サイボウズ式を立ち上げた 初代編集長・大槻幸夫さんに聞く! オウンドメディアで企業ブランディングを成功させる方法 ~『働き方』で第一想起されるまでの道のりとは~

本記事は、2021年5月12日に実施したオンラインセミナーのレポートです。

玉木:皆様こんばんは。本日はPRマガジン主催のオンラインセミナーにご参加いただき、誠に有難うございます。私は本日のファシリテーター務めます、株式会社コミュニケーションデザイン代表の玉木剛と申します。本日はサイボウズ株式会社ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部長サイボウズ式ブックス編集長の大槻幸夫さんをゲストにお迎えし、「オウンドメディアで企業ブランディングを成功させる方法~働き方で第一想起されるまでの道のりとは」についてお聞きしていきたいと思っております。
特にオウンドメディアの運営方法や、企業ブランディングの秘訣等々についてお聞きしていきたいと思います。それでは大槻さんお願いします。

大槻さん:よろしくお願いします。

自分の得意を突き詰め、広報・ブランディングの道を突き進むことに

玉木:まず簡単に大槻さんのプロフィールについてお聞きしてもよろしいでしょうか。

サイボウズ大槻さんのプロフィール

大槻さん:サイボウズのコーポレートブランディング部で部長をしている他、出版事業をしているブックス部門の編集長もしております。さらに、最近、サイボウズでは、だれでも取締役になれ、みんなでガバナンスしていこうという取り組みがありまして、私も立候補して取締役になっています。

経歴としては2000年に大学を卒業して、IBMの方とレスキューナウというベンチャーを立ち上げました。その後、2005年にサイボウズに転職し、2015年から現職です。これまでに、サイボウズLiveやサイボウズ式の立ち上げ、働くママのムービー制作、出版などを手掛けてきました。

また、個人としては、私の父親が中目黒で工場をしていたのですが、引退を考え始め、工場をどうしようかと考えているときに、ブルーボトルジャパンの社長と知り合いまして、中目黒カフェへと生まれ変わりました。もしお立ち寄りの際はぜひ。(笑)
あと複業でベンチャー企業のマーケティング支援などもしております。

玉木:サイボウズでは、基本的には一貫して広報業務全般を関わってこられたということでしょうか。

大槻さん:そうです。

玉木:ちなみに、大槻様が始められたサイボウズ式ブックスの編集長としてのミッションは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。

大槻さん:この後お話しする、サイボウズ式というオウンドメディアに続く施策になります。サイボウズ式により、ネット上でリーチできる層には、ほぼリーチできたのではないかと思いまして、そこから更に広げる施策として、紙であれば本屋さんにも並びますし、紙の領域にチャレンジしてみようということで、サイボウズ式の紙版といったイメージで今取り組んでいます。

もう少し具体的にお話しすると、きっかけは、弊社の採用・人事から、中途入社の方に「サイボウズに応募した決め手は何でしたか」を聞いたところ、1位が社長の青野の本など、サイボウズ関連の本だったということです。サイボウズ式で記事は出しているものの、コマ切れで見る形になってしまうので、まとまったパッケージでサイボウズを学ぶという意味で、本という存在感は大きいということがわかりました。

それまでも、出版社から青野の本などを出版いただいていましたが、どうしても出版社さんの都合もありますし、締切もあることからタイトルを熟考できなかったといった悔しい思いもあったので、自分たちでやろうということで、サイボウズ式ブックスを立ち上げました。

玉木:大槻さんは、元々ご自身でも広報をやりたいと思われていたのでしょうか。どういった経緯で広報になられたのでしょうか。

大槻さん:元々は製品プロモーションを行うマーケティング部署のマネージャーをしていました。
その中で自分の得意を突き詰めていった際に、SNSを通じたコミュニケーションに可能性を感じ、自分のやる気もありましたし、かつサイボウズとして新しいブランドイメージを作っていくというところにもマッチしていたので、マーケティング領域でブランディング、広報というところを突き進んでみようと考えるようになりました。

3人の若者が愛媛県松山市で立ち上げた会社が、24年で7カ国19拠点まで拡大

玉木:本日はオウンドメディアについて詳しくお聞きできればと思っているのですが、その前に、最近のサイボウズさんについて、少しお話をお聞きできればと思います。

働き方改革に関するお詫び

大槻さん:サイボウズの20周年に合わせ「働き方改革に関するお詫び」ということで、コーポレートメッセージの発信をした他、2020年にテレビCMにチャレンジし、「がんばるな、ニッポン。」というブランディング施策を実施しました。

また、先ほどお話した「だれでも取締役」は、今年2月に日本経済新聞に全15段の広告を出しました。弊社の取締役がずっと創業者含む3人のおじさんだったので(笑)、これはあかんということで公募制にしますということをPRで打ち出しました。結果、現在、取締役は計17名で、女性5名、外国人1名、新人も2名いるような多様性に富んだ経営陣になっております。

玉木:すごいですね。これだけバラバラな面子で取締役会や会議がスムーズに進むのかと、少し疑問が出てしまうのですが。(笑)

大槻さん:基本的に経営のことは執行役員や社長が参加する経営会議で決めていくことになっています。ただ、できるだけたくさんの社員に取締役になってもらえたら堅牢な会社になるのではないかと、そんな思いでやっているところです。余談ですが、サイボウズは、透明性を重視しているので、誰でもZoomで経営会議に参加できますし、議事録も見ることができます。

またサイボウズがそもそもどういう会社かと言いますと、1997年に愛媛県松山市で3人の若者が立ち上げた会社です。創業から24年経ち、現在、連結で約1000名、7カ国18拠点となり、グローバル展開がどんどん進んでおります。

企業理念のPurpose(存在意義)は、「チームワークあふれる社会を創る」ということです。
また、Culture(文化)については、議論を重ね、「理想への共感」「公明正大」「多様な個性を重視」「自立と議論」の4つに決めました。

何している会社なのかというと、今一番力入れているのがkintone(キントーン)というサービスになります。簡単に言うとExcelのようなスプレッドシートで共有されているようなリスト型の情報をクラウドで簡単に共有できる仕組みになっていまして、今テレビCMも流しています。

kintoneは、専門知識がなくても、ドラッグアンドドロップで簡単で制作できるようになっており、企業だけではなく、自治体等でも利用いただいています。

オウンドメディアの存在意義が社内に理解されるために大事なのは「社長の理解」

玉木:2012年からサイボウズ式というオウンドメディアを立ち上げられましたが、その当時、オウンドメディアはトレンドになっていましたっけ?

大槻さん:先端層の中で話題としては出ていたという感じですが、メインストリームではありませんでした。

玉木:そうですよね。そういった状況下で、大槻さんはなぜオウンドメディアを始めようと思われたのでしょうか。

大槻さん:当時、サイボウズの売上が横ばい状態で、青野からも「新しいことにどんどんチャレンジしないと!」という号令がかかっていました。

その何年か前に、会社ブログが流行り、一度チャレンジしたのですが、当時はまだSNS今ほど普及しておらず、なかなか伸びずに辞めたという経緯があり、いつかリベンジしたいという想いが私の中であったのですが、それが今(当時)なのではないかと思ったんです。SNSも普及してきたタイミングでしたし、サイボウズは色々なネタが社内にありますので、記事を見ていただける可能性も広がっているのではないかと感じていました。新しいものということもあり、最初は軽い気持ちでオウンドメディアを始めてみました。

玉木:立ち上げ当初のKPIは、どのような指標で測定されていらっしゃったのでしょうか。

大槻さん:基本的なスタンスとして、今でもそうなのですが、KPIからは逃げて回っていますという感じです。(笑)

広報もそうだと思いますが、ブランディングも長期的な取り組みになるので、数字だけで評価するというのは、あまり良い理解につながらないのではないかという気がしておりまして、できるだけそういうことを話し合わないようにしています。

とは言え、一応、当時、製品側のWEBサイトがあったのですが、そこのページビューと比べて、オウンドメディアのページビューがどれくらいになっているかという数字は出していました。サイボウズ式の内容は、製品に関係ない話題を扱っているので、製品よりは見られるのではないかという可能性から、製品サイトのページビューの何倍といった数字をKPIとしていました。
結果的に、このKPIは3ヶ月くらいでクリアしました。

玉木:それは当初の想定より、すごくアクセス数が良かったのですね。

大槻さん:ただそれより嬉しいのは、サイボウズは青野以下、みんなSNSが好きでTwitterをやってる人も多いのですが、サイボウズ式の記事がシェアされて回ってくるということを実感してもらえることが多かったということです。やはり、定量より定性の方が心に残るというか、オウンドメディアをしていることの意味が通じるという感じはありました。

玉木:オウンドメディアは、軌道に乗せることがすごく難しいというイメージがあるのですが、苦労されたことなどありましたでしょうか。

大槻さん:ラッキーなことに、本当にすぐ結果がでたので、苦労というのはあまりないかもしれません。(笑)
強いて言えば、社内の理解でしょうか。

オウンドメディア立ち上げ時は、無料のWordPressを使い、私を含め2~3名が兼務する形で始めました。オウンドメディアあるあるだと思うのですが、記事を書くのが大変というのは、わかっていたので、数万円程度ですが、ライティングとカメラマンの予算だけは確保していました。

コストがかかってくると、ブランディングから一番遠いところにいる部署の方などからは、「なぜ、こんなことやっているの?」といった声はいただきました。
サイボウズ式は、コストがかかっていないほうですが、先程お話したムービー制作などはそれなりにコストがかかってきますので、同じような声をいただくことは多々あります。

サイボウズ式を始めた際は、そういったご意見に対し、「長期的な取り組みなので、まずは結果を見てみてください」と説明していたと思います。

でも、一番大きかったのは、社長の理解です。
こういう形でグループウェアメーカーとは別の形で、今のお客さま以外の新しいお客さまともつながっていかないとビジネスが拡大しないので、こういうベクトルを変えた取り組みにもチャレンジするべきだという考えを青野も持っていました。そういう経営陣の意思や覚悟みたいなものも大きかったと感じています。

様々な記事を投下し、反響からテーマを「働き方」に

玉木:開始すぐに、オウンドメディアにかなりアクセスがあったということですが、企業のオウンドメディアはなかなかアクセスを集められず苦戦するケースが多いと思います。上手くいった理由はどこにあるのでしょうか。

大槻さん:一つは、SNSで影響力のある方に取材し、記事を公開できたことだと思います。最初にバズったのが、LINEのマーケティング担当者に話を聞きに行くという記事でした。

“チームワークのサイボウズ”ということで、「チームでの仕事」をテーマに、色々な企業に話を聞きに行くということをしていました。当時、LINEは伸び盛りで、LINEの中の人はあまり対外的に出ていなかったのですが、たまたま私が広報の方と知り合いだったことから、取材に行かせてもらいました。その時対応してくださったお二人は、ソーシャルでフォロワーがたくさんいらっしゃったので、そこから記事が拡散していきました。

「サイボウズ式で取材を受けたよ」とか、記事の内容も気に入って頂き、「面白い」といった感じでつぶやいてくださり、そこから先端層にどんどん広がり、更にそこからじわじわとマス層にという流れでした。これをきっかけに、フォロワー数が多く、インフルエンスのある方に取材に行こうという方針で進めるようになりました。

玉木:そういうことだったのですね。
御社は取引社数も多いので、それがベースにあったのかと思いましたが、それよりもインフルエンサーの方が影響が大きかったということですね。

大槻さん:元々の狙いが「今のお客さま以外」の開拓でしたので、既存のお客さまやパートナーさんは意識せずに、新しい人と繋がりにいったという感じです。

玉木:オウンドメディアで手応えを感じられたのはどれくらい経ってからでしょうか。

大槻さん:1年くらいかかりました。
先ほどの質問にもありましたが、最初は何が当たるかわからなかったので、「働き方」も全然意識していませんでした。最初の方の記事を見ていただくとおわかりいただけますが、オフィス周辺のランチマップとかそういう記事を出してたんですね。お客さまが何を求めているのかわからない状況で、それを知りたいという目的でスタートしたので、色々な記事を出した結果、働き方の記事のページビューがすごく伸びることがわかったのです。

実は当時、青野が「これからはチームワークだ」と言っていたのですが、社員にはあまり響いていなかったんです。でも実際、青野の講演の書き起こしをログ的にアップしてみるとアクセスが伸びるということが続きました。それが、サイボウズに求められているテーマだと気づく決め手になったのが、男性学研究者の田中先生と青野の対談です。『少子化が止まらない理由は「オッサン」にある?-「男性学」の視点から「働き方」を考える-』という対談をアップしたところ、10万ページビューくらいいきました。

少子化が止まらない理由は「オッサン」にある?-「男性学」の視点から「働き方」を考える-
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=8964

ここが「手応え」を感じたタイミングでもあり、ターニングポイントになったと思います。

玉木:チームワークというより、「働き方」が求めれていたということでしょうか。

大槻さん:チームワークは働き方に含まれるのかなと。

玉木:チームワークを広げると確かに働き方になりますよね。
では、ある意味偶然というか、記事の反響から働き方がいいのではないかと、どんどんテーマが絞られていったという経緯だったのですね。

大槻さん:はい。本当にやってみないとわからなかったというのが正直なところです。

社長の言葉も「サイボウズ式」をきっかけとしたメディア露出で、社内に浸透

玉木:ちなみに、オウンドメディアによる社内への影響というのは、どうでしたか。

大槻さん:「何やってるんだ?」というところから始まり、成果が出てくるとTwitterでも見かけるし、知り合いや友人、家族から見たよと言われたようで、「この取り組みはすごく良いね」という風に言ってもらえるケースが増えてきたかなと思っています。

一番良かったのは、ビジョン浸透に役立ったということです。
先ほどもお話したように、2008年くらいに、青野が「うちはチームワークの会社だ」と言い始めたのですが、当時は誰も共感していなくて(笑)、「チームワークでグループウェア売れるかよ」という感じだったんですね。

玉木:事業と若干イメージがずれている感じがしますよね。

大槻さん:あるあるだと思うのですが、「社長が何か言ってるぞ」という感じで、なかなか浸透していかなかったんです。それが、サイボウズ式でどんどん外向けに発信をしていくと、ページビューが伸びていいね!がたくさんつきます。そうすると社員も、「社長、良いこと言ってるんだな」という風に変わってきて、チームワークとグループウェアを絡めてどう提案したら良いのかという勉強会を開催したりするようにまでなりました。いきなり上から言われるとなかなか浸透しないですが、一回外をくぐらせて中に入ってくるという形でビジョンを浸透させるのに、このオウンドメディアが役立ったというのは、すごく面白かったところですね。

玉木:ちなみにサイボウズ式によって、メディアや第三者の方からサイボウズに対する見られ方は変わりましたか。

大槻さん:だいぶ変わりました。私が入社した16年前は本当に取材依頼も全然なく、グループウェアの中小企業という感じでしたが、今では広報が7~8名くらいいます。それだけいても対応するのが大変なくらい連日取材依頼をいただいています。全て「働き方改革」というテーマで取材にいらっしゃいますので、本当に大きな違いを感じています。

玉木:ちなみに現在、サイボウズ式はKPIを掲げていらっしゃるのでしょうか。

大槻さん:今はさらに何も持ってない感じですね。(笑)
PV数も評価ポイントでは無いです。“自分たちの中にあるものを外に出していく、そういうメディアでありたい”ということを大事にしていまして、そこができているかどうかの方が大事だと思っています。

2012年から約10年間「働き方改革」で進めてきて、だいぶ浸透してきたかなということで、今年から「働き方改革」をさらに「ビジョン」と「会社」と「英語」の3つに分けています。

注力テーマ

働き方改革の訴求から「ビジョン」というのは、情報共有がどういう形でできれば、働き方改革が上手くいくのか、もう少し整理して訴求していこうということです。また、「会社」は、先ほどの「だれでも取締役」もそうですが、上から下に落としていくヒエラルキーのような会社経営ではなく、もっとフラットでティール組織的な経営ができているので、私たちが今チャレンジしてることをどんどん出していこうと。そして、それらを「英語」でも発信していこうと考えています。

この自分たちでやっていることをいかに編集して外に出していけているかにこだわっているので、例えば「だれでも取締役」というネタが社内で生まれたら、これをどういう角度で見せたら良いか、自分達が解説するのか、テキストや動画で出すのか、あるいは第三者から評価してもらうのか等、そこの議論の方が大事だと感じています。

ですので、今は、またネタを作り出すフェーズに入ってきていて、これが落ち着くと、またページビューって結局どうなっているんだっけというフェーズになってくるかなと思います。生み出すフェーズとそれが定着するフェーズというのがあり、今は数字よりも中身を追いかけてる感じですね。

オウンドメディアは読まれなくては意味がない。だから、記事の更新頻度に決りはナシ

玉木:サイボウズ式は、編集部の体制もかなり充実していらっしゃるということで、今は6名体制ですか。

大槻さん:そうですね。

玉木:オウンドメディアで6名というのは、かなり多いですよね。

大槻さん:サイボウズの規模ですと、めちゃくちゃ多いと思います。
現在、コーポレートブランディング部全体で23名おりまして、そのうちオウンドメディアが6名、メディアリレーションを中心に行う広報が8名、プロダクトブランディングが5名、グローバルブランディングが2名、サイボウズ式ブックスが3名という体制です。

玉木:そのコーポレートブランディング部を取り仕切ってらっしゃるのが大槻さんということですか。

大槻さん:そうですね。

玉木:大変じゃないですか?

大槻さん:大変です。(笑)先ほどお話した通り、自分たちでネタも社内から探していかないといけないですし、それをどう伝えるかもそうですし。

普通、広報ではありえないと思うのですが、テレビCMまで始めたので。しかも少し挑戦的な内容で。
「がんばるな、ニッポン。」は、予算の額も大きかったので、かなり大変でしたし、部の中でのやり取りや、社内との共有・調整というところも大変ですし、全てが大変という感じですね。(笑)

玉木:サイボウズ式の編集会議の頻度や内容についてもお聞かせいただけますか。

大槻さん:編集会議は、Zoom等で週に1~2回実施しています。
基本的にサイボウズの場合は、GaroonやOffice、kintone上で編集部のネタ出しスレッドというのができていまして、何かニュースを見たりネタを思いついたりしたら、そこにポストしておきます。そこである程度、議論が進んでいるという状況です。それを編集会議で、最終的にやるかやらないか決めるというスタイルです。

玉木:ちなみに更新頻度はどれくらいなのでしょうか。

大槻さん:これも驚かれるのですが、特に決めていません。方針として、やりたいことがあったらやるという形にしているので、去年は4ヶ月くらい1本も記事が出ていない時もありましたし、今年の1月は毎日出ているという感じで。(笑)
緩急が激しい運営になっているのですが、やはりモチベーションを大事にしたいと思っているからなんですね。面白い記事が出て読まれないと全く意味のない仕事ですので、ノルマ的に月何本としてしまうと、途端に記事も面白くなくなってしまうのではないかと危惧していまして、みんなに読んでもらいたいテーマが見つかったらでいいよ、としています。

玉木:2012年の時からそういうスタンスなんですか。数名で、しかも兼務でしたよね。

大槻さん:その時は、兼務自体が辛いので、「できたらでいいよね」という感じでした。そこから2014年か15年くらいに体制がしっかりしてきた時点で、「週1くらいで出せたら良いよね」としていた時期もありました。ただ、それをやってみて、やはりちょっと辛いねと。

記事のネタに対して、みんなで徹底的にディスカッションすると議論も長くなるのですが、週1回に原稿を間に合わせようとするとブラックな働き方になってしまうんですよね。それは嫌だよねということになり、であれば自由でいいか、と今に至ります。

玉木:その頃からから週1回くらいのペースで取り組まれていたのですね。

大槻さん:必ず毎日更新して目につくようにする、認知を得るというやり方もありだと思いますが、私たちには、その選択肢は選べなかったので。それよりは1発大きいのを当てるということを何回か繰り返すことで認知を貯めていくという方式にしました。

玉木:毎日更新にした方が読者も見る習慣がついて、PV数も上がるというのが一般的な考え方だと思っていました。

大槻さん:記事を作るスキルがある方が揃っていて、クオリティも担保できるのであれば、それは最強だと思います。ただ、いかんせん私たちは素人だったので、面白い記事を作るというところが最初の到達点だと考えていました。そうすると、その他の、特にノルマ的なものは外していかないとなかなか難しかったということです。

玉木:頻度よりクオリティを重視されたということですね。いくら頻度を上げたところで内容が伴わないと意味がないですもんね。ちなみにライターさんとは、どれくらいお付き合いをされていらっしゃるのですか。

大槻さん:最初の頃はライターさんとお付き合いしてたのですが、今は編集プロダクションさんと契約して、ライターさんの調整は先方にお任せする形になってます。

玉木:ちなみに最近すごく反響があった記事やコンテンツはどれになりますか。

大槻さん:最近は、『働き方改革は教員のためだけではない──「定時上がり」をITで実現した小学校の本当の狙い』という記事が読まれておりますね。

働き方改革は教員のためだけではない──「定時上がり」をITで実現した小学校の本当の狙い
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m005958.html

また、去年「がんばるな、ニッポン。」というCMを出しましたので、その特集に紐づく形で「そのがんばりは、何のため?」という特集をサイボウズ式で組んでおり、たらればさんという人気のブロガーさんに書いていただいた、「管理職のきみと、いつか管理職になるきみと、管理職が苦手なきみへ」という記事も非常に読まれました。

玉木:私もその特集内の『「もう出社しない」って本気ですか?サイボウズ社長青野にアフターコロナの働き方をあれこれ聞いてみた』という記事はめちゃくちゃ気になりました!出社しない社長ってすごいなと衝撃を受けました。

大槻さん:実はちょくちょく来てるんですけど。(笑)この辺はやはり読まれていると感じます。

玉木:読まれる記事の共通点はありますか。

大槻さん:いくつかありますが、トレンドに乗った記事というのは、すごくわかりやすいと思います。コロナでリモートワークが進みましたが、テレワークの記事は非常に読まれていますね。
あとはすごく下世話ですが、既にファンがたくさんいらっしゃる方にゲスト寄稿いただくとヒットしやすいです。また、特定の業界や特定の職種の悩みというように、話題がニッチになればなるほど当事者に刺さり、そこからの共感で関係ない人にも広がっていくというのは感じています。

例えば、うちのチームにいるスイス人のアレックスさんが書いた「日本人の同僚に知ってほしいことー欧米人の僕が、日本企業で初めてマイノリティになった苦悩と期待」という記事は、日本企業(サイボウズ)で働いていて辛いよ…という記事です。これは言語のバリアがあるという話なのですが、外資系にお勤めの日本人の方などがまさに普段本社とのやり取りで、英語でマイノリティなので共感するといった感じで広がっていきました。そういう事も多いですね。

記事の反響はTwitterのエゴサで確認~コメントに書かれているヒントを見逃さない

玉木:編集会議で議論をされるとのことでしたが、議論の争点は、テーマに関してですか。それとも記事の内容そのものに関してなのでしょうか。

大槻さん:どちらかというと後者ですね。テーマ自体は色々なテーマがあっていいと思うのですが、それをどう面白く見せるかというところで、タイトルの付け方や導入部分が面白いかどうかなど、そういった議論が多いですね。

玉木:結構、技術的な細かい話し合いなんですね。

大槻さん:はい。先程お話ししたように、ネタの部分に関してはオンラインで議論を済ませてしまうことが多いので、リアルで会う際は、そういう技術指導みたいなエントリが多いと思います。

玉木:記事公開後、どのように反響を確認されているのでしょうか。

大槻さん:どちらかというとページビューよりはTwitterを見ていまして、こんなコメントがあったというのをスクショで全部記録し、スレッドに貼り付けています。
それを見て、こういう記事を出すとこういう反応が返ってくるのかと日々学んでいます。
サイボウズ式は、「わかる」とか「共感する」というコメントとともに“シェアしてもらう”ことをすごく重視しています。シェアステートメントと言うらしいですが、「シェアしてくれているコメントにヒントがあるぞ!」という考えのもと、全員でエゴサーチをしています。

あと余談ですが、時々、有名人の方がシェアしてくださることがあるので、それを見つけると、「これについてあなたはどう思いますか」と、追加取材をさせていただき、そこでさらにお話を聞くということで、話題を膨らませていったりもしています。

玉木:ちなみに直近のサイボウズ式さんのPV数ってどれくらいなのでしょうか。

大槻さん:確か月間で25万ページビューくらいだったと思います。
やはりそんなには伸びないんですよね。早い段階で20万くらいにはいったのですが、そこから5万くらいしか上がらなくて。ある意味ネット上で、サイボウズ式というテーマでリーチできる方達には、ほぼ届いているのかなという感じはあります。ここからブーストするのは広告とかになってくるのかもしれませんが、それは少し違うと思い先ほどのサイボウズ式ブックスに繋がっていきます。

サイボウズ式は採用や売上、取材誘致…多様面で大きな影響を与える存在に

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玉木:グループウェア上でサイボウズ式のアピールは、特にされてらっしゃらないですよね。

大槻さん:そうですね。あくまでも製品に興味の無い人に届けたいということで、「生き方」「働き方」というところにこだわって運営しています。

玉木:現在、経営目線でのサイボウズ式に対する評価や効果は、どのような感じなのでしょうか。

大槻さん:特に何も言われずやってますので、評価いただいているんだなと思っています。(笑)
10年20年前のサイボウズというのは先端層向け、ITが大好きな人達向けのビジネスだったのが、いよいよマス層に広がってきている時に、普通の製品広告ではなかなか届かない人たちにリーチするためには、重要なインフラの一つになってるのではないかと。また、サイボウズ式は、売上や製品マーケティングだけでなく、採用にも貢献していると思います。
会社の成長とともに、毎年採用人数も増えているのですが、サイボウズ式によって獲得できている側面も大きいです。

サイボウズ式を始める前まではBtoBですから全然ブランド力が無く、特に学生さんに知られていないという状態でしたが、サイボウズ式を始めてからは「サイボウズ式で知りました」というケースも増えましたし、中途の採用に関しては応募数が3倍くらいにまで増えています。

こんな自由な働き方をしていますから、自立して公明正大でサイボウズのビジョンに共感している人に入社してもらわないと、なかなか成り立たないんですね。嘘をつくような人は困りますし。でも、サイボウズ式や本を読んでいらっしゃいますので、サイボウズについて理解してくださっていますし、カルチャーフィットする方が入社してくださることで、離職率の低下にも貢献していると思います。

そういう意味で、広報はステークホルダー全体に響く活動だと思うのですが、売上やマーケティング、採用、短期売買の株主から長期ホルダーに変わり経営が安定する、販売パートナーさんやビジネスパートナーさん達も共感してサイボウズのエコシステムに入ってきてもらえる、そうすると社員のロイヤルティも上がりますし、社員の家族や友人からの評価も上がるので本人の満足度も上がる…といったように、多方面で効果を感じられると思っています。

玉木:今でこそ、多方面で効果を感じられていると思いますが、最初の頃はどういった効果を感じることができていましたか。

大槻さん:定性のところは先ほどお話した通り、サイボウズ式が知り合いのフォロワーで流通していくというのもあったのですが、しばらくはそれだけでした。

ただ、売上面で言うと、一応調べてみたらサイボウズのクラウドを契約した方にどこで知りましたかとお聞きしたら、5.7%くらいがサイボウズ式でサイボウズを知ったという結果でした。私たちのサービスはサブスクなので3年とか5年でみた時にはなかなかバカにならない売上貢献だなと感じていました。

面白かったのは、それをもう少し分解して見てみると、半分くらいの方が、1回サイボウズを離れたお客様で、サイボウズ式を見て、そういえばサイボウズってあったなと、また戻ってきてくれた方だったんです。

ですので、露出が高まると離反顧客がまた戻ってきてくれるきっかけになったりもするということがわかりました。

玉木:メディア露出が一気に増えたというのもあったと思うのですが、それ自体もサイボウズ式を始めた影響だったのでしょうか。

大槻さん:はい。サイボウズ式がサイボウズを取材するネタのショーケースのような位置づけになっているというのは言えます。
実際、「子連れ出社をしました」という記事で、お母さんが子どもを連れてきて会議をしている様子を載せたのですが、この記事をきっかけに日経新聞の記者さんから取材したいと連絡いただき、取材につながったこともあります。取材は、おっしゃる通りサイボウズ式のおかげで増えました。

玉木:売上も上がり取材も増え、認知度も上がったと。すごい好循環ですね。

大槻さん:サイボウズにおいては本当にやって良かった施策になっています。