運行スケジュールより緻密!?計算されつくされたPR戦略とは(後半)。銚子電気鉄道株式会社 常務取締役・柏木氏

当コラムは、2021年4月23日に開催した銚子電気鉄道株式会社、常務取締役・柏木氏との対談レポートです。(後編)

運行スケジュールより緻密!?計算されつくされたPR戦略とは(前半)。銚子電気鉄道株式会社 常務取締役・柏木氏

2021年7月15日

買いやすさを追求し、年間1000万円だったネットショップの売上が1億円に!

銚子電気鉄道株式会社 常務取締役 柏木亮 氏

玉木
ネットショップについても、少しお話を伺いたと思います。2020年4月はネット販売での売り上げが1,300万円ということですが、現在の状況はどのくらいなのでしょうか。

柏木さん
はい、ネットショップはおかげさまで、好調です。

もともと、銚子電鉄のネットショッピングは社長の竹本が立ち上げたものです。途中、いろんな社員が引き継いで今に至りますが、通常業務の片手間で行っていたこともあり、上手くいっていなかったのです。そこで、昨年の4月から私がテコ入れをはじめました。

以前は年間で1000万円しか売れておらず、月換算にすると、90万円から100万円程度となります。そこで、昨年の4月、更なるメディアでの取り上げやSNSの発信に関心を持ってもらうため導線を引き直しました。結果、1カ月で1,300万円もの売り上げを達成することができたのです。

おかげさまで昨年の4月から先月の3月までで、売り上げは約1億円となり、ようやく形になってきました。銚子電鉄の全体売り上げは、年間5億円です。5億円の内訳は、「ぬれ煎餅」が約3億8千万円で残りの1億2千万円が鉄道です。冒頭でもお話しましたが、もはや、鉄道会社というより食品の製造販売会社と言っても過言ではないかもしれませんね…(笑)

昨年の緊急事態宣言で、お客様が来なくなり、鉄道部門の売り上げが、ガクンと下がる中、ネットショップの売り上げには非常に助けられました。ネットショップの売り上げを観察すると、メディアに取り上げていただいた月は1,000万円以上を超える売り上げがあります。その他、平常時だと平均約600万円から700万円くらいの数字を推移している状況です。

玉木
では、ネットショップが広まったきっかけは、メディアの露出により多くの方に知っていただということでしょうか。

柏木さん
それだけではないと思います。なぜなら、今までもメディアでたくさん紹介してもらっていたからです。ホームページのデザインをリニューアルしたわけでもありません。そもそも、デザインを変えれば売り上げが伸びるといった、そんな安易な話でもないですよね。ネットショップの特性もあると思いますが、恐らく、伸びた理由は買い物のしやすさも含め、サイト内の基本的な導線の問題だと思います。

私どもが運営しているネットショップは自前のサイトではなく、借りているサイトです。そのサイトでの商品の見せ方や商品購入の仕組みを見直したのが大きいと思います。例えば、商品の見せ方では、写真や画面デザインを変え綺麗にすることより、商品の紹介文全てを一つひとつ丁寧に見直して手を加えていきました。つまり、買いやすくなったということですね。

玉木
メディア露出がきっかけというより、サイト自体の問題をクリアにできたということですね。

柏木さん
そうだと思います!サイト内で販売している商品は、昔も今も全て同じです。銚子電鉄のホームページとネットショップは、しっかり繋がっていたわけです。でも、ただ、繋がっているだけではダメだったというわけです。ネットショップへ引っ張っていく仕組みや導線が重要だったということですね。

玉木
ちなみに今は、どのような商品を扱われていらっしゃるのでしょうか。

柏木さん
主力商品は、濃い口醤油味の「ぬれ煎餅」です。こちらは、「元祖・ぬれ煎餅」で、5枚入りで450円です。それから、先週から発売している「まずい棒」の岩下の新生姜味ですね。パッケージに激辛って書いてありまずが、これは激辛ではなく、激しく辛い(つらい)!経営状況が…!という意味です。間違わないでくださいね。(笑)

パッケージキャラクターの女の子は「まずかちゃん」です。経営状況がまずいから。その下には「イワシカちゃん」と「まずえもん」がいます。某メーカーさんの商品は1本10円かもしれませんが、こちらは1本41円です。(笑)いろいろな仕掛けをしておりますが、現在の主力は、この2点です。

玉木
みなさん、買われる理由はお土産というより、御社を応援したいというとことでしょうか。

柏木さん
私が言うのもおかしな話ですが、やはり、買われている理由は「ネタ」だと思います。普段、皆さんがお買い求めになるお煎餅やお菓子は、150円から200円くらいですよね。これは5枚しか入っていないのに450円もするんです。普通に買ったら高いと思いませんか!? 誤解なきよう説明すると、この「ぬれ煎餅」は美味しいです。しかし、美味しいだけで買われているわけじゃないんです。
玉木さんがおっしゃったように、購入された方は「銚子電鉄を助けてきました!」という感覚なのだと思います。

例えるなら、これは銚子電鉄のクラウドファンディングみたいなものです。本家クラウドファンディングも寄付や商品を買って開発者や生産者を応援しますよね。それと同じで、この「ぬれ煎餅」を買っていただくことにより銚子電鉄が助かるわけです。更に、購入された方は、食べて美味しいという自分へのリターンもあります。まさに、値段が高い商品を買うことが銚子電鉄を応援していることに繋がっています。

ですので、買われる理由としては①「ネタで買っている」、②「銚子電鉄をなんとか存続させたい、応援したい」だと思います。

玉木
買っていらっしゃる方は地元の方というより、全国いろんな地域の方ということになるのでしょうか。

柏木さん
そうですね、ネットショップは全国の方から買っていただいております。でも、やはり東京、埼玉、神奈川、そして千葉の方が多いですね。それから、千葉の方は郷土愛が強い!千葉県の方の応援は本当に凄いです!
購入者別の売り上げ割合を見ると1番は東京です。そして、2番が千葉となります。また、東京と千葉の差はほとんどありません。そのぐらい千葉の方が買ってくださっています。ただ、他県の方と違い千葉の方は、この「ぬれ煎餅」をネットショップ以外、自宅の近くのコンビニやスーパーなど、どこでも買うことができます。

ちなみに、余談になりますが…
「ぬれ煎餅」は、銚子電鉄を訪れた観光客の方にお買い求めいただいています。けれど、実際のところの売り上げは卸です!卸の販売量が圧倒的です。

玉木
あぁ~なるほど!

柏木さん
うちは煎餅メーカーです。観光客の方やネットショップでの販売以外、煎餅メーカーとして千葉県内のスーパーやコンビニへ商品を卸しています。煎餅の売り上げ3億8千万円のうち、半分以上は卸業で成り立っています。そのため、市内のスーパーなどで陳列されている商品を見かける機会も多く、その場で買わなくても、後にネットショップを見て買ってくださるケースも多いようです。

Twitterの難しいところは、文字数が限られていること~「自ギャグ(自虐)」ネタでユーザーの心を動かすのが銚電流

玉木
御社はSNSに非常に力をいれていらっしゃいますよね。コロナ禍で主力商品である「まずい棒」の在庫が膨れ上がり大変な状況が起きた際、SNSを活用し、一袋15本入りの「まずい棒」1700袋を3日で売り切ったと聞いています。普段からどのようなことを意識してTwitterの運用を行っていらっしゃいますか。また、はじめられた動機も教えていただきたいと思います。

柏木さん
弊社の企業イメージに沿って、ご購入いただく方、もっと大袈裟に言えば、世の中の人の心にどう響かせるかを意識してメッセージを発信しています。具体的に話すと、銚子電鉄のイメージを自ギャク(自虐)にのせて、文字数に限りがあるTwitterでどのように表現するか。そこに尽きるかと思います。その書き方も、バランスをとって書くやり方が大事だと考えております。

「まずい棒」が在庫の山になってしまった時は「買ってください、お願いします。」というスタンスで書きました。

この時はコロナによる緊急事態宣言で外出自粛となり、まず、観光でお越しになる方が減りました。そして、県内のサービスエリアやお土産店などに置かせていただいております「ぬれ煎餅」をはじめとする商品の受注発注もほぼ無くなり、在庫が山になってしまったわけです。

これまでも、TwitterやFacebookはやっていましたが、コロナ禍による危機的状況を打破するため、より強い発信をしてみようとなり、竹本と私でメッセージを発信することになりました。この発信が段階を踏み、最後は「まずい棒」のスーパー拡散の投稿へと繋がっていきます。

実は、「まずい棒」のスーパー拡散の投稿を打つ1週間前に、鉄道事業者に対して減便を要請する話題が国会で出たタイミングがありました。弊社も減便しないと運営が持たないこともあり、「減便させていただきます。」とTwitterを打ち、減便に踏み切りました。

そして、減便に踏み切った流れで、「サバイバルカレー」という商品のアプローチを仕掛けています。

コロナ禍で外出自粛もあり、サバイバルな状況にいるため、保存食イメージのサバの缶詰とサバ入りのサバイバルカレーをセットにして販売することにしたのです。そして、Twitterには「自粛で外へ出られないので、保存食として皆さんどうでしょうか!?」と発信を行いました。すると、Twitterに反応が起こり、ネットショップで販売している「サバイバルカレー」100個が2時間で売り切れる盛況ぶりでした。

「これはいける!」そう思いましたね。

他社さんからすれば、「2時間で100個ぐらいなら、直ぐに売れる。」と思われるでしょう。しかし、年間1,000万円の売り上げしか立たないネットショップでは考えられない状況が起きたわけです。そして、この導線なら行ける!そう思えるようになりました。

その後、「まずい棒」が在庫の山になっているから助けてもらおうとなり、Twitterへメッセージを発信したところ、2時間後には某テレビ局から「大変ですね」という電話が入り、スーパー拡散へ繋がっていきます。以前からテレビでも紹介いただいていましたし、SNSも行っていました。しかし、この時の悲痛な叫びが多くの方の心に響いたことになります。

更に以前、こんなことがありました。変電所の修理代は勿論、車両の検査費用を捻出しないと、いよいよ運行が存続できない状況を目の前にし、経理課長がホームページに「電車の修理代が必要なので『ぬれ煎餅』を買ってください。」と書き込みをしました。その書き込みが2チャンネルで話題になり、「ぬれ煎餅」の注文が1万件来たという話があります。1万件の発送に半年かかります。なかなか商品が届かないことからネット内では「ぬれ煎餅」ゆえに、「ヌレヌレ詐欺」などと言われたそうです。

実は、この現象から我々の起こすアクションは、ネットユーザーの心に刺さるのではないかということに気がついたのです。その後、この経験をきっかけに、いろいろな仕掛けを試しSNSでの経験を重ね、見ている方の心を掴む方法、いわゆる「バスらせ方」を確立していきました。

ただ、もう一度お伝えしておきたいのは、先ほどからお話しているような銚子電鉄のブランドイメージがあったからこそできたということです。

玉木
具体的に、「バスらせる」コツや学ばれたことはどのようなことですか。

柏木さん
文言ですね。我々が言っている自分たちを傷つける「自ギャグ(自虐)」ネタを繰り出したということです。商品のネーミングが決まってから「自ギャグ(自虐)」の文言を考えるのですが、学びは、自ギャグネタを使った文言にネットユーザーが反応する、しないの感覚が徐々にわかってきたことだと思います。

玉木
なるほど!なるほど!

柏木さん
だから、商品力が弱くても、添える言葉や書き方次第でヒットさせることもできると思います。ここでの経験で良くわかりました。

玉木
そう考えると、SNSは売り上げと凄く連動しているということですかね。

柏木さん
はい、うちは特に親和性があったと認識しています。もちろん親和性がでるようにもっていったというのもありますが。不思議なものでツイートによって全く違います。だから、私が確実にバズらせることができると感じた内容を打った時は1時間もしないで30万、50万とインプレッション数が伸びていきます。一瞬で、ですね。ですが、ダメな時は全く伸びません。
皆さんのスイッチを100%押すことは難しいです。

ただ、これを機に我々流のやり方はわかったと思っています。その具体的な事例は銚子電鉄のTwitterを見返してみてください。きっと、わかると思います。

玉木
Twitterの中にノウハウが散りばめられているというわけですね!

柏木さん
私、Twitterは非常に難しいと思っています。表現したことがたくさんあるのに、決められた文字数の中で表現するのはすごく難しことじゃないですか!!

玉木
本当に、そう思います!

柏木さん
SNSの話がでたので余談になりますが、Facebook、Instagram、Twitter、それぞれの特徴があり、それぞれ完全に違うマーケットがあります!だから、あたり方も全然違うことが明らかにわかっています!!
それを踏まえて感じるのは、銚子電鉄の話題はTwitterの利用者が喜びます。(笑)

Facebookは利用者の年齢層が高いので、我々のやり方に共感は示してくださいますが、大きなバズりはないという印象です。Instagramは、まだ構築中のためこれからという感じです。

自社の弱みやタブーにも向き合うことで共感を得られる企業に

銚子電気鉄道株式会社 常務取締役 柏木亮 氏

玉木
御社は応援や共感を非常にしてもらえる会社のイメージです。本日、セミナーを聞かれている方は広報の方が多いのですが、その方々に応援や共感をしてもらえる会社になるために必要なことがあればお聞きしたいと思います。

柏木さん
弊社は、公共交通機関として電車を走らせ続けなければいけないという使命があります。もっと言えば、存続まで追い詰められている立場にある鉄道です。だからこそ、皆さんの共感を得られるのだと考えています。

銚子電鉄のファンは、鉄道マニアで鉄道会社だから好きという理由でファンになってくださった方ばかりではありません。銚子電鉄の姿勢や、会社の考えに共感できるから好きになったとのお手紙やメールを非常に多くいただきます。特にこの1年はファン層も大きく広がったと感じています。

ということは、自社のカラーや性格をよく理解し、自分たちに合った形で自社の弱みや、これまでタブーとされていたことなどにも、何かしらのアプローチや形で表現することが良いのではないかと思います。チャレンジすることで共感を得て、新たな顧客層やファンを増やしていくことにつながると思います。また、そのような新しい一面をメディアを通して、上手く伝えていくことが大事なのではないでしょうか。

玉木
ありがとうございました。ここからは、皆様から頂いた質問にお答えいただければと思います。

質問
Q. 毎年予算計画のときに全体戦略の立て方でつまずき、戦略が立てられないまま次の年度に突入し、結局個別案件への対応に終始してしまいます。全体戦略の立て方、考え方についてどう工夫されているのかお聞きしたいです。

柏木さん
非常に難しいご質問ですね~。特にコロナで、この一年は難しい状況で、計画通りにいっていることのほうが少ない状況かもしれませんね。

我々が大事にしていることは「存続」です。でも、鉄道事業では収入が見込めないので、煎餅を販売したり、新しいことをしなくてはいけないというのが根底にあります。
その上で、年間でどのくらいの売上が必要かという会話はしますし、ざっくりとした年間予算も組んでいます。売上目標はノルマではありませんが、達成するために必要な収入を得るため、計画立てたことだけでなく、臨機応変に新たな事業や商品開発に対応しているというのが実際の状況です。

質問
Q. 柏木様はじめ、副業として銚子電鉄に携わっている方もいらっしゃるということですが、今後、こういった副業人材が入ってくれたらな、という人材像はありますか。

柏木さん
いいご質問ですね~。あまり表に出していないのでが、以前、Skill Shiftという副業人材を募集しているサイトに掲載し、2020年6月からソニーグローバルエデュケーションの社長で銚子出身でもある方が社外取締役として加わってくださいました。そこから、教育事業を進めようということになり、「今日も安全うんこうドリル」を販売しました。今後も色々な展開を考えています。
人材像としては、銚子電鉄が“皆にワクワクしてもらえるようなエンタメ鉄道”を目指しているので、頭の柔らかい人や話をしていて楽しい人を求めています。

質問
Q.当初から、つぶれそうな赤字のローカル線というブランドイメージがあったのでしょうか。また、そのイメージは自然と醸成されたのか、意図して創り上げたものなのでしょうか。

柏木さん
万年赤字の企業というイメージは、ここ10年とかの話ではなく、ずっと前からあったようです。でもそれは、知っている人は知っているという状況でした。
それがここ2~3年で多くの人に知ってもらえたのはメディア露出が大きいと思います。また、我々がSNSや様々な取り組みで“存続するために頑張っている”ことを伝え続けてきたので、メディアもそのような文脈で発信してくれるようになりました。これは意図していたものです。

質問
Q.広報的成果と経営に対する効果を教えてください。

柏木さん
経営に対する効果でいうと、SNS発信やメディア露出により、ネットショップでの売上や来店数、売店での売上、乗客数が増えたということです。ただ、広報の観点でいうと、映画のときもお話したように、ローカル鉄道は何のためにあるのか、今後どうしていったらいいのか、という問題提起を通し、ローカル鉄道の立ち位置を知ってもらうことが大事だと思っています。

なぜなら、銚子電鉄だけではありませんが、鉄道がなくなると町が寂れるからです。
我々は、鉄道を存続させ、地域経済にプラスになる地域商社としての役割も担い「この街に銚電があってよかった!」、「銚電ありがとう!」と言ってもらえるよう存在になることを目指しています。

広報としては、こういった銚子電鉄の姿勢を発信することが何より大事だと思っています。そして、この想いに共感してもらえると、メディアも同じベクトルで情報を発信してくれます。

玉木
皆さまいかがでしたでしょうか。銚子電鉄さんの広報の舞台裏をお聞きできたと思います。
個人的に印象的だったのは、従業員みんなで企画を考えるカルチャーです!柏木さん、参考になる話ありがとうございました!

運行スケジュールより緻密!?計算されつくされたPR戦略とは(前半)。銚子電気鉄道株式会社 常務取締役・柏木氏

2021年7月15日

登壇者プロフィール

銚子電気鉄道株式会社 常務取締役 柏木亮 氏

銚子電気鉄道株式会社 常務取締役 柏木亮 氏

銚子電気鉄道株式会社 常務取締役
柏木亮 氏

本業は沖縄ツーリスト(経営管理推進室 次長)の社員。2015年、銚子電鉄が駅のネーミングライツを募集したことをきっかけに、副業として銚子電鉄の経営に参画。2020年に常務取締役に就任。沖縄ツーリストで培った観光や地域活性化ノウハウを生かし、銚子電鉄のブランディングを担う。また、銚子電鉄の財源の中枢でもあるオンラインショップのテコ入れにも注力し、年間の売上を10倍にまで引き上げた立役者でもある。Twitterの中の人。

銚子電気鉄道株式会社(https://www.choshi-dentetsu.jp/