シェアリングエコノミーの勢いはすごい。ビザスクは、世の中がコロナ一色になりつつある2020年3月に東証マザーズに上場。しかし、東京証券取引所で行われる上場セレモニーは10日前に中止が決定。 それでも、ビザスクは自社で「鐘」を用意し、社内でセレモニーを開催。結果、WBSの取材を獲得している。
今のような世の中の状況を予測できた人はほとんどいないと思うが、企業経営には予測不可能なことが多々起こる。広報はその都度、臨機応変な対応が求められる。
今回はその道のプロに1時間からピンポイントでスポットコンサルで相談できる日本最大級のナレッジプラットフォーム『ビザスク』を運営する、株式会社ビザスクの小川晶子さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集部 若林)
この記事の目次
- 結婚・出産で正社員のキャリアを中断~就活と保活を同時に進め、新たな道を切り開く
- WEBメディア編集マネージャーの経験を生かし、オープン社内報を立ち上げ編集長に
- 時代の変遷を追い風に、コロナ禍での価値観の転換で一気に時価総額増へ
- 「収入増」よりも「やりがい増」へ。調査結果が語る、社会貢献意欲への高まり
- BtoBは事例が重要!社内での情報収集&直接ヒアリングでメディア露出につなげる
- 海外メディアに記事掲載、海外アドバイザー登録数が過去最高に
- 家庭と仕事、両立のコツは「小さな工夫」と「完璧を求めすぎない」こと
- PRマガジン編集部の「編集後記」
- コロナ禍での東証マザーズへ上場
- 2人の小さな子供を育てながら、一人広報としても活躍
- 今回のPRパーソン紹介
結婚・出産で正社員のキャリアを中断~就活と保活を同時に進め、新たな道を切り開く
若林:これまでのご経歴ですが、展示会主催会社から広告キャスティング、人材系、WEBメディア編集、そしてビザスクに入られたということで、拝見した時、共通点って何だろうと思ったんです。小川さん:新卒の時から、ものごとを世に広めたり伝えたりする仕事に就きたいという軸で就職活動をし、出版社や広告代理店、PR会社を中心に見ていました。
新卒で、ビックサイトや幕張メッセなどでBtoBの展示会を主催している会社に入社しました。1年目は、数百社の出展企業のサポート業務を、2年目からはチームリーダーとして採用や研修、サポート業務全般のマネジメントを行いました。同時に、アイウェア展示会の広報担当も兼務し、メガネベストドレッサー賞のプレス対応や展示会へのメディア誘致、ファッション誌やデザイン誌への企画提案などをしていました。丸4年勤めた後、大手広告代理店で、企業CMのキャスティングを担当しました。
結婚・妊娠を機に退職し、第一子出産後、就活と保育園探しを平行して行いました。そこで、ヘッドハンティング会社とご縁がありリサーチャー職で勤務した後、出産・育児の情報を発信するWEBメディアで、3年間編集マネージャーとして勤め、2018年夏、ビザスクに広報の専任担当として入社しました。
若林:出展サポートや、キャスティング、WEBメディアの編集は、広報に近しい業種と思うのですが、ヘッドハンティング会社のリサーチャーはキャリアの中でも異色ですよね。
小川さん:そうですね、産まれたばかりの子どもがいる中での就活で条件を絞って探した結果、巡り会ったという感じでした。ただ、今思うのはこのキャリアもビザスクにつながっているということです。代表の端羽に、なぜ、広報経験の浅い私にオファーしてくれたのか聞いた時、展示会会社で何百社という大企業と向き合った経験と、人材業界でのリサーチャー経験は、12万人超の知見データベースをコアコンピタンスに、toBにサービスを提供するビザスクの事業理解や馴染みが早いと思った、と言われたんです。仰るように一見異色なキャリアなのですが、点と点がつながった結果今があることを感じます。
WEBメディア編集マネージャーの経験を生かし、オープン社内報を立ち上げ編集長に
若林:WEBメディアからビザスクに転職したのは、どのような理由からでしょうか。小川さん:実は私はリファラルでビザスクに出会ったんです。ある日「遊びに来ませんか?」と連絡をいただきまして、言葉通りに受け取りオフィスに行ったら、端羽といきなりマンツーマンで話すことになり…(笑)。前職は時間のコントロールがしやすく、子育てしながら働くという意味では良かったのですが、ビザスクの事業の面白さ、将来性に惹かれたのと、もう1度広報というキャリアに挑戦したいという想いが強く、飛び込んだ感じです。
若林:2018年8月に入社されて、今は2年ちょっと経過したところですよね。広報はお一人でされてるんですか?
小川さん:PRは私一人でIR担当が別にいます。私が所属しているCEO室には、全社横断的に関わるPR、マーケティング、インサイドセールスのメンバーが所属しており、事業を伸ばすためにそれぞれの立場から様々な施策を検討、実行しています。
若林:広報のミッションとしては、どういうものを掲げているんでしょうか。
小川さん: 「事業成長に貢献する広報」を自分の中では目標にしています。ビザスクは、ナレッジプラットフォームという、まったく新しいマーケットプレイスを展開しtoBにサービスを提供しています。新しいが故に、理解が難しいこのビジネスモデルとサービスの利用価値を、広く正しく伝えることがミッションだと思っています。ターゲットは、ビジネス課題や調査ニーズのある企業の方々(依頼者)、そして知見をシェアしてくださる個人(アドバイザー)ですので、そういう方々が触れるメディアで、定期的に露出することが重要です。
社内広報としてはもうすぐ社員が100名になるタイミングで、メンバー同士の相互理解とコミュニケーション促進の目的で、メンバー自身に記事をライティングしてもらうオープン社内報「ビザスクエア」を立ち上げました。私が前職でWEBメディアの編集に関わっていたこともあり、2019年8月の立ち上げから編集長を務めています。
若林:WEBメディアでの経験を買われ、編集長に抜擢されたのですね。
小川さん:抜擢というと大げさですが(笑)。前職はキュレーション型のメディアで、社外から寄せられる投稿の編集や進行管理、広告記事のディレクションをしていましたので、社内報はよりインターナルではありますが、イメージはしやすかったです。
若林:社内外のミッションに対し、それぞれKPIや数字的な目標は設定されているんですか?
小川さん:社外広報でいうと、CEO室配属になったタイミングから、具体的な数字目標を掲げるようになりました。
KPIは上期と下期に分けて、記事や放送といった露出に対して数字目標を置き、さらにそれを月ごとに割り込んで定性目標を設定しています。具体的には、露出内容を「ユーザー獲得に貢献する内容か」「会社のブランディングにプラスか」といった基準でランク分けし、ランクに応じたポイント数を付与して、トータルポイントを出しています。
例えばテレビ番組で大きく会社やサービスが取り上げられたらSランク、経済メディアで企業の活用例や海外事業に関して露出したらAランクといった具合です。とはいえ、社内のニュースはもちろん急な取材依頼やアワード受賞などもあり、長期予測を立てるのは難しいものです。新サービスや新機能開発もスピーディーに進行しますし。なので、露出の波に応じて月ごとの目標は調整し、期のトータルでKPIに届くように2,3カ月先の露出の仕込みをしています。
また、これがネタになるの?と思うようなことも、記者さんへのインプットの仕方やタイミング次第で記事掲載につながることもあります。KPIを意識しつつ、社内のニュースを自分から捉えられるよう、あらゆるチームの動きや会話に耳をそばだてて、ネタのフックはないか探すようにしています。
若林:目標ポイント数は、どなたと一緒に設定されてるんですか?
小川さん:上長であるCEO室長とすりあわせています。基本的には、前年同期のKPIとその達成度から、今期のKPIを決めています。
若林:社内広報はいかがですか。
小川さん:厳密なKPIは置いていませんが、期を通じた記事の平均PVの目標値は置いています。あとは定期的に記事を更新することで、社員にも社外にも「ビザスクエア」を覚えて、愛着を持ってもらえたらと思っているので、週1で新しいコンテンツが出せるように運営しています。
また、採用広報の観点から「ビザスクエア」とWantedlyなどの採用目的の媒体をどのようにすみ分けし、どういうコンテンツを出していくのか、人事のメンバーと定期的にディスカッションしています。最近「ビアスクエア」ではリファラル連動企画もスタートしています。これは将来的なリファラル採用の種まき的な施策で、社外にも仕事内容や人の魅力を伝えられる企画をメンバーみんなに考えてもらい、企画の採用とPV数に応じて提案してくれたメンバーにポイントを付与するものです。
若林:リファラルポイントは、貯めるとどんな良いことがあるんですか?
小川さん:弊社は、私も含めてリファラル採用で入ってくるメンバーがとても多く、リファラル採用に全社的に注力しています。リファラルポイント制度は昨年から始まった施策で、たとえば、自分の紹介で面談を組めたら何ポイント、ビザスクエアの企画に採用されたら何ポイントと設定し、期ごとにリファラルを頑張った=採用活動に貢献した人・チームを集計・表彰しています。
時代の変遷を追い風に、コロナ禍での価値観の転換で一気に時価総額増へ
若林:ここからは、広報として注力している取り組みについて伺いたいのですが、御社の資料に、業界の有識者が12万人を超え、月平均約2400人のペースで増えているとありました(20年9月時点)。登録者数が急増している理由について広報的な観点から教えてください。小川さん:サービスがスタートした2013年からしばらくは、アドバイザー獲得に非常に苦労したそうです。当時は働き方改革、副業解禁の流れはほとんどなかったですし、サービスの認知度も低かったため、SNS広告を出したりイベントに出たり社員が周りに広めたり。ただ、2015年半ば頃から働き方改革や副業解禁といった、働き方の文脈での変化が起こり始めました。2016年頃からは「人生100年」、「一億総活躍推進」というメッセージが打ち出されたことも大きな追い風になり、本業以外で活躍する選択肢があることに気づく方、やってみようと思う方が増えたことで徐々に登録者数が自然流入的に増え始めました。同時に「新しい働き方」という切り口でメディアに取り上げていただく機会が増えたことも、ユーザー獲得につながり多くのアドバイザーに参画いただけるようになりました。
また今年は2020年3月の上場でサービスの認知度が上がり、同時期に期せずしてコロナ禍が訪れました。テレワーク・オンライン化が飛躍的に進み、個人がそれまで通勤や移動に使っていた時間が、すきま時間として他の活動に充てられるようになりました。今まででしたら、18時に終業し、19時に帰宅してからスポットコンサルに対応していた方が、テレワークなので自宅で18時に仕事を終えたら、すぐに対応できるようになりました。上場によってサービス認知度が上がったこと、コロナで働き方を考える方が増えたことは登録者が増えた大きな要因だったと思います。
若林:コロナにより、東証での上場セレモニーができなかったということで、鐘を借りて社内でセレモニーを行ったというお話がありましたが、やはり上場したという事実は多くの人に知って欲しいじゃないですか。いろいろと制約がある中で、広報として、どういった取り組みをされたのですか?
小川さん:東証でのセレモニーが完全に中止になったのは、確か上場日の1週間前くらいでした。もちろん、上場日の様子を記事に取り上げていただきたいという気持ちはありましたが、一番は、創業の時からメディアに取り上げていただいたことで多くの企業や個人に知っていただき、大きくなってこられたサービスなので、記者の方々をセレモニーにお呼びしてお礼の気持ちや喜びを共有させていただきたいという想いが強かったんですね。ですので、当初東証のセレモニーには記者さんをお招きしており、代表の端羽とお話いただける場も計画していましたが、コロナにより一切できなくなりました。
一瞬呆然としましたが、気持ちを切り替え東証にある鐘にそっくりな鐘を借りて、社内で打鐘を再現する上場セレモニーを行い、シンガポール拠点にいるメンバーや、リモート勤務しているメンバーも参加できるよう、オンライン配信することにしました。参加URLは記者さんにもお伝えした他、「ご心配でなければ、セレモニーにいらしてください」と招待させていただきました。結果として、人数制限もなく、海を越えたシンガポールともつないで、上場という節目をみんなで迎えられましたし、記者さんも数名セレモニーにお越しくださり、思い出に残る一日になりました。
一方で、上場前後には改めての事業の概要、意義や今後の展望ついてはきちんとPRしていきたいと思っていましたので、上場承認発表後に個別に記者さんにご連絡し、取材のご提案をさせていただきました。結果、3月10日の上場前後にかけて日経新聞や日経ビジネス、Business Insiderなど多くのメディアで代表のインタビュー記事を掲載いただけました。
当日の社内セレモニーにWBSが取材に来てくださったのも非常に嬉しかったです。放映後、WBSの方に「コロナ禍で暗いニュースが多い中、前向きになれるニュースでした」と仰っていただけたのも印象的でした。
若林:Great Place to Work® Institute Japanが主催する「2020年版・働きがいのある会社」25〜99名の小規模部門でベストカンパニーに選出されていますね。リファラルに積極的に取り組んでいると仰ってましたが、働きがいがある会社として、広報としても情報を出していこうというところはあったんですか?
小川さん:アワードへのエントリーは人事に主導してもらったのですが、受賞をフックに取材をいただく際に、どんなメンバーに対応してもらうか、といったところは考えています。女性起業家で面白いキャリアを歩んでいることもあり、端羽にフォーカスが当たることが多いんですが、ビザスクも130名程の組織になり、優秀で個性豊かなマネージャー陣、メンバーも多いので多様な“顔”を出すことで、より多面的にビザスクの魅力を伝えていきたいという想いがあります。ですので、最近はGreat Place to Work® Institute Japanに関するものはもちろん、他の取材でも端羽以外のメンバーに取材対応してもらう機会を増やしています。多様なスポークスパーソンを出していくことは、事業の意義や会社のサービスを様々な面から知っていただくことにもつながり、事業にも採用にもプラスだと思っています。その辺りは、端羽や上長、HRチームともディスカッションしながら進めています。
若林:日経新聞が、売り上げ100億円以下の上場企業NEXT1000対象に、コロナウィルスで感染が拡大した3月末からの半年で時価総額が伸びた企業ランキングを発表し、16位をとられていましたよね。3月のマザーズ上場時から3倍くらい伸びたとありましたが、上場がコロナとかぶることで計画が大分変わったと思うのですが、サービス広報的には、どういったことを中心に訴求されていったのですか?
小川さん:スポットコンサルは、対面・オンライン・電話から選べるのですが、12万人のアドバイザー登録のうち約2万人は海外在住の外国人アドバイザーですし地方企業の利用もありますので、おのずと電話とオンラインでの実施が多かったんです。
当初は企業が一時休業したり、テレワークに急遽移行を求められたりする中で、スポットコンサルの優先度が一時、落ちたことはあるとは思いますが、長期的な視点でいうと、コロナに対応する新しいサービスや製品を作ろうとか、もう一度、消費を喚起しようと考え、やはりみなさん新しいビジネスを考え始められるわけです。するとまたそこで社外の知見や有識者からのアドバイスが必要になってくる。そう予測して粛々と自分たちのできることに取り組んでいました。
広報としてもオンライン発信にトライしました。昨年はオフラインで何回か自主企画のPR向け勉強会を行っていたのですが、今年4月には、社内報を運営しているnoteさんと一緒にオンラインの取材&ライティング講座を企画しました。
プロの記者と編集者から学ぶ “伝わる”取材&ライティング講座
https://twitter.com/i/broadcasts/1OyJAYQPWrMJb
続く5月にはスキルシェアサービスを運営するココナラさんと合同で2社の代表によるメディア向けオンライン懇談会を開催し、8月にはLX DESIGNさんと合同でメディア向けのウェビナーを開催しました。
なかなか対面で記者の方にお会いできない状況でしたので、こうしたウェビナーを定期的に企画し、企業の利用事例やオンラインスポットコンサルの浸透度、当社のコロナへの対応、働き方が変わる中で個人にどういう可能性が広がるのか、といった内容を定期的にインプットするように心がけました。
サービスとしてもこの時期に、対面に依らない研修会やワークショップ、業界勉強会等のオンライン提供サービス「オンラインパッケージ」をリリースし、日経さんにコロナ時代の新規事業開発支援、ということで情報提供したところ、ご取材いただけました。テレワークだから何もできない、新しいビジネスが生まれない、そんなわけはないので、逆にオンラインで効率的に社外知見を得ることが重要だ、というメッセージを打ち出していました。
「収入増」よりも「やりがい増」へ。調査結果が語る、社会貢献意欲への高まり
若林:感覚的に、コロナにより副業を解禁する企業が増えてきていると思っていたのですが、その一方で、本業へのプラスマイナスを模索している企業も多いのではと思っていました。そんなときに、小川さんからいただいた調査リリースを拝見し、興味深い結果だなと思いました。小川さん:こちらは昨年、働き方改革関連法の施行に合わせて実施した調査です。ビザスク登録アドバイザーの方々にご協力いただきました。働き方が見直される中、副業的な活動に懸念を持たれる企業もいらっしゃいます。でも、実際に調査を実施したところ、アドバイザー活動によって「本業への意欲が高まった」という方が7割を超え、転職や独立への意欲を大きく上回り、そういった懸念を払拭できるような結果が得られました。またこんな定性コメントも寄せられました。
「他業界の相談に応じることが自分の見聞を広めてくれた」
「改めて自分の仕事を説明した時に、知見が不足している部分を感じた」
「今まで何気なくやってきた経験を話したら、ものすごい発見の連続だと感謝されて喜びに繋がった」
「定年退職後も定期的に社会と繋がり続けられる」
といったモチベーションで対応してくださっているのがわかりました。そうすると、そもそもの知見やスキルを与えてくれた本業への意欲、そしてもっと知識を取り入れたい、スキルアップしたいという欲求も上がるというわけです。数字的な根拠を以てこうしたご説明できるようになった意義は大きいと思っています。
また今年もコロナ禍で働き方が変わり、副業のトレンドが高まっている中で調査を実施しました。昨年に続き、世の中のトレンドを取り入れた調査を実施しましたが、客観的な調査結果とともにサービス活用の意義やメリットをご説明すると、より説得力が増すと感じています。
若林:それは素晴らしいですね。アドバイザーはどういう属性の方が多いんですか?
小川さん:現職でお仕事されている方が7割くらいいらっしゃいます。私は依頼クライアントの事例取材もさせていただいているのですが、依頼企業から、「こんなすごい方とすぐにマッチングできると思わなかった」と驚かれます。一方、リタイアされている方の割合も増えていて、2018年は15%程でしたが今は20%程いらっしゃいます。名だたる大企業の責任者や、製造業の開発責任者、ベンチャーの経営陣など、本当に幅広い業界業務の経験者にご登録いただいています。年齢としてはやはりある程度のビジネス経験を積まれた40〜50代くらいが多い印象です。
若林:そういう方たちは、言い方は悪いですけど、小銭稼ぎというよりは、自分の持ってる知識を活用して社会貢献をしたいというマインドの方が多いのでしょうか。
小川さん:仰る通りです。今年実施した調査では登録の動機と、実際にアドバイザー活動してみて上がったモチベーションを聞いてみたのですが「自分の知識を生かして貢献したい」という動機が約9割でした。
また興味深いのは、「収入を得たい」という動機は登録時の60%から実際にアドバイザー活動をしたあとは45%に下がり、一方で、「異業種の人と交流したい」「スキルアップしたい」といったモチベーションはアドバイザーをした後に高まるという結果が出たことです。短期的な収入よりも、社会貢献や自己研鑽への欲求が高まるサービスと言えるのではないかと感じています。
若林:こういった調査結果を得たことで、PR時に訴求するキーメッセージを、たとえば、「副業で収入を得る」ではなく、スキルアップや社会貢献などの文脈にしよう等とPR戦略にも活用されたりしているんですか?
小川さん:もともと、「稼げる」という収入ファーストな打ち出し方はしていませんので、そこは引き続き変わらないのですが、確固たるデータや調査結果があると、収入よりも社会貢献のモチベーションがより高いということがファクトに基づいて説明できるようになりました。今後、こういったファクトを蓄積していくという意味でも、調査企画は定期的に実施していきたいと思います。
若林:CEO室にあるということで、マーケティングと連動しやすい環境にあるのかなと思うのですが、こういう調査企画は、広報が主導で行っているのですか?
小川さん:はい、調査設計なども含めて広報主導ですが、同じチームのメンバーにアドバイスをもらいながら進めています。また、マーケティング主導でリード獲得施策の一つとして調査を行うこともあります。広報の観点で興味深い調査結果が出た場合は、共有してもらっています。
貴重な経験を持つ多くの方がアドバイザーとしてビザスクに登録し、自分の知見を生かして他社に貢献したいと思ってくださっています。こういう方々の知見が集積したデータベースは唯一無二ですし、新しい事業を興す時や、事業を成長拡大させたい、新領域に出ていきたいという時に使わない手はないと思います。広報としては、社外知見の活用によって生まれたイノベーションや新商品の事例、アドバイザーとして本業以外で活躍の場を得た方の事例をPRすることで、ユーザー獲得に繋げていきたいと思っています。
BtoBは事例が重要!社内での情報収集&直接ヒアリングでメディア露出につなげる
若林:事例広報にあたっては、関連部署との連携も欠かせないかと思うのですが、日々やりとりしながら情報を吸い上げている感じですか?小川さん:営業メンバーやカスタマーサポートメンバーと密にやりとりしながら、ユニークな使い方をしている企業会社や、新しいプロダクトに繋がりそうな事例などを聞いたり、大手企業の受注が決まった時は、営業担当にあらかじめ事例でご協力いただきたい要望を伝えるなど各メンバーとの情報共有やコミュニケーションを心がけています。
若林:特におひとりだと、自分から情報を取りに行かないといけないですもんね。
小川さん:そうなんです。事業部は営業数字を追っていますし、とにかくみんな忙しいので、こちらからとにかく情報を欲しがっていることを猛アピールしないと(笑)定期的に自分から声がけするようにし、メディアにインプットできそうな事例についてはなるべく自分自身で取材し、クライアント企業と直接やり取りするようにしています。間に誰かが入るよりも、取材の時に広報的なご相談もすぐにできますし、実際に、取材をさせていただいた事例をメディアに紹介した結果、掲載いただいたこともあります。
若林:御社のサイトに載ってる事例は、小川さんが取材されているんですか?
小川さん:フルサポートのサービスは、基本的に私とマーケティングのメンバーで担当しています。私が入社する前から事例取材自体はしていたのですが、外部のライターさんに頼んでいました。でも、事例取材→クライアントとの調整→メディアインプット→クライアントの取材協力を依頼、という一連の流れを一人で完結できた方が効率も良いと思うので、前職の経験を生かしつつやらせてもらっています。
若林:そうだったんですね! 何気なく拝見していた事例が、まさか、小川さんが書かれているとは。そこまでされているとは思いませんでした。確かに、全部スキルとしてお持ちだし、誰かを挟むよりも速いですよね。
小川さん:今年の2月、フジサンケイビジネスアイの一面で企業の利用事例を含め、サービスをご紹介いただきました。当社サイトでの事例記事公開からしばらく時間が経過していたので、その後の状況を記者さんに聞かれたんです。しかも非常にお急ぎで・・。その際も、私が直接クライアントとやり取りしていたので、すぐに連絡をして迅速に回答いただき、掲載につながりました。記事の校了タイミングもありますし、これが「一旦営業につないで…」といった対応をしていたら、返答に時間がかかり記事にならなかったかもしれません。
海外メディアに記事掲載、海外アドバイザー登録数が過去最高に
若林:ほかに最近反響があったPR事例はありますか。小川さん:弊社は以前からグローバル展開していますが、今年の4月、シンガポールに初の海外支社を立ち上げ、さらに海外事業に注力しています。そんな折、今年ブルームバーグから、グローバル展開とコロナ禍での上場について、代表への取材が入りました。その記事が、先日海外でも配信され、海外企業からの問い合わせが増え、海外アドバイザーの一日の登録数が過去最高を記録するなど、非常に反響が大きかったです。
若林:その時は、どうやってブルームバーグにたどり着いたんですか?
小川さん:ブルームバーグの方から取材依頼をいただきました。シンガポールオフィス立ち上げ時に、初めて海外向けのリリース配信を行いました。その後、4月の子会社化もあり、少しずつ海外現地メディアから取材が入るようになりました。ブルームバーグも外国人エディターの方からお問い合わせをいただきました。
若林:もう少し詳しく伺いたいのですが、リリースは配信サイトを活用されたのですか?
小川さん:はい、グローバルのプレスリリース配信サービスを利用し東南アジアの主要メディアなどに配信しました。
若林:小川さんは、結構英語ができるのですか。
小川さん:それが、恥ずかしながら・・(笑)。英語が堪能なメンバーに私が日本語で書いたリリースを翻訳してもらい、配信サービスの方でもネイティブチェックをかけて配信しました。ブルームバーグの取材時は、日英両方で記事が出ることになっており日本人エディターも同席されていたので、日本語で端羽にも対応してもらいました。もちろん、自分自身ももっと英語を勉強しないと、という危機感はもっています(笑)
若林:初の海外メディアへの情報発信に、反響があったというのは素晴らしいですね!
小川さん:実は以前、日本のブルームバークで、取締役の瓜生の記事を出していただいたことがあるんです。瓜生が19年間在籍したゴールドマン・サックス証券から、ビザスクというスタートアップ企業に入ることに決めた経緯を記事化いただきました。今回は国外にも英語記事が配信されたことで、ブルームバーグの世界的な影響力の大きさを改めて感じました。
家庭と仕事、両立のコツは「小さな工夫」と「完璧を求めすぎない」こと
若林:プライベートについてもお伺いしたいのですが、Twitterに西荻~高円寺エリアが好きって書かれていましたね。実は私もそのあたりはよくいく場所なんです。小川さん:えっ、そうなんですね!
若林:自転車で西荻にお昼やスイーツを買いに行ったりしてます。もともと、高校がそのあたりで、大人になってからはめっきり行ってなかったのが、コロナ禍で結構サイクリングをするようになって。ちょうど良い距離なんですよね。西荻や高円寺あたりに行かれることは多いですか?
小川さん:多いですね。外出自粛期間はさすがに徒歩圏内の公園とかしか行けなかったんですけど、最近は少し距離のある川沿いの公園に行ったり、中央線の西東京方面に出かけたりしています。
若林:エリアがちょこちょこかぶっているかもしれないですね(笑)。小さいお子さんがおふたりいらっしゃいますが、広報って忙しい部署のひとつですよね。イベントがあったり、急遽リリースを作成しなくてはいけなかったり、日にちや時間関係なくメディアから問い合わせが入る時もありますよね。そういった中で、広報をうまく回せているコツって何かありますか?
小川さん:そうですねえ…。たとえば、取材の問い合わせとかが夜急に来ても、基本的には家で対応できますし、上司やメンバーにもslackですぐに相談できますのであまり不便というのはないですね。あとはあまり、完璧にしなきゃ!と思いすぎないことでしょうか。自分も両立できていない、と思うと苦しくなっちゃいますし、「電話してるんだから静かに!」とか子どもを怒るのも違うな、と。記者さんに対しても雑談がてら子どもがいることを伝えたりして、あまりかっこつけずに、「すみません、こどもの声うるさくって。でも全然大丈夫です、話せますよ」という感じで、対応させていただいてます。
この前、代表の端羽がウーマン・オブ・ザ・イヤーで大賞をいただいた時に「女性であることは、その人を形成する“個性”の一つであって“制限”ではない。」とコメントしていたんですが、子どもがいるということも同じ“個性”の一つだな、と、すごく腹落ちしました。
あと、「夜でもslackの反応早いよね」とは周りから言われます。前職でもチャットツールを使っていて慣れているというのもありますが、広報って即対応が大事なので、社内に対してもなるべく即レスを心掛けています。これが良いことがどうかは別ですが、ごはんを作るときもスマホをそばに置いておいたり(笑)小さな工夫と、完璧主義すぎないことがポイントかなと思ってます。
若林:今日は、いろいろお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!
PRマガジン編集部の「編集後記」
コロナ禍での東証マザーズへ上場
シェアリングエコノミーの勢いはすごい。ビザスクは、世の中がコロナ一色になりつつある2020年3月に東証マザーズに上場。しかし、東京証券取引所で行われる上場セレモニーは10日前に中止が決定。 それでも、ビザスクは自社で「鐘」を用意し、社内でセレモニーを開催。結果、WBSの取材を獲得している。今のような世の中の状況を予測できた人はほとんどいないと思うが、企業経営には予測不可能なことが多々起こる。広報はその都度、臨機応変な対応が求められる。 様々な企業で鍛えられた小川さんからは、多少の逆境はものともしないむしろ好転させていく力強さを感じた。
2人の小さな子供を育てながら、一人広報としても活躍
結婚・出産を機に、正社員としてのキャリアを中断した小川さん。でも、小川さんは元々「働く人」なのだろう。その間も在宅でできる仕事をしつつ、1人目のお子さんを出産した後、「就活」と「保活」を同時に進めたというパワフルウーマンだ。 一旦、正社員としてのキャリアを諦めた方にも、これから結婚・出産したいと思っている広報ウーマンにも勇気をくれる存在ではないだろうか。
「完璧を求めすぎない」のが子育てと一人広報両立のポイントと小川さんは言う。
完璧は求めていないのかもだけど、家に帰って料理をするときにもスマホを傍らに置きSlackには誰よりも早く反応するというお話から、仕事に対する熱量が半端ないのは間違いない。これからどんどん事業を拡大していくであろうビザスクで小川さんがどのようなPRを展開していくのか、引き続き注視していきたい。