想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法(後半)。アスコム取締役編集局長・柿内さん

売れる本にするために重要なことは「読者を強烈に意識する」こと

玉木:今、苦戦していらっしゃる出版社の方も多いようですが、もし柿内さんが出版社のコンサルをするとすれば、どのようなことが考えられますか。特にビジネス書や実用書はすごく限られた世界で、なかなか10万部を出せる出版社は多くないと思いますが。

柿内さん: それぞれの会社が抱えている課題は同じではないと思うので、その課題が何なのかを聞いていくところからスタートし、その後、読んでいただきたい方たちに話を聞く場を作り、色々な意見を吸い上げるということに着手すると思います。

玉木:それは本の企画単位ででしょうか。

柿内さん:そうですね。自分の脳で考えていることが読んでいただいている方の脳とつながっているかというと、意外と繋がりが途絶えていて、一人よがりになっているケースもあると思います。そこで、まずは読んでいただく方を強烈に意識するためにヒアリングをすると思います。

玉木:確かに普通そういうことしないですよね。

柿内さん:ヒットを多く出している他社の編集者の方に聞くと、結構話を聞いていますね。数は多くないかもしれませんが、そういう場を作っているようです。

玉木:例えば食品会社の場合、市場調査を綿密にした上でパッケージを決め、発売していると思うのですが、書籍の表紙は編集者や会社の感性で決まることが多いですよね。そういう意味で書籍にもマーケティングは必要ですよね。

柿内さん:そうですね。ただ、マーケティングのポイントが、食品業界とは少し違うかもしれません。本の世界は、“人の心”とコミュニケートしていくので、心をどうマーケティングしていくのかを考えています。「人間って何だろう」とか、比較的そういうことを考えなくてはいけないので、そこを色々聞いていくイメージですね。

玉木:売れないことの大きな原因は何とお考えでしょうか。売り方ですか。

柿内さん:売り方は各社さんの得意な売り方があると思うのですが、届け方をどこまで想定できているかということだと思います。とりあえず出してみるだと、なかなか上手くいかないので、最初にどれだけ届け方の戦略を練ることができるかが重要だと思います。

「思っているだけ」なのに「考えている」と誤認している人が多い

玉木:今回の本題である思考法について伺いたいのですが、まず柿内さんが出版された『パン屋ではおにぎりを売れ』は、今45,000部出ているのですよね。

柿内さん:そうですね。

玉木:非常に売れていらっしゃいますね!かんき出版さんから出されていますが、反響としては、どのような声がありましたか。

柿内さん:若い方からの反響が結構多かったです。本離れと言われている中で、大学生や20代のビジネスパーソンからの反響が多く、僕もびっくりしています。

玉木:それだけ思考法に悩んでいる方が多いということなんでしょうか。

柿内さん:思考をするためのフレームワークは、学校で教えてくれませんし、なんとなく考えるということは誰でもできるので、皆さん自己流でフレームワーク化しないまま、今に至ってしまったことに気づいたという意見を結構いただきました。

玉木:「考える」と「思う」は違うということでしょうか。

柿内さん:本の中でも書かせていただいたのですが、「考える」と「思う」は違います。例えば、仕事でも「考えて来いよ」という宿題に対し、「すごく考えたのですが思いつきませんでした」というレスポンスをされることがあります。これは考えているのではなく、思っていると定義しています。何かないかなとネット検索するのは考えるではありません。考えるというのは、ある種のフレームワークの中にその題材を入れていき、プロセスを踏みながら考えることだと思っています。それをしていくと、(良いアイデアなのかは別として)何かしら出てくるはずなのです。そのため、「思いつかなかった」という結論にはいかないはずです。ただ、これができていなかったという反響を結構いただきました。

「考える」には『広げる』と『深める』がある

アスコム柿内氏
玉木:本で紹介されているフレームワークは柿内さんが独自で考えてこられたものなのですか。それとも様々な本を読まれて作ったものなのでしょうか。

柿内さん:元々はもちろんオリジナルということではなく、色々な仕事や本を読んだりする中で、自分なりにインプットしたものを言語化し、それを整理したものです。それぞれの方法はほかと似たようなものがあるかもしれませんが、それを自分なりに整理し、法則化しているというところが一番のポイントです。

玉木:ポイントとしては考えを広げるという部分かと思いますが、読まれていない方のためにどういったことが書かれているのか教えていただけますか。

柿内さん:考えるということの基本的として、ただ考えるのではなく、“広めていく”という行為と“深めていく”という行為を分けて、別々に取り組んだ方が良いということを書いています。あとは、“考える=ロジカルシンキング”と思われるかもしれませんが、論理的に考える以外に、あえて非論理的に直感で考えるのも一つの方法です、ということなどを書いています。

ちなみに、具体的な方法も書いています。考えを広めるという方向と深めるという方向で、僕なりに出させていただいた6個ずつのメソッドを紹介しています。「ずらす法」や「かけあわせ法」、「数珠つなぎ連想法」といったように一個一個の方法に名前をつけています。先ほどもお話しさせていただいた通り、一つ一つは聞いたことがあるように思うかもしれませんが、それぞれに自分でネーミングしているというところがポイントです。それも横文字ではなく、日本語でつけるようにしています。

なんでかと言いますと、名前をつけると自分のものになると思っているからです。例えば、ここにお茶がありますが、これにサニーという名前を付けると、急に愛着がわき親近感がわきますよね。それと同じで、自分のものにしやすいという理由から、考えることに対しても、自分なりのネーミングをしています。

玉木:なるほど。本で6つのフレームワークが具体的に紹介されていますが、以前から本を作る際はこれらのフレームワークに当てはめて、検討されたのでしょうか。

柿内さん:今回、本を作りながら新たに整理していったので、それ以前は、6つのフレームワークにきっちり当てはめていたかというと、そんなことはないです。書く作業の中で自分なりに整理していたので、この本を通し、自分としてもすごくすっきりしました。

「かけあわせ」の思考法でベストセラー!

玉木:このフレームワークを使いベストセラーになった本を教えていただけますか。

柿内さん:「かけあわせ」は良く使っていまして、出会ったことがないもの同士を掛け合わせベストセラーになったのが「長生きみそ汁」や「毒出しうがい」です。

玉木:今まで出版業界を中心にお話いただきましたが、今回はメーカーなど一般企業の方にも参加いただいただいていまして、一般企業に当てはめたときにどのようにこのフレームワークを活用できるか教えていただけますか。

柿内さん:例えばヒット商品を出すとかですかね。商品がある程度完成している場合だったら、その価値をどうすれば多くの方に届けられるかという視点で、「ずらす」をしていただくのも良いと思います。本でも例としてワークマンさんを挙げていますが、ワークマンさんは元々ある商品に市場をつくったことで新しい価値を生み出していったわけですよね。

具体的にお伝えすると、比較的、高品質・高価格がメインだったアウトドア商品の市場に、作業服で低価格・高品質なものを投入されました。同じものでも市場をずらすことでそこに価値が生まれた事例だと思います。このように、新しいものを作るというだけではなく、今あるものの価値をずらす、市場をずらすことで価値が生まれるということが、可能性としてあると思います。これはどの業界でも同じことが言えると思います。

ヒットを生む習慣は、常に気づきをメモすること


玉木:ちなみに柿内さんは思考ノートを作っていらっしゃるとのことですが、それは紙ででしょうか。

柿内さん:紙です。それもルーズリーフで作っています。

玉木:私はパソコンでしかメモを取らないのですが、紙であることが大事なのでしょうか。

柿内さん:その人の得意不得意、好みもあると思いますが、僕の場合は紙に自分の字で、ある種絵を描いていく感覚で書いていきますので、それが結構楽しいんです。例えば、漫画家の方が真っ白の紙にラフを書き、そこからすごい漫画が生まれていくのと同じような感覚で、僕には紙のノートが合っているという感じです。

玉木:普段から考える技術をブラッシュアップしていく習慣やコツなどありますか。

柿内さん:僕は記憶力がよい方ではないので、とにかくメモをしています。テレビを見ているときでも常にメモをしています。例えばドラマを見ても、面白かったで終わらせず、何が面白かったのかを書くようにしてます。付箋も活用しているのですが、どんどん書いて、それをノートに貼っていき、なにかあった時に見返すということをしています。

玉木:なるほど。それは結構重要な習慣かもしれませんね。普通は面白かったで終わってしまいますもんね。

柿内さん:もちろんエンターテインメントとして見て楽しむでもよいのですが、せっかくだったら自分の中でインプットしていきたいと思い、そのひと手間をかけている感じですね。

玉木:そのメモから本の企画が生まれることもよくあるのでしょうか。

柿内さん:ありますね。日々集めた気づきをかけあわせたら新しいものが生み出せたということもあります。

玉木:本をたくさん読むあるいは映画を意識的に見てインプットの量を増やすといったこともされているのでしょうか。

柿内さん:全くしていないですね。日々の生活の中で人から聞いた話や偶然目にしたものからインプットしていることが多いです。そういう意味で言うと、本当にすごい方たちは意識的にインプットをされていて、すごいなあと思います。

若い時は、殴られたり土下座させられたことも…

玉木:柿内さんの弟さんも編集者をされているのですよね。

柿内さん:三人兄弟で僕が長男なのですが、三番目の弟が編集者ですね。

玉木:弟さんも結構ベストセラーを出されているということで、なにか特別な教育を受けてこられたのでしょうか。

柿内さん:親父も編集者だったというのはありますが、親父から学んだことは“働くってこんなに適当でいいんだ”ということです。(笑)本人に言うと怒るかもしれませんが、朝の満員電車の時間帯には出ていかない、スーツを着ているのも見たことがない、夜はだいたい酔っぱらって帰ってくるといった生活なんですよ。
でも働いていること自体は、楽しそうなんですよね。会社や仕事の愚痴は一切言わなかったですね。嬉々として仕事に向かっていくというか、この人、人生を楽しんでいるなという姿をずっと見てきました。個人的に何かあるとすれば、親からあれやれ、これやれと言われたことがなく、常に選択肢を提示されて、「決断はお前がしろ」という風に育てられたということでしょうか。小学生くらいの時から何かを選ぶときには、常に何個か選択肢をくれていました。

玉木:弟さんとの共通点は何かありますか。

柿内さん:全然ないですね。ただこの間、弟のことも僕のこともよく知っている共通する方が「半分似ていて、半分違うね」と言っていました。物を考えるというプロセスは比較的似ているのですが、僕はどちらかというと、かなり逆算で考えることが多いのに対し、弟は比較的、内発的に進めるタイプかもしれません。弟がどういうかはわかりませんが(笑)。

玉木:柿内さんは、「このジャンルはこれくらいの市場があるから、こういう企画があったらいいのではないか」と考えるタイプなのですね。

柿内さん:そうですね。マーケティングもすごく好きなジャンルですし、元々新卒で入社したのも出版社ではなく、広告会社でしたので、思考はそっち寄りだと思います。

玉木:本で“若い時に失敗がすごく多かった”と書かれていたのが意外でした。大物俳優さんに殴られたこともあると。(笑)
今は温厚なイメージでとても想像できないのですが、色々な失敗を経て今があるということでしょうか。

柿内さん:性格は昔から変わっていないと思いますが、殴られたり、土下座させられたり…色々な経験はしていきています。

玉木:相当な失敗をしないと殴られないですよね。(笑)

柿内さん:僕も殴られたときはびっくりしました。殴られたのは、僕がなぜ相手が怒っているのかに気づかず、とんちんかんな受け答えをしてしまい、こいつには何を言っても無駄だと思われたからだと思います。今でもすごく覚えているんですが、そのとき、僕は殴られて憤慨して編集部に戻ったので、「殴られました」と言ったら、編集部は大爆笑ですよ。「お前一個ネタができてよかったじゃん」と。

玉木:柿内さんはお酒を一切飲まないということですが、趣味など何かありますか。

柿内さん:サッカーを見に行くことですね、今は。試合を見ている時は、めちゃくちゃ力が入るので、その瞬間は全然息抜きになっていないのですが、年間30試合くらいはスタジアムに見に行っています。ただそこも結構仕事と結びつけてしまっていて…。
例えば、長いこと応援しているチームは、見ただけでも今日は気持ちが入っていないなとかわかるんですね。そうすると、それを自分の仕事に置き換え、自分もそうならないよう気を付けようと思ったり、試合に負けたら、そこから自分は何を学ぶのかと考えることもあります。反省も意識的にしないと忘れたくなってしまうので、あえて意識的になぜ失敗したのかを言語化することも大切だと思います。

「これは私のための本だ!」と10万人に思ってもらうための工夫

アスコム柿内氏
玉木:これから本を出す方や本を出していても、なかなかベストセラーにならないと悩んでいらっしゃる著者もしくは編集者さんアドバイスするとしたら、どのようなことでしょうか。

柿内さん: 昨日まで正解だったことが、今日は正解でなくなるという時代に入っており、本当にヒットを出すのが難しくなっています。僕らも試行錯誤しているので、偉そうなことは言えませんが、“この一冊がなぜ読んでいただく方に必要”で、“なぜお金を出して買う理由があるのか”を、本として言語化していくということでしょうか。すごく難しいことですが、読む人が“私のための本だ”と感じてくれないといけないわけで、10万部の本を作ろうとなれば、10万人が自分のための本だと思ってくれないとダメなんです。そういう意味では、深く、広くを一冊の本の中で共存させないといけないんですよね。それが結構重要だと思っています。

玉木:売れていない場合は、どちらかが足りていないということになるのでしょうか。

柿内さん:それもあるかもしれませんし、どちらもあるかもしれません。
例えば、今回出版した「パン屋ではおにぎりを売れ」は、ビジネスマンだけではなく、学生や女性、年配の方にも読んでいただきたかったので、出来るだけ広さを出すために、例の出し方を工夫しました。皆に共通することを考え、最初に持ってきたのが恋愛の話です。恋愛は何かしら誰にでも共通することがあるのではないかと思い、そこから入っていきました。これが仕事の話から入ってしまうと、「これはちょっと私の本じゃないな」と思う方もいるかもしれませんので、そのあたりを色々工夫しています。

玉木:確かにターゲットに意識してもらうという意味でも事例は結構大事ですよね。

柿内さん:そうなんですよ。腑に落ちるときも事例があった方が腑に落ちやすいので。

本を作るだけではなく、著者とパートナーシップを組みビジネスを展開する

玉木:最後に、今後、出版業界はどうなっていくと思われますか。

柿内さん:出版業界を一言で言うのはなかなか難しいのですが、僕らがやっている領域は「実用書」というジャンルになります。ビジネス書にしても、生活・ダイエットにしても、これをすることによって、何かの役に立つということを明確にしているジャンルで、このジャンルのユーチューバーもどんどん出てきており、競合が出版社だけではなくなってきています。そのため、マネタイズするポイントを広げていくことが必要で、著者の方とコンテンツだけではなく、色々なビジネスを一緒にやっていくということが、今後の出版業界に必要なことになってくるのではないかと思っています。
ある種パートナーになっていくということですよね。また、編集者という立場で言うと、編集スキルは、どの世界でも活用できる価値を作れるスキルだと思いますので、業界の中にとどまらず、外に出していくという考えも必要かと思います。

玉木:例えばどういうことでしょうか。

柿内さん:商品が売れないと悩まれている会社に対し、編集者がどうしたらヒット商品が出せるかを、クリエイティブなのか、プロモーションなのか、何かしらの形でお手伝いし、一緒に商品を作っていくということもできるかもしれません。良い商品でも消費者に届いていないという場合、これは玉木さんの会社のようなPR会社と一緒に、世の中に情報を広めるお手伝いもできると思うので、そういったところに編集者が出ていくということも、可能性としてはあるかなって思っています。

玉木:なるほど。今、ブランディングやコンサルティングなどいろいろな領域を手掛けていらっしゃいますよね。

柿内さん:そうですね。僕らは出版だけではなく、ブランディングやプロモーション活動もお手伝いしているので、そこをもっと広げていきたいと思っています。

玉木:これが本当に最後ですが、柿内さんの今後の展望などありましたらお聞かせください!

柿内さん:ありがとうございます。今お話しさせていただいたことにはなりますが、自分たちの活躍の場を広げていきたいというのが、一番の展望ですかね。

玉木:ありがとうございました!今回のテーマ、「想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法」、皆様いかがでしたでしょうか。是非参考にしていただければと思います。柿内様、皆様お忙しい中、本日はありがとうございました。

登壇者プロフィール

株式会社アスコム取締役編集局長 柿内尚文さん

株式会社アスコム取締役編集局長 柿内尚文さん

株式会社アスコム取締役編集局長
柿内尚文(かきうち たかふみ)さん

新卒で広告社入社。出版業界に転職し、複数社を経て、2002年アスコム入社。2008年より取締役に就任。これまでに企画した本の累計発行部数は1000万部以上、10万部を越えるベストセラーは50冊以上。2020年6月には、自らの思考法を語る「パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法(かんき出版)」を出版。

株式会社アスコム

健康・ビジネス・コミックエッセイなど実用系の書籍を得意とする出版。『聞くだけで自律神経が整うCDブック』など自律神経が整うシリーズは135万部突破。また、「長生きみそ汁」や「さば水煮缶レシピ」など、本をきっかけに多くのブームを起した実績も持つ。

想像以上の答えが見つかるベストセラーを生む思考法(前半)。アスコム取締役編集局長・柿内さん

2020年12月4日