当コラムは、2021年3月16日に公開した株式会社フォーミュレーションのリサーチャー・今井氏との対談レポートです。
玉木:PRマガジン主催のメディアセミナー第3回は、テレビ番組の制作にも関わり、某人気バラエティ番組にもリサーチャーとして出演中の株式会社フォーミュレーションの今井紳介さんにお越しいただきました。本日は、「テレビ番組が求めている情報とその探し方」というテーマでお話をお聞きできればと思っております。よろしくお願いします。
今井:よろしくお願いします。
玉木:企業広報の方は、テレビのプロデューサーやディレクターとお会いしたことはあると思いますが、リサーチャーとお会いしたことのある人は少ないのではないかと思います。
今井:私も企業広報の方にはお会いしたことがないですね。
玉木:そうなんですね。ただ、テレビ番組を制作する上で、リサーチ会社さんは重要な役割を担っていらっしゃるので、積極的に働きかけ取り上げてもらう、あるいはリサーチャーに情報を見つけてもらうといった広報活動もあると思うんですね。そういったお話を伺えればと思っています。
この記事の目次
寿司職人から、テレビ業界に憧れリサーチャーに転身
―プロフィールとリサーチャーになった経緯を教えてください。
今井:1974年生まれの46歳です。兵庫県出身で、大学の時に、大阪のお寿司屋さんでアルバイトをしてまして、その流れでそのまま就職しました。26歳ぐらいの時、周りにテレビや映画、舞台の仕事をしている人たちが多くいた影響もあり、そういう世界に憧れ、テレビの制作に関わるなら東京の方がそういった会社も多いので、東京に引っ越してきました。
何も伝手がなく、お金もどんどんなくなっていき悪夢にうなされる日々が続き、どうしようかなと思っていたときに、アルバイト雑誌だったと思うのですが、フォーミュレーションの求人が掲載されていたんです。そこでリサーチャーという仕事を知り、入社しました。
玉木:制作会社に入って、ディレクターやプロデューサーになろうとは考えていなかったのですか。
今井:今、YouTubeで編集の勉強もしているのですが、編集って大変ですよね。働き方改革でテレビ制作現場の働く環境も変わっていますが、その当時もADの過酷な現状を何となく分かってたので、そこまでの根性もありませんでしたし(笑)、それよりも知らないことを知っていていく、それが仕事になるということのほうが面白く感じたというのはあります。
ネタ出し以外にも、様々なシーンで番組制作に関わるのがリサーチャー
―リサーチャーとは具体的にどのような業務をされているのでしょうか?
今井:大きく分けると6つあります。それぞれご説明すると…
①ネタ出し
番組のネタになるような情報を探し、提出する
②ファクトチェック
その情報が正しいのか裏取りを行う
③タレント情報リサーチ
ゲストのプロフィールや趣味・嗜好、過去の発言を提供する企画作成のサポート
④海外映像リサーチ&権利交渉・許諾
衝撃映像や可愛い動物100連発など、海外の権利元に使用許可とる
⑤出演者キャスティング
「幸せ!ボンビーガール」など、番組に出演してくれる一般の方や専門家を探す
⑥アンケート調査
テレビはランキングも多いので、番組で使用するアンケート調査の実施
といった感じです。
玉木:一般の方が思っているリサーチャーさんの業務範囲より広いかもしれませんね。「ネタだし」をされている人というイメージが強いかもしれません。
今井:noteにも詳しく書いたのですが、業務範囲は結構広いと思います。
玉木:この6つの中での比重はどうなっているのでしょうか。
今井:「ネタだし」が半分強を占めていると思います。
―番組制作スタッフはプロデューサーやディレクター、アシスタントディレクターなど役割が分かれていますが、リサーチ会社にはどれくらいのリサーチャーがいて、どのように役割分担をしているのでしょうか?
今井:フォーミュレーションには60人前後の社員がいまして、10名程度で構成される部署が6つあります。それぞれに部長とセクションマネージャーと呼ばれる課長がいて、部署ごとに番組を請負い、仕事をメンバーに振り分けています。
玉木:役割分担はどうなっているのですか。
今井:私は部長として、売上の管理やスタッフの労務管理や健康管理、新規案件の獲得に注力しています。
玉木:現場のスタッフは得意分野などがあるのでしょうか。
今井:これが好きだとか得意というのはありますが、それを前提に番組を振り分けてるわけではありません。部署ごとに振り分けられた番組の中で、一番パフォーマンスを発揮できそうな番組を担当してもらっているという感じです。
玉木:バラエティーチームとか局ごとに分かれているわけではないんですね。
今井:そういう分け方はしていないですね。私の場合で言うと、日本テレビさんとNHKさんが多いです。もちろん、その他の局ともお仕事させていただいていますが。
玉木:新規案件の獲得というのはプロデューサーやディレクターさんに営業されるということでしょうか。
今井:営業という言葉はあまりピンとこないのですが、例えば、新しい番組を始める際に企画書を作成されるので、そのお手伝いをしたりもします。ただ、日々の仕事や人とのつながりが次の仕事にもつながっていくので、それが営業活動でもあるかなと思います。
―今、何番組くらいを担当されていらっしゃるのでしょうか。
今井:年間でいうと、大小含め100ぐらいは担当しています。
玉木:レギュラーであるもとの突発的なものがある感じでしょうか。
今井:そうですね、レギュラー番組がベースにあり、あとは特番などが入ってきます。
―様々なリサーチ業務を行う中で気を付けていらっしゃることはありますか。
今井:リサーチという立場は非常にフラットな立場です。清廉性と中立性を意識しながら、番組にとって一番よい情報を提供したいと思っています。
玉木:一般の方もネットで簡単に情報を入手できる世の中になりましたが、情報が交錯していますよね。そういった意味では以前よりも情報の確かさが番組にも求められるようになってきているのかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
今井:そうですね、テレビ局からの要望もあり、ナレーション台本の裏取りや文言チェック、ファクトチェックは危機管理の一環としてニーズがありますね。
リサーチ業務は想像以上に時間との勝負!
―番組のジャンルによってリサーチャーに依頼する・しないというのは分かれるのでしょうか。
今井:分かれると思います。我々の仕事もバラエティ番組が全体の7割ぐらいを占めていて、残りの3割が報道・情報番組やドラマの仕事といった感じです。どうしても報道番組はデイリーの情報を伝えることが使命のため、瞬発力が求められます。リサーチ会社に依頼し、情報をもらうという作業をしていると間に合わないんですね。そのため、報道・情報番組はスタッフを多く抱えて、俊敏性を高めていると思います。
―番組からはどのような形で依頼を受けるのでしょうか。ある程度テーマが決められた上でそれに合った情報を探すのか、それともネタになりそうな情報を一から探すのでしょうか。
今井:ある程度、番組側が求められるものは決まっていて、その中で最適な情報は何かを社内でディスカッションし、リサーチしていきます。
玉木:依頼を受けられてからどのくらいで情報を提供されるのですか。
今井:レギュラー番組の場合、定例会議が週1回あるので、こういったものは1週間の猶予があります。ただ、その間に同じ番組内でも追加リサーチと呼ばれる単発のリサーチ依頼が入ることもあり、それは今日依頼をいただいたら明日とか明後日には出すといったスケジュール感で動いています。
玉木:結構忙しそうですね(笑)。スピード感をある程度求められるということで、リサーチって際限なくやろうと思えばできますが、そうなると当たりをつけて取り組まれているということですよね。
今井:どの漁場に行けば魚がいっぱいいるか当たりをつけるということはしていますね。もちろん、間違っていたら変えますが。
玉木:時間との勝負ですね。
今井:本当にそれに尽きると思います。全て、時間がない中での最適解を出すといった感じです。
「ヒト」を探すことで、企業情報に行き着くことも
―「ヒト・コト・モノ」でいうと、どれを探すことが多いのでしょうか。
今井:それは「ヒト」ですね。“そういう恋愛してきたのね” “そういう人生送ってきたのか”と、個人的には人の話が一番面白いと思っています。
玉木:それは有名・無名関わらず、でしょうか。
今井: 商品の便利性だけですと、情報番組では取り上げることもあるかもしれませんが、テレビで放送するときにもそれを紹介する人が一緒にいる方が信用力も上がりますし、商品開発の裏側を開発者が話してくれた方が面白いと思うんですよね。撮影許可を出してくれても最後は人ですし、人の情報は大事だなと思っています。
―企業に関する情報を集める機会はどれくらいあるのでしょうか。
今井:ちょこちょこありますが、ボリュームは多くないです。企業の歴史を取り上げる番組があるときに、企業トリビアを調べるといったようなこともあります。
―最近、「最新コンビニスイーツ」「冷凍食品の進化」など、かなり企業色の強い企画を見かけることも多い気がしますが、こういったネタもリサーチ会社の方が探したものだったりするのでしょうか。
今井:リサーチ会社も絡んでいるとは言えますが、ゼロからリサーチ会社が企画し提案するということではなく、番組側から依頼があってテーマに合うものをリサーチするといった関わり方ですね。なので、私たちリサーチ会社から“今この企業が面白いですよ”と言って企画を出すことはあまりないです。
玉木:人ベースのリサーチが多いということは、人がきっかけで、その人がたまたま企業の人であれば、企業にもフォーカスされるしということですね。
「世帯視聴率」から「個人視聴率」へ~今、番組が意識していることとは
―昨年の秋くらいから「世帯視聴率」に代わる新たな視聴率の指標として「個人視聴率」を重視する傾向が強くなってきており、バラエティ番組を中心にターゲットを中高年から若者に変えている番組が増えていると思うのですが、リサーチャーの立場から番組の変化について感じていることはございますか。
今井:昔は豆知識や雑学を知ることのできる番組が多かったのですが、今は少なくなってきていますね。私は元々、科学情報バラエティ「特命リサーチ200X」を担当していたのですが、その頃覚えた脳の話も今は使いどころがないですね。(笑)
玉木:それはインターネットで調べられるとか、そういうことですか。
今井:インターネットの影響もあると思いますが、視聴率が取りづらくなっているコンテンツなのかなと思いますね。これは、個人視聴率とはあまり関係ないと思いますが。でも、視聴率の変化は確かにありますよね。局により言い方違いますが、コアターゲットがどれくらい取れているかが番組にとっては大事なポイントになりますので。
玉木:近年、若者のテレビ離れについても言われていますが、テレビ局側も若者に見てもらう努力をされているんですよね。
今井:そうですね、コアターゲットを取るために、若者の流行を取り上げたり、YouTuber(ユーチューバー)やInstagramer(インスタグラマー)、TikToker(ティックトッカー)がテレビに出るケースが非常に多くなっているのも、やはりその人たちのフォロワー層を取りこぼしているのではないかと感じているからこそのキャスティングなんだと思います。
リサーチツールとしてSNS、特にTwitterは重要な存在に
―ネタを探す際には具体的にどのような方法でリサーチしているのでしょうか。また、情報源としてよく利用している媒体があれば教えてください。
今井:王道はなく、インターネット・新聞・雑誌・電話取材、これらをどう組み合わせ、優先順位をつけて調べていくかですね。飛び道具はないのでコツコツ調べています。
玉木:リサーチは机に向かってインターネットで情報を調べるというデスクワークのイメージがありますが、比重はどれくらいなんですか。
今井:9割くらいじゃないですかね。20年くらい前は、専門家に取材しに行って、ボイスレコーダーを書き起こして局に提出するといったこともしていましたが、今はそこまで時間もコストもかけられない現状です。今思えば昔は楽しかったですね。(笑)オンラインも普及していますし、もうそういう時代は戻ってこないでしょうね。
玉木:今井さんのnoteを拝見し、面白かったのが、ロケ地の過去のトラブルなどもリサーチされているということでした。
今井:放送することで、住民の方からクレームが入るということもありますので。よくあるのが心霊スポットネタですね。今はあまりないですが、やったとしても北関東の某所とかそういう言い方しかできない時代にはなってきています。そういう意味では、リアリティがないということになるかもしれませんね。YouTubeではそういったことをされている方もいらっしゃるようですが、テレビのコンプライアンス上できなくなってきたことがあるもの事実だと思います。
―ここ数年で、SNSでバズっているヒトやモノが番組のネタになることが増えているように思うのですが、SNSからネタを探すこともあるのでしょうか。
今井:それはめちゃくちゃありますね。私はTwitterでまずは調べる対象を入れてみて、どういう事が起こっているのかという全体的を掴んでいます。人の情報を掴みやすいのもTwitterだと思っています。Google検索や Yahoo!検索では出てこないものが出てくるんで、両方を上手く使いながらリサーチしています。
玉木:同じキーワードでメディアもSNS、特にTwitterでもリサーチされているのですか。
今井:そうですね。
玉木:どういう違いで使い分け方をされるんですか。
今井:人の情報はTwitterのほうが出てきやすいですね。発信者もわかるので、“この人がこういうことをいっているのか”というのは把握しやすいです。あとは、世の中で話題になっていることを客観的に把握するのにも活用しています。
玉木:その話題に対してポジティブなのかネガティブなのかということなどということですね。Twitterも雑多な情報が多いのかと思っていまして、正しい情報を探すのも手間がかかりそうですよね。
今井:そうですね、なので複眼というか、様々なソースを見て正しい情報なのかを見極めています。
玉木:リサーチの上で、一番時間を使うのはTwitterということなんですかね。
今井:そうですね。
玉木:それが意外です。ただこの1~2年で、企業内でも改めてTwitterをやろうという風潮がでてきているなとは感じています。
今井:反対にFacebookでの検索はほとんどしないですね。鮮度の良い情報が得られるイメージがあまりないので。Instagram検索はもちろんするのですが、 ハッシュタグありきなので、その想起が難しいということと、Twitterも一緒ではありますが、何とでも加工できてしまうので、本当かどうかよくわからない情報も多いなと感じてはいます。
玉木: YouTube も盛り上がっていますが、動画はどうですか。
今井:YouTubeも同じように検索しますね。 人の検索やある情報に対し、どういった動画があるかは一通りチェックしています。
玉木:結構幅広くチェックされるんですね。TikTokとかもですか?
今井:そうですね、昔は新聞と雑誌ぐらいで良かったんですけど、SNSが増えるとチェックするものも増えるので大変ですよ。(笑)
リサーチャー今井紳介氏に聞く “テレビが必要としている情報”と“情報を出しておくべき場所”とは(後半)に続く
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