かつて、経営者や専門家が社会的評価を得るには、ある種の「関門」を通る必要がありました。本を出版する。新聞や雑誌に取り上げられる。テレビに出演する。大学や業界団体で講演する。出版社や報道機関などが「この人には社会に紹介する価値がある」と判断し、世の中へ送り出していたのです。
つまり、「本人 → メディアなど→ 社会」という流れが、社会的評価を形成する重要なルートの一つでした。
ところが、SNSの普及によって、この構造は大きく変わりました。YouTube、X、note、Instagram、TikTokなどを通じて、自ら情報を発信し、支持を集める人が増えています。出版もテレビ出演もない。それでも数十万人、時には100万人以上に知られ、大きな影響力を持つ人もいます。
では、メディアを経由せずに知られるようになった人には、「社会的評価」がないのでしょうか。もちろん、そうではありません。
この記事の目次
「有名であること」と「社会的評価」は同じか?
ここで、一つ注意したいことがあります。フォロワー数や動画の再生回数が多いことと、社会的評価が高いことは、果たして同じなのでしょうか。数字は「知られている規模」を示しても、「どれだけ信頼されているか」まで指し示すわけではありません。
例えば、100万人に知られている人と、一般の認知は1万人程度でも、特定業界では圧倒的な信頼を得ている専門家。どちらの社会的評価が高いでしょうか。この問いに、単純な優劣はつけられません。社会的評価には、異なる性質を持つ複数の要素があるからです。
そこで本稿では、経営者や専門家の社会的評価を、試論として4つに分けて考えてみたいと思います。
第一に「認知」
どれだけ多くの人に知られ、必要とする人に届いているか。フォロワー数、動画再生数、検索量などは、その一つの指標になります。
第二は「信頼」
その人の知識、発言、仕事、実績、そして言動の一貫性や倫理観が、どれほど信頼されているか。情報の正確さや発信姿勢は、AIが倫理性をアルゴリズムにおいて重要視するようになったため非常に重要です。
第三「権威・認証」
出版、新聞・テレビなどでの露出や紹介。大学・学会・業界団体による評価、受賞歴などを通じ、第三者からどれだけ認められているか。ただし、掲載歴や肩書の数だけで実力が保証されるわけではありません。
そして第四が「想起・指名」
「このテーマなら、この人」と真っ先に思い浮かべてもらい、仕事、相談、講演、取材などの具体的な依頼につながる力です。
この4つを分けて捉えると、「有名か無名か」だけでは見えにくかった社会的評価の実像が、少し明確になるのではないでしょうか。
例えば、YouTube登録者100万人という実績は、非常に大きな「認知」を示します。しかし、それだけで必ずしも「信頼」や「権威・認証」が高いと判断することはできません。反対に、一般的な知名度は高くなくても、専門領域で深く信頼され、企業や業界から長年にわたって指名され続ける人もいます。
「有名であること」と「社会的評価が高いこと」は、必ずしも同義ではありません。同時に、「本を出版していない」「テレビに出ていない」からといって、社会的評価がないわけでもないのです。
「メディアに出て有名になる」だけではないSNS時代
かつては、出版社や報道機関の目に留まり、メディアへの登場をきっかけに多くの人に知られるという流れが、代表的なルートの一つでした。
一方、現在では、
SNSと従来メディア、それぞれの役割
だからといって、出版や新聞、テレビなどの従来メディアが不要になったわけではありません。むしろ、役割が変化し、互いに補い合う関係になっていると考えています。
SNSの強みは、本人が直接社会とつながり、考えや専門性を継続的に発信し、反応を確かめられること。一方、出版や報道には、編集者や記者など第三者の視点を通じて、その人物や活動を検証し、社会的な文脈の中に位置づける機能があります。
大切なのは、どちらが上かではありません。それぞれが担う役割を理解し、発信、評価、信頼が循環する状態をつくることではないでしょうか。
社会的評価は「与えられるもの」から「形成していくもの」へ
この試論をあえて式で表すなら、
「専門性」×「認知」×「信頼」×「権威・認証」×「想起・指名」
という要素の掛け合わせによって育まれる
と考えられるのではないでしょうか。
もちろん、社会的評価は単純な数式で測れるものではありません。それでも、本人の専門性を起点として、顧客、メディア、コミュニティなどとの関係の中で評価が生まれ、蓄積され、次の評価につながっていく。その循環を捉えることには意味があると思います。
そう考えると、広報PRにおけるパーソナルブランディングの役割も、改めて見えてきます。単に有名にすることでも、フォロワーを増やすことでも、メディア露出を重ねることでもありません。予算を投じて、本人を実像以上に大きく見せることでもありません。
まず、本人が持つ価値を発見し、独自性(USP)を明確にする。そして、その価値を言語化し、社会へ届ける。共感する人を増やし、第三者からの評価を得て、信頼を積み重ねていく。その先に、「このテーマなら、この人」と指名される存在が生まれるのだと思います。
その出発点となる問いは、「ブランドは何者として、誰から、どのように評価されたいのか」。 この答えを明らかにし、望ましい評価が生まれ、蓄積し、循環する環境を設計することこそ、改めてパーソナルブランディングの本質ではないでしょうか。
最後に社会的評価は、ゴールではありません。評価を得ることで、より大きな仕事を任され、考えをより多くの人に届け、新たな人や組織との出会いが生まれる。その結果として、自分の専門性を社会のためにより大きく役立てられる。
評価されるために価値を装うのではない。もともと持っている価値が、必要とする社会に正しく届き、選ばれる状態をつくる。
そこに、経営者・専門家のパーソナルブランディングに携わる広報PRの、本来の役割があると私は考えています。
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