東京駅や新宿で開店と同時にその一か所だけ行列ができるカンロ直営店「ヒトブツカンロ」。
ASMRで話題になったグミッツェル等を求め、連日多くの人が押し寄せる。私も数回チャレンジしたが、その行列に断念。あるいは、すでに「本日分は完売」で、いまだに食べたことがない。この体験から、改めてカンロに注目。このほかにも、若者をはじめ多くの世代から支持される商品を多数展開している。
健康法として定着しつつある糖質制限は、カンロにとって逆風だったと思うが、それを感じさせない同社の広報部長・林さんに広報PR戦略と伺った。
(編集長)
この記事の目次
企業のブランディングを通し、ファンを増やす
編集長:本日は、よろしくお願いします。Zoomの背景画像かわいいですね~!
林さん:これは、カンロのキービジュアルで、紙袋などいろいろなところで使用しているものです。こういったものの制作なども広報部主導で進めています。
編集長:そうなのですか!では、そのあたりも後ほど詳しくお聞かせください。
まず、現在、広報は何名体制で、どういった業務を担当されているのでしょうか。
林さん:広報部は、私を入れて4名です。企業PR、商品PR(ブランド部と連動)、オフィシャルサイトの運営、オウンドメディア「Sweeten the Future」の運営、統合報告書などの発行物の作成、インナーコミュニケーション、CI管理が主な業務です。
編集長:業務は多岐にわたりますが、広報部のミッションはどういったことを掲げているのでしょうか。
林さん:ミッションは、カンロという会社のブランディングです。
そのために、カンロのファンを作っていく取り組みに力を入れています。広報部は2018年に立ち上がったのですが、それまでは経営企画部の中に広報機能があるという状況でした。現在もそうですが、その時もカンロは商品数が多く、ハードキャンディだと売上規模は業界1位でしたが、カンロの商品として思い出してもらえる商品が社名のついた「カンロ飴」くらいしかありませんでした。
実際、ハードキャンディでは「金のミルクキャンディ」が当社で一番売れており、グミでは「ピュレグミ」も非常に売上が大きいのですが、消費者の方にはカンロが出していると認識されていませんでした。つまり、販売の実態と企業のイメージが合っていない状態だったのです。
そこで、広報部が企業と商品のイメージをつなげていく役割を担おうということになりました。ちなみに、商品のブランディングは各ブランド部やマーケティング本部が行っています。
商品と企業を紐づけることで、相乗効果を生む
編集長:企業名とは異なるブランド名で商品を多く出していると、企業と商品が結びつかないというのは、よく起こることだと思います。カンロとしては、企業と商品が結びつかないことにより、どういった機会損失があったのでしょうか。
林さん:カンロは、100年以上の歴史がある企業で、企業に対する品質面などでの信頼感はお持ちいただけていると思うのですが、それが商品に紐づいていないという課題がありました。例えば、新商品を出しても、カンロというメーカーがもつ品質の高さなどの良さが商品に落とせていませんでした。
先ほどもお話した「金のミルクキャンディ」は、味や商品のコンセプトを気に入っていただけ、非常に多くの方に購入いただいています。ただ、「金のミルクキャンディ」をカンロが販売していると知られていないと、「金のミルクキャンディ」が持っている財産を別の新商品につなげることができません。商品とカンロが結びついていれば、新商品を出したときも「あの美味しい商品を出しているカンロだから、この商品も美味しいはず」と期待してもらえます。
ブランド数、商品数が多いからこそ、企業ブランディングが必要と感じています。
編集長:御社は企業としての歴史もありますし、糖の研究に力を入れていたり、素材の味を際立たせる製造の技術力もあるのに、商品と企業が紐づいていないと新商品を出しても、そのカンロがもつ強みを感じてもらえず、ゼロベースの状態で販売を始めることになりますもんね。
林さん:そうですね。あとは商品以外の部分が見せづらいということもありました。例えばどんなに会社の制度が良くても、それだけで興味を持ってもらうことは難しく、商品と企業が結びつかないと情報としても出しづらいと感じていました。
編集長:商品と企業のイメージが結びつくことで、相乗効果が生まれるということですね。
糖質制限ブームや若者の飴離れ…逆風の中で、糖の良さを伝えるオウンドメディアを立ち上げ
編集長:オウンドメディア「Sweeten the Future」では、糖の良さを中心に発信されていますが、立ち上げの背景としては、やはり糖質制限ブームもきっかけとしてはあったのでしょうか。御社としては、“糖に理解ある環境をつくる”ということにも力を入れていらっしゃり、そのための施策の一つとして、「Sweeten the Future」を挙げていらっしゃいますよね。
林さん:おっしゃるとおり、糖質制限が注目されている中で、2018年からオウンドメディア「Sweeten the Future」を始めました。当初は糖質制限に関心のある方に多く見られていたように思いますが、糖が体に与える良い影響などを中心に情報を発信してきたことで、最近は、30~40代の女性や食に興味のある方など幅広い層の方々にご覧いただけるメディアになってきています。
編集長:糖質制限ブームは御社にとって、やはり逆風でしたか。
林さん:弊社だけではなく、業界全体にとって逆風でした。当時、糖に関する意識調査を行ったのですが、その中で「飴についてはどう思うか」を聞いたところ、半数以上が「飴を控えたい」「今後飴を控えたい」と回答しました。糖質制限だけではなく、若い方は飴を舐めなくなってきているので、人口の減少による飴市場へのインパクトも大きいです。
編集長:飴からガムに移行している感じですか?キシリトールなど、歯に対するよい影響もあるようですし。
林さん:昨今は、ガムよりもグミですね。ASMRのブームや見た目のかわいらしさもあると思うのですが、果汁感があるからかヘルシーなイメージを持つ方も多いようです。グミは、お子様や若い女性だけではなく、男女ともに幅広い年代の方に支持されています。
編集長:となると、広報としては、糖の良さをオウンドメディアで伝えていくとともに、グミへの注目を活用した広報戦略を取られたりもしているのでしょうか。
林さん:どちらかというと「飴は悪いものではない」という情報発信に力を入れています。
例えば、飴は光にかざすとキラキラして見た目が可愛らしいんです。また舐めると糖分がゆっくり体に吸収されるので、体にとって良い側面も多いです。
ニュースレターにより、企業にフォーカスした露出が増加
編集長:「飴の良さ」はオウンドメディア以外でどう発信されていったのでしょうか。
林さん:商品PRには、必ず広報も入るので、プレスリリースを出す際は、商品の基本情報だけではなく、開発経緯やその商品を食べるとどんな良いことがあるかや、見た目のユニークさなど多面的に情報を入れるよう意識しています。2021年夏には、コロナ禍のマスク生活で口臭が気になる方も増えたようだったので「口臭に関するアンケート」をプレスリリースで出しました。飴をなめると唾液がでるので、口の中のケアになります。業界では常識だったのですが、一般の方にも飴の良さを再認識していただくことにつながられればと考えました。
また、プレスリリースだけではなくニュースレターも2021年から月1回発行するようになりました。改めて飴の良さを知ってもらうきっかけになりそうな話題を発信しています。
編集長:ニュースレターは、どういった理由から始めたのでしょうか。
林さん:新規情報以外に会社の取り組みや飴や糖の良さなど、発信する情報に幅を出すために始めました。ニュースレターだけによるものではないですが、その頃からメディアからの問い合わせ頻度も増えています。企業の取り組みに注目いただける取材が増えたことで、カンロのブランディングに結び付く露出が増えてきました。
アプリ化した「Web社内報」で、経営の動きをタイムリーに発信
編集長:インナーコミュニケーションについてもお聞きしたいのですが、現在社員数は何名なのでしょうか。
林さん:約600名です。広報部が立ち上がってから、インナーコミュニケーションにも力を入れ始めました。それまでは、社内でもインナーコミュニケーションに対する意識が弱かったのですが、現在は対外的なコミュニケーションとインナーコミュニケーションは半々くらいの比重で行っています。
編集長:2018年は新たに始めたことがたくさんあって、すごくお忙しかったでしょうね!具体的にインナーコミュニケーションはどういった目的で、どんな取り組みをされているのでしょうか。
林さん:2016年に現在の社長が就任し、そのタイミングで本社が移転したり、経営方針も変わるなど様々な変化がありました。会社の動きやその意図をきちんと伝えないと社員の意識がバラバラになってしまうという危機感があり、情報をを頻度高くタイムリーに伝えられるように、それまで紙で配布していた社内報に加えWeb社内報をスタートしました。
編集長:頻度高くというのは、月2回くらいのイメージでしょうか?
林さん:週に数回出しています。
編集長:そんなに!?
林さん:一から全部を広報で対応しているわけではなく、全国の各部門・拠点から選出されたコミュニケーション委員の力を借りて社内報を発行しています。
現在、コミュニケーション委員は約30名いるのですが、各部署への連絡や現場からの情報の吸い上げもお願いしています。新たな経営方針が発表された際には、社長や役員からのメッセージを出しており、そういった情報は広報部から発信しています。
編集長:企業規模が大きくなると、全社員に情報を行きわたらせ、会社の想いを理解してもらうことも難しくなりますよね。
林さん:カンロはそこまで大きな会社とは言えませんが、工場は山口県と長野県にあり本社から離れていますので、情報をタイムリーに届けるためにWeb社内報は有効です。
編集長:社内報において、多くの企業が抱える課題が「作ったはいいけど見てもらえない」ということだと思います。そのあたりで工夫されたことはありますか?
林さん:一つは、2021年からWeb社内報をアプリ化し、スマホからも閲覧できるようにしました。特に、工場では会社から個人用のパソコンを貸与されていない従業員も多いので、個人のスマホからも閲覧しやすいようにしました。また、一部の業務連絡もアプリの中で行うことで、アプリにアクセスするきっかけを作り、記事もみてもらえるような導線をつくっています。
もう一つは、身近な人の記事が出ていると読まれる傾向にあるので、社員を紹介していくコンテンツは、支店で働く社員や工場の社員を中心に取り上げ、読んでもらえるよう工夫しています。
編集長:アプリだと閲覧数なども把握することができるんでしょうか。
林さん:はい、わかります。2021年の秋からアプリ化していますが、それ以前と比べると閲覧数は非常に上がってきています。
強みである「糖」を打ち出すため、スローガンやロゴも刷新
編集長:CI刷新についても伺いたいのですが、2017年秋に企業ロゴも変えたそうですね。一大プロジェクトだったと思いますが、どのように進めていかれたのでしょうか。
林さん:CIについては、構想に1年弱かけました。まず全国からメンバーを30名ほど集め、プロジェクトを組みました。メンバーは会社の縮図となるように、年齢・性別・役職など様々な社員が参加しました。
そのプロジェクトで、カンロの強みは「糖」で、企業メッセージとしても糖を前面に出していこうという意思確認ができ、「糖から未来をつくる。」をスローガンとして掲げることにしました。その頃すでに糖質制限ブームが起こっていて、糖を前面に出すのはどうかという議論もありましたが、カンロの強みは糖というところに立ち返りました。このタイミングで、企業ロゴも変えています。
編集長:企業ロゴには「糖」を象徴する飴を入れたんですね。
林さん:そうですね、グミやそのほかのお菓子もありますが、やはり中心は飴なので。
ちなみに、企業理念については、コロナ禍による環境変化を受けて、2022年に企業パーパス「Sweeten the Future 心がひとつぶ大きくなる。」を発表しています。2017年にCIを刷新したときから、さらに一歩進んでカンロが存在する社会的価値を見つめなおしました。
ギフト需要を喚起し、飴の価値向上を図る
編集長:直営店「ヒトツブカンロ」はいつ行っても行列ができているイメージですが、直営店を立ち上げた理由は何だったのでしょうか。
林さん:「ヒトツブカンロ」は、2012年6月に立ち上げたので、今年がちょうど10年目になります。キャンディの価値をもっと向上させたいとの想いから立ち上げています。
例えば、チョコレートはスーパーなどの小売店でも売られていますが、ギフトとしても喜ばれる商品ですよね。一方、当時のキャンディはそういう存在ではありませんでした。キャンディだって可愛くて、プレゼントすれば喜んでもらえるます。ヒトツブカンロではキャンディの可愛らしさが引き立つパッケージや包装を意識し、キャンディをギフトとして選んでもらえるような展開をしています。
また、当社の商品はスーパーなど小売店を通しての販売が主ですが、お客様の生の反応が得られにくいということもあり、直営店のニーズを感じていたことも立ち上げの背景にあります。現在「ヒトツブカンロ」はテストマーケティングの場としても活用しています。
編集長:もう10年も経つのですね。ここ数年、話題に上がることが増えているイメージがあり、もっと最近だと思っていました。注目を集めている理由としては、「グミッツェル」の影響が大きいんですかね。
林さん:そうですね、それまでも「ヒトツブカンロ」で一番人気の商品だったのですが、ASMRなどでさらに話題となり注目いただけるようになったと思います。
編集長:「グミッツェル」は、何もしなくても売れていそうなので、広報として何か仕掛けるということはしていないのでしょうか。
林さん:広報ではASMRで話題になったことからヒントを得て、公式咀嚼音動画を公開しました。また、直営店に自分の咀嚼音が聞けるブースを作り、メディアに取材してもらうといった取り組みをしました。(コロナ禍でこのブースは一旦中止)
編集長:「グミッツェル」は、開発当時から咀嚼音を意識した商品だったのですか?
林さん:咀嚼音というよりや新食感グミという位置づけで販売しましたが、咀嚼音に注目いただき非常にヒットしている商品です。
広報に集まった情報を社内に還元し、より経営や事業に貢献できる存在に
編集長:今後、広報として注力していきたいことは
林さん:おかげさまで、さまざまなメディアで露出の機会が増え、広報に情報が集まるようになってきました。例えば、メディアとの対話を通し、世の中がどういったことに興味を持っているか、カンロのどこに興味を持ってくださったのかを知ることができます。また、Web社内報を通し、社員と話す機会が増え、社員の想いや時には課題として感じていることも聞けるようになっています。
こういった情報が広報に集まってきているので、それをしかるべき部署や人にフィードバックすることで、情報が上手く行き届き、会社の経営や事業に好影響を与えるような存在になっていきたいと思っています。
PRマガジン編集部の「編集後記」
―ブランドを多数展開する企業だからこそ必要な企業ブランディング
企業名と異なるブランドを多数展開している企業において、よく課題として挙がるのが消費者や利用者からみて、ブランドと企業がリンクしていないということだ。「コングロマリット・ディスカウント」という言葉を聞いたことがある方も多いと思うが、上場企業などでは、株価にも影響を及ぼすことがあるため、企業ブランディングが急務な場合も多い。
でも、カンロが企業ブランディングを意識する理由はそこではない。
ピュレグミ、カンデミ~ナ、金のミルク、マロッシュ、ノンシュガー果実のど飴、まるごとおいしい干し梅、プチポリ納豆スナック、海苔のはさみ焼き…どれもスーパーやコンビニで目にしたことのある商品ばかりだ。
これだけ認知度が高い商品ばかりであれば、一見課題などなさそうだが、ピュレグミや金のミルクなど、ヒット商品のブランドとカンロという企業が一致しないことで“もったいない”ことが多かったという。
新ブランドをリリースする際、既存商品で得た信頼や安心、期待感を引き継げないからだ。
また、カンロは100年以上の歴史ある会社で、「糖」に関する研究や素材の味を引き出す製法など企業として持つ価値も多くあるが、ブランドと企業が一致していないとその強みを伝えることも難しい。
そこで、企業ブランディング、企業のファンを増やすことをミッションにした広報部が立ち上がったのだ。そこから、CI刷新やオウンドメディア、ニュースレターなど新たな取り組みを次々と始めている。
今後の広報展開も見逃せない。
今回の注目企業紹介
カンロ株式会社(https://www.kanro.co.jp/)
事業内容:菓子、食品の製造および販売
お話を伺った方
広報部 部長
林 麻衣子(はやし・まいこ)