:ちなみに、日経ビジネスは、2020年にもキャリア形成という文脈でインタビューを獲得されていて、昨年5月も露出されてますが、最初はどのようにアプローチをされたのですか。

北島さん:最初にキャリア形成で露出した際は、広報仲間からの紹介でした。ある企業の広報さんから「実は今、日経ビジネスさんに企画を持ち込んでるんですけど、ハマる企業が自社でお付き合いのある企業にはいないんです。北島さんのことを思い出して、ビットキーさんの中で受けてくださる方がいればと思って」と、ご相談を受けました。そこから該当者を探して、掲載に繋がりました。
普段のメディアリレーションだけでは、獲得できなかったと思っており、種まき活動がこういう形で繋がったなと思っています。

若林:ちなみに、東洋経済オンラインはどういう経緯で?

北島さん:これは、「すごいベンチャー」という毎年発表されている企画がきっかけでした。企画を通じて不動産担当の方とコンタクトができ、その後、物流業界の情報を提供したいとお伝えし、別の担当の方をご紹介いただき、継続して情報提供していました。できるだけ媒体に合わせて個別に新しいネタを提供し、取材もしていただいていたのですが、物流業界では大きな発表などもあり、なかなか掲載されない状況が続いていました。そこから日本郵便さんとの実証実験の話などの情報も追加で提供し、先日、記事を公開いただけたという流れです。ここに至るまで、物流系では4~5本のリリースをお送りし、リアルでも2回取材にお越しいただいており、その積み重ねが今回の記事につながっています。

メディアリレーションでは「ベストなタイミングで、最適なネタ提供」を意識

北島さん「大きいネタやその媒体の読者にも新たな気づきを与えられると思う情報に関しては、狙いを定めて提案することが多いです。」

北島さん「大きいネタやその媒体の読者にも新たな気づきを与えられると思う情報に関しては、狙いを定めて提案することが多いです。」

若林:ビジネス系の媒体も、リモート勤務されている方が多く、なかなか一見さんだとリレーションが取りづらいと思うのですが、何か工夫されていることってありますか。

北島さん:私自身の動き方として、基本的に、広くお付き合いするタイプではないので、特定の方にしっかり弊社のことをご理解いただいて、そこから横に繋いでいただくというのが多いです。たとえば某ビジネス媒体では、特定の方が弊社をいつも追いかけてくださっており、記事を書いてくださることが多いので、まめに情報のご提供をしています。また、ネタとして他の部署が管轄する話であれば、その方経由で適切な部署をご相談することもあります。

若林:既存のリレーションを活かし、繋いでもらうとなると、その方ときちんとリレーションがとれてないとだめですよね。年に1〜2回くらいしか連絡しないような方だとなかなか上手くいかないのではないですか。

北島さん:そんなことはないと思っています。私は自分がメディア側にいたこともあるのですが、そのとき感じていたのが、自分にとってベストなタイミングで有益な情報でくれる人に好感をもっていました。媒体の読者層を意識せずなんでもかんでも闇雲に情報提供されても、全部見切れないんですよね。自分のことを考えてくれて、「この情報は、こういう形で記事にしたらすごくいいと思うんです、なぜなら…」という情報をピンポイントでくれる方は非常にありがたいと私は思うタイプなので、大きいネタやその媒体の読者にも新たな気づきを与えられると思う情報に関しては、狙いを定めて提案することが多いです。かつ、取材など直接お会いできる機会があった際は、より会社に対し期待感を持っていただけそうなお話もすることで、長い目で「この会社から来た情報は注目しておこう」と思ってもらえるようにしています。

若林:御社のメディアリレーションは、資金調達や企業間の連携など、大きなニュースに関しては、広くメディアアプローチをされて、それ以外の時は、媒体媒体に合わせたニュースや切り口をご提案して、じっくりお付き合いするというスタンスということでしょうか。

北島さん:情報の扱い方に関しては、主に3つに分けています。ひとつは、「営業上重要だから、ぜひ頑張ってくれ!」という営業熱が強いネタです。導入事例などが主に当てはまります。もうひとつは、会社として非常に意味がある、かつ、社会へのインパクトもあるというもの。大手企業との資本業務提携や共同開発などがあります。最後は、少しニッチなネタです。

具体的にお話すると、まず、営業熱が高いものでもメディアさんに送れるレベルの情報でなければ、リリースにせず、サービスサイトの事例記事で代替したり、リリースにした場合でも個別のメディアアプローチには注力しません。ただ、場合により、特定の業界においてインパクトがあるものもあるので、その場合には専門紙(誌)にアプローチすることはあります。先ほどもお話したように、営業から期待いただいているので、できるだけ、期待に添えられなければ、他でお返しできるようにしています。

次に、会社として非常に意味がある、かつ社会的影響力の観点でメディアさんにもインパクトを感じてもらえるものは、大手のビジネス誌を中心にアプローチしています。また、それらのWeb版はアーカイブされることから、弊社名を検索した時に見てもらえますし、営業活動でもメールに記載したりできるので、特に重視してアプローチしています。

最後の、ニッチ領域のニュースは、一つ目と重複する部分もありますが、プレスリリース配信サービスで流すのみの場合や、ピンポイントに興味を持ちそうな記者さんに背景情報も説明しながら情報提供しています。

SNSで不特定多数に情報発信するよりも、クローズドで濃いコミュニティをつくる

北島さん「クローズドですがSNSという点ではFacebookを積極的に活用しています。」

北島さん「クローズドですがSNSという点ではFacebookを積極的に活用しています。」

若林:話は少し変わりますが、北島さんってNewsPicksのピッカー登録もされてますよね。何のためにされているんですか。

北島さん:私は、国内外問わず、社会や経済に対しての興味がすごく高いんです。それをアウトプットするのが比較的好きなので始めました。ビジネス系のSNSという点ではFacebookも登録してるんですが、Facebookって色んなお友達がいるので、社会や経済に関する私のコメントがフィードに流れてくるとイヤでも見ないといけないじゃないですか。その領域に関心がある方に合わせてコミュニケーションをとった方がいいのではないかと思い、NewsPicksで発信していました。ただ、今はあんまりコメントしてないですね(笑)。今では発信の場を会社のSlackに移しています。弊社に関わる業界での最新の動向や行政が発表した新たなガイドラインの情報、営業チームにとって営業先になりそうな情報など。常にビットキー社員が井の中の蛙にならないよう、そして営業機会を逃さないよう、有益になりそうだと思った情報はどんどんシェアしています。

若林:ほかのSNSではあまり情報発信されてないのですか。

北島さん:はい、オープンなSNSはしていないです。

若林:それは何か理由があるんですか?最近、広報の方々はTwitterに積極的なイメージがありますが。

北島さん:個人的にメリットデメリットを勘案して、今は挑戦していません。Twitterという場所は短文でライトにつぶやきやすい点が特徴だと思うのですが、それゆえに不用意な発言も発生しやすいと思っています。私はまだ、誰かを不愉快にさせたり、傷つけないという強い自信はないので、個人の実名アカウントは保持せず、社会動向を観察する程度の利用にとどめています(笑)。

一方、クローズドですがSNSという点ではFacebookを積極的に活用しています。今、お友達が1400名を超えていまして、会社のこと7割、個人が3割くらいの割合で投稿しています。仕事やプライベートで何かしらやりとりを重ねた方などがベースになっており、「北島さん元気そうだな〜」「ビットキー面白そうだな〜」などと思っていただけているのかなと(笑)。それもあって、濃いコミュニティになっている実感があります。人材募集の投稿をすると、1投稿で2人くらいが応募してくださるんです!Facebookでは、そのくらい深い関係値ができあがっていると思います。

若林:そうか。それで、今回の取材依頼も受けるかどうか迷われたということですね!

北島さん:そうなんです。そもそも基本的に広報/PRは黒子ですし、事業進捗があってはじめて提供できるネタが存在しているので、どちらかというともっとフォーカスしたいのは、事業部側で頑張っているメンバーなので悩みました。

若林:そういうことだったんですね、取材を受けていただき感謝です(笑)。

全ステークホルダーのコミュニケーションをデザインできる強いチームをつくる!

北島さん「今に対して常に真剣に向き合い、ビットキーならではのコミュニケーションのスタイルをつくっていきたいです。」

北島さん「今に対して常に真剣に向き合い、ビットキーならではのコミュニケーションのスタイルをつくっていきたいです。」

若林:最後に、今後、北島さんはビットキーでどういう広報展開をしていきたいと思われているか教えてください。

北島さん:広報/PRはまだ確立されてないというか、本当にこれで正解だったのかがわからない世界だと思っています。その時正しいと思っていても、来年の同じ時に同じことをやってはまるかというとそうじゃなかったり、型をつかみにくい世界だなと。だからこそ、既存のコミュニケーションの成功例や媒体に縛られず考えたいです。この会社の今に対して常に真剣に向き合い、ビットキーならではのコミュニケーションのスタイルをつくっていきたいです。

そのためには、人が重要なので、これから更にチーム体制を強化して、採用や営業、投資家向けのコミュニケーションなど、一貫したコミュニケーションの軸で社会と接することができるような横断チームに発展させたいと思っています。グローバル展開も想定しているので、各国でのカルチャー理解も意識したいです。

若林:なるほど。今日の取材中で何度がお話に出てきた、コミュニケーションをデザインするようなチームを作り、メディアにこだわらず、全ステークホルダーのコミュニケーションをデザインしていくということが北島さんの目指す先ということですね!

北島さん:そうですね!
会社としてより早く前に進むため、誰かに認知いただくためには、必ずしも従来のいわゆる“メディア”に載ることが正ではない時代になってきていると思っています。それは、インフルエンサーかもしれないし、メディアではなく〇〇協会というところの代表理事さんと仲良くして、そこ経由で広がるということかもしれないですし、ロビイングで行政に働きかけるという話かもしれないです。

若林:まさにPRですね!
たくさんお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!いつもとは、また別の角度のお話を聞くことができて、現状、広報にとどまっている企業にも「PRってこういうことだよね」というのを、お伝えすることができるんじゃないかなと思いました。

北島さん:これからの時代、メディアアプローチだけを考えてしまうと選択肢が狭まるのと、中小企業やベンチャーの広報/PR担当は、大手のメディアに載ることがすべてになってしまうと、事業を前に進めるためにやっていることが評価されなくなってしまいますので、このあたりはもっと広く考えられるようになるといいなと私自身思っています。

PRマガジン編集部の「編集後記」

編集後記:編集部 若林

―周りに流されない“強い意志”

大学時代のフルコミッションのバイトもそれなりの覚悟がないと続けられない職種を選び、将来の自分の血肉にされたり、これだけ多くの広報がTwitterを始められている中、やらないことを選択し、あえて逆をいく北島さん。

周りに流されることなく、いつも自分なりの考えで、自分の道を選択してきたことが非常に伝わってきた。

―広報ではなく、PR(Public Relations)!

広報とPRは類似の言葉として使われることも多いが、本来の意味合いは異なる。北島さんの思考や活動をうかがうと、「PR」を展開されていることがよくわかる。
メディアに出すことも広報PRの重要な仕事ではあるが、それがメインではない。メディア露出はあくまで一つの手段だ。

取材中、何度か「コミュニケーションをデザインする」という言葉を 使っていらっしゃったが、まさに様々なステークホルダーとのコミュニケーションをデザインされており、そして今後より強化していきたいという想いがヒシヒシと伝わってきた。

北島さんのような働き方ができると広報PRはもっと楽しく、もっと会社の中でも重要なポジションになる!それが、今回の記事から読者の皆さんに伝わればいいなと思う。

今回のPRパーソン紹介

北島 香織(きたじま・かおり)

大学時代に経験したフルコミッションの訪問販売や投資用不動産テレアポの経験から、新卒では営業効率化に注目しBtoBマーケティング企業に就職。さらにBtoBマーケティングに対する課題感から、広報の道へ。2019年4月、ビットキーに広報として入社。入社当初はセールス&パートナーシップ兼務状態からスタートし、後に広報専任となる。現在は、主に社外向けのCommunicationを担当。

株式会社ビットキー (https://bitkey.co.jp/

2018年5月16日設立。テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」 ことをミッションに掲げる。 アプリ/SaaS/プラットフォームから、スマートロックをはじめとした各種デバイスの開発まで、 横断的にデジタル技術を用いた事業を進めている。