子どもたちが「食」と「環境」を考えるきっかけに~累計20万本を突破した“食べられるスプーン「PACOON」”のヒトと時流を味方につける広報とは?

比較的ミーハー?で、メディアで紹介されていたものは結構な確率でほしくなる私。
最近、「これは買いたい!」と思ったのが、プラスチックスプーンに代わり持ち運びができ、かつ野菜も摂れる“食べられるスプーン「PACOON(パクーン)」”だ。

昔も(今も?)夏の縁日で、あんず飴の受け皿としてモナカが使われていたが、モナカは、水分や重さに対応するのが難しそうだ。しかも、食器としての役目を終えた後、積極的に食べたいと思わせるには工夫も必要だ。

それらの課題をクリアしたのが「PACOON」。

食べられるスプーン「PACOON(パクーン)」

食べられるスプーン「PACOON(パクーン)」

私も実際、結構な量の野菜スープを「PACOON」で食べてみたが、しなっとすることなく最後まで食べられた。そして、なかなか食材として取り入れるのが難しいビーツやいぐさといった栄養を気軽に摂取できるから、スプーンとしての役割が終わったら積極的に食べたいと思う。子どもたちに至っては、「PACOON」のちょっと固めな触感がえらく気に入ったようで、奪い合うように食べていた。本来の使い方?食べ方?とは違うと思うが…、普通に出したら絶対食べないビーツやいぐさ、おからまで美味しいといって食べてくれるのはちょっと嬉しい。

コロナ禍で延期されていた遠足も始まるし、お弁当には「PACOON」を入れてあげよう。友だちとの会話のネタにもなるかもだし、1本80円くらいで、栄養も摂れて、食べ終わったお弁当を洗うために開いた時の「ゲッ…」という感じもなくなり母にも優しい。

2020年10月から販売を開始し、2021年後半からは全国メディアなどでも次々と取り上げられ、累計20万本を突破した「PACOON」。でも、最初から順調だったわけではないらしい。
なぜなら開発・販売する株式会社勤労食は、主に社員食堂を運営する会社で物販は「PACOON」が初。そんな「PACOON」がどうやって、全国放送のテレビ番組や新聞で次々取り上げられ、生産が追い付かないほど受注が舞い込むようになったのか?

今回は常務取締役で、PACOONの生みの親である株式会社勤労食・濱崎佳寿子さんにお話を伺った。

(編集長)

食育×環境への想いから誕生

勤労食は、社員食堂の運営を通し、働く人の健康を食事から守るということに取り組んでいる。

勤労食は、社員食堂の運営を通し、働く人の健康を食事から守るということに取り組んでいる。

―なぜ、PACOONを開発しようと思われたのですか?

濱崎さん:勤労食は、社員食堂の運営を通し、働く人の健康を食事から守るということに取り組んでいる会社です。毎日栄養のあるものをバランスよく食べてもらうということを大事にしていまして、とりわけ野菜を食べることを推奨しています。ただ、ご自身で食べるものを選ぶ形のカフェテリアの場合、野菜はあまり選んでもらえないのが栄養士たちの課題でした。それまでの食習慣などもあるので、大人に野菜を食べてほしいといってもなかなか難しく、やはり子どもにのうちから野菜を食べる習慣を身に付ける「食育」の重要性に気づきました。

そこで、食育をテーマとした親子料理教室を開催したりもしたのですが、多くの人に一気に広めることができる取り組みではありませんでしたし、コロナ禍で開催もできなくなりました。

そういった中で誕生したのが、PACOONです。数年前に食べられる食器を製造している会社とのご縁があったり、私の妹が子どもと出かける際、離乳食用のスプーンは衛生上使い捨てのものを利用しているという話も聞いており、そのスプーンが食べられるようになったらよいのでは?と、アイディアを形にしていきました。

「お母さん」と「学校」をメインに情報を発信~SDGsの波に乗り注目が集まるように

環境や食材廃棄などを説明するのにPACOONはわかりやすく使いやすいという声もいただく。

環境や食材廃棄などを説明するのにPACOONはわかりやすく使いやすいという声もいただく。

―2020年10月からPACOONを販売されていますが、知ってもらう・広めるための活動は積極的にされたのですか。

濱崎さん:まず一つはInstagramの展開です。お子さんを持つお母さん世代に支持されているのはInstagramなのではないかと思い、発売数か月後から始めました。そのInstagramでどうやって広めるかを考えたときに、まずは見た目の可愛さを訴求しようと決めました。PACOONは5種類あって、素材により色も違います。保存料や着色料は一切使っておらず、素材本来の色でカラフルな色を出しています。なので、最初は見た目の可愛さを訴求するのですが、そこから栄養の話など食育につなげ、さらにそこから使い捨てプラスチックスプーンの削減にもつながるということを知ってもらう流れをイメージし展開しました。

もう一つが、学校教育でもPACOONを導入してもらいたく、市役所の食堂を運営している関係もあり、地元の教育委員会の校長会でPACOONについてお話する機会をいただいたこともありました。実際、校長先生や家庭科の先生から使いたいという声もいただき始めています。
この校長会経由ではないのですが、つい最近、愛知県の学校がコロナ禍でストップしていた山で飯盒炊飯等を行う学習を再開することになり、PACOONを使いたいとご連絡をいただきました。コロナ禍で他者が口に入れたスプーンを洗わせることができず、自分のものは自分で洗うと水を使いすぎるので困っていたそうです。先生からお話を聞き、そういうシーンでもPACOONが役に立つんだなと教えてもらいました。学校教育でいうと、近年SDGsの授業も行っており、環境や食材廃棄などを説明するのにPACOONはわかりやすく使いやすいというお声もいただいています。

―あとメディア露出はどうですか?私も最初にPACOONを知ったのはスッキリ(日本テレビ)だったと思います。

濱崎さん:メディアで紹介されたことは大きかったです。2021年の後半から22年4月からプラスチックスプーンが有料化されるかもしれないという話題もでてきて、SDGs文脈で多く取り上げていただきました。地元メディアとは距離が近いので、何か新しいことを始めたら教えてほしいとおっしゃっていただいており、PACOON発売時にお伝えし記事化していただきましたが、それ以外に弊社からリリースを出すということはしていませんでした。ただそういった記事を見てくださったのか、全国メディアが見つけてくださって、紹介してくれました。

―その他にも何か取り組まれたことはありますか?

濱崎さん:コラボPACOONという北海道であれば「とうもろこし」、沖縄の「島豆腐」、愛知の「生姜」、浜松の「メロン」、熊本の「ハニーローザ」といったようにご当地のものを取り入れたPACOONの販売も行っています。農家さんがせっかく作った野菜も規格外だと捨てられてしまうという現状があり、PACOONはパウダーにすれば何でも入れることができるので、困っている農家さんとコラボし一緒に広めていくということも行っています。Instagramでコラボ募集をしたところ、地方の民間企業からお問い合わせをいただき実現できました。今後も積極的にコラボは進めていけたらと思っています。

社として初の物販!モノの売り方がわからないから「想い」を伝えることに専念

売れ始めたと実感したのは、2021年後半頃。メディアのSDGs特集の中で紹介されたり、全国放送で取り上げてもらったのがきっかけである。

売れ始めたと実感したのは、2021年後半頃。メディアのSDGs特集の中で紹介されたり、全国放送で取り上げてもらったのがきっかけである。

―広めるための活動も展開されていましたが、最初から順調に売れたのですか。

濱崎さん:いえ、最初は全く売れませんでした。
ずっと食に携わってきたとはいえ、社員食堂と物販ではまったく勝手が違い…。ネットでモノを販売することすらしたことがなかったので、どうやって売ったらいいのかもわかりませんでした。売れないと事業として続けられないのですが、それよりも私たちは食育や環境教育を通し、未来の子どもたちが住みやすい環境を残したいという想いがあったので、様々な場でそれを伝えるということしかできませんでした。
要は売り方がわからないので、想いを伝え、共感してくださった方々と話を進めていくという感じでした。そうこうしている間に、時代も味方してくれ、メディアで取り上げられ、共感してくれる人も次第に増えていきました。買っていただくこともビジネスとしては大事ですが、PACOONに共感し広めてくれる人が増えれば食や環境について考えるきっかけになると思うので、それだけでも嬉しいです。

―売れ始めたと実感したのはいつ頃ですか。何かきっかけもあれば、あわせて教えてください。

濱崎さん:2021年後半頃です。メディアのSDGs特集の中で紹介いただいたり、全国放送で取り上げてくださったのは大きかったです。そこから知ってくださった人もいるのか、その後、地方のラジオ番組など、私たちの知らないところでも紹介してくださったメディアがあったようです。PACOONの注文が特定の地域で増えることがあるのですが、そういった場合、ラジオなどで紹介してくれていることがあるようです。

―全国放送のテレビなどで紹介されると、反響もすごいのではないですか?対応は間に合っていますか。

濱崎さん:今日(22年4月下旬の取材時)もネットショップに提供が遅れる可能性があることを記載しなくては、と社内で話していたところでした。お土産など業務用の需要がゴールデンウィーク前で増えているのと、先日紹介いただいた読売KODOMO新聞の反響が大きく非常に注文が増えていまして。読売KODOMO新聞を持ってきて「見たよ!」と言ってくださる方もいました。

―そうでしたか!ネットショップで一般の方に販売する以外に、飲食店での導入も広がり始めているんですよね。

濱崎さん:今、夏に向けてソフトクリームにPACOONを付けたいという問い合わせも増えていますし、東京のほうの学校からも家庭科の授業で使うために、たくさん購入したいとご連絡いただき、問い合わせや注文が重なり、生産体制を見直さなくてはと思っているところです。

―これまで一番大変だったことは何でしょうか。

濱崎さん:やはり売るということです。販売を始めた際は、売上も立っていないので専属の営業を置くこともできず、基本的に私一人でPACOON周りのことは全てやっていました。今は卸業者が間に入ってくれるようになるなど、少し変わってきています。
あと、学生とコラボ商品を作り、学生自ら営業して販売するというケースも出てきています。それが沖縄の島豆腐のおから味PACOONです。琉球大学の学生が島豆腐を守っていくため、普通のおからより廃棄率が高く豆腐屋の経営を圧迫している島豆腐のおからを何とかしたいと弊社に問い合わせがありました。
元々PACOONは子どもたちに食や環境のことを考えるきっかけになればという想いもあり始めているので、それを聞き、非常に嬉しく、すぐに一緒に始めました。問い合わせをくれた学生は卒業し社会人になっていますが、現在も新しいメンバーに引き継ぎ、自分たちで島豆腐おからのPACOONを販売されています。

「海外展開」と「防災食としての利用」を進め、国内の一次産業活性化へ

御在所サービスエリアお土産売り場の様子。

御在所サービスエリアお土産売り場の様子。

―今後の戦略や想いなどお聞かせください。

濱崎さん:PACOONはすべての材料を国産にこだわっています。子どもたちにも地元の野菜を食べてもらいたいですし、それが国内の自給率を上げることにもつながると思っています。その意味では、海外への輸出も積極的に展開したいと考えています。2021年の夏頃より、現地に販売ルートを持つ業者さんに間に入ってもらい、香港・台湾で販売をしています。ハワイも現在営業してくださっているようで、今後販売されるかもしれません。海外への輸出を増やし、現地の方に購入してもらえるようになると、より国内の生産者さんの活性化につながりますよね。日本の食の良さがもっと世界に伝わればと思っています。

もう一つが防災への取り組みです。昨今災害も増えていますし、少なくなるということはないかもしれないので、これからの日本の子どもたちは防災への意識を高めていかなくてはいけないと思っています。なので、PACOONも非常食としてご自宅にストックいただき、賞味期限が近くなったら楽しみながら食べてもらえるものとして、活用いただけないかなと考えています。今は、防災の活動をしている方々と何か一緒に取り組みができないか検討しています。

―ありがとうございました!

PACOONについて

株式会社勤労食「PACOON(パクーン)」

株式会社勤労食「PACOON(パクーン)」

2020年10月から販売開始。子どものうちから野菜を食べる習慣を身に付けてほしいとの想いから開発された商品。こだわりは、すべて国内産の原材料を使っていること。SDGsの環境への取り組みに関心が高まるなか、メディアからも注目され多数紹介。累計20万本(2022年3月末時点)。PACOON 5種ミックス(20本入)で1,620円(税込み)。
https://pacoon.kinrosyoku.co.jp/

広報担当者プロフィール

株式会社勤労食 常務取締役 濱崎佳寿子(はまざき かずこ)さん

株式会社勤労食 常務取締役 濱崎佳寿子(はまざき かずこ)さん

株式会社 勤労食 
常務取締役
濱崎佳寿子(はまざき かずこ)

祖父が勤労食を創業。新卒で入社し、結婚・子育てで一時離れるも2007年頃に復帰。社員食堂だけでは人口の減少と共に経営が難しくなると考え、何か新しい事業を始める必要があると考え、親子料理教室事業やPACOONの開発・販売などを開始。現在は、社員食堂事業とPACOONに関するすべての業務を行う。

株式会社勤労食(https://kinrosyoku.co.jp/

昭和39年創業。「食を通じて関わるすべての人を幸せにします。」をミッションに掲げ、社員食堂・社員寮食堂の運営や学生食堂・学生寮食堂の運営などを行う。

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