何気なく買っている食品をよくよく見ると、「あれもこれも同じメーカーが出しているのか!」と気付くことはないだろうか?
私にとってのマルサンアイさんがそうだった。
ほぼ毎日使っている純正こうじみそや最近お気に入りの豆乳スライス…。改めて意識して冷蔵庫の中をみるとマルサンアイさんの商品がいくつもあった。豆乳グルトもその中の一つだ。
特に最近、豆乳という液状のものではなく、豆乳グルトや豆乳スライスといった豆乳が形を変えた商品をスーパーでよく目にするようになった。
そこで、「これにはきっと営業や広報などの企業努力があるはず!」と取材を申し込ませていただいた。
今回の取材を通し、改めて感じたのは、こだわり抜いて開発した商品というのは、ヒットする確率が高いということだ。豆乳グルトも企画から発売に至るまで10年もの歳月を要したという。それは植物由来の乳酸菌にこだわり、かつ豆乳と乳酸菌だけでヨーグルトのようにするためだ。実際、私もそこに魅かれて商品をリピート購入している。
しかも初めて知ったが、豆乳グルトに使用されている長野県木曽地方の伝統漬物「すんき漬け」から発見された乳酸菌TUA4408Lは、豆乳グルトでしか使用されていないらしい。日本伝統の食べ物から見つかった菌。なんだか日本人のおなかには良さそうだ。
今回は、商品の開発や広報、営業展開などについて、マルサンアイの担当者5名に取材させていただいた。
(編集・若林)
この記事の目次
右肩上がりの豆乳市場~10年かけ豆乳を“食べる”商品へ
―最近、豆乳の市場が伸びていて、御社も工場を増設され生産体制を整えられたんですよね。今回取材させていただく「豆乳グルト」は2010年4月に発売されたということですが、その頃から豆乳への注目が集まっていたのでしょうか。若林さん:豆乳はそれ以前にも何回かブームがありまして、第一次ブームは80年代初頭です。すごく豆乳がもてはやされまして、様々なメーカーが豆乳を作り、市場が盛り上がりました。でも2年程でブームは落ち着き、また90年代後半から第二次ブームが起こり、増加傾向がみられました。第三次ブームは2000年前後で、2007~8年に一度需要が落ちましたが、その後順調に伸び続けているという状況です。
―そういった状況下で、飲む豆乳ではなく、ヨーグルトの代わりになるような商品を発売しようと思われたのは、どういったきっかけからだったのでしょうか。
若林さん:飲むだけではなく、料理への利用なども訴求していましたが、特に当時は牛乳で作れるものなら、豆乳でもできるのではといった考えが根底にあり、色々な形で豆乳を飲んだり食べたりしてほしいという想いから、豆乳の良いところを活かした加工食品を色々考えていました。
―現在は、豆乳ベースのヨーグルトもいくつかのメーカーから出されていますが、発売当時はどのような状況だったのでしょうか。
若林さん:小さいパッケージの加糖豆乳ヨーグルトは他のメーカーさんからも発売されていました。ただ、400gの大きいタイプで加糖されていない豆乳だけで作られたヨーグルトは当社が初めて発売しました。
―豆乳は独特の風味があると思うのですが、より食べやすい味にするために加糖してあったんですかね?
若林さん:味もあると思いますが、製造過程の技術的な面もあるかもしれませんね。
―加糖されていない植物由来の乳酸菌と豆乳だけで作られた商品という点では、今までにないものを発売されることになったわけですが、世の中にないものを発売するときというのは、コンセプトが大事になると思います。豆乳グルトはどのように訴求されていったのでしょうか。
若林さん:弊社は、愛知県岡崎市に本社があるのですが、2010年の発売時は、愛知県内の2つのスーパーチェーンのみで販売を開始しました。発売時のキャッチコピ―は豆乳市場が伸びていたということもあり「ヨーグルトじゃない豆乳グルト」というストレートに豆乳だけで作った商品であることを訴求していました。
―愛知県でのテスト販売で反響がよかったことから、全国に展開していったということでしょうか。
若林さん:そうですね、愛知の2つのスーパーチェーンから始め、愛知県・三重県・岐阜県(以下、愛三岐)、2014年に東京(関東)、2016年に関西、2017年に九州・沖縄で販売を始めました。
―時間をかけてジワジワ全国に広げていったのですね。その間、コンセプトは変更などされずということでしょうか。
若林さん:変えていないです。現在は、大豆の違いで2商品展開していますが、豆乳と乳酸菌だけで発酵させた商品であるというコンセプトを一貫して訴求しています。
最も苦労したのは、豆乳を発酵させられる植物由来の乳酸菌探し
―最近は、乳酸菌を推していらっしゃるのかなと思いましたが、いかがでしょうか。若林さん:牛乳を発酵したものではなく、植物由来の乳酸菌であることは今回のパッケージ変更の際に改めて強調しています。研究開発の話にもつながりますが、豆乳を発酵させヨーグルト風にするための乳酸菌を探すのがすごく大変だったんですね。長野県の木曽町というところに、「すんき漬け」というお漬物があるのですが、そこから分離した乳酸菌を使うことで、豆乳をヨーグルト風にすることが可能になりました。
―ホームページにも書かれていましたが、お漬物由来の乳酸菌だから、日本人のおなかに馴染みやすいであったり、大豆イソフラボンを吸収しやすいアグリコンに変換されやすいといった魅力もあるんですね。でも、個人的には、余計なものを使っていないというのが一番魅力的に感じました。商品化までに一番大変だったのは、乳酸菌を見つけて豆乳を発酵させるということだったのでしょうか。
諸橋さん:そうですね。開発に携わった先輩方にも話を聞いたところ、当初から植物性の乳酸菌を使いたいと考えていたものの、豆乳に入れて発酵する乳酸菌がなかなかなかったそうです。普通のヨーグルトの菌だと動物由来でコンセプトと合わなかったり、そもそも発酵しなかったりと苦労したと聞いています。
そういった中、当社が東京農業大学と共同研究をしていたことから、大学が多数保存する菌株から、植物由来に該当する菌を3種選び出していただき、当時研究していた岩崎室長が「すんき漬け」から発見された乳酸菌であるTUA4408Lを選定したそうです。このTUA4408Lのおかげで、豆乳グルト独特のとろみを出せています。
植物性の乳酸菌で作る豆乳ヨーグルトは固めるのが難しいため、ゲル化剤や寒天を添加し固めている商品もありますが、豆乳グルトはシンプルな処方で作りたかったので、この乳酸菌を見つけるまでが本当に大変だったそうです。
―TUA4408Lという乳酸菌に出会えたことがターニングポイントだったのですね!当時TUA4408Lを使った商品というのは世の中に出ていなかったということでしょうか。
諸橋さん:はい、そうです。現在も豆乳グルト及び国産大豆の豆乳使用豆乳グルト以外には使用されていません。
若林さん:実は、豆乳グルト発売前に、私は何度も試作品を試食していたのですが、お世辞にも美味しいとは言えないものばかりで(笑)。本当に色々な菌を研究開発で試していたんですね。でも、あるとき、すごく美味しいものが試食に出てきまして。それがTUA4408Lを使ったものだったんです。
諸橋さん:今、何度も菌をかえ試作を繰り返した話がありましたが、豆乳グルトは発売してから10年経過していますが、実は発売するまでにも10年かかっている商品なんです。その間に前身となる発酵豆乳をパックに詰めた飲み物も商品として出してはいますが、ヨーグルトという形に至るまでには10年かかっています。
今までにない商品で苦戦した地方、新しいがゆえに興味を示す東京
―10年ということは、本当に色々な菌を試されたのでしょうね!2010年4月から2021年2月の累計で3300万個突破されたということですが、ヒットの決め手になった出来事などありましたか。齊田さん:豆乳市場が右肩上がりで、生活に根付いてきているということもあり、飲むだけではなく、食べたり、料理に使うようになってきているという背景もあり、豆乳グルトも多くのお客様に食べていただけているのではないかと思います。また、乳成分不使用のヨーグルトは市場であまり見かけない商品でしたので、乳アレルギーがあるお客様でも家族みんなで同じ商品を食べられるというのもヒットにつながった理由の一つだと思います。
―このタイミングから売上が急増したといったことなどありますか。
若林さん:販売エリアが広がるとともに売上も伸びていったのですが、強いて言うなら2014年頃でしょうか。関東以東に販売網を増やした時期なのですが、私はその当時、東京で営業をしていまして、愛三岐は新しいものということですごく苦労したのですが、関東、特に東京では新しいものということで非常に反応が良かったです。高級スーパーや感度の高いスーパーさんは営業に行かせていただくと、導入してくれました。この頃から認知度も上がっていったと思います。
乳アレルギーや健康志向の方から支持される商品に
―発売当時は愛知県内での広報活動からスタートしたのでしょうか。若林さん:広報というより、店頭用に動画を作成していましたね。あとは店内での試食販売などを行っていたので、インストアのプロモーションが中心でした。
―現在はどのようなことを行っていらっしゃるのでしょうか。先ほどお話されていた乳アレルギーといったテーマでの情報発信なども積極的にされているのでしょうか。
浅野さん:プレゼントが当たる消費者キャンペーンを行っています。
また、伊原六花さんを起用した豆乳グルグルダンスのCMを2年前から放映しており、今年5月には全国で放映予定です。伊原さんとは年間契約をさせていただいていまして、伊原さんのダンスが得意で元気なイメージと豆乳グルトの健康というイメージを合わせたコンセプトのCMになっています。見ている方に親近感を持っていただきたいという狙いがあります。
小さいお子さんは乳アレルギーをお持ちの方も大人に比べて多いようなので、オフラインでのイベントはなかなかできない状況ですが、以前は、親子イベントでのサンプリングやブース出展などを通し、訴求していました。他にもkids starさんが提供するお仕事体験アプリ「ごっこランド」に出展し、みそや豆乳ができるまでを疑似体験してもらえるようにしているのですが、そこにバナーを貼らせていただいたりもしています。
―メインターゲットは女性やお子様を持つお母様でしょうか。
若林さん:メインはF1~2層ですが、他にアレルギーの方や豆乳が好きという方、植物性のものを選択される方、健康志向の方もターゲットです。実際の購買層はF3層が多いです。病院などでたんぱく質を摂ることを進める栄養指導が多くなっております。その中でも豆乳などの大豆食品はほかの動物性食品と比較しても脂質の割合が低かったりコレステロール0なのでたんぱく質源としても摂取されるようになってきております。ヨーグルトと豆乳の良いところを持った商品なのでシニア層の方に選んでいただけているのだと思います。ただ、豆乳の購買層よりは少し若くなります。
広報課題は若年層への訴求~SNSでの発信を強化
―広報として、今後どのような展開を予定されていますか。浅野さん:先ほども触れましたが、5月1日~31日まで豆乳グルトと豆乳チーズタイプのCMを全国で放映します。豆乳チーズタイプのCMは伊原さんがピザトーストやグラタンを食べるという内容です。その他、女性誌で全面カラー広告も出稿予定です。
豆乳グルトに関しては、若年層のファンを増やしていきたいのでSNS、特にInstagramの投稿量を増やしていきたいと考えています。今は、月4~5回なのですが、他の商品も含めですが、月2桁くらい投稿したいと考えています。
―豆乳グルトを使ったお花のフルーツサンドは糖質やカロリーも抑えられそうですし、かわいいので、作ってみようと思っています。
浅野さん:SNSを担当している広報が一生懸命作って投稿したものなので嬉しいですね!
―営業販売で取られている戦略や目標についても教えてください。
若林さん:当社は冷蔵で運ぶ商品が豆乳グルトと豆乳シュレッド、豆乳スライスしかないんですね。なので、まだお届けできていない地域がありますのでお届けできるようにしたいですし、ビーガン対応のお店も増えていますので、業務用などでも販路を広げて行ければと考えています。
浅野さん:豆乳グルトのプレーンタイプでは販売数が同カテゴリー内No.1なのですが、国産大豆の豆乳を使用した豆乳グルトの配荷量が少ないので、増やしていきたいと思っています。牛乳はほぼ国産なので、国産のものがあるのであれば、そちらを選ばれるお客さまもいらっしゃるのではないかと思います。
豆乳が好きではない方にも選ばれる商品を目指す!
―今後の目標を教えてください。齊田さん:現在は、豆乳好きの方や健康志向の方に購入いただいています。ただ、豆乳が苦手な方も多いので、そういった方にも美味しいと思ってもらえるよう、豆乳グルトを作っていきたいです。
また、まだ豆乳グルトの存在を知らない方も多いと思うので、幅広いお客様に知っていただけるよう、商品のバリエーションも増やしていきたいと考えています。
豆乳グルトについて
2010年4月発売。発売から2021年2月までに、販売個数が累計3300万個を突破。豆乳と植物由来の乳酸菌TUA4408Lだけで作られている。コレステロール0、砂糖不使用、乳成分不使用。大豆由来のヨーグルトカテゴリーで販売数No.1。
広報担当者プロフィール
マルサンアイ株式会社
開発統括部マーケティング室商品企画課
齊田さやか (さいだ さやか)
マーケティング情報を意識し「技術アウト顧客イン」をスローガンに邁進中。
開発統括部研究開発室開発課
諸橋里沙 (もろはし りさ)
豆乳・豆乳グルトの設計に携わり、食べた方がおいしい記憶に残る製品化を目指し奮闘中。