近大マグロでおなじみ近畿大学の広報室長・加藤公代さんが語る「広報ファースト」の姿勢に学ぶ 話題になるPRの仕掛け方

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当記事は、2020年10月16日(木)に行ったオンラインセミナーのレポートです。

建学の精神を具現化した『近大マグロ』

近畿大学 広報室室長 加藤公代さん

近畿大学 広報室室長 加藤公代さん

玉木:本日は、「『広報ファースト』の姿勢に学ぶ 話題になるPRの仕掛け方」についてお話を伺えればと思っております。よろしくお願いします。まず、近畿大学がどういう特徴を持った大学なのか、教えていただけますでしょうか。

加藤さん:近畿大学は大正14年に大阪専門学校として設立し、現在、創立95年の大学です。2025年に創立100年を迎えるにあたり、大学としても現在色々と準備をしているところです。近畿大学の建学の精神は、「実学の教育」と「人格の陶冶」で、医学から芸術まであらゆるジャンルを網羅しており、現在は14学部48学科と関西の中でもかなりの規模を誇る総合大学です。
もう少し詳しくお話すると、近大の「実学」とは、

・それまでにない独創的な研究に挑むこと
・その研究成果を社会に活かし、しかも収益をあげること

としているのですが、それを具現化した代表例が『近大マグロ』です。

近大マグロは近畿大学が32年かけ、クロマグロの完全養殖に成功したという大きな研究成果です。近畿大学水産研究所で近大マグロは養殖されているのですが、この研究所が近畿大学の建学の精神を一番分かりやすく表している場所だと思います。戦後間もない頃に、初代総長の「海を耕せ」という言葉から、1948年に設立されました。
2013年には大阪と東京に、そして今年8月にはグランスタ東京のエキナカ店舗として近畿大学の養殖魚を味わっていただけるお店をオープンしました。研究成果を社会に還元することも近畿大学の大きな目的ですので、それを具現化するこういった店舗ができたことで、皆様に親しみを持っていただけているのではないかと思います。

「入れ替え戦のないリーグ戦」からの脱却のため、全学的に広報を強化

加藤さん「課題は、入れ替えのないリーグ戦で戦っている、ということでした。」

加藤さん「課題は、入れ替えのないリーグ戦で戦っている、ということでした。」

玉木:実際、大学の広報室としては、どのような活動をされているのでしょうか。

加藤さん:まず一つは、受験生を対象に、近畿大学を受験したいと思ってもらえるような広報活動です。(今年はできていませんが)オープンキャンパスの開催や大学案内の冊子、受験生向けのポスター制作などです。二つ目がメディア対応です。プレスリリースの作成や取材対応、大学のスポークスパーソンとしての対応のほか、ブランディングを目的とした広告も広報室で担当しています。
これらの業務を一つの部署で行っているというのが大きな特徴だと思います。

玉木:2017年に広報室長に着任された際、どういった想いや課題をお持ちでしたか。

加藤さん:2009年に人事部から入試広報課という部署に異動しました。その時は、今のような広報体制ができていなかったということもあり、自分が“何か仕掛けよう”といった想いを持っていたわけではなく、当時の上司が民間から来た者だったので、プロパー職員として自分がすべきことは何かを考え仕事をしていました。そこから見えてきた課題というのが、我々が「入れ替えのないリーグ戦で戦っている」ということでした。

大学のグループ分けというのは関東でも関西でもよく聞くことがあると思います。
関西の場合、トップグループが京大・阪大のような国立グループ、二番手が「関関同立」と言われる私立グループ、そして私たち近畿大学は「産近甲龍」と言われる三番手リーグにいます。リーグという言い方は私たちがそう言っているだけなのですが、大学ではこういったグルーピングが至る所でされています。そしてこれらのグループは決して入れ替わることがなく「入れ替え戦のないリーグ戦」と名付けました。
こういう固定化された概念がある以上、私たちはいつになっても「産近甲龍」の中の近畿大学でしかない、受験生から見ても関関同立の下のグループとしか思われていないという問題に気付いたときから、全学的に広報に力を入れ始めるようになりました。

年間500件前後のリリースを発信~掲載実績を「打率」で管理

 加藤さん「プレスリリースに関しては、出したものがどれだけ掲載されているか、月ごとに集計しています。」

加藤さん「プレスリリースに関しては、出したものがどれだけ掲載されているか、月ごとに集計しています。」

玉木:広報に力を入れると決めてから、まずどういったことに着手されたのでしょうか。

加藤さん:2013年に広報部(当時)ができ、そこから、プレスリリースを出してメディアにアピールし、とにかく近畿大学をテレビや新聞等ににたくさん出すことに力を入れました。メディア露出が増えていくと、徐々にメディアに出すことが重要だと学内で認知されるようになりました。

玉木:メディア露出について、非常に細かく数値管理されていると伺ったのですが、詳しく教えていただけますでしょうか。

加藤さん:はい、プレスリリースに関しては、出したものがどれだけ掲載されているか、月ごとに集計しています。

リリース打率

リリース打率

今ご覧いただいているのは、平成30年度の年間のリリース打率なのですが、1年で出したリリースが559件でした。<全紙>と<主要5紙>で分けて管理し、一件でも露出した場合は「掲載リリース」でカウントしています。<全紙>で見た場合の打率が44.5%に対し、やはり五大紙はハードルが高くなるので、23.8%と打率も下がっています。また、この表でお分かりいただけるように、ベンチマークする他大学の状況もチェックするようにしています。

次に令和元年度ですが、2月以降、新型コロナウイルスの影響でリリース本数が少なくなり、リリース件数は476件と平成30年度(559件)に比べると少なくなっていますが、<全紙>の打率は49.2%と上がっています。

このように、出したリリースがどれくらい、どういった媒体に掲載されているかをきちんと確認することを心掛けています。

玉木:リリースの打率は年々上昇しているのでしょうか。

加藤さん:そうですね、年により若干上下しますが、徐々に上がってきています。たくさんリリースを出すと打率は下がってくるので、絞った方が打率は上がりますが、掲載のチャンスも減ってくるので、そこは難しいところです。

130名の広報担当から、広報室にネタが集まる体制を構築

加藤さん「学園全体で130人ほどの広報担当者がおり、そこから広報室に対してリリースのネタを上げてもらっています。」

加藤さん「学園全体で130人ほどの広報担当者がおり、そこから広報室に対してリリースのネタを上げてもらっています。」

玉木:非常に規模の大きな大学ですが、どのように情報収集をされているのでしょうか。教員の方々の協力体制などについてもお聞かせください。

加藤さん:最初から協力体制が整っていたわけではなかったので、まず高校以下の附属学校も含め、全学部・全部署・全学校に広報担当者という役割を作ってもらいました。現在は、学園全体で130人ほどの広報担当者がおり、そこから広報室に対してリリースのネタを上げてもらっています。
こういった取り組みを始め、少しずつ掲載されるようになると、リリースを出せば掲載されるということがわかってもらえ、徐々に協力も得られるようになりました。

また、リリースの重要性を浸透させるという点では、学内の協力も大きいです。現在、3か月に一度開かれる学部長や各部署の部長が集まる会議で、リリースの打率に関する情報も共有しています。そこで、どの部署からどのくらいリリースが出ているかわかる仕組みになっており、自分の部署からあまりリリースが出せていないとわかると、積極的に出そうと思うようになったり、学長や理事長もその場で「広報には積極的に取り組むように」といった発言をしています。こうして、リリースを多く出すための協力体制ができてきました。

玉木:リリースだけではなく、コメンテーターガイドも制作されていると伺いましたが、これはどういったものなのでしょうか。

加藤さん:近大の専任教員約1200名を顔写真付きでコメンテーターガイドに掲載しています。メディアに対して、各教員がどういう分野の話ができるかをまとめています。2013年から毎年改訂しながら発行していまして、私たちが新聞やテレビなどメディア関係者にお会いする際にお渡しし、何かお困りのことがあれば、近畿大学の人材を活用してくださいといった広報活動をしてきました。

コメンテーターガイドブック

コメンテーターガイドブック

玉木:他大学でもこういった取り組みはされているのでしょうか。

加藤さん:私たちが始めてから、他大学でも同様の取り組みを始めたところもあるようです。近畿大学は医学部はじめ、理系の学部が多いので重宝されるのですが、文系だけだと難しいかもしれません。

玉木:WEBでの公開ではなく、冊子としてまとまっていることで取材につながりやすくなっていますか。

加藤さん:そうですね、コメンテーターガイドはWEB版も同時に作っているのですが、対面でお会いした際に渡せるので、“こういったものを作っています”というアピールにはなっていると思います。

大学名がなくても「近大」とわかる広告に~評価は「SNSの反響」で測定

加藤さん「国際学部ができた際には「#すべてが勉強中」というハッシュタグのコピーをつけた広告も出しています。」

加藤さん「国際学部ができた際には、#すべてが勉強中、というハッシュタグのコピーをつけた広告も出しています。」

玉木:「早慶近」というキャッチコピーも有名ですが、こういったアイディアやPR切り口はどのように生み出しているのでしょうか。

加藤さん:私たちがすべて考えているわけではなく、広告代理店にもちろん協力いただいています。
過去に「近大をぶっ壊す」、「マグロ大学って言っているヤツ、誰や?」、「早慶近」といったポスターを出しました。これらのビジュアルについては私たちが直接手を加えることは難しいですが、コピーについては代理店さんと私たちで一緒に考えています。「早慶近」については、ヘッドコピー「早慶近」は代理店さんからの提案ですが、それ以外のコピーについては、私たち広報のスタッフで100%考えました。代理店さんからも良いコピーがあがってきますが、大学の一人称で書かれているものではないので、大学側が見た際に違和感があることもあります。そのため、自分たちで考えるようにしています。

ちなみに、広告を出稿した後、いつもSNSの反響で広告の価値を測っています。「早慶近」の際は非常にバズりまして、掲出日の早朝から新聞広告の写真を撮ったものを添えたツイートがたくさん上がりました。賛否両論ありましたが、結果的には読売広告大賞のグランプリをいただくほど、世の中に影響を与えられたと思っています。翌年は「早慶近ではなくなったことのお詫び」広告や国際学部ができた際には「#すべてが勉強中」というハッシュタグのコピーをつけた広告も出しています。この当時、ハッシュタグを使ったコピーは先進的だったと思います。SNSでの評判も上々でした。

その他にも、「大阪のユニバといえば、近大やろ」や、去年は大阪万博が決まったので「近大は万博だ」といった広告を出すなど、常に反響を呼び、SNSで話題になる工夫を凝らしています。

その中で、一番気をつけていることは、“大学名がなくても近大とわかる広告”にするということです。大学の広告は、キャンパスで学生が微笑んでいるような、ふわっとした感じのものが多いのですが、同じような広告だと他大学との差別化が図りづらいので、私たちはできるだけ“大学名がなくても近大とわかる広告”を作ろうと心掛けています。また、大阪らしい笑いやユーモアも忘れないようにしています。

玉木:広報室で広告業務も担われているのですね。

加藤さん:はい、そうです。広告の種類も学生募集という高校生向けのものと大学のブランディングのものと両方担当しています。

玉木:広報と広告の連動で何か意識されていることはありますか。

加藤さん:私たちは広報と広告を融合させたコミュニケーション戦略という言い方をしているのですが、自分たちの中では“受験生向け”、“一般向け”の施策を切り分けてはいますが、見る方は誰向けの広告であっても、「あ~近大の広告だな」と思いながら目にすると思いますので、必ず話題になりそうなものにするということを心掛けています。クオリティの高いものを作れば、受験生でも、その親御さんでも一般の方でも良いと感じてくださると思うのです。そういった考えのもと、広報と広告を融合させ、近畿大学のブランド力を高めていきたいと考えています。

7年連続、志願者数1位でも話題にならない~広報には「変化」が重要

加藤さん「今年の3月に7年連続で1位と決まっても、一切ニュースになりませんでした。」これが広報の難しいところ。

加藤さん「今年の3月に7年連続で1位と決まっても、一切ニュースになりませんでした。」これが広報の難しいところ。

玉木:近畿大学は志願者数が7年連続全国1位と、すごい実績ですね。

加藤さん:そうですね、すごい実績だとは思いますが、今年の3月に7年連続で1位と決まっても、一切ニュースになりませんでした。このポジションを守ることは大変ですが、広報的な観点からいうと話題にならず、少し残念な感じはあります。話題になるというのは「変わる」ということで、どの分野においても“初めて1番になる”というのが話題になるポイントだと思っています。実際、2014年度の入試で志願者数が1位になった際は、首都圏以外の大学が初めて1位になったということで、新聞やテレビなど、様々なメディアが話題にしてくれました。ただ、これが7年続くと全く話題にならない…これが広報の難しいところだと感じています。
7年連続というのは、もう大学関係者しか知らないと思います。(笑)

もし来年度、他大学が1位となれば、「近大陥落」と、それはすごくニュースになるとは思いますが、私たちの中では1位を取り続けるということも重要だと考えています。

玉木:2014年度に初めて志願者数が全国1位になったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。それともじわじわと増えていったのでしょうか。

加藤さん:2013年度が3位だったので、じわじわというのが正しいと思いますが、当時の要因としては、2013年に東京と大阪に近大マグロのお店を作ったことが挙げられると思います。
その時の露出量は本当にすごく、近畿大学が全国的に知られるきっかけになったと思います。

玉木:近畿大学と言えば、近大マグロのイメージが強いのですが、最初に発表した時から数年後に、再度、情報発信を強化されていますが、その理由をお聞かせいただけますか。

加藤さん:私が入試広報課に異動した時に、近大マグロが再発信されるタイミングでしたので、当時の私の上司が中心となり進めていました。背景としては近大マグロの成果は2002年のもので、私が広報として関わりだしたのが2009年ですので、その頃には、近大マグロについてやりつくした感がありました。ただ、民間企業からきた上司は、「世の中の人は、大学が思っているほど近大マグロを知らない」という意見でした。世界初の研究成果でしたので、やはりもっと出していくべきではないかということになり、再び近大マグロに関しての情報発信をすることにしました。すると、時代がこちらに寄って来てくれたと言いますか、マグロの漁獲制限が社会問題になっており、マグロの養殖に対し、これまで以上に注目が集まるようになりました。広告でも、近大マグロを近畿大学の象徴として使っていくことで、さらに世の中から注目を集めるようになったと思います。

SNSはPR度の低いネタを投稿~ネコの救出劇は過去最多の51.2万いいね獲得~

加藤さん「『おうちで筋肉近大体操』と同じ時期に、マグロマスクカバーを製作しました。」

加藤さん「『おうちで筋肉近大体操』と同じ時期に、マグロマスクカバーを製作しました。」

玉木:メディア露出獲得以外に、オウンドメディア「Kindai Picks(キンダイピックス)」やSNSの運用も積極的にされていますがメディア露出との連動も意識されていますか。

加藤さん:SNSに関しては、PRとの連動は考えていません。近畿大学のフォロワーは学生が多いので、「お知らせ」は良いとしても、PR度の強いツイートというのは、好まれずフォロワーが離れてしまう傾向にあるので、どちらかというとSNSではバズることを目的とした投稿をしています。

オウンドメディアに関しては、“時世にあったもの”を心掛けています。例えば、先日、‘アフターピル‘が話題になっていた時には、大学生に対する意識調査の記事を掲載するなど、世の中で話題になっていることに絡めて記事を上げていっています。

知っておきたいアフターピル(緊急避妊薬)の基礎知識。副作用や低用量ピルとの違いは?
https://kindaipicks.com/article/002124

コロナの自粛期間中の今年5月には、Twitterと「Kindai Picks」で連動した『おうちで筋肉近大体操』という企画を実施しました。NHKの筋肉体操で有名な本学の教員・谷本道哉准教授にオリジナルの体操を作ってもらっていました。これをTwitterの動画と「Kindai Picks」の記事で連載をしたところ、動画が23.9万回再生されるなど、かなり話題になりました。

『おうちで筋肉近大体操』と同じ時期に、マグロマスクカバーを製作しました。これは、自粛期間中で時間があるだろうということで、近大マグロのペーパークラフトの型紙をホームページで公開し、マスクの上にマグロの頭、そして後頭部にヒレを付けるという遊び心のある企画を実施しました。それを「ねとらぼ」さんが掲載してくれまして、全国ネットのテレビや新聞にも取り上げてもらえ、ビックリするほど想定外にバズりました。

また今年5月に、近畿大学のキャンパスに近所のネコが迷い込みまして、鉄柱の上から降りられなくなってしまったのですが、救助されるまでの様子を実況ツイートしました。それが近畿大学のTwitter史上最も多い51.2万いいねを獲得しました。これをきっかけにフォロワーも非常に増えました。

近畿大学のネコツイート

近畿大学のネコツイート

SNSに関しては、世の中とコミュニケーションを図るような、PR度の低い投稿のほうが受け入れられ、フォロワー数が増えたり、近畿大学に対し、親しみや共感が得られるのではないかと考えています。

玉木:SNSの運用は専属の担当がいらっしゃるのでしょうか。

加藤さん:TwitterとInstagramを運用しており、担当者は置いていますが、その者もSNSだけではなく他の業務を行いながらSNSを運用しています。Twitterに関しては、適性のある者が部署にいるので、上席の許可なしに、その者のセンスと判断で進めてもらっています。

玉木:様々なところからネタが上がってくるというお話でしたが、どのようにバズるものの選定をされていらっしゃるのでしょうか。

加藤さん:意識してバズるものを作るのは難しいと思います。ネコの話でいうと、もちろん私たちは全然知らない話だったのですが、このことを「広報に言った方がいいよ」と言ってくれた人がいて、私たちの元に情報が入ってきました。ネコとTwitterの相性は良いと思っていましたので、写真を撮り投稿していきました。何より、些細なことでも広報に使えるかもとみんなが感じてくれているのがありがたいです。

玉木:先ほど、『おうちで筋肉近大体操』のお話がありましたが、これは谷本先生からのご提案だったのでしょうか、それとも広報からの提案だったのでしょうか。

加藤さん:広報側からの提案です。今、谷本は人気がありますし、時世にも合っているので、この企画を進めようということになりました。制作会社に依頼し、数日で動画を制作しました。

玉木:比較的、広報発信のものが多いということでしょうか。

加藤さん:そうですね、ただ「Kindai Picks」は学生のライターもいますので、学生から環境問題やSDGsについて取り上げたいといった持ち込み企画もあります。

ホームランばかりではなく、ヒットを増やすことも意識

加藤さん「人事異動で毎年スタッフが変わりますので、どうやって同じスピリットを持ち続けていけるかというのは課題だと思います。」

加藤さん「人事異動で毎年スタッフが変わりますので、どうやって同じスピリットを持ち続けていけるかというのは課題だと思います。」

玉木:現在、広報室には何名いらっしゃるのでしょうか。

加藤さん:私を入れ、14名です。全スタッフが学生募集の広報にも大学のブランディングにも関わるようにしています。

玉木:非常に多くの広報成果を出していらっしゃいますが、広報上の課題は何かありますでしょうか。

加藤さん:人事異動で毎年スタッフが変わりますので、どうやって同じスピリットを持ち続けていけるかというのは課題だと思います。

玉木:本日は、企業や組織の広報担当の方に多くご参加いただいているのですが、皆様にアドバイスするとしたらどのようなことがありますでしょうか。

加藤さん:皆様お困りのことは、情報が広報に集まらない、リリースを出してもメディアの目に留めてもらえないといったことかなと想像すると、まず全国ネットの番組や密着番組に一つ露出させるという大きな目標ではなく、業界紙やWEBニュースでもいいので、小さな成功事例を積み重ねることが一番大事だと思います。何か一つでも社内に報告できるような露出を作り、それを例に、こういった取り組みをすれば自社のことが世の中に伝わると理解してもらうのが第一歩ではないかなと思います。

玉木:いきなりホームランではなくヒットを増やしていくということですね。

加藤さん:はい、そうやって広報への協力者を増やして、情報をもらえるようにするのが大切だと思います。もちろん毎回ホームランが出せたら嬉しいですが、それだけ狙うというのはダメだと思っています。本学は全国に学校があり、例えば福岡には大学・短大・高校・幼稚園があり、リリースもよく出しているのですが、地方都市の場合、地元紙でよく取り上げてくださいます。幼稚園でプレスリリースを出しているところは少ないと思うのですが、芋ほり遠足やお餅つき大会といった季節のネタは地元の話題として重要ですので、掲載していただけているのだと思います。全国ネットで近大マグロを取り上げてもらうのも重要ですが、地域の方に見ていただけるような紙面に載り、「近畿大学の幼稚園はこういった取り組みをしているのか、うちの孫も入れたいな」と思ってもらえるような、こういった取り組みを発信することも止めてはいけない、むしろ大事だと考えています。

コロナ禍でもメディア露出量のキープとブランド力向上を目指す

加藤さん「入れ替え戦のないリーグ戦を打破していく、というのが目標です。」

加藤さん「入れ替え戦のないリーグ戦を打破していく、というのが目標です。」

玉木:今後のPRの目標についてお聞かせください。

加藤さん:近畿大学は話題が豊富でいつもメディアに出ているというイメージを持っていただけているかもしれませんが、特に今はコロナ禍ということで、イベントもできませんし、コロナ以外の普通の話題が取り上げてもらいづらいという状況ですので、伸び悩みはあります。
例えば、入学式も非常に大きなイベントで話題にはなるのですが、続けていくとどうしてもマンネリ化してしまい、メディアの方からも「何か新しいことないですか」と聞かれてしまうんですね。これは広報として、つらいところではありますが、引き続き露出量はキープしていきたいと思っています。

もう一つは大学のブランド力向上です。7年連続志願者数が全国1位ではありますが、大学のグループ分けが崩れているわけではないと思っていますので、「入れ替え戦のないリーグ戦を打破していく」というのが目標です。

常時テレビを流し、急なコメント依頼に備え迅速に対応

以下から質疑応答タイムとなります。

Q.すぐにプレスリリースを出せるようにフォーマットを何種類か用意されているのでしょうか?

加藤さん:リリースのフォーマットは一つしかありません。ただ、大きな事件や事故が起こると関連する先生へのコメント依頼が多く入ってくるので、広報室でずっとつけているテレビでそういったニュースが入ってきた際は、予め対応できる先生がどこの学部にいるか把握して、すぐに取材対応できる準備をしています。

メディア露出から逆算したイベント設計

Q.広報室の課長になられて真っ先に着手したことは何でしたか?

加藤さん:広報部(当時)の課長になったのが2013年で、広報部ができた年なんですが、その年は近畿大学水産研究所のお店が4月と12月に大阪と東京でオープンしましたので、できるだけ多くのメディアに露出させるため、その対応に追われたという感じでした。

水産研究所大阪店オープン

水産研究所大阪店オープン

理事長や学長によるテープカットも行ったのですが、その後にメディア向けに画になる写真を撮っていただくため、マグロのくす玉を作り、OBの赤井英和さんやオリンピックメダリストに出席してもらう場を設けました。

銀座店のオープニングの際は、お店のオープン時間である11時半にテープカットをすると夕刊に間に合わないとある新聞社から言われまして、朝10時に新聞社向けのテープカットをし、11時にお店の外のエリアを使った除幕式をテレビ向けに実施しました。

メディア露出を増やすために、時間調整や、面白い画作りといった工夫をしながら乗り切りました。

大阪と東京で記者懇談会を実施、メディアとのリレーションを強化

Q.記者さんに対し、どういったアプローチをされているのでしょうか。

加藤さん:毎年、大阪と東京で記者懇談会を実施していまして、100名程度の方に参加いただいています。そこで、人間関係を作るということをしています。今年は、コロナの関係で対面での懇談会はできなかったため、オンラインで実施しました。
また、新聞記者は人事異動が多いので、異動があった際は対面でお会いし、大学にも来ていただき、近畿大学についてレクチャーさせていただくということもしています。

玉木:東京のメディアともリレーションを取っていらっしゃるのですね。

加藤さん:はい、東京の八重洲口に東京センターがありますので、そこで懇談会を実施しています。あとは、東京のほうがメディアの数も多いということで、定期的にメディアの大学担当や専門誌などを訪問しています。

ピンチをチャンスに変えられる大学に

Q.今後、コロナ禍により大学広報の報道がかなり制限されることになると思います。何が重要だとお考えでしょうか。

加藤さん:近畿大学もコロナにより後期に実施していた学園祭もなくなるなど、ネタが少なくなり、去年に比べリリースの数は減っています。ただ、近畿大学はコロナ禍においても、どれだけニュースを出せるかに挑戦しています。
近畿大学は大学病院もありますし、社会に貢献する実学教育の大学ということで、現在オール近大でコロナに立ち向かうプロジェクトも進んでいます。そこでの成果が出れば発表し、世の中に役に立ち、ピンチをチャンスに変えられる大学でありたいと思っています。

いいアイディアは良い関係構築により生まれる

Q.広報するネタを作るためのアイディアの出し方を教えてください。

加藤さん:「Kindai Picks」では、週一回、企画会議を行っており、そこで今何が流行っているかを話し合うほか、時には若い子たちが何を考えているかを知るため、学生にヒアリングすることもあります。あとは、いいアイディアを出すことも大事ですが、フラットにネタを出し合える関係を構築する、例えば小さい会議をたくさん設けるといった工夫も必要だと思います。

年1回、広報担当者を集めた研修を実施

Q.社内に広報担当者が130名ということで、広報の意識付けが必要だと思いますが、各地にいる担当者とのコミュニケーションを活性化するために行っていることがあれば教えてください。

加藤さん:Slackを活用し、広報担当者同士の連携を取っています。Slackを導入してから、気軽に連絡を取りやすくなったと思います。
部署により、情報が出てくる/出てこないはあるのですが、目に余る場合は指導を入れます。
例えば広報室に連絡なく勝手に取材を受け、知らない間に新しい話題が世の中に出てしまうといったことがあった場合、その部署のトップに申し入れし、学内全体に情報の取り扱いについて周知させています。
その他、年1回各地の広報担当者を大阪に集め研修を実施しています。そこで、プレスリリースの作り方や危機管理についてレクチャーしたり、懇親会を実施したりし、交流を深めています。

広報担当者がリリース素案を作成し、広報室で最終調整

Q.どのようにこれだけ多くのリリースを作成されているのでしょうか。何人でリリースに取り組みどれくらいの期間で完成されているのでしょうか。

加藤さん:130人の広報担当者がリリースのフォーマットに情報を入れた素案を作り広報室に送られてきます。部署によってどの程度の完成度で送ってくれるかは異なりますが、一から広報室でリリースを作るわけではなく、送ってもらったリリースの表現を工夫したり、タイトルや写真の調整などを管理職除く10名のスタッフで対応しています。

作成にかける期間は、1日のものもあれば1週間以上かけるものもあります。
タイミングとしては、催し物のお知らせですと2週間前、イベントは1週間前くらいにリリースを出せるように準備してほしいと伝えています。

掲載可否を判断するのはメディア、ただし広報室が難しいと判断したリリースは出さない

Q.リリース数をKPIにすると、ニュースにならなくてもとりあえず出すということになってしまいませんか。

加藤さん:2013年頃、リリースを強化したときは、リリースするのに値する内容か迷うものもありました。ただ、それを載せるかどうかの判断はメディア側ですので、当初は「これはちょっと…」というものでも出していました。今は、私たちの方でもある程度選別できるようになり、難しいと判断したものは、素案が来た段階で断っています。
各部署の目標としてリリースを何件出すという目標を掲げているかは把握していませんが、もし、目標持ってくれているのであれば、広報への意識が高まっているということでもあると思うのでありがたいです。

メディア露出できるチャンスを見逃さない

Q.アカデミックシアター内の座席に紙でできたマグロのフィギュアのようなものを置いて、ソーシャルディスタンスを促していましたが、あれも広報のアイディアでしょうか。その探究心はどこからくるのでしょうか。

加藤さん:ソーシャルディスタンスを確保するため、いろいろな場所で座席にぬいぐるみ等を置いている報道を見た方も多いと思います。緊急事態宣言が解除され、大学も一部入校が許可されたのですが、私がアカデミックシアターを通ったときに座席に“座らないでください”といった張り紙がしてあったんですね。久しぶりに学校に来た学生がこれをみても楽しくないなと思いまして。ちょうどマグロマスクが話題になったタイミングでもあったので、せめてこれを置いてもらえないかとアカデミックシアターに伝えると、「広報で作ってくれるならいいよ」という返答でしたので、人海戦術でスタッフと学生にも手伝ってもらい、コピー用紙で作ったマグロを置いたという経緯です。どこか取材に来てくれないかなという欲で実行しました。(笑)
実際に、新聞・テレビでも報道されましたので狙い通り、と言う感じでありがたかったですね。

玉木:本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

今回のオンラインセミナー登壇者プロフィール

近畿大学 広報室室長 加藤公代さん

近畿大学 広報室室長 加藤公代さん

近畿大学 広報室 室長
加藤 公代(かとう・きみよ)さん

愛媛県出身。近畿大学文芸学部卒業後、学校法人近畿大学に入職。広報、人事、教学部門を経て、2017年4月から現職。2019年4月には、広報手腕に注目され、話題の女性の人生を映し出す新感覚ドキュメント「セブンルール(フジテレビ系)」で密着取材をされるほか、同年7月には故郷である愛媛県新居浜市の広報戦略アドバイザーにも就任。

近畿大学:https://www.kindai.ac.jp/

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