年間100番組以上に携わる、リサーチャー今井紳介氏に聞く “テレビが必要としている情報”と“情報を出しておくべき場所”とは(後半)

当コラムは、2021年3月16日に公開した株式会社フォーミュレーションのリサーチャー・今井氏との対談レポートです。(後編)

年間100番組以上に携わる、リサーチャー今井紳介氏に聞く “テレビが必要としている情報”と“情報を出しておくべき場所”とは(前半)

2021年4月1日

テレビで大事なのは「なぜ今そのネタを放送する意味があるのか」「どんな映像が撮れるのか」

―リサーチャーの方にとって「面白い情報」とはどんな情報でしょうか。

今井:まずはテレビの放送リテラシーに沿った情報、公序良俗に反していないということです。2番目に番組側が求めている情報、そして、3番目にまだあまり知られていない情報、4番目にそのカテゴリーの中でも抜きに出てる情報が、我々が面白いと思う情報ですね。
やはり、どれだけ面白くてもコンプライアンスに反するものは放送できないですし、番組が求めていないものを出しても方向性が違うといって終わりなので、番組が向かっている方向性に寄り添いながら、面白い情報を出していくというのが基本スタンスです。

玉木:今は、テレビで昔みたいな過激なことはなかなかできないですよね。例えばYouTubeだと大食い対決や暴力的な内容などもありますが。過去のバラエティは何でもありだったように思いますが、年々厳しくなりできることが狭まってきているのかなと。でも、YouTubeではそれらがまだ残っていて、大食いでハンバーガーを食べるという新規性のない動画でも再生数を稼げているというケースも多く、テレビとYouTubeの面白さはすみ分けされてきているのかなと感じています。

今井:YouTubeもメジャーになっていく人達は、やはり非常に厳しいコンプライアンスの中でやられているので、メジャーになってくるとテレビに近づいてくるのかなと思います。

―番組側から最近よく求められるネタの傾向やポイントはありますか。

今井:今に限らず、常に言われているのは、「なぜ今そのネタを放送する意味があるのか」ということと、 「どんな映像が撮れるのか」は、それは何回何千万回言われてきています。

玉木:今まであまり見られてなかったけど、最近急にウケが良くなってきたコンテンツなどありますか。最近視聴率が良いものなど。

今井:「有吉の壁」やフジテレビさんの番組など、芸人さんが出てくる番組が多くなってきているなと思いますね。「エンタの神様」くらいの時代からもう一周して、また芸人さんの時代が来たなという感じがしますよね。

―個人視聴率が導入され、番組も若者向けに少し関係していることも影響しているのでしょうか。

今井:そうですね、影響していると思います。

―リサーチした情報はどういった形で番組に提出されるのでしょうか。また提出する資料はどんな点にこだわって作成しているのでしょうか。

今井:情報を簡潔にペラ一枚でまとめて提出しています。その時に気を付けているのはキャッチ(見出し)のつけ方や人の場合であれば、どういう人なのかや顔がしっかり写ってる写真を入れることです。あとは、どんな画が撮れるのかが想起できるような写真をつけるといったことに気をつけて資料を作り局に提出しています。

玉木:企画会議に参加してプレゼンをされるんですか。

今井:そうですね、基本的にはプレゼンしています。今はリモートですが、資料を共有しながらプレゼンしています。とはいえ、テレビはそれほど資料を見る文化がないので、どれだけ口で説明できるかも大事です。リサーチをしていい資料を作るのとプレゼンして相手に届けるのと、半々くらいの力が必要だと思っています。どちらか一方しかないと嘘くさくなってしまい、成立しないので。

玉木:では、資料を作成してメールで添付して終わりではないということですね。

今井:そういう番組もありますが、自分はどちらかというとしゃべりたい人なので。(笑)
あと、ちゃんと伝えた上で“ない”と言われるのは納得できますが、苦労して作成した資料なので、きちんと伝わらないともったいないなという思いもあります。

玉木:その文化の違いは面白いですね。活字メディア、特にWeb媒体はスピード重視で素早く意思決定をするということもあり、メールで送って判断いただくことが多いですね。会議も昔より減っていると思います。

今井:私の中で「テレビ言語」といっているのですが、テレビ言語を使わないと届かないんですよね。

玉木:プレゼンによって採用されるかも結構変わってくるということでしょうか。

今井:変わってくると思いますね。

玉木:それも面白いですね。書類は色んな所に出回るので誰が見ても通るように作りこむということも意識しているのですが。

今井:私たちの場合、それはないかもしれないですね。誰が誰に説明するかが重要だと思っていますので。誰でもいいと言われないような仕事の仕方をしないといけないかなと。

企業広報として情報を出しておくべきなのは「Twitter」「Googleニュース」

株式会社フォーミュレーション リサーチャー 今井紳介氏さん

―企業広報の方が、リリースを作成する際に、少しでも見てもらいやすくするためにどういった工夫をしたらよいでしょうか。

今井:リリースはリサーチする中で出てくるので、ネット上にあるリリースはいろいろ見させてもらってます。番組にとって有益だと思う情報はリリースを元に局に提案するということもあります。まずはキャッチ(タイトル)を見ていまして、中身はさほどじっくり読まないので、どういうものなのか、どういう人で何が得意なのか、といったところをきちんと打ち出せているリリース、あとは数字や記録、お金、人などのファクトがしっかりあるものが目に留まりやすいです。

―企業広報の方からの情報提供などは普段あるのでしょうか。また受け付けてもらえるものなのでしょうか。

今井:普段の接点は全くないです。情報を受け付けるかということでいえば、私個人でいえば受け付けます。内容がテレビ番組にとって良ければ番組にも提出させてもらいます。

今回このセミナーのお話を頂いて、PR会社さんからの売り込みはあったりしますが、そういえば企業広報の方との接点はないなということに改めて気づきました。企業情報を扱う番組がある際は企業広報の方にお電話し、社員さんを紹介してもらい、なかなか撮れないところを撮らせてもらう交渉をしたり、商品開発の裏側を教えてもらったりと繋がりはありますけど、そういった番組がないときは、企業広報の方との繋がりは全くないです。個人的には繋がりをもっていただいてもいいと思っています。

ただ、“リリースを送ります”みたいな関係性ではないんですよね。もう少しちゃんと話がしたいんですね、その方がどういう人でどういうものを発信しようとしているのかキャッチボールしたいなと。面倒くさいかもしれませんが。(笑)

玉木:単なる売り込みだと難しいということですかね。

今井:そうですね、そのスタンスだとちゃんと届かないと思います。

玉木:コンタクトの仕方は、電話でもメールでも良くて、内容重視ということですね。

今井:中身重視ですね。メールも返しますし、電話も対応します。

―リサーチャーの方に情報を見つけてもらうためにはどういった所に情報を出しておくのが良いのでしょうか。

今井:先ほどもお話しましたが、Twitterが一番いいと思います。Facebookは見ないので。Facebookが嫌いというわけではなく(笑)、Twitterの方を先に見て情報をキャッチしているので。そのワードで Googleニュースを入れて直近のニュースをチェックするということはしているので、そういうところに情報があると目に留まりやすいと思います。

玉木:それはリサーチ業界全体のトレンドがそうなっているということでしょうか。

今井:やはりリアルなものが面白いと思うんですよね。Twitterも嘘は多いですが、それを発信してる人がいるので、そういう意味ではリアルだと思います。ただ、まとめサイトのような誰が書いてるかわからないような記事だと、人が見えてこないので、その情報を信用するに足る情報なのか判断しづらいです。
ある程度、名前と顔を出して発信されてるからこそ価値があるという気がします。

玉木:Twitterは人を見つけやすいというお話がありましたが、どういう人なんですか。

今井:マニアや専門的なことをつぶやいている人は見つけやすいです。そういう方は、“私はこういう人間です”というのをプロフィールに書いている人が多いですよね。なので、マニアやある分野に特化した人を見つけるのはTwitterが一番良いかなと思います。それはフォロワー数が少なかろうが多かろうが関係なくて、そこの熱量がちゃんと伝わってくる Twitter であれば それはリサーチとしては引っかかりやすいですね。

玉木:知る人ぞ知る専門家ということですね。

今井:そうですね。

玉木:ちなみに、Google ニュースも調べられるということでしたが、紙媒体よりもまずはGoogleで引っかかるニュースを調べられるのですか。

今井:どうしても紙面を探すとなると有料の検索になるので。(笑)
まずは、GooogleニュースやYahoo!ニュースで検索して、深堀する際に有料検索を使っています。最初はGoogle ニュースで、SEO的に上にあるものから優先的に見ていますね。何ページ目までみるかというのもありますが。
でも昔ほど、マニアックな記事が上がってこなくなりましたね。昔はディスカバリーチャンネルをずっと書き起こしている人がいたのですが、今は検索しても引っかかってこないです。辞められたのかもしれませんが。そういったコアなサイトが見つからないという印象はあります。だからTwitterにいっているのかもしれませんね。Gooogleニュースを100ページ検索するのには根気がいりますし。(笑)
検索する際はnotやor、年代設定などをしていますが昔はもっとマニアックなサイトがいっぱいでてきたのですが同質化しているというのが一利用者としてはつまらなくなってしまったかなと思います。

玉木:普段リサーチされる中で、企業の情報でいうと、特にこういうの行き当たるといった情報はありますか。

今井:新規オープンとか流行ものとかですかね。あとは、逆転ストーリーや何かの立役者を探している時に企業の人が出てくることもあります。

オンエアから逆算し、ネタ元のメディアにアプローチ!

株式会社フォーミュレーション リサーチャー 今井紳介氏さん
―御社のようなリサーチ会社は何社くらいあるのでしょうか。またリサーチ会社の良い探し方があれば教えてください。

今井:まとめてくださっている方がいらっしゃって、17社と書いてありましたが、もう少しありそうな気がします。数えたことはないですが。リサーチ会社の探し方としては、出したいと思う番組を担当しているリサーチ会社を調べて、ホームページなどがあると思うので連絡するのが良いと思います。

―テレビ露出を増やしたいと考える企業広報の方にアドバイスはありますでしょうか。

今井:アドバイスというとおこがましいので、私が企業広報だったらこうする…というお話をさせていただければと思います。リサーチでもよくやるのですが、オンエアしているネタの出元を調べると、“ここにこの情報あるから番組が成立しているんだ”“この番組はこういったメディアに目を付けているんだ”ということがわかるので、そうしたらそのメディアにアプローチすると思います。要はオンエアされるまでの導線を調べてみるということですね。既にされている方もいらっしゃると思いますが!

―事前に皆様から頂いた質問にお答えください。

他番組が扱った情報や商品については、ネタかぶりを避けるのでしょうか。それともトレンドとして追随するのでしょうか。

今井:ネタによりますが、例えばA番組B番組ともに求めているネタがトレンドであれば、トレンドとして、どちらの番組にも情報を出します。ただ、似たカテゴリーでA番組とB番組があった場合、どちらにも同じ情報を出すということはしません。何を基準にどちらに何を出すかは、時と場合によりますが、同じ情報を出すとネタが被ってしまう可能性があり、両番組ともに得をしないからです。その責任が我々にもあるので、そのあたりは気を付けています。

専門家として、情報番組でコメントを求められるようなポジションに社員や社長を推薦するにはどのようにしたら良いのか知りたいです。

今井:リサーチ業務の一環として、情報番組のコメンテーターを探してくださいという依頼はあります。その際、我々の方では、ファクトが強い、キャラクターにオリジナリティーがある、コンプライアンスに反していないかといった点をリサーチして、その番組にとって一番良い人を提案しています。

テレビの制作部署にFAXや郵送でリリースをお送りしているのですが、なかなか興味を持っていただけません。丁寧にリレーションを築いて行くべきなのか…なにかヒントをいただけると大変ありがたいです。

今井:なかなかリリースに目に通す時間もなかったりするので、実際は結構スルーされてしまっているのではないかなという気はします。ですので、テクニック的なところより番組の担当者やリサーチャーなど、色々な職位があると思うのですが、そういった人とリレーションを取ることが一番の近道かなと思います。先ほど玉木さんもおっしゃったように、リリースが欲しいわけではないので、どういう人が誰にどういう想いで情報を渡しているのかのほうが重要だと思います。

既存の商品やサービスでも情報の出し方次第では、リサーチャーの目に留まり、番組に提案してもらえる可能性はあるのでしょうか。

今井:あります。テレビはどんどん変わっていってますので、その時々に欲しいものも変わってきてます。既存のものであっても、そのタイミングで何かしら付加価値をつけ情報を発信することができれば、目に留まることはあります。新商品やサービスを紹介するだけが番組ではありませんので。

コロナ禍で設立された広報チームのため、記者さんや制作会社さんとのコネクションがほとんどありません。オンライン上でコネクションを作る方法などございますでしょうか。もしくは、オフラインの方がやはり作りやすいでしょうか。

今井:コロナ禍において、オフラインで関係構築というのは、ちょっと想像がしづらいかなと思います。やはりオンラインでコミュニケーションを図っていくというのが、一番だと思います。例えばTwitterなどのSNSを使うという方法もあると思います。ただ、売り込みばかりすると人は引いてしまうので、コミュニケーションを取る方に7~8割のリソースを割くくらいのスタンスのほうが良いと思います。

―質問は以上となります。

玉木:皆さんいかがでしょうか。今回多くの方が初めてリサーチャーとはどういう仕事をしている人なのか知ったのではないでしょうか。

企業広報の皆様もプロデューサーやディレクターといったテレビ局の方とはやり取りをされていると思いますが、売り込む以外に、いかにテレビ局の人から情報を見つけてもらうかというのがファーストステップとしてあると思います。

そのためには、Google ニュースなどメディアに取り上げてもらうという方法が一般ではありますが、SNS、特にTwitterを積極的に活用してリサーチされているということで、SNSはフォロワー数も気になるところですが、フォロワー数が多くないといけないわけではなく専門分野に精通していることで取り上げられる可能性があるということでしたので、余力のある方はTwitterに取り組まれてみるのも良いのではないでしょうか。

また、トレンドや社会情勢に合わせた情報をタイムリーに出していくということや、人にフォーカスした情報をリサーチしていることが多いということで、人に絡めた情報発信も意識したいところですね。 あと、SEO的なことでいえば、やはりGoogleニュースは大事だなと…このように、ファーストステップとして見つけてもらうことも意識して広報活動に取り組んでいただければと思います。

テレビ局へのアプローチ以外に、今井さんのようなリサーチャーやリサーチ会社にコンタクトをするといった方法をご紹介しましたが、テレビ局の方以上に、売り込みは受け入れづらい職位の方々かと思いますので、一方的に情報を送るだけではなく、協力関係を意識しコミュニケーションを図っていただければと思います。

簡単ではありますが、最後に本日お聞かせいただいた話をまとめさせていただきました。
これからの広報活動にお役立ていただければ幸いです。

年間100番組以上に携わる、リサーチャー今井紳介氏に聞く “テレビが必要としている情報”と“情報を出しておくべき場所”とは(前半)

2021年4月1日

登壇者プロフィール

株式会社フォーミュレーション 今井紳介氏

株式会社フォーミュレーション 今井紳介氏

株式会社フォーミュレーション リサーチャー
今井紳介さん

株式会社フォーミュレーション リサーチャー。1974年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学卒業後、アルバイト先のお寿司屋さんに就職。その後26歳でテレビ業界を目指して2001年リサーチ会社フォーミュレーションに入社。リサーチャー歴20年。現在は、バラエティ番組や教養番組、ドキュメンタリー番組を中心にリサーチャーとして日々情報収集にあたるとともに、自身もリサーチャーとして、人気テレビ番組に出演中。2020年10月から“1年でディレクターになる”というテーマでYouTubeチャンネルを開設。
リサーチャー今井YouTube

株式会社フォーミュレーション(https://formulation.co.jp/

1986年創業。TV番組やネット配信番組のための情報リサーチや海外の映像や画像の国内メディア使用に関する権利確認などを主な事業とする。地上波で放送中のゴールデン番組のリサーチ業務は7割を手掛ける業界シェアナンバー1企業。

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