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想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法(前半)。アスコム取締役編集局長・柿内さん

2020年10月22日(木)に開催した第2回オンライン「メディアセミナー」では、これまでに企画した本の累計発行部数は1000万部以上、10万部を越えるベストセラーは50冊以上という柿内氏に「ヒットを生む思考法」について伺いました。

出版不況の中でも“丁寧に届ける”ことでヒットを連発

アスコム柿内氏
玉木:皆さんこんばんは。PRマガジン主催、オンラインセミナーにご参加いただきまして誠にありがとうございます。PRマガジンでは、毎月様々な業界の広報の方、あるいはメディアの方をお招きし、お話をお聞きしています。今回は出版業界で多くのベストセラーを出していらっしゃるアスコム取締役編集局長・柿内尚文さんにお越しいただいております。

柿内さん:よろしくお願いいたします。

玉木:今日は、「想像以上の成果を生み出す思考法」を中心にお伺いしていきたいと思います。出版業界の方も数多く参加していらっしゃるのですが、色々根掘り葉掘り聞いていければと思っております。
早速ですが、おそらく皆さんが一番興味をお持ちなのは、厳しいと言われる出版業界で、なぜ柿内さんはベストセラーを連発できるのか、ということだと思います。教えていただけますでしょうか。

柿内さん:おっしゃるように、出版業界は全体的にシュリンクしています。特に僕らは書籍を中心に制作をしているのですが、売り上げは全体的には下がっています。その中でこれまでヒットを生み出してこれたのは、書籍を「作る」ことと、それを読んでいただける方たちに「届ける」という2つの工程に時間をかけているからだと思います。

今本が売れない一番の要因は、例えばすごくいい本とか、内容がすごく素晴らしい本があったとしてもそれが届けたい人に認知されない、出会いがないという悲劇が根っこにある思います。そのため、丁寧に作るというのはもちろんですが、さらに“丁寧に届ける”ということにかなりの時間を割いているというのが、自分たちの特徴ではないかと思っています。

書籍ビジネスは1勝9敗モデル

玉木:連載漫画の単行と違い、本は毎回違うテーマで出版するので、売り上げが読みにくいビジネスなのではないかと思うのですが、御社の場合、毎年何十万冊というベストセラーを10冊出す、あるいは100万部売れるベストセラーを毎年一冊出すといった目標を立てて本を出版するようなスタンスでいらっしゃるのでしょうか。

柿内さん:毎年もちろん多くのヒット作を作ろうというモチベーションを持って取り組んでいますが、具体的に「100万部のベストセラーを一冊作るんだ!」といった目標を立てはいません。それぞれの企画を立てるときは、「100万部届くような本にしたい」、「30万部になるようなヒットを作りたい」という想いはあり、それ対する戦略も練りますが、練ったからそうなるということでもないので、最終的には“一冊一冊に水をやりながら育てていく”といったことが重要になってくると考えています。

玉木:柿内さんの過去のインタビューで、“100万部売れる本は実はすごく限られている”という内容を拝見しました。こういう本を作ったら100万部売れるんじゃないかといった逆算思考で企画されたりもするのでしょうか。

柿内さん:逆算思考はよくやります。企画の方法は、大きく2つあります。まずゴールをある程度作り、そのゴールにたどり着く企画を逆算して考えていく方法と、「こんな本を作れたらすごいんじゃないか!?」と「あったらいいな」からスタートする方法です。最終的にめちゃくちゃ人の心に届く時というのは、「あったらいいな」からスタートした企画かもしれません。
ただそれは逆に言うと、大外しするケースも結構あるということです。そのため、ある程度マーケットが存在し、そこに潜在的に欲している人がいるというところから考えていく方が、ヒットの確率が高まりますので、そこをある程度安定的に考えながらやるというのが、一番いいのではないかと思います。

玉木:ちなみに編集会議で、本の販売部数の予測を立てると思うのですが、予想はだいたい当たるものなんでしょうか。

柿内さん:会議で具体的な予測は立てませんが、感覚的にどのくらいがマックスか個人的には予測しています。でも当たるものもあれば、外れるものもあります。結構外れているかもしれませんね。

玉木:確率でいうとどれくらいでしょうか。

柿内さん:年によっても違いますが、2割くらいは当たっていると思います。増刷はある程度読めても、そこから先どのくらい伸びるのかに関しては、こちらが思っているように描けないこともあるので、このくらいの割合かなと。

玉木:残りの8割は、上振れするケースと届かない場合の両方あるということですよね。

柿内さん:そうですね。ただ、どちらかというと届かないケースの方が多いですね。上振れしたときにはドンっと上がるので、目立ちますけど。

玉木:帳消しになるのですね。

柿内さん:かなり帳消しになりますね。書籍ビジネスは、ある種の1勝9敗型モデルみたいなもので、大きいヒットが出れば、いろいろなものが帳消しになっていくという、そこが面白さでもあるかもしれませんね。

“意識的な雑談”が企画やプロモーションに活きてくる

アスコム柿内氏
玉木:出版社の編集会議は非常に重要なイメージがあります。どういう本を出版するかやどういったプロモーションをするのかなど、色々話をされていらっしゃるかと思うのですが、ヒットを多く出す御社には、特殊なノウハウがおありだったりするのでしょうか。

柿内さん:編集会議自体はあまり特殊なことはしていないですね。今日も編集会議を2時間くらいしていたのですが、ほぼ雑談でした。今日のテーマは、コロナの影響もあり「世の中の変化」でした。目に見えていることだけではなく、目に見えないところで様々な変化が起きていますよね。ただ、日々目の前の仕事が忙しいと、変わっていることに気づけないことがたくさんあります。
そこで、今日はそのテーマを編集会議でぶつけ、皆が思っていることをざっくばらんに雑談レベルでしていました。僕は全然気づいていなかったけど、皆が気づいていることもあり、ここでのインプットが次の企画やプロモーションに活かせたりするんですよね。だから意外と意識的に雑談をするというのが重要だと思っていまして、編集会議は雑談が多いです。

玉木:定期的に実施していらっしゃるんですか。

柿内さん:週に1回実施しています。

玉木:毎月の企画会議で何冊の本の企画を上げようと決めるわけではないんですか。

柿内さん:企画に関していうと、その都度に僕に企画を上げてもらうようにしているので、個別に話しているケースが多いですね。

玉木:それは結構珍しいですね!毎月編集者が最低何本かの企画を考え、提案し、その場で編集長が決定するというフローだと思っていました。

柿内さん:そういうやり方をするときもありますが、僕は、企画というものは会議で無理やり出すものではないと思っています。「この企画を進めたい」と思うから提案するのであって、無理やり何本出しなさいと言って、無理やりやるものではないだろうと思っているところがあるので、比較的自主性に任せています。例えば編集会議の雑談の中から面白いテーマが出てきたら、そこに向かってみんなに考えてきてもらったりはしますので、自主性に任せても結構回っていっています。

企画に付加価値を付け、ベストセラーへ

玉木:社内でベストセラーを出す進め方などあるのでしょうか。

柿内さん:企画の最初の段階は、「素材的なもの」もあるので、そこにどうやって価値をつけていくのかを話し合います。例えば、今なぜこれを出さなくてはいけないのか、これは世の中や読者にどのような価値を提供できるのかを詰めていきます。
また、どうやって届けるかも含め、ある程度外枠を作ってから、正式に会社の企画会議に出します。会社の企画会議では、また様々な意見が出てきますので、都度考えながらブラッシュアップしていきます。なんとなく「パッケージで企画決まりました」「じゃあ進めてください」「出来上がりです」といった感じではないですね。

玉木:企画会議は編集会議とは別にあるのでしょうか。

柿内さん:そうですね。企画会議は社長や営業も含め、決済する会議としてあります。

玉木:企画会議は、それは定期的に実施されるのですか。

柿内さん:企画会議という体ではないのですが、毎週一回そういう場はあります。ただ、毎週何か出さなくてはいけないというわけではなくて、上げたいものがある時は、そこに出せばよいという感じです。

「編集ノウハウの言語化」で、ヒットを出しやすい環境を構築

アスコム柿内氏
玉木:弊社も様々な出版社の方とお付き合いがあるのですが、ベストセラーを出す編集者には偏りがあるのかなと感じています。それは感性によるものなのか、ベストセラーを出す編集者とそうでない編集者の差について、どのようにお考えでしょうか。

柿内さん:弊社の場合はあまり偏りなく、メンバーそれぞれがヒット作を出せています。その背景には、“ノウハウの言語化”があると思います。
ヒットをたくさん出している編集者の方たちは、自分の中でノウハウを持ち、ある程度再現性のある形にし、自分の中でノウハウ化しています。
しかし、多くの場合、個人でノウハウを積み上げていくので、社内にノウハウが蓄積しませんし、その方が辞めてしまうとノウハウが丸ごと流出してしまう可能性があるんですね。それであれば、共有した方が皆でヒットを出せるのではないかと思い、以前は「編集のマニュアル」を作っていました。「編集マニュアル」は僕自身が考えていることや社内外の方々から聞いたことやノウハウを言語化したものです。それぞれの担当がこの「編集マニュアル」を自分の中で消化しながら進めることで、比較的ヒットが個人に偏らない状態になっていたと思います。

つまり、ヒットのポイントは、“肝になる部分をどれだけ自分の中で法則化や言語化し、実行できているか”ということです。それができている人は再現性が高く、ヒットする確率が高い編集者なのだと思います。イチロータイプみたいな感じですかね。

玉木:実際それである程度検証した結果、皆さん満遍なくスキルアップして、ベストセラーを出せるようになったのでしょうか。

柿内さん:そうですね。そこは結構満遍なく出せるようになっていますね。

玉木:それはすごいですね。それは他社さんも知りたいでしょうね。

柿内さん:ただ本当に小さいことの積み重ねなので、時間がかかりますし、1冊1冊を作りながら、試行錯誤していくので、時間をかけ一緒にやっていくということの積み重ねだとは思います。

玉木:なるほど。出版社は入社後の研修・教育はあまりないと聞くこともあり、一般的には編集者の感性で進めていくのかなと思っていたのですが、いかがでしょうか。

柿内さん:書籍の場合は、編集長も含め、一編集者として本を作っていくケースが多いので、やはり一人一人がある種個人事業主のようなところはあります。ただ、僕自身が元々雑誌の編集出身ということもあり、雑誌は編集長や副編集長、デスクがいて、デスクが新しい人間に教えるといった仕組みが結構できているので、その仕組みを書籍も取り入れたほうがよいのではないかと思っていました。そのため、弊社は編集統括という立場に僕がいて、本ごとにそれぞれ担当がいて、ノウハウの共有ができるだけできるようにしているところが他社と少し違うところかもしれませんね。

玉木:社内研修も結構実施されるのですか。

柿内さん:改めて研修をするのではなく、日々の仕事や業務の中で具体的に伝えていくという方針です。

玉木:編集者の資質はそれほど重要ではないと考えていいのでしょうか。

柿内さん:ベースとして、読んでいただく方の心に響くというのはどういうことか、面白いとは何かを本質的に理解できるということは必要だと思います。そこからの成長という意味では、ある程度あれば、誰でも大丈夫だと思っています。

玉木:なるほど。それは面白いですね。そこが御社の強みでもあるのではないでしょうか。

柿内さん:そうですね。お互い成長していける環境にするというところですかね。

競合はYouTubeなどの無料コンテンツ~オンリーワンの本づくりへ

玉木:ベストセラーになる著者には特徴があるのでしょうか。増刷がかかる割合は1割未満とも言われ、出版できてもなかなか売れないという著者も多いと思います。そういう中でベストセラーになる著者はどういう方なのでしょうか。

柿内さん:一番のポイントは、著者の方が持っている素材です。すごく単純に言うと、著者の方が持っている素晴らしいものを、編集者と著者で一緒に磨き、それをさらに素晴らしいコンテンツに磨き上げ、様々なスタッフの手で読者に届けていくことで売れていきます。前提が素材部分の素晴らしさで、あとはそれに対して編集者とどういう風に価値を作っていくのかです。
今これだけ情報が溢れる中で、お金を出して一冊の本を買ってもらうというのは奇跡に近い出会いです。つまり「似たようなもの」ではダメで、オンリーワンを目指すためにどうすればいいのかを考えることがすごく重要になってきます。一時期、売れた本に似せて作ろうという流れがあったかもしれませんが、今その手法は難しいだろうと思っていまして、オンリーワンの価値をどう作るのかが、すごく重要だと思います。

玉木:それは結構チャレンジングですよね。出版業界の中にはベストセラー前例主義のような会社も多いというイメージがあります。

柿内さん:そういう会社もあると聞きますが、良き時代は二番煎じ、三番煎じ、4番目くらいまで行ける時代があったのですが、今は競合が他社の本ではなく、YouTubeなど別のものが競合になってくるわけですよね。無料で見ることができるものがある中でわざわざお金を出して、読む方の時間とお金を提供していただくわけです。そうなってくると、「どこかにあるもの」では難しく、強烈に読みたい、買いたい、時間を取りたいというモチベーションを保てるのはオンリーワンのものだと思います。
つまり今は、他社の本との差別化ということではなく、他にも競合しているものがあるということを考えながら企画を作っていく必要があります。

玉木:なるほど。ちなみに著者から話を聞いたらこの人の本は売れそうなど、大体分かるものなのでしょうか。

柿内さん:さきほどお話しした通り、その方の持っている原石的な意味での素材の価値がどのくらい素晴らしいものなのかが大切です。もちろんどんな方でも素晴らしいものは持っていると思いますが、本にしたときに価値を提供しやすいものを持っているかですね。あとは、その方が持つ届ける力も大きいです。この2点である程度仮説を立てられれば、ベストセラーになりやすいかどうかは判断できるかもしれません。

玉木:届けやすいというのは、メディア受けのしやすさやメルマガ・SNSのフォロワーが多いといったことでしょうか。

柿内さん:そうですね。本と読者の接点は、SNSやウェブメディア、テレビやラジオ、新聞や雑誌、書店店頭、セミナーなどになると思うのですが、その方だったらどうやって接点を作れそうか俯瞰してみると大体イメージがつきます。今持っているものだけではなく、今後の可能性の有無も考えていく感じですかね。

玉木:目指しているボーダーは10万部以上という感じでしょうか。

柿内さん:そこに届くようにしたいと思ながらやっていますが、まずは増刷がかか江うことが最初です。

本も見た目が9割!?~タイトルとデザインの重要性

アスコム柿内氏
玉木:売れる本にするためには、タイトルや表紙も大きいですか。

柿内さん:見た目が9割という本が過去に出版されましたが、ファーストインプレッションは大事ですよね。まず気づいてもらい興味を持ってもらうというプロセスがない限り、本は売れませんので。それこそ、人気番組で本の内容を目一杯伝えてもらえたら、タイトルなど関係ないかもしれませんが、通常は本との出会い方というのは、カバーから入ってきますので、デザインとタイトルはすごく重要だと思います。

玉木:御社流のデザインやタイトルの作り方があるのでしょうか。

柿内さん:僕らは、タイトルこそ最高のキャッチコピーだと思っています。ですので、タイトルはキャッチコピーとしてデザインするということを心掛けています。自分の本で恐縮なのですが、例えば、「パン屋ではおにぎりを売れ」というタイトルは、全部同じ級数なのですが、パンやおにぎりだけを大きくすると、そこだけが目に付くんですよね。そうすると、キャッチコピーとして人の心を動かすようなデザインではないと僕は思っていまして、やはり塊でタイトルを見て初めて心が動くのではないかと思います。
そのため、繰り返しですが、“タイトルはキャッチコピーとしてデザインする”ということを心掛けています。

玉木:その他、デザイン的な部分でいうと何かありますか。

柿内さん:アイキャッチですかね。アイキャッチをどうつけるかで、本に目が行きやすくなるかどうかが変わってきます。「パン屋ではおにぎりを売れ」も表紙のおにぎりのイラストがアイキャッチとしてすごく効いていると思います。

想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法(後半)に続く

想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法(後半)。アスコム取締役編集局長・柿内さん

2020年12月4日

登壇者プロフィール

株式会社アスコム取締役編集局長 柿内尚文さん

株式会社アスコム取締役編集局長 柿内尚文さん

株式会社アスコム取締役編集局長
柿内尚文(かきうち たかふみ)さん

新卒で広告社入社。出版業界に転職し、複数社を経て、2002年アスコム入社。2008年より取締役に就任。これまでに企画した本の累計発行部数は1000万部以上、10万部を越えるベストセラーは50冊以上。2020年6月には、自らの思考法を語る「パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法(かんき出版)」を出版。

株式会社アスコム

健康・ビジネス・コミックエッセイなど実用系の書籍を得意とする出版。『聞くだけで自律神経が整うCDブック』など自律神経が整うシリーズは135万部突破。また、「長生きみそ汁」や「さば水煮缶レシピ」など、本をきっかけに多くのブームを起した実績も持つ。