【元TVディレクターが考える】SNS時代に問われる「テレビ選挙報道の役割」とは

インターネットとSNSの台頭により、選挙情報の流通構造は劇的に変化しました。しかし、依然としてテレビは、選挙報道における重要な情報源として一定の役割を担っています。
特に高齢層における視聴習慣や、公共性・信頼性の担保という観点から、その存在価値は無視できません。

本記事では、テレビ選挙報道が直面する公平性・中立性の課題、SNSとの認識ギャップ、報道倫理とファクトチェックのあり方を通して、現代の選挙報道の課題と可能性を考察します。

テレビ選挙報道の現状とその影響力

選挙のたびに注目を集めるテレビの選挙特番。ネット全盛の時代にあっても、テレビは依然として「選挙報道の主戦場」の一つとして強い存在感を放っています。

たとえば、NHKや民放各局が放送する開票速報番組は、選挙当日の夜、多くの国民がチャンネルを合わせる“定番の情報源”です。さらに政見放送のように、公的な枠組みで候補者の声をそのまま届ける手段としての役割も続いています。

背景には、特に高齢層の根強い視聴習慣があります。若年層のテレビ離れが進む一方で、50代以上にとってテレビは「信頼できる一次情報源」として機能しており、情報の正確さ・公共性の観点から今なお高い信頼を集めています。

しかしその一方で、「中立性」や「公平性」をめぐる議論は年々過熱。今年7月に行われた参議院選挙でも、ある番組の放送内容に対してSNS上で「偏向報道」批判が拡散したりと、報道に対する不信感も顕在化しています。

テレビ局は今、視聴率・報道価値・法的規制という三つのバランスを取りながら、難しい舵取りを迫られているのです。

SNSが変えた選挙情報の流通構造

ここ10年で劇的に変化したのが、「情報の届け方」です。

SNS、特にX、YouTube、Instagram、TikTokといったメディアの台頭により、候補者自身がダイレクトにメッセージを発信し、支持者が瞬時に拡散する構造がすっかり定着しました。

この“直接性と拡散力”は、特定の候補者にとっては大きな追い風になっています。一方で、出所の曖昧な情報や、切り取られた動画がバズることで、誤解や感情的な支持が広がるケースも増えています。

SNSでは、「事実」よりも「共感」や「印象」が優先されがちなため、いわゆるフィルターバブル(自分が興味・関心のある情報ばかりに触れること)やエコーチェンバー(自分と似た意見を持つ人ばかりと繋がること)の状態が生まれ、社会の分断が深まっているのです。

この情報発信のスタイルの違いは、ときに「認識の断絶」を引き起こします。たとえば、SNSで大きく支持された候補者の主張が、テレビでは法的制約や編集方針の都合でほとんど取り上げられない、といったケースも。その結果、「自分たちの声がメディアに無視されている」という不信感が広がり、メディア不信につながることも少なくありません。

公平性と信頼性 ― テレビ報道の強みと弱み

では、テレビ報道は本当に「中立」なのでしょうか?

テレビ局は、公職選挙法・放送法・BPO(放送倫理・番組向上機構)などの枠組みに従い、報道の公平性を担保しようと努力しています。特に政見放送は編集が一切禁止され、すべての候補者に平等な放送時間が割り当てられています。

報道番組では、各政党や候補の出演時間を秒単位で調整する「量的公平性」の原則も存在します。しかし実際には、“秒数の平等”が“印象の公平性”を保証するとは限りません。

編集方針、ナレーション、映像の切り取り方ひとつで、視聴者の受ける印象は大きく変わります。報道に無意識のバイアスが入り込むリスクは、常に存在しています。

こうした課題を受けて、いま注目されているのが「質的公平性」です。つまり、単に時間の配分だけでなく、争点を多面的に掘り下げる姿勢や、有権者が判断に必要な材料をきちんと提供できているか――この“中身のバランス”が重要視されるようになっています。

また、SNSでの誤情報やデマの拡散に対して、テレビが「ファクトチェックの砦」としての役割を果たすことも期待されています。こうした報道姿勢が、政治的圧力や批判を招くこともありますが、情報の正確性と報道の自由、その両立こそが今後の大きな課題です。

テレビ選挙報道はどこへ向かうのか

これからのテレビ選挙報道に求められるのは、「双方向性」と「補完性」です。

すでに一部の報道番組では、SNSのコメントをリアルタイムで取り上げ、視聴者の声を番組内に反映する試みが始まっています。今後は、SNSで拡散された情報に対して、テレビが「検証」や「背景解説」を担うという役割分担が、さらに重要になってくるでしょう。

同時に問われるのが、「視聴者自身の情報リテラシー」です。どのメディアがどんな立場で発信しているのか、自分がどんな情報に触れやすいかを自覚し、多様なソースに触れ、複数の視点を重ねながら“自分で判断する力”を持つことが求められています。

テレビもSNSも、それぞれに役割があります。選挙報道の本質は、「わかりやすさ」と「深さ」、「速報性」と「正確性」、「感情」と「論点」のバランスを、いかに取るか。

この問いに向き合い続けることこそが、いま報道に求められる姿勢ではないでしょうか。

【元TVディレクターが考える】「オールドメディアの衰退」問題とPRの今後

2025年1月28日

【元TVディレクターが考える】テレビは本当にオワコンになってしまったのか?

2024年7月9日

選挙運動におけるSNSの活用がもたらす影響力とは

2024年11月19日
株式会社コミュニケーションデザイン PRコンサルタント

【ニックネーム】 ナイトウォーカー
【これまで担当した業界】 食品・飲料・医療・美容・自治体関連・出版社
【趣味】 夜の散歩、温泉めぐり
<個人的おすすめ温泉BEST3>
1、宝川温泉(群馬) 川沿いの絶景露天、紅葉や雪の時期が最高です
2、ほったらかし温泉(山梨) 眼下に甲府盆地が広がり富士山も見えます
3、西の河原温泉(群馬) 山に囲まれた日本有数の巨大露天風呂です
【プチ自慢】
テレビディレクター時代に、レオナルド・ディカプリオやミラ・ジョヴォヴィッチなどハリウッドスターのインタビュー取材をしたこと

お知らせ
【課題別】PRノウハウやテクニックを無料公開
多くご相談いただく内容とその解決方法をホワイトペーパーにまとめました。
PR切り口の考え方|メディアリレーション方法|広報KPIの考え方【無料ホワイトペーパー】

当社では新たなメンバーを募集しています!
PRコンサルタントとして活躍したい方はぜひご応募ください。
採用情報|PRの力で「社会問題」を解決する