世界180の国と地域に日本のお菓子と文化をサブスクでお届け!自治体も注目する「TokyoTreat」「Sakuraco」の海外マーケティング戦略とは?

1

新型コロナウイルスで世の中が大きく変化する何年も前から、日本の老舗菓子メーカーや地方のお菓子メーカーが国内での売上増加に苦戦され、海外展開を視野に入れ始めているという話を耳にしていた。

でも、決まって言語や販路の壁が立ちはだかる。大手を除き、メーカーが海外マーケティングや販促活動を内製化することだって難しい。その壁を越え、順調に海外展開できているメーカーは多くなかったはずだ。

私もインバウンドで日本が盛り上がっている当時、企業が海外に自社の情報を発信するためにどういった手段や媒体があるのかリサーチしたことがある。広告費を支払うことで、情報を掲載してもらえる海外向けのメディアもいくつかあったし、海外のイベントに出展するという方法もあったが、それを老舗や地方のお菓子メーカーが継続的にできるのか?当然SNSで発信するというコストをおさえられる方法もあったが、海外の事情に精通し、英語で情報を発信できる社員がいないと難しいのではないかという疑問があった。

日本文化として「アニメ」や「ゲーム」は海外にも浸透しているが、日本のお菓子の繊細さやバリエーションは世界に通用する日本文化なはずだ。そんな想いもありつつ、日本の商品やサービスを海外に届ける良い方法がないものか?あるなら取材したいとずっと思っていた。

日本のお菓子のサブスクリクションサービス「TokyoTreat」

日本のお菓子のサブスクリクションサービス「TokyoTreat」

そんな時に目にしたのが「TokyoTreat」と「Sakuraco」だった。
英語や販路、海外マーケティング、費用の問題をクリアにして、日本のお菓子のサブスクリクションサービスを通し、日本文化の発信にもつなげているのだ。

「TokyoTreat」と「Sakuraco」を展開する株式会社ICHIGOは、SNSやYouTubeを活用した海外マーケティングに積極的に取り組み、創業から6年でサービスを提供する国と地域は180、売上は40億を突破。

今回は、創業者で広報も担当する近本社長にお話を伺った。

(編集・若林)

国内での広報PRにも注力~事業のユニークさから、次々と取材が舞い込むように

「TokyoTreat」サイトTOP画面。

「TokyoTreat」のTOP画面。

―2021年末くらいにかけ、メディアでもよく「TokyoTreat」が紹介されていたと感じたのですがいかがですか。

近本さん:2021年 の秋頃より、日本国内でも認知を向上させるため広報PRに注力しはじめ、その結果が年末にかけ出てきたというのはあります。
国内での広報PRに注力した目的は2つあり、一つは国内のメーカーや問屋、地方自治体といった取引先を開拓すること、もう一つは、採用です。現在、アルバイトや契約社員を含め80名ほどの従業員がいるのですが、今後、組織をより大きくするために、採用を強化したいと思っています。

―広報専属の社員がいらっしゃるのですか。

近本さん:専属の広報はおらず、当初は私が担当していました。メディアアプローチも問い合わせフォームから情報を送ったり。でも全く反応がなくて。(笑)。でも、Forbes JAPANで取り上げてもらってからは、他のメディアからの取材もたくさん入るようになりました。

肌で感じた需要をサービスとして形に~創業6年で売上40億円突破

「Sakuraco」のTOP画面。

「Sakuraco」のTOP画面。

―創業6年で売上40億円を突破されたとのことですが、これは「TokyoTreat」だけではなく、ICHIGOで展開している事業全てを合わせてですよね。海外に向けたお菓子のサブスクリクションサービスである「TokyoTreat」と「Sakuraco」だけだと、売上はどのくらいなのでしょうか。

近本さん:個別にはお答えできませんが、「TokyoTreat」と「Sakuraco」が売上全体の70%くらいを占めています。売上をみて「すごいですね」と言っていただくことも多いのですが、資金調達もせず、本当に創業時からコツコツ取り組みここまで伸ばしてきました。

―2015年に日本のお菓子に注目した越境ECサイトを立ち上げられた背景を教えてください。

近本さん:新卒でリクルートに入社した後、2010年の前半に、国内通販の新規事業に関わっている時期が合ったのですが、後発ということもあり競合も多く、試行錯誤の日々でした。

一方、その頃、訪日外国人が増え「インバウンド」や「爆買い」といったワードをよく聞くようになっていました。当時の職場が東京や銀座に近かったこともあり、日に日に外国人観光客が増え、街が活性化しているのを肌で感じていました。そのため、自分が行っている通販事業も海外に向けて展開したら、もっと需要があるのではないかと考えるようになりました。当時は、越境ECという言葉もなく、市場を独占しているような企業もなかったため可能性を感じました。

なぜお菓子に注目したかは、まず訪日外国人の方々は、帰国直前まで空港等でお菓子を購入されていること、そして、日本は空港限定や店舗限定など、お菓子のバリエーションが多いと感じたからです。このバリエーションの多さは海外になく、ウケるのではないかと思いました。

―お菓子に何か特別な思い入れがあったわけではないんですね。

近本さん:今でこそメーカーさんなどと取引させていただくようになり、思い入れはたくさんありますが、当時はなかったですね。(笑)

―海外向けのサービスということで、英語は必須だと思いますが、英語はお得意だったのですか。

近本さん:そんなに得意じゃないですね。なので、リクルート時代にお菓子の越境ECを思いつきましたが、すぐには形にできませんでした。その後、現在のICHIGOの共同創業者と知り合い、彼が外国人なのですが、日本の大学を卒業しており、日本語・中国語・インドネシア語が堪能で、私がやりたいことを伝えたところ、共感してくれ、二人で事業をスタートすることになりました。
実は、彼も日本の大学卒業後にアメリカの大学院に進学し、日本とアメリカの食を比べると、日本は食事のバリエーションが多く美味しかったと思っていたようで、アメリカで日本食のニーズはあると感じていたようです。そういった経緯もあり、最初はターゲットをアメリカに絞って始めることにしました。

二人しかいませんでしたが、上手く役割分担ができ、私は取引先との商談や買い付け、梱包配送業者との契約を行い、彼はエンジニアということもあり、サイト構築や海外マーケティング、カスタマーサポートをしてくれていました。

お菓子の買い付けに苦戦しながらも、サービス開始

「JAPANHAUL」のTOP画面。

「JAPANHAUL」のTOP画面。

―現在は、お菓子BOXを世界180の国と地域にお届けしているとのことですが、大手メーカーさんなどは、海外でも自社のお菓子を販売していますよね?「TokyoTreat」や「Sakuraco」はどのように差別化を図っているのでしょうか。

近本さん:大手メーカーであっても、海外展開されていないケースは多いです。海外展開されていても、現地で工場を持ち、現地に合わせた味やパッケージで展開していることが多く、日本で売られているものがそのまま海外で販売されているケースはほとんどないと思います。でも、私たちのお客様が求めているのは、日本で売られている日本限定のお菓子です。そこが一番の違いです。また、「Sakuraco」は、海外の方に知られていない日本のメーカーさんの商品というコンセプトでお菓子を選んでいますので、そもそも海外に流通していないお菓子をお届けしています。

―最初はビジネスモデルに共感してもらい、お菓子メーカーさんに協力してもらうのも大変だったのではないですか。

近本さん:2015年に開始した「TokyoTreat」は、大手メーカーのお菓子やソフトドリンクを詰めたお菓子ボックスなのですが、これらの商品はほとんど問屋経由で仕入れています。
ただ、実績がないと最初は問屋も売ってくれないんですね。取引したいと連絡しても、何百万もの保証金が必要であったり。起業直後でそれほどのお金を支払うことができなかったので、街の小売店で購入し、テストボックスを販売していました。
取引が増えると、自分で商品を取りに行き、その場で現金で払えれば購入できる現金問屋と取引できるようになり、商品の運搬をお願いする運送業者のトラックに私も同乗し、買い付けに行っていました。(笑)

後払いや掛け払いで買い付けできるようになったのは、サービスを始めて2年後くらいです。この業界は古い体質もあり、新参者が参入していくのは難しいということもわかり、採用で お菓子のバイヤー経験がある方を採用するなどし、問屋を開拓していきました。

サービスの肝を担う「ソーシャルマーケター」や「アフィリエイトマーケター」の役割とは

ICHIGOには「ソーシャルマーケター」のほかにも、デジタル広告運用の「デジタルマーケター」、インフルエンサーマーケティングの「アフィリエイトマーケター」が存在する。

ICHIGOには「ソーシャルマーケター」のほかにも、デジタル広告運用の「デジタルマーケター」、インフルエンサーマーケティングの「アフィリエイトマーケター」が存在する。

―サービスの基盤が整ってからは、SNSなどを活用しつつ情報を拡散されたのでしょうか。

近本さん:SNSには本当に助けられました。ただ、サービスの情報拡散というよりは、アメリカでは、どんな商品が好まれるのかの反応をみるために利用していました。今は傾向もほぼ把握できていますが、サービスを開始して2~3年はアメリカでInstagramが伸びてきていたこともあり、弊社の「ソーシャルマーケター」というSNSを運用するメンバーが、毎日決まった時間に決まった内容、例えばアメリカでウケそうな商品、ボックスの中身、キャンペーンの告知を投稿し、毎週データを集計し、反応をバイヤーに共有してバイイングに活かすということをしていました。

―「ソーシャルマーケター」って、職種として広がっていきそうですね!

近本さん:弊社はマーケティングをかなり細分化しています。ソーシャルマーケターの他に、デジタル広告を運用する「デジタルマーケター」とインフルエンサーマーケティングを行う「アフィリエイトマーケター」がいます。アフィリエイトマーケターは、海外で日本の商品や文化を発信されているYouTuberなどを積極的に探し、お声がけしています。

―今、日本でも専業でYouTubeをされている方って、お仕事をお願いするフィーも高くなってきている印象です。海外はどうなのでしょうか。

近本さん:日本では考えられないくらい高いと思います。90秒で㊙㊙㊙万円とかいきます。

―本当ですか!?それでもお願いする価値があるくらい反響が得られるということですよね。

近本さん:そうですね。我々がお願いしているYouTuberは英語で配信しているので、登録者数100万人とか、それどころか500~1000万人という方もたくさんいます。単価は上がり続けていますが、それだけ多くの方にリーチできる可能性があるということになります。

また、最近はコロナ禍で海外旅行に行けないということもあるのか、海外に向け日本の情報を発信している日本在住の外国人YouTuberも増えています。ラーメン屋や牛丼屋へ行く様子を英語で配信していたり、日本人からしたら珍しいことではないのですが、外国人目線で見た日本を発信されています。そういった方々には、弊社の取引先に一緒に行ってもらい、YouTube動画を作ってもらうといった取り組みもしています。

―海外の人気YouTuberと日本から海外に情報を発信している人気YouTuber、どちらにも積極的にアプローチされているということですね。

お菓子を通し、日本の文化を海外に発信~地方自治体からの問い合わせも増加

最近は、地方自治体からも問い合わせが増えてきている。写真は「Sakuraco × Kanagawa」

最近は、地方自治体からも問い合わせが増えてきている。写真は「Sakuraco × Kanagawa」

―「TokyoTreat」や「Sakuraco」の認知が広がったり、ユーザーが増えるきっかけとなった出来事などありましたか。

近本さん:「Sakuraco」は、2021年2月に始めたサービスなのですが、すごく伸びています。その理由の一つが、消費に対する姿勢の変化と「Sakuraco」のコンセプトがマッチしたことだと思っています。

そもそも「Sakuraco」は、約200万人いる登録者に対し行ったアンケートで、「お菓子に限らず、日本の伝統的なものが欲しい」という声が多かったことをきっかけに始めたサービスです。「Sakuraco」のお菓子ボックスの中には、毎月、メーカーのお菓子に込めた想いや歴史に触れるインタビュー記事を掲載したマガジンを同封しており、これが海外のユーザーにとても人気です。SDGsやフードロスは、日本でも注目されていますが、そういった志向は海外も同様で、同じお菓子を買うならこれらに配慮した商品を買いたいと思う方が増えています。

そのため、「TokyoTreat」も伸びているのですが、このサービスのユーザーの多くは「日本のお菓子を食べる」ことを目的なのに対し、「Sakuraco」のユーザーは、“メーカーをもっとバックアップしたい”、“何百年も同じお菓子をつくり続けている理由を知りたい”など、お菓子に対し、ストーリー性や商品を買う意味を求めている方が多いです。

新型コロナウイルスにより、小さいメーカーほど打撃を受けていると思いますが、こういった背景も合わせてお届けすることで、メーカーを支えていきたいと思う方をより増やせていけたらと思います。

―数年前から、老舗の和菓子屋さんも国内では天井が見えてきているから、海外に目を向け始めているという話をよく聞くようになりました。でも、英語がネックになっていたり、海外にどう発信すればよいのか、その方法がわからない…といった声も多いように思います。そういった状況下で、「Sakuraco」は老舗や小さなお菓子屋さんからしたら、すごくありがたいサービスですよね?お菓子を海外に届け、さらにお菓子作りに込めた想いや守ってきた歴史なども一緒に届けてくれるわけですから。

近本さん:お菓子ボックスと一緒に届けるマガジンはWebでも見れるようにしているので、手元に届いた方以外にも読んでいただけるようになっています。また、ボックスに入っていたお菓子を再度購入したいという方も多いので、サイトから単品でも買えるようにしています。
私たちとしても、こうすることで、ご縁が一回きりにならないですし、取引先からは、販路が一つ増えたと喜んでいただけています。

最近は、地域に根差したお菓子屋さんを盛り上げていきたいと、地方自治体からも問い合わせをいただくことが増えてきています。
実は、「Sakuraco」を始めた当初から、北海道や大阪など地方をテーマにしたお菓子ボックスを作り提供していました。日本は地産地消にこだわったお菓子づくりをしているメーカーも多いんです。色合いも日本らしいものが多く、海外の人はそのあたりに、とても興味をもってくれるからです。
元々、海外の方には、この地方をテーマにしていたお菓子ボックスを喜んでもらえていましたが、最近は微力でも地域の活性化に貢献できていると感じられ、嬉しいです。

コロナ禍で海外への配送がストップ!?万単位の商品が戻ってくるという事態に

「Sakuraco」Discover Authentic Japanese Flavors

「Sakuraco」Discover Authentic Japanese Flavors

―近本さんが以前別の取材で「自分が頑張れば後からいい結果がでることが分かっているから、止まらずに頑張ってきた」と、お答えになっていたのが印象的でした。この言葉から、自信と共に必ず成功させるんだという覚悟を感じました。とはいえ、これまで色々大変なこともあったと思います。一番大変だったことは何でしょう。

近本さん:やはり新型コロナウイルスによる状況の変化への対応です。世界的に在宅での消費傾向が高まり、2020年の春から夏にかけ、売上が一気に上がったのですが、一方で、海外への配送が一旦全てストップしてしまった時期もありました。発送したはずの商品が何万個と倉庫に戻ってきてしまい、通常カスタマーサポートへのお問い合わせは1日50~100件なのですが、多い時は3000件ものお問い合わせがありました。

―3000件!対応が大変だったことが想像できます。基本、業務はアウトソーシングされていないということで、自社で全て対応していったのですか。

近本さん:ビジネスモデル上、どうしても薄利多売なんですね。なので、アウトソーシングはせず、すべて内製化し、自分たちで行っています。なので、コロナの時もそうですが、国際配送でものを届けるというのは、度々トラブルが起きるのですが、それを180の国と地域に行っているので、何かあった際はすぐに対応できる体制が構築できています。

日本のものなら何でも買える「コンビニ」を目指す

「YumeTwins」のTOP画面。

「YumeTwins」のTOP画面。

―今後、拡大したい地域や国はありますか。

近本さん:地域や国を増やそうとは思っていません。現在、180の国と地域でサービスを展開していますが、気づいたら増えていたという感じです。ですので、そこを増やすというより、メインとなっているアメリカでもまだ獲れていないパイがたくさんあるので、そこを増やしていきたいと考えています。

―今後の目標をお聞かせください。

「日本のものならICHIGOから買える」という状況にし、ICHIGOが世界のコンビニになることを目指しています。そのためにも、商品のバリエーションを増やすことやサイトからの買いやすさを追求していきたいです。

「TokyoTreat」について

日本のお菓子・ソフトドリンクを定期課金にて全世界向けに販売する会員制サブスクボックスサービス。主にメジャーブランドの期間限定や日本限定アイテムを取り扱っている。。1か月37.50ドル。その他3か月、6ヶ月、12か月のプランあり。

「Sakuraco」について

2021年1月より開始。日本全国の老舗和菓子メーカーの和菓子や日本茶を定期課金にて全世界向けに販売する会員制サブスクボックスサービス。地方メーカーに海外販路を提供することで地方活性化への貢献も目指す。1か月37.50ドル。その他3か月、6ヶ月、12か月のプランあり。

広報担当者プロフィール

株式会社ICHIGO 代表取締役CEO 近本あゆみさん

株式会社ICHIGO 代表取締役CEO 近本あゆみさん

株式会社ICHIGO
代表取締役CEO
近本あゆみ(ちかもと あゆみ)

新卒でリクルートに入社後、新規事業の国内通販に携わる。その際、越境ECの可能性を感じる。退職後、約1年半の間、フリーランスで美容室等の集客コンサルティングや美容媒体のディレクターとして仕事は軌道に乗るもスケールの大きな仕事をしたいと起業を決意。思い描いていた越境ECを形にすべく、サイト構築や買い付けを始め、2015年にサービスをローンチ。

株式会社ICHIGO(https://ichigo.com/

2015年8月3日設立。「日本の文化を通じて世界中の人を繋げ、常に日本の文化を体験したり日本が好きな人たち同士で語り合ったりすることがスタンダードな世の中にする」をミッションに、D2C越境ECサブスクリプションサービスやオンラインクレーンゲームを展開。海外に向けたお菓子ボックスのサブスクリクションサービスは180の国と地域で展開。

■わが社のヒット商品・サービスについて情報を提供したいという方は下記から

1