今回は「音声×テクノロジーでワクワクする社会をつくる」をミッションに音声プラットフォーム『Voicy』を展開する、株式会社Voicyの小出佳奈美さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集長)
この記事の目次
課題解決型のPRから、新たな価値の浸透・市場をつくるPRへ
編集長:Voicyは広報PRパーソンからも注目を集めていますが、他のメディアもVoicyを活用されるなど、最近すごく広がってきているのを感じます。
そういった肌感もあり、Voicyの広報がどういった取り組みをされているのかお話を伺いたく、今回取材依頼をさせていただきました。
小出さんはどういったキャリアを経て、Voicyの広報になられたのでしょうか。
小出さん:学生時代は、新聞社の編集局でアルバイトをしていました。PRという仕事を知ったのはその頃です。出版社でのアルバイトや新聞社での契約社員を経て、PR会社に入社しました。PR会社では、書籍や音楽、文化などのPRで主にベストセラーの書籍を生み出す仕事をしていました。その後、少し間はあるのですが、総合PR代理店に転職し、5年間、消費材を中心にした商品・サービスPRを主に担当しました。
その際は、ただ商品やサービスの認知を広めるのではなく、生活者に寄り添ったり世の中の課題解決につながるようなPR施策を考え情報を発信するということに取り組んでいました。ただ、どうしても代理店だと領域も限定的になりがちだったため、事業会社で企業や事業にとことん向き合い、事業成長に寄与する広報をしたいと思うようになり、Voicyに転職しました。
編集長:事業会社といっても、色々選択肢があったと思います。Voicyを選ばれた理由は何だったのでしょうか。
小出さん:Voicyが新しい価値を生み出そうとしてるのを知ったことがきっかけです。代理店時代に課題解決に繋がるようなPRをしていたとお話ししましたが、Voicyと出会い、“この何でも便利になった世の中で、まだ新しい価値を生み出せるものなんだ!新たな価値を提供する事業の成長に広報PRとして携わってみたい”と思い、入社しました。
編集長:そうだったのですね。今は、お一人で広報をされているのでしょうか。
小出さん:はい、一部担ってくれるメンバーもいますが、基本実務は私が専任として一人で行っています。
編集長:広報PRとしては、どういったことに取り組まれているのでしょうか。
小出さん:メイン事業は1つで、ひとことで言うと音声なのですが、事業内容は多岐に渡ります。toCのほかにtoBもありますし、一般的なtoC事業ではなくPUGCなんですよね。ロードマップもある程度計画を立てますが、すべては計画通りにはいきません。訴求したいポイントがたくさんあるなかで、大きく6つの項目に要素を整理し訴求するよう心がけています。
それが、
①コーポレートPR:メッセージやビジョン、展望
②サービスPR:実績や目標、Voicyや市場の現象
③パーソナリティPR:パーソナリティの活躍や収益化の実現
④発信者視点:発信コストがかからず感情まで届けられる声の魅力
⑤受信者視点:ながら聴きができたり温もりまでも届く声の魅力
⑥新規市場:重要なポイントである法人の音声活用
です。
アクションに応じて、これらを踏まえてアウトプットで出し分ける意識をしています。やらないことの意思決定はしつつも、基本は「なんでもやる」というスタンスです。(笑)
これまでVoicyが広告を一切出さない選択をしているいうこともあり、広報PRによる「空気づくり」は意識しています。全社的に発信やコミュニケーションが重要というマインドがあり、全メンバーが意識しながら取り組んでいます。
ミッションは「音声市場の形成」に寄与すること
編集長:広報PRとしては、どういったミッションを掲げていらっしゃるのでしょうか。
小出さん:「ながら聴き」が急拡大しており、有難いことに、各方面から注目いただいてはいるのですが、まだ音声を聞く・発信するという文化は、形成段階だと思っています。そのため、市場形成に寄与する活動をするというミッションのもと活動しています。音声の利便性はもちろんですが、それだけではない音声の魅力や可能性を認知し、取り入れてもらう必要があります。いわゆるパーセプションチェンジですね。
それと並行して、Voicyというブランドづくりも必要です。Voicyは「声で、未来を変える。」というコーポレートメッセージを掲げています。パーソナリティが、毎日リスナーにポジティブな情報を届けてくれているのですが、それらを聴くことでリスナーは新しい価値を知り、生活が彩られる、結果社会の豊かさにつながると思っています。Voicyを通じて、こういった生活者自身が気づいてないような価値に触れることができると知ってもらいたいと考えています。
編集長:なるほど、市場形成ってなかなか難しいミッションですね。
小出さん:はい、なのでVoicyだけの視点で情報発信をしていてもダメなんですね。
当然、音声サービスというくくりでみれば、他社は競合になるのですが、今は一緒に市場形成をしていくフェーズだと思っていますので、テキストにはない音声の魅力をいかに伝えるかは非常に意識しています。
編集長:確かに市場形成時というのは、1社で頑張るだけではダメで、業界全体を盛り上げていくという視点が欠かせませんよね。
小出さん:はい、その結果として、テキストや動画の他に、音声という選択肢も入ってくるようになればと思っています。
編集長:そういえば、noteとも「share your story」で、コラボされていますね。
小出さん:はい。声で伝えた方が良いこと、テキストの方が良いこと、また人によって何がベストは違います。そういった意味で、noteとVoicyが手を組むことで、発信の幅が広がるといいなという思いから始めています。
編集長:御社は他社とのコラボレーションに積極的ですよね。noteもそうですが、世田谷区や衆議院の選挙など、注目を集めているところや話題になりそうなところと積極的にコラボレーションされているイメージです。こういったこともリスナー増加につながっているのかな?と。広報PRからコラボ先の提案をしたりもするのでしょうか。
小出さん:ケースバイケースですね。ただ、PRありきという視点よりも将来性を重視しています。こういった取り組みをきっかけに事業展開の幅も広げていきたいと考えています。実際、ひとり広報なので私自身が企画立案してアライアンスを持ちかけるなどはなかなか追いつかないことばかりですが、おかげさまで社内でいろんな案件が立ち上がるので、それをいかに最大化できるかに注力しています。
8000名規模のイベントを自社のみで企画運営
編集長:最近、反響のあったPR施策や取り組みがあれば教えてください。
小出さん:2021年にPR起点で立ち上げた「Voicy FES ’22 -世界を変える声の祭典」という著名なパーソナリティが出演するイベントがあります。年1回、開催しており、昨年10月には2回目を開催できました。
声が世界を変えられることの証明をしたいという想いで始めたのですが、音声だけのオンライン開催にもかかわらず昨年は約8000人に有料参加いただけました。SNS上でのコメントやツイートからも、リスナーさんが声にすごく刺激を受けて、前向きな気持ちになってくださったのが伝わってきました。少しずつですが、声で世界を変えるということを体現でき始めてるのかなと感じています。
編集長:著名なパーソナリティをブッキングしたり、集客のためのコミュニケーション戦略を考えたり、、、これだけ規模の大きなイベントだと大変だったのではないですか。
小出さん:そうですね、誰をブッキングするかも大事ですし、いつ情報を公開するかも大事と考えています。ですので、発信のタイミングと発信コンテンツを設計して、いくつかのフェーズにわけ、段階的に情報を公開していきました。
この祭典は、外部のイベンターが入っているわけではないので、社内メンバーで作り上げています。日常業務と並行して行っているので、準備期間はかなり大変ですね。
編集長:何ヶ月前くらいから準備されてるんですか。
小出さん:打ち合わせは、半年前くらいからですね。
プルでの取材依頼が増加。社内外の調整をしっかり行い、アウトプットを最大化
編集長:最近WBS(ワールドビジネスサテライト)にも「“ながら聴き”がナゼ急拡大?あなたの“ギモン”直撃リサーチ」というテーマで露出していましたが、プッシュですか?プルですか?
小出さん:日経TRENDYの弊社代表インタビュー記事をご覧いただき、取材のご連絡いただきました。ですので、プルということになります。
編集長:ひとり広報の場合、色々な業務を抱えているので、メディアアプローチだけにたくさん時間を割くというのは難しいですよね。そういった状況の中で、コンスタントに影響力のある媒体に出られているので、どうされているのかうかがってみたかったんです。
小出さん:PR代理店にいた頃は、メディアスペシャリストという肩書きで、プロモート活動の割合が比較的高かったんです。Voicyに入社した際は、メディアリレーションに力を入れ、メディアの新規開拓もし、露出を増やしていこうと思っていました。しかし、その後組織編成の変更でひとり広報になったこともあり、なかなか叶わず。ただ、おかげさまでVoicyの事業が時流にマッチし、プルでお問い合わせをいただく機会も増えました。プルでいただいた取材に関連した対応にかなりの時間を使っているというのが現状です。
編集長:広報を経験してない方からすると、取材対応って、何にそんなに時間がかかるの?と思うかもしれませんが、各方面の調整だけでも結構かかりますよね。(笑)
小出さん:はい、特にリスナーさんの取材が必要なものは、私が直接リスナーさんにお声がけして取材対応をしていただいているので、調整に時間がかかります。ただ、プルを引き寄せられるようになったのも、単なるラッキーだけではなく仕組みや土台づくりが活きていると考えています。それは、PR代理店時代にも意識していたことなので、つながっているなと。
また、メディア露出に関しては、事業への貢献、好影響といったところももちろん重視していますが、それと同じくらいメンバーに喜んでもらえるものにするということを大事にしています。メンバーがみんなで積み上げた実績があるからこそ、取材も獲得できるので。また、メンバーに外部の人の目線を知ってもらうことでPR意識につなげたいと考えています。そういった意味では、社内調整もある程度時間をかけ、できるだけ丁寧に行っています。
全方位を意識し、PRを展開
編集長:前職のPR会社ではメディアスペシャリストとしてご活躍されていたと伺いましたが、今後、どんなことをしていきたいとお考えですか。
小出さん:先ほどお話したように、今はありがたいことにメディアから取材のご連絡をいただくことも増えましたが、狙いたいアウトプットから逆算して、他社と一緒に何かを仕掛けたりといった、前職で行っていたような取り組みも積極的に行っていきたいですね!
編集長:ちなみに、メディアスペシャリストというワードからはメディアリレーションがお得意でたくさん取材を取ってくるプロみたいなイメージがあるのですが、実際どんなことがお得意なのですか。
小出さん:前職では、ビジネスやライフスタイル系のメディアを中心に活動していたのですが、人脈を活かして提案を通していくというスタイルというよりも、素材に対して、どういうメディアと相性が良くて、どう料理してから提案したら興味を持ってもらえるかというメディアアプローチ戦略を考え実行するのが得意です。
Voicyは本当に様々な業界・企業との連携があり、話題のジャンルも多岐にわたるので、自分の得意とするスキルを活かして、この話題だったらこのメディアに話を持って行って…といったことを中心に取り組もうと入社前は思っていたのですが。
編集長:実際は?
小出さん:PR会社から事業会社の広報になり、改めて広報PRの仕事って、メディア露出だけではないというのを実感しました。それまでは、PR(Public Relations)といっても、基本メディアが相手だったんです。でもVoicyに入社し、リスナーさんやパーソナリティの方々との距離も近く、また株主のことも常に意識するようになりました。
ステークホルダーと一言で言っても、本当に様々な方がいるというのを自覚しながら動けるようになったと思います。ですので、ニュースリリースひとつとっても、記事として取り上げてもらうためというだけではなく、Voicyからステークホルダーにニュースを発信するマインドで行っています。
編集長:具体的には、どういうことでしょうか。
小出さん:例えば、特にマーケティングPRの場合、記事としてアウトプットしていきたいという気持ちがあるのですが、一方で、“音声のトレンドを知りたいと思ったら、Voicyにまず情報を取りにいこう”と思ってもらえるような状況にするべく、Voicyのニュースリリースの価値を高める、また情報を積み上げていくということを意識しています。先程の話にもつながりますが、取材を取りに行くのも大事なのですが、取材が入ってくる仕組み作りもすごく大事だと思っていまして。そういった意味では、今取材をプルでたくさんいただけているので、仕組みを作ってきた結果でもあるかなと思っています。
編集長:確かにそうですよね。
社内から上がってきた情報をニュースとしてリリースにして、コンスタントに出していくというのは、広報の大事なミッションの一つですよね。
小出さん:もうちょっと要領よくできるようになりたいとは思いますが!(笑)
イベントやテレビ取材が重なると、それ以外にかけられる時間がほとんどなくなってしまうんですね。ただ、Voicyの広報になって1年半経つので、吸い上げた情報を料理して発信するだけではなく、発信方法ももっと工夫していきたいと思っています。この春は、クリエイターエコノミーの文脈とあわせて、発信の選択肢に音声が選ばれるような訴求を行っていく予定です。ぜひ楽しみにしていてください!
編集長:どのようなことに取り組まれているのか、またそれがどのような形となって表れているかがよくわかりました!ありがとうございました!
PRマガジン編集部の「編集後記」
―広報にとっても重要なツールになっているVoicy
広報にとってメディアチェックは欠かせないルーティン業務。新聞、雑誌、Web、テレビ…目を通すものは多い。そんな中に加わったのがVoicyだろう。
マスメディアもVoicyでチャンネルを持ち、編集者や記者が取材の裏側などを配信している。それらを聴くことでメディアの理解も深まるし、パーソナリティやゲストとして登場したメディアの人に初めてアプローチする際もなんとなく人となりがわかるので、電話などもしやすいのだ。
そういった面白い立ち位置にいるのがVoicyだ。
―PULLで取材依頼が入る土壌を作る
広報PRがカバーしなくてはいけないのは、メディアだけではない。ステークホルダーとの良好な関係を構築するのが広報の重要なミッションだ。
そうなると、メディアリレーションだけにたくさんの時間を割くわけにはいかない。
でも、露出を作っていくことも必要。となった際、メディアが興味を持って、自ら取材したいと言ってきてくれる環境を作ることが解決策になる。でもそれは簡単なことではない。
目指せ!(小出さんのように)PULLの取材依頼で対応が忙しくなる広報!