毎朝、我が家の洗面所は大渋滞。
特に年頃の娘の滞在時間は長い。みていると前髪のセットにかける時間がめちゃくちゃ長く、上手くいかないとすごく機嫌が悪い。上手くいくと「どう?よくない?」とみせにくる。
本人的に良い時もイマイチな時も、私から見たらそう大きな差はないが、朝出かけるときのテンションが全然違う。朝から機嫌が悪いとイライラした空気が伝わってきて、こっちまでとばっちりをくうから、娘の前髪スタイリングが上手くいくことを毎朝切に願っている。
それだけではない。一緒に外にでかけると風が吹くたび前髪を気にして、ちょっとでも崩れると「マジ最悪なんだけど!今日外でなきゃ良かった!!」とキレている。
40代の父親や祖父母は、もはや意味がわからないらしい。(かろうじて私はちょっとわかる)
でもこれがZ世代のマジョリティーなのかもしれない。
なぜなら、前髪を理想の状態で固めずにキープする「前髪グルー」がヒットしているからだ。
今までも前髪を固めてキープする商品はあったが、“おでこにのりで前髪を貼る”というユニークな商品はなかった。2022年3月の発売時から、累計9万個以上出荷されているという。
なぜ、こういった商品を思いついたのか、そしてどのように広めていったのか。
今回はウテナの広報・則包裕美さんに話を伺った。
(編集長)
この記事の目次
SNSでの「前髪が崩れたらこの世の終わり」が商品開発のきっかけに
―私も以前からマトメージュのまとめ髪スティックは愛用しているのですが、約1年前、2022年3月14日に発売した「前髪グルー」もすごくヒットしているそうですね。
則包さん: はい、発売からの累計出荷数が9万個以上になっています。
―前髪をのりで留めてキープするという、すごくユニークな商品ですが、発売までの経緯を教えていただけますか?
則包さん:若年層との接点拡大を目指して、4年前にZ世代向け商品のプロジェクトを開始しました。入社3年目までのメンバーでチームを結成し、SNSを中心にZ世代のニーズを探っていきました。
マーケティング部も広報も毎日SNSはチェックしており、以前から前髪の分け目のバランスや位置を重要視する女性が多く、「前髪が崩れたらもう家に帰りたい、すべてのやる気を失う」といった声が多いことは把握していました。
そこで、その女性たちがどのように対策をしているかリサーチを進めると、スプレーなどで固めるという方法を取る方が多かったのですが、風や湿気、汗、皮脂、マスクなどで、せっかく作ったこだわりの前髪が完璧にはキープできず不満を持っていることが分かりました。
そんなとき、SNSで「前髪が崩れたらこの世の終わり」というキーワードを見つけ、やはりここにニーズがあると確信しました。実際、マーケティングのメンバーもこの言葉にすごく共感できたということもあり、なんとか前髪を理想の状態でキープできる商品をつくろうということになりました。
―20代前半の女性でプロジェクトを進めていたからこそですよね。40~50代の男性ではなかなか共感はできないですもんね。(私は20代じゃないですが…)朝せっかくいい感じにおろした前髪も子供を自転車で保育園に送って、帰ってくるとパックリ割れていて…時間をかけた意味(涙)ってよくなります。
則包さん:そうなんです。なので、企画から商品化までもすぐにOKが出たわけではなく、アンケート調査を行い、いかに女の子たちが前髪にかける想いが強いかを知ってもらったり、プロジェクトメンバーが経営会議で頭を振り回して前髪をキープできることをアピールしたり…と、そういったところから始めました。
―やっぱり、髪をおでこに貼り付けるという発想がすごいですよね。(笑)
則包さん:前髪にスタイリング剤をつけて固めても、風が吹くと崩れてしまうということと、リサーチを進める中で二重のりや、つけまつげ用ののりを使って前髪を留めている方がいるということを知り、そこから“おでこにのり”に行き着きました。
記者発表会や調査PRで、商品の特徴や開発背景を発信
―ヒットに至った理由として、商品のコンセプトが潜在ニーズをとらえていたということもあると思いますが、SNS等で逆立ちして崩れないかを検証するような投稿が拡散されるなど、話題の広がりを拝見すると、広報として貢献も大きかったのではないかと思います。広報としては、どのようなことをされたのでしょうか。
則包さん:発売前の3月1日にメディアとインフルエンサー向けのオンライン新商品発表会を行いました。モデルさんでデモンストレーションも行い、頭を振っても崩れないというところをみていただきました。
それをメディアやインフルエンサーの方が発売前から記事や投稿で紹介してくださり、発売前から「前髪に特化した面白い商品が出るらしい!」という話題になり、さらにそこから美容系インフルエンサーの方が「こんなの欲しかった!」といった形で発信してくださり、発売前からどんどん情報が拡散されていきました。
▼逆立ちしても前髪キープ!@saikyou_naritai
@saikyou_naritai ガチ今までで1番体張ったwwwwwwwwwwwwww前もも痛い
▼前髪の割れが防げる!@sowasowa_muu
https://twitter.com/sowasowa_muu/status/1539895162218106885
―コロナ禍で、オンライン記者発表会も当たり前になってきましたが、デモンストレーション以外に何か工夫したことはありますか?
則包さん:実際、商品を使っていただかないと粘着力などもわからないと思ったため、発表会の前日くらいに、参加者に商品が届くよう発送し、 商品が手元にある状態で発表会に参加いただきました。
―記者発表会以外には、どのような施策を展開されましたか?
則包さん:今回は、「今までにない商品をどのように伝えるか」に重きを置いてPR施策を検討しました。そしてその一つが調査PRです。前髪グルーは、“若い世代の前髪がある女の子”には、とても共感されるのですが、それ以外の方はなかなか理解できない商品なので、“Z世代の女子にとって前髪はすごく大事”と理解してもらうため、調査PRを行いました。
調査リリースでは、単に前髪を重要視してるという結果で終わらせずに、前髪をなぜそんなに重要視するのかまで踏み込み発信しました。
例えば、前髪は顔の一部で前髪が安定していると心が落ち着く、前髪が理想の状態になっていることで、自己肯定感が上がるといったといった内容にも触れつつ発表しました。
元々マトメージュというブランドが「かわいいを解放せよ」というコンセプトを掲げており“色々制限されずに、自分の好きなおしゃれをやってみようよ”ということを提案しているので、ブランドメッセージとも絡めています。
Z世代にもテレビは響く!露出直後に売上増加も
―商品のコンセプトと広報の活動が功を奏し、発売直後10分で完売する店舗もあったそうですね。
則包さん:それには、社員たちもびっくりでした!ウテナとして、こういった売れ方をするのは初めてでしたね。
―その後も、売上は右肩上がりだと思うのですが、メディア露出後に売上が急増するということもありましたか。
則包さん:ありましたね。特にテレビに出た直後には通販で100本以上購入されるということもありました。Z世代はあまりテレビをみていないのではないかとおもっていたのですが、改めてテレビの影響力を感じました。
―どのあたりのテレビ番組で取り上げられたのでしょうか?
則包さん:最初の頃は、朝の情報番組に複数取り上げられ、最近ですと2022年12月に「がっちりマンデー!!」で取り上げられました。
―それらの露出は、SNSで話題になっていたからプルで入ってきたのでしょうか。
則包さん:いえ、発売当初の露出に関しては、こちらから電話をしたり資料を送るなどのアクションをして取材につながりました。
―アクションした結果、売上にも貢献できる露出につながったのは、広報としても嬉しいですよね!
則包さん:そうですね。これまでもインフルエンサーさんが投稿してくれたり、美容誌に取り上げていただくことは多かったのですが、なかなかその反響が社内に伝わりづらかったんです。そのため、広告換算をして露出の価値を伝えたりしていたのですが。前髪グルーでテレビに露出した際は、私もどんな番組にどんな形で出たかをすぐに社内メールで共有したんです。そうしたら、様々な部署から「みたよ!」と言ってもらえましたし、広報の活動が売上にも貢献していることが伝わったというのは私としても嬉しかったです。
SNSでの反響をマーケティング施策にも活かし、ターゲット層拡大にも貢献
―御社のSNSについても聞かせてください。美容とかコスメ系の企業はInstagramに注力されているイメージがあるのですが、御社は圧倒的にTwitterですよね。何か意図があるのでしょうか。
則包さん:Instagramももう少し頑張ろうとは思っているのですが。(笑)
ウテナはメイクアイテムを出していないんですね。Instagramの場合、メイクの仕方を見せたり、おしゃれな商品パッケージの映え写真がウケると思いますし、発信しやすいと思います。ただ、ウテナの商品は悩みを解決する商品が多く、InstagramよりTwitterとの相性が良いのではないかと思い、Twitterに注力しています。
―なるほど!そういう理由があったのですね。ちなみにSNSは全て広報が運用されているのでしょうか。
則包さん:TwitterとInstagramは広報で運用しており、TikTokは始めてまだ1年ほどですが、社内の有志で行っています。
―Twitterは7万フォロワーを超えていますが、則包さんが運用を始める前というのはどういう状況だったのでしょうか。
則包さん:3年前から私が運用を始めたのですが、その際は休眠アカウントのような状況でフォロワー数は1万もなかったと思います。
―どのようにここまでフォロワー数を伸ばされたのでしょうか。
則包さん:定期的なキャンペーンとキャラクターとのコラボが大きかったと思います。
ウテナの商品は、ドラッグストアで販売されることが多いので、「ドラッグストアのアカウントとウテナのアカウントをダブルフォローしてくれたら○○が当たる」といった形をよく取っています。これは営業にもサポートしてもらいつつ、基本的に企画から実施までを広報で行っています。
―Twitterをはじめ、SNSによって今回のヒットにつなげられた取り組みなどありますか?
則包さん:日々SNSをチェックしている中で、サイドバングを前髪グルーで留めているという声を多く見かけるようになり、そういったところはすぐに取り入れTwitterなどの公式SNSで発信しました。また、店頭のPOPなどでもユーザーの声を取り入れた発信をしました。
結果、女性でも前髪をつくっていない子もいますが、サイドの髪にこだわっている方は結構多いので、そういった方にも訴求でき、お客様の層が広がりました。
―サイドバング!確かに若い方は前髪もですが、サイドもちょっと出してゆるく巻いたりしている方多いですよね。
則包さん:はい、それ以外にもコスプレイヤーの方からの反響も大きかったです。コスプレイヤーの方は、いわゆる工作のりでウィッグを固めたりしているそうで。あと、少し年齢層が上の方からも反響がありました。年齢が上がるとこめかみが痩せてきてしまうんですよね、私もですが。サイドバングを出しているとへこんでいるところを隠せるので、そういった方々にもお使いいただけるようになりました。
創立100周年に向け、コーポレート広報の強化へ
―今後、広報としての目標をお聞かせください。
則包さん:前髪グルーの発売で「ウテナは本当に女子の気持ちをわかってくれているよね」といった投稿がすごくあって、それが本当に嬉しかったんです。ウテナは、“万人に受けなくていい。10人に1人でも熱狂的なファンが生まれるような商品を作る”というのをモットーに商品開発を行っていまして、そういった商品開発の根底にある想いをもっと発信していきたいと思っています。
2027年には創立100周年になるということもありますので、そこに向けて、コーポレートの発信も強化したいと思います。
マトメージュ 前髪グルーについて
2022年3月に発売。のりで前髪をおでこに貼り付け、理想の前髪スタイルを固めずキープする前髪用スタイリング剤。発売前からユニークなコンセプトが話題となり、発売から1年弱で累計9万個を出荷(2023年1月時点)。参考価格1,100円
https://www.utena.co.jp/products/brand/matomage/matomage-fixer.html