2025年ころから、私たちの広報業務は劇的な変化が続いています。かつては「効率化ツール」に過ぎなかったAIは、今や「自律的なパートナー」として、プレスリリースの下書きからメディア分析までをこなしています。
しかし、その便利さの裏側で、PRパーソンとしての「知性」が危機に瀕していることを示すデータが、近頃発表されました。今回は、最新の調査データをもとに、AI時代に私たちが陥りやすい「思考の空洞化」という罠と、それを乗り越えるための「AIとの賢い付き合い方」について解説します。
この記事の目次
AIに「書かせる」ことで失われる理解力
2026年1月、日本の企業「SHIFT AI」が発表した報告書は、業界に大きな衝撃を与えました。その内容は、AIに文章の執筆を依存することで引き起こされる「思考の空洞化」への警鐘です。
特に注目すべきは、理解力の欠如に関する実証データです。MITメディアラボの研究によれば、AIを使って論文を作成した人のうち、「自分の文章の根拠を正しく説明できた」のはわずか16.7%に過ぎませんでした。これに対し、AIを使わずに執筆した人は88.9%が正しく説明できていました。
つまり、AIに「書かせる」ことで、執筆者本人がその内容を深く理解せず、表面的な処理で終わってしまっているという実態が明らかになったのです。広報初心者が「とりあえずAIにリリースを書かせて送る」という行為を繰り返すと、自社のサービスや戦略について語る「自分の言葉」を失ってしまうリスクがあるのです。
私もAIが出始めの頃、これで業務が楽になる!と、すすんでAIに資料を読み込ませ、企画を作成したことがありましたが、先方から「ここはどういう意味ですか?」「もっとこういった風にできませんか?」といった投げかけにまったく答えることができませんでした。AIを使うことによって、まるでほかの道など存在しない、両側が断崖絶壁の細い道をふらふらと歩いているような感覚になってしまったのです。これが「思考の空洞化」の一例です。
組織を襲う「アイデアの均質化」と「スキルの逆転」
思考の空洞化は、個人の能力低下にとどまらず、組織全体の多様性も奪います。
1. アイデアの均質化
ロンドン大学の研究では、AIは個人の成果を一時的に底上げする一方で、組織全体で見ると「似たようなアイデアばかりが量産されてしまう」という結果が出ています。AIは過去の膨大なデータから『正解に近い』回答を導き出すため、論理構成や表現が似通ってしまい、組織内の独創性が損なわれる恐れがあります。
2. スキルの逆転現象
さらに、ミュンヘン大学の研究では、初心者にとってAIは強力な助けとなる一方で、専門家にとっては逆にアイデアの多様性を損なう可能性があるという「スキルの逆転現象」も指摘されています。ベテラン広報が持つ『勘』や『独自の切り口』が、AIの平均的な出力によって薄められてしまう点も見逃せません。
2026年の新常識~SEOから「GEO」へ~
ではなぜ、広報担当者が内容を「深く理解していること」が、これまで以上に重要なのでしょうか。それは、広報PRにおいて、SEO(検索エンジン最適化)という考え方からGEO(生成エンジン最適化)という考え方へと移行しつつあるからです。
ある予測によれば、2026年末までにもともとあった検索ボリュームの25%がAIチャットボットやバーチャルエージェントに移行するとのことです。Google検索の代わりに、ユーザーはChatGPTやGeminiに直接問いかけ、答えを得るようになります。実際、周囲でこういった人が増えたと感じることはありませんか。
先日私が、昔から付き合いのある60才ほどのおじさまと一緒に美術館に行くことになった際の話です。最寄りの駅まではたどり着いたのですが、バスの乗り場がたくさんあり、どのバスに乗ればよいのか、わからなくなってしまいました。そこでそのおじさまは、Geminiにどのバス停に乗ればよいか、尋ね始めたのです。AIの進出はここまで来たか、と深く思い知らされた出来事でした。
こういった「回答エンジン」の中で、自社ブランドが「信頼できる情報源」として引用されるためには、単なる情報の羅列ではなく、AIが構造を理解しやすい「機械可読性」と、AIが学習データとして重く評価する『権威あるメディアでの報道』を勝ち取るための、戦略的なストーリー設計が必要不可欠です。内容を理解していない担当者が作った『中身のないリリース』は、AIにさえ見抜かれ、無視される時代になりました。
罠を回避する「AIとの賢い付き合い方」3つ
AIの効率性を維持しながら、思考を停止させないためにはどうすればよいのでしょうか。2026年の広報担当者に求められる「AIとの賢い付き合い方」をご紹介します。
1. あえて「人間が深く考えるタスク」を分ける
すべての業務をAIに任せるのではなく、「AIを使うタスク」と「人間が深く考えるためにAIを使わないタスク」を明確に分けることが望ましいでしょう。例えば、事実関係の整理や要約はAIに任せ、その情報をもとに「社会にどういうインパクトを与えるか」という文脈を考えるのは人間の役割とするなどの線引きです。
2. 経験と想いという「ノイズ」を乗せる
AIがつくる「平均化されたアウトプット」への対策として、自社にしかないリアルな「体温」を乗せることが重要です。現場で得た一次情報の感触、開発者の強い想い、あえて「人間的な熱量」をノイズとして加えることこそが、AI時代における唯一無二の差別化要素になります。
3. 「情報の信頼性を守る人間」としての自覚
広報担当者の役割は、単なる『情報の伝達者』から、『情報の信頼性を守る人間』へと変わる必要があります。AIによる偽情報やハルシネーションを監視し、自社ブランドがLLM(=大規模言語モデル)内でどう語られているかを管理する「LLMレピュテーション管理」も大切な業務の一部です。
私が、昔から付き合いのあるメディアの方にメールを送るとき、理路整然とした内容を送るために、AIを使用することがあります。しかしそれだけではこちらの体温は伝わりません。その人との付き合いの中での小話(たとえば「~の際はありがとうございました」など)を入れ込むようにしています。こうすることで、相手もすすんで返信したくなるような、人間らしいお便りとなるのです。
広報の本質は「人間関係」にある
AIがどれほど進化しても、広報の本質が「人間×人間」の信頼関係に根ざしている事実は変わりません。
AIは非常に優秀なツールですが、質問以上の答えは返してくれません。広報の価値は、社会のニュースと自社の間に『補助線』を引く眼力、そして人々の感情を動かす物語を設計する創造性にあるのではないでしょうか。
AIという強力なエンジンを最大限に活用しながらも、そのハンドルを握り続ける「人間の判断力と共感力」を研ぎ澄ますこと。それこそが、2026年の広報パーソンが「思考の空洞化」を回避し、真のプロフェッショナルとして引き続き活躍するための唯一の道なのではないでしょうか。
【ニックネーム】らめにき
【これまで担当した業界】コンサルタント・健康・教育・DX・企業PR
【趣味】音楽鑑賞・野球観戦・バンド・ライブハウス・数学・ラーメン・カラオケ
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