シェアリングエコノミーは、ここ数年で様々な業界に広がっている。
モノのシェア、スキルシェア、空間のシェア…どれもこれまでにない新たな価値を生み出し多くのメディアからも注目を集めている。
そんな中、急成長しているのが「フードシェアリング」だ。
どのシェアビジネスも、「エコ」や「もったいない」、「社会貢献」といった要素を内包しているが、フードシェアリングはまさに問題となっているフードロス削減の新たな一手となるサービスだ。
これまでも、日本国内にはフードロス問題が存在したが、多くの一般消費者が当事者としてフードロス削減に動き出すきっかけとなったのは、新型コロナウイルスによるフードロス問題が大々的にメディアで報じられるようになってからではないだろうか。
多くのメディアやSNSでまだ食べられる食材・食品が廃棄される現実を知り、多くの人が購入による救済に動いた。知らないだけで、この現実を知れば当事者として動こうとする人がこんなにも多いと目の当たりにする出来事でもあった。
実際、日本で初めてフードロス問題の解決を目的に立ち上げた「社会貢献型ショッピングサイトKURADASHI」もこの一年で会員が急増しているという。そこで、今回は株式会社クラダシの広報・小平佳鈴さんに、KURADASHIが目標としていることや、そのために広報が今、そして今後どのように展開していくのかお話を伺った。
この記事の目次
サービスのベースは「1人じゃできないことも誰かと協力すれば解決できる」という想い
―KURADASHIを2014年7月に設立されていますが、なぜこういったサービスを始めようと思われたのですか。小平さん:KURADASHIを始めるきっかけとなったのが、代表である関藤の2つの原体験です。
一つが、大学4年生の時に阪神淡路大震災で被災したことです。彼自身が被災しながらも、より被害の大きなエリアにバックパック一つ背負い支援しに行ったそうです。しかし、あまりの惨状に、一人でできることには限界があると感じ、そこから、誰かと協力したシステムを作る必要があるのではないかと考え始めたということです。二つ目が大学卒業後、商社に入社し、中国駐在中に大量生産大量消費の現場を目の当たりにしたことです。このフードロス問題はいずれ大きな問題になるのではないかと考えるようになったそうです。
―サービス開始から6年ということで、フードロス削減数が10476トン、経済効果32億4754万円、CO2削減数26.81t-CO2、寄付総額51,646,446円と非常に大きな成果をあげられていると思います(※)。これらの実績は徐々に積み上げてきたのか、それともコロナ禍で食品の売れ残りが増え、ECサイトで食品を購入することの抵抗がなくなってきたという社会背景もあり、この一年で急激に伸びたのでしょうか。
※2020年12月現在
小平さん:サービス開始から常に増え続けているのですが、やはりコロナの影響やSDGs、食品ロス削減推進法が2019年10月に施行されたこと等を受け、消費者の意識も高まっていますし、企業も何かしなくてはという意識が高まり、ここ数年で急激に伸びています。
全国放送で10分以上単独露出!~会員数が3万人増
―先ほど、SDGsの話もありましたが、サービスの認知や会員数、取り扱い数を伸ばすきっかけになった出来事など何かありましたか。小平さん:直近でいうと「シューイチ」で取り上げていただき、利用者数も購入数も増えました。あと企業さまからの問い合わせも増えています。
―私も「シューイチ」拝見しました!「中山のイチバン」で10分以上取り上げられていましたよね。御社からアプローチされたんですか。
小平さん:いえ、番組のディレクターからフードロス問題について取り上げたいとお問い合わせをいただきました。
―フードロス問題では、他のフードシェアリングサービスと一緒に取り上げられることが多いように思ったのですが、「中山のイチバン」は御社が単独で取り上げられていましたよね。なぜ御社だけにお声がかかったと思われますか。
小平さん:弊社が日本で初めての社会貢献型ショッピングサイトであることを始め、現在も日本最大級の規模で、フードシェアリングの第一人者ということはあると思います。それだけでなく、「日本サービス大賞」農林水産大臣賞や「食品ロス削減推進大賞」消費者庁長官賞など、他にも官公庁から評価をいただいていることから、利用者さまにも安心して利用いただけるサービスであるといった点があるのではないかと考えております。
―利用者数、購入数ともに伸びたというお話でしたが、どれくらい伸びたのでしょうか。
小平さん:2021年1月末時点の会員数が約15万人だったのですが、2月末時点で18万人まで伸びております。
―すごくないですか!?これまでもメディア露出は多々あったと思いますが、今までの中で一番伸びを感じた露出でしたか。
小平さん:一番反響が大きかったです。コロナ禍というタイミングやお休みの方が多い休日に10分以上放送されたということもあるかもしれませんが、全国放送というのが大きかったと思います。
認知が高まり、次は「共感者を増やす広報」フェーズへ
―PR活動としてはどういった取り組みをされていらっしゃるんですか。小平さん:主にプレスリリースの配信を行っております。実は、つい最近までPR活動を専任で行っている者がおらず、メディアから問い合わせいただいたものに対応するのがメインだったのですが、社会的な認知も高まり、メディアからのお問い合わせも多いので、2月から私が専任広報となりました。これから様々な切り口で、テレビなどメディアへの露出を増やしていくべく、戦略的なメディアリレーションの構築やネタの持ち込みなどを始める予定です。
―地方自治体や企業との連携もすごいスピードで進んでいるという印象があります。2020年12月2日に発表された各大学のミスキャンパスが集結する社会課題を解決するプロジェクトチームとのコラボなど、非常におもしろい取り組みをされていますよね。こういった取り組みは御社が能動的に仕掛けられているのですか。
小平さん:地方自治体との取り組みは弊社からご連絡させていただくこともございますし、自治体の方からお声がけをいただくこともあります。キャンパスラボという凸版印刷さんとの取り組みは大変ありがたいことに先方からお声掛けいただきました。弊社も能動的に自治体との提携に動き、戦略的に拡大しているという背景もありますが、官公庁から賞をいただくことが多く、授賞式に自治体の方も参加されていて、それがきっかけでオフラインでのコミュニケーションを取らせていただき提携の話が進むということも多々あります。自治体に限らず、通常のアライアンスにも同じことが言えます。
―御社は非常に多くの賞を受賞されていますね!こういったアワードには御社からエントリーされているのでしょうか。
小平さん:各種の取り組みと同様に、自らエントリーするものもあれば、お声掛けいただくものもあります。
―アワードの受賞はメディアにとっては安心材料やこの会社に取材しようという決定打になっていると感じられますか。
小平さん:そうですね。メディアにも受賞をフックとすることでKURADASHIのストーリーを説明しやすいというのはあります。もちろん、権威付けにもなっています。ただ、賞だけたくさんいただいて実態が伴っていないと本末転倒なので、そこのバランスは意識しています。
―今後、戦略 PRを展開されるという話でしたが、具体的にはどういった取り組みをお考えなのでしょうか。
小平さん:これまでは、ミッションに共感してくださるメディアなどが、たまたま声を掛けてくださったというケースが多かったので、今後は、能動的にKURADASHIのフードロス削減や社会貢献、サステナビリティを実現していくというミッションに共感をしてくださるメディアやクライアント、消費者を増やしていくため、“共感者を増やせるような広報”を展開していきたいと思っています。そのため、やみくもにメディア露出を増やすのではなく、ミッションに共感してくださるメディアや共感してくださりそうな視聴者や読者がいるメディアを中心的にアプローチしていく予定です。
―御社の場合、共感者というのは、一般消費者もいれば協賛企業や団体もいると思うのですが、広報という意味では両方に対しアプローチするという理解で良いのでしょうか。
小平さん:そうです。テレビや雑誌への露出であれば消費者やクライアントに、賞の受賞やアライアンスはクライアントサイドに訴えかけることができると思います。そこはバランスを見てアプローチしていくことになると思います。
“お裾分け”を促す販売方法でフードロス削減を加速させる
―ちなみにサービスについても少し教えてください。私自身はまだフードシェアリングを利用したことがなく、いろいろ見ているという段階なのですが、KURADASHIさんは、消費者として見ると購入単位がすごい個数ですよね?消費者視点だと、自分が買っても、持て余しちゃうんじゃないかと…。私が見た商品が、たまたますごい個数だっただけで、そういう買い方じゃない買い方もあるのでしょうか。小平さん:どれも一商品当たりの個数は多いと思います。消費者がある商品を購入してくださったら、それを友達や親せきにお裾分けするというフードシェアリングを進めていただけたらと思っています。
―では、その何十個みたい出し方は、あえてKURADASHIから購入者、購入者からその先のフードシェアリングも視野に入れているという戦略なんですか。
小平さん:そうです。そこには理由が2つあります。まず一つが、メーカーから送られてくるロスになりかけの商品はロットが大きく、箱やケース単位で送っていただいています。開梱し詰め直し作業をすると、そのコストがかかってしまいます。そうするとお得なお買い物に限界がでてきてしまいます。そこで、お得さを担保するため、詰め直し作業を失くし、メーカーから送っていただいた単位をベースに販売しています。
もう一つが、代表の関藤が阪神淡路大震災で被災した経験から“一人ではできないことも、複数の人なら解決できる”という思想がKURADASHIのベースにあるということです。購入してくださった消費者が、当事者として周囲とシェアするなど、たくさん消費できるような形でフードロス削減のための具体的なアクションをしていただけるような設計にしています。
―なるほど!御社の場合、購入する側もただ安いから買うというマインドではなく、そこから先にもお裾分けして、みんなでフードロスを解消していきましょうという想いが込められているのですね!
小平さん:まさにおっしゃるとおりで、そこも広報をしていくなかでの大きなポイントだと思っています。「KURADASHIって安いサイトなんでしょ?」と言われることが多く、それも一つの価値ではありますが、我々が一番やりたいことは、フードロス削減ですので、そこを広報でも伝えていけるようPR戦略を考えています。
―なるほど!すごくよく理解できました!そうすると、今広報として解決したいと思っているのは、KURADASHIを、ただのディスカウントサイトではなく、社会貢献やフードロスという文脈と共に出していくということですかね。
小平さん:はい、その通りです。
フードシェアリング業界に競合はいない~一緒にフードロス削減を目指す
―フードシェアリングの業界では、御社が一番規模も大きいと思うのですが、同業他社さんも目指すところは同じですよね。そういう意味では、御社が一社単独で出て行かなくても、他社も含め、一緒にメディア等に露出できれば、よりフードロス削減の目標が加速するので、御社単独で出ていくことにはこだわっていないのでしょうか。どういったスタンスで広報を展開されていくのか、教えてください。小平さん:スタンスとしては、弊社単独だけではなく、一緒に出ていくといった出方でも良いと思っています。実は、KURADASHIは社会貢献型ショッピングサイトを日本で初めて始めたのですが、あえてビジネス特許は取っていないんです。それは、一社だけでは実現できない大きなミッションを掲げているからです。
―ビジネスよりの考えでいくと、メディア露出が多くなると、商社やメーカーとの関係も構築しやすくなるのかなと思ってしまうのですが、そういう事はあまり考えてらっしゃらないで、フードロスが御社だけではなく、他社を通してでも解消できれば良いということですよね。
小平さん:もちろんメディア露出によって商社やメーカーさんからお声がけいただくこともあるので、弊社の取り組みに賛同してくださる企業との関係を構築するという面でもメディア露出は大切な機会だと考えております。しかし、先ほど申し上げた通りフードロス問題の解決のためには、他社さんとも力を合わせていきたいです。
―メーカーなど事業者側から見た時に御社ならではのメリットというのはあるのでしょうか。
小平さん:一つがブランディングです。社会貢献かつフードロス削減に取り組んでいる企業としてみられるようになります。二つ目が、手間をかけずに収益性をアップ出来ることです。我々の提携倉庫に商品を入れていただくだけで、サイト掲載やお客様への販売受注管理は全てKURADASHIで行いますので、手間がかからず、売り上げが立つということです。
―ブランディングについてですが、協賛企業に御社のロゴを提供するなど、何か特別にされていることはあるのでしょうか。
小平さん:弊社のサイトで企業名を掲載させていただくほか、クライアントによっては、年次報告書やIR関連の資料でKURADASHIを使いフードロス削減に取り組んでいることを対外的に発信してくれている企業もあります。
2030年までにフードロス半減を目指す!
―販売や営業戦略で注力されていることはありますか。小平さん:販売では、ただ安売りしているサイトではなく、フードロス削減など社会貢献しているというメッセージを伝えながら販促を展開しています。
といいますのも、まだ多くの食品事業者さんがブランドイメージの毀損を懸念されており、フラッグシップが必要だと感じています。営業も国内の食品事業者さんを牽引できるような大手メーカーさんの参画を進めています。
―ブランドイメージの毀損というのは、通常の本体価格よりも安く売られてしまうことによるブランド価値の低下を懸念しているということでしょうか。
小平さん:まさにその通りです。例えば、一時期、衣服の廃棄問題も話題になりましたが、一部のハイブランドでは、定価で売れる量の2倍生産し、廃棄するということが起きていたそうです。ブランドの価値を守るため、お金をかけて捨てているということなのですが、それが食品の世界でも起きてしまっています。
―そうなんですね。 CSRやサステナビリティ、SDGsを重視されはじめている大手企業も多いと思うので、最近は共感してもらいやすいのではないかと思うのですが。
小平さん:そうですね、共感してくださるメーカーさんや食品事業者さんも増えております。
基本的に、KURADASHIで取り扱う商品は、賞味期限が近かったり、型落ちや傷があるなど、市場に流通できない理由がある商品なので、通常品は市場に出回り、そちらの売上を削ることはありません。今後は、そのあたりもお伝えし、賛同してくださる企業をより増やしていきたいと思っています。
―理解を促すって大事ですよね。私も定期購入してるブランドをKURADASHIでみたとき、フードロス問題などをちゃんと考えてるやっぱりいいブランドだったんだなって思ったりもして。そういう見方もあったので、このあたりは広報の力の見せ所でもあるかもしれないですね
ちなみに、御社は現在何社くらいとお取引きがあるのですか。
小平さん:創業時からの累計で900社ほどです。フードロスになりかけている商品を扱うという特性上、 全ての会社と常に取引があるわけではありません。コンスタントに一定量が出てくるわけではなく、先ほどお話したような市場に流通させられない理由がある商品や、同じ商品でもパッケージが刷新されるタイミング、季節もの商品のシーズンが終わった後等のタイミングで取引させていただくこともあります。
―今後の目標を教えてください。
小平さん:2030年までに、フードロスの半減を目指しております。現在、 広報PRとしては「フードロス削減といえばKURADASHI」とメーカーにも消費者にも認知されるように施策を展開していきたいと思っております。
―2030年ってあっというまですね!