全てのきっかけは「インスタ」~ファンが集い、報道の連鎖が起こる!懐かしのガラス食器『アデリアレトロ』のマーケティングとは?

本記事をご覧いただいている皆様は何世代だろうか?

平成後半生まれの娘のスマホから聞こえてくる私が学生時代流行ったJ-POP。
それを今流行りの曲として認識する娘と懐かしと思いながら聴く私。音楽だけではなく、ファッションや純喫茶など、レトロブームがきている。

そんな中、私自身が街中で目にし、気になっていたのが「アデリアレトロ」だ。レトロ調の花や動物があしらわれたガラス食器。麦茶を入れるだけでも食卓がかわいく見えそうだ。

アデリアレトロ

アデリアレトロ

「あ~食器棚に余裕があったら全種類欲しい!」

そう思っていたのだが、当初はどこのメーカーが製造しているのか?売れているのか?までは気にも留めていなかった。もっと言えば、商品名もそこまで頭に残っていなかった。それがある時、地方テレビで放映された「アデリアレトロが大ヒットしている」というニュースが目に飛び込んできて、初めてヒットしていることを知った。

自分の目の付け所の良さに浸った後(実際は多くの人が注目していたわけだが…)、情報収集を開始。ガラス製品を製造する老舗メーカー・石塚硝子のグループ会社でガラス食器ブランド「アデリア」から出ていること、そして、SNSをきっかけに昭和期に販売していたものを復刻したのがアデリアレトロであることなどがわかった。

昭和期に流行った復刻版がなぜ今これほど注目を集めるのか?興味深い!
そこで、今回は石塚硝子の広報・川島健太郎さんに話を伺った。

(編集長)

Instagramのエゴサーチが復刻のきっかけ~ジェネレーションギャップを乗り越え製品化へ

アデリアレトロは、昭和期に発売されていた商品の復刻版である。

アデリアレトロは、昭和期に発売されていた商品の復刻版である。

―アデリアレトロという商品ラインナップを発売された経緯を教えてください。

川島さん:アデリアレトロは、石塚硝子のガラス食器ブランドであるアデリアから昭和期に発売されていた商品の復刻版です。復刻に至ったきっかけは、20代の女性社員3名によるInstagramでのエゴサーチです。「#アデリア」で検索したところ、現代のアデリアから発売している商品だけではなく、昭和期に発売していた花や動物などのプリントがあしらわれたアデリア商品を大切に使って下さっているファンの方々の写真がたくさん出てきたそうです。

それほど人気があるのであれば、復刻したら絶対売れると確信し、商品化するために、どれほど潜在ファンがいるかを半年かけリサーチしました。それこそ、市場調査で昭和期のアデリアの花や動物などがプリントされた商品がInstagramで何件投稿されているか、どういった内容か、また実際に蚤の市などに足を運びアンティークショップの店主に話を聞いたり。アデリアのデザイナーさん!?と感動され、是非復刻してほしいと言っていただけたエピソードなどもあがってきました。

Instagram「#アデリア」で検索、 ヒットした約 3,000 件中の割合

―企画会議では、すぐにOKが出たのでしょうか。

川島さん:昭和世代の上席社員と20代の女性では、“かわいい”の受け取り方が違い、すぐに商品化とはいかなかったようです。(笑)
でも、半年かけて複数回の会議を経て、若手社員の熱意に押し切られる形で、まずはテスト生産を行うことになりました。本生産となると、1種類あたり少なくとも3000個は売れないと採算が取れないのですが、「そんなに売れるのか?」と昭和世代には疑問符がついていたのですね。

そこで、2018年11月から1種類500個でまずは3種類、計1500個でのテスト生産をはじめました。ヴィレッジヴァンガードさんのWebと自社のECだけの展開だったのですが、ヴィレッジヴァンガードの方が昔の商品をご存じで非常に好意的に扱ってくださったこともあり、半年で完売できました。

復刻するにも当時の情報はゼロ~Instagramからファンに「お願い」した内容とは?

―テスト販売を経て、2019年10月から本格的な販売となったわけですね。広報PRはどういった展開をされたのでしょうか。

川島さん:テスト販売時から、アデリアレトロのInstagramを開始しました。元々ファンだった方々が集まってくださり、Instagram上で交流をするようになりました。そういった取り組みもあり、メディアに気付いてもらえるようになり、取り上げられることが徐々に増えていきました。

―Instagramは6.6万フォロワー(取材時)とすごいですよね!ちなみにファンの方と交流をするため、どういった工夫をしたのでしょうか。

川島さん:この商品は、ファンの方に支えられている商品だと思っていましたので、SNSは非常に大切なツールと捉えています。

交流という意味では、「再会チャレンジ」という企画をしました。実は、アデリアレトロの商品を開発するにあたり、手元に昔の商品資料が一切残っていないという課題に直面しました。現物もデザイン資料も自社の中に昔をたどる情報が一切ない状況でして。昭和当時、高度経済成長の中、住環境の西洋化でちゃぶ台から椅子とテーブルの生活様式となり、ガラス食器が非常に売れた商品だったのですが…。そこで、“昔の自社商品にもう一回会わせてください!”という「再会チャレンジ」を行いました。

ファンの方が是非にと送ってくださり、デザイナーがグラスにトレーシングペーパーをあてて、鉛筆で絵柄をなぞり、版をおこしました。

アデリアレトロ再会チャレンジ

―Instagramは、アデリアレトロにとって欠かせないSNSということですね。

川島さん:現在も、企画に携わった女性社員が専属で管理しています。
アデリアレトロのグラスで純喫茶メニューを愉しんでいただけるイベント「喫茶アデリアーノ」を半年にわたり、10か所ほどで開催しました。アデリアレトロと相性の良いクリームソーダや昔ながらのプリンなどを提供していて、メニュー表や紙ナプキンも喫茶アデリアーノのロゴ入り仕様でこだわっています。こういったポップアップイベントも全てInstagramで告知しています。

喫茶アデリアーノ

私も入社して31年経ちますが、SNSでこれほど消費者と結びつきができ、ファンになってもらえた商品はありません。

商品への注目度が高まり、「商習慣の変化」や「新たなビジネス展開」も

現在20社ほどと、アデリアレトロのライセンスビジネスの展開をしている。

現在20社ほどと、アデリアレトロのライセンスビジネスの展開をしている。

―メディア露出を増やすために取り組んだことなどありますか?

川島さん:ありがたいことに、アデリアレトロに関しては、メディアから取材の問合わせをいただける状況です。過去の記事を見てさらに詳しく聞きたいと別の取材が入ることも多いです。

アデリアレトロは、Instagramを中心とした情報発信から始まり、それがファンの方や消費者に届き、話題になり、それを知ったメディアの方が取材に来てくださり、さらにその報道を見た別のメディアが取材に来てくださるという好循環ができています。

他の商品との違いという意味では、製造面でもあります。
この業界は長らく、販売店さんに気に入ってもらえないと販売ルートにのりにくいものでしたので、それを意識して商品の開発をする傾向にありましたが、アデリアレトロは、消費者から小売店に「こういった商品置いていないですか?」と問い合わせが入り、小売店から販売店さんにアデリアレトロの商品が欲しいと連絡が入るという、これまでとは逆の流れも生まれています。

―雑貨店などでは、アデリアレトロのガラス食器と一緒に他社から発売されているアデリアレトロの文房具や入浴剤などの商品が並んでいることもあります。これはどういうことでしょうか?

川島さん:ライセンスビジネスです。単に名前貸しというだけではなく、デザインの監修もしています。現在20社ほどとライセンスビジネスの展開をしています。これも今までにはなかったことです。
アデリアレトロの柄を知っていただく間口が広がり、とても良い機会をいただいています。

4年で累計115万個!反響をみながら復刻を進めると同時に、文化としての定着を図る

ショップに陳列されているアデリアレトロ。

ショップに陳列されているアデリアレトロ。

―テスト販売開始からもうすぐ4年が経とうとしています。売れ行きはどうですか?

川島さん:テスト販売から2022年8月度までで累計115万個販売しています。弊社全体で見た場合、単価の安い商品ならもっと売れている商品もありますが、アデリアレトロのように店頭売価が700~1,500円の商品は、年間で5~10万個売れればヒットしたと言えるので、その中で100万個以上売れているというのは、異例のことです。

体験イベントなどは行っていますが、売ることを考えなくても商品の持つ力でここまでヒットしており、マーケティングとはまさにこういうことだなと実感しています。

―今後の展開や目標を教えてください。

川島さん:昭和期にあった柄で、まだ再現出来ていない柄が百数十種類ほどあります。そのため、ファンの反応を見ながらそれらの柄を復刻させ、今後も商品開発を続けていきたいと考えています。
また、ブームではなく息の長い文化として定着する商品にしていきたいです。
そのために、喫茶アデリアーノやオリジナル柄のアデリアレトログラスを作ることができるワークショップを展開するなど「体験」の機会を増やしています。

アデリアレトロについて

石塚硝子「アデリアレトロ」

石塚硝子「アデリアレトロ」

高度経済成長の昭和期、ライフスタイルの西洋化に伴い、多くの家庭で使われていたアデリアのグラスウェアをリメイクした製品。レトロな雰囲気を醸し出す花や動物などの柄をあしらったグラスや容器を展開。2018年11月よりテスト販売を開始し、2022年8月までで115万個を販売。

HP:https://aderia.jp/series/aderiaretro/
インスタグラム:https://www.instagram.com/aderia_retro/

広報担当者プロフィール

石塚硝子株式会社 川島健太郎さん

石塚硝子株式会社 川島健太郎さん

石塚硝子株式会社 
川島 健太郎(かわしま けんたろう)

1991年に石塚硝子に入社。企画・デザインやガラス作りを基礎から学ぶ。その後プロモーション・販売促進や輸入商材の企画デザイン・海外企業との交渉業務などを経て、2020年広報チーム発足時より現職。

石塚硝子株式会社(https://www.ishizuka.co.jp/

文政2年(1819年)創業。ガラスびん・ガラス食器・紙容器・プラスチック容器・セラミックス製品の製造販売を行う。

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