熱狂的なファンと対峙する中で見出したファンマーケティングの神髄

はじめまして。松本雄一と申します。
Jリーグの横浜FCで、to C領域のマーケティングと広報の仕事をしています。

今回PRマガジンさんとご縁をいただき記事を書かせて頂くことになりました。
初回はプロダクトを成長させる上で切っても切り離せない「ファンコミュニケーション」について書いてみようと思います。

プロサッカークラブを取り巻く環境

横浜FC

Jリーグのクラブはステークホルダーが非常に多いのが特徴です。
スポンサーに対して露出やアクティベーションを提供し、社会に対して地域密着の方針を掲げたホームタウン活動で社会貢献を、ファン・サポーターに対して試合を中心として興奮・熱狂・感動、エンターテイメントを提供するなどクラブの持つアセットを価値変換し、その価値を高めようと努力しビジネスを展開しています。

さらに日々ステークホルダーの方々から、クラブが提供している価値以上の熱いご支援を頂きながら、共に事業を育てているのがプロサッカークラブの現在地です。
そしてその活動をメディアの方々に様々な切り口で発信していただくことで、世の中にクラブの存在や価値が認められていきます。

そうした中で欠かすことができないのが、ファン・サポーターと関わり、プロダクトの価値を高めていく”ファンコミュニケーション”です。

考え方1 – 熱量の高い顧客からの発信に勝るものはない

おらが街のクラブ

まず、前提としてJリーグには理念にもとづく地域密着の方針があり「おらが街のクラブ」と称される程、自分の住む地域や何らかのルーツに由来してクラブを応援する人が多い傾向があります。そのような背景もあり、世の中に存在する多くのプロダクトと比較しても、より熱狂的な「顧客」が多いというのが特徴です。
スポーツでは”サポーター”や”ファン”と呼び分けることもありますが、ここでは一般的に「顧客」「ファン」と表現します。

Jリーグの各クラブで多く使用される言葉に「ファンベース」※という言葉がありますが、これは現代のような情報過多であらゆる情報が届きにくい時代に、唯一情報を届けることのできる手法は”熱量の高い顧客からの発信”によるものである、という考え方です。

※『ファンベース』 支持され、愛され、長く売れ続けるために / 著:佐藤尚之

考え方2 – 顧客と同じ体験を。

ファンベースの基本は、社員自身が自社のファンであれということが一つの条件です。
クチコミを求める前に、企業の中の人自身の熱量が最も高くプロダクトのファンであること、そして実際に顧客体験すること、これは誰にでもできるマーケティングの基本です。

まずは己を知り、相手を知る。それぞれの現場に行って顧客として体験して感じたことをストックすること、実際の顧客の声を聴いて顧客心情を理解することの2点は不可欠です。すべての声をそのまま反映することは不可能ですし、そうした必要は無いと思いますが前述の2点はマーケターやPRプランナーであれば日頃から最低限行っておくべきことだと思います。

SNSを活用した取り組みのご紹介

クラブに加入してから取り組んだこととして、色々ある中でも効果的だったと感じるのが「ソーシャルリスニング」です。

SNSなどを活用して、顧客の声を確認しプロダクトや施策改善に活かすソーシャルリスニングですが、プロダクト改善というよりも、結果的に顧客によるSNS上での発信の促進、コミュニケーションの活性化など”コミュニティ形成”に寄与したと思います。
その過程で常に顧客の声は拾えるので、どんな人がどんなことを発言しているのか、だいたい頭に入りますし、確認できた生の声をアイディアとして活かすことができます。

例1.noteを活用したSNSのクチコミ収集

#フリマガ

『みんなの声が集まるフリエな人たちマガジン #フリマガ』
https://note.com/boasorte_ym11/n/n3c29c18a99f5

上記は一例ですが、横浜FCに入社してすぐに取り組み始めたことです。

スポーツは試合が一番のコンテンツです。そしてこのコンテンツを形成するプロダクトとなるのが選手・スタッフ、ファン・サポーターを含むスタジアム空間とそこで行われる試合そのものであり、ライブ性が高くSNSとの相性が非常に良いので試合中も多くの発信がされます。ファンの声から、クラブへのエンゲージメントを確認でき、かつnoteなどのプラットフォームにそのファンの声をストックし取り上げることで、より積極的に発信をしてくれる方々も以前より増えました。これは選手だけでなく顧客自身もコンテンツを創る一員であると、当事者意識の高い熱狂的な顧客の存在が成すプロスポーツの特徴的な面であるといえます。

積極的な発信が増えると、SNS上でファン同士のコミュニケーションが活発になり、さらにはSNSでコミュニケーションを取っていたファン同士が現地(スタジアム)でリアルに出会い、さらにコミュニケーションが活性化し新しいファン創りに繋がるという好循環を生むことができます。ちなみに選手もSNSをよく見ているので、ファンのことを知る手段にもなっていて、いつも自分を応援してくれているファンの方のことは自然と覚えるきっかけにもなっています。

このように「既存」の顧客のコミュニケーションを活性化させることは、クラブの発信では実現できない第3者のクチコミを増やし、しかも熱量の高い顧客によるよりリアルで信頼性の高い情報を多くの人々にリーチさせ、クラブの認知向上に繋がります。実は「新規」の顧客へのアプローチにおいて、この「既存」の顧客からのクチコミの伝播が最も効果的ともいえます。

小さいコミュニティでも熱量の高い顧客を起点として強力な影響力を発揮し、大きなコストをかけずとも効果的な施策として、スポーツクラブ以外のブランドでも活用できる参考事例であると思います。

OMO(Online Merges with Offline)を大切にする

大切なことはオンラインとオフラインを分断しないこと

ここまでソーシャルリスニングを例にあげてきましたが、大切なのは、オフラインで起きたことをシェアする手段がたまたまオンラインのプラットフォームであったという大前提を忘れない事です。逆もしかりで、オンラインで手にした情報をオフラインで行動に移すということもあります。大切なことはオンラインとオフラインを分断しないこと。
そこを分断してしまうとどちらか一方で起きている事象やニュースがすべてのように捉えられがちで、ファクトを捉えた本質的な正解にたどり着くことはできません。

あくまでも、スタジアムに来た人が生で試合を観て感動する、スポーツ専門の定額制動画配信サービスDAZNなどのOTTサービス※1を通して試合を見ること、日頃選手と練習場などで触れ合う中で感じること、クラブが提供する様々なサービスを通して得た経験、それらを発信する場がたまたまオンラインという手法で簡単にできる時代であるため、その発信でニーズを把握したクラブがオフラインで実現し、更にその体験がまたオンラインで発信され情報が拡散していく。というように、オンラインとオフラインの性質を理解したうえで、日々情報に接することで最適な判断ができるのではないかと考えています。

※1 インターネット回線を通じてコンテンツを配信するメディアサービス。

まとめ

第一回目の今回は、大切にしたいと考えているベースの部分を記載させていただきました。

1.自らが自社プロダクトのファンになること。
自分自身の例でいくと、SNS等でもあえて発信しますし、クラブを支えるファンクラブ組織(「クラブメンバー」といって元々はソシオのような位置づけ)にも入会し、アウェイの日には自分でチケットを買ってゴール裏でサポーターの方々と応援していました。(現在はチーム広報も担当しているためアウェイの試合はチームに帯同する形になっています)

2.コミュニケーションが発生する場であるSNSを通して顧客の声を把握し、改善に活かす。
コミュニケーションを活性化させる仕掛けをすることで、オンラインからオフラインへとリアルで深い繋がりができ、新しいコミュニティ形成ができる。その既存顧客同士のつながりが、情報を届けることが最も難しい新規層へのアプローチにもなる。

3.オンラインとオフラインを分断しないで判断する。
ソーシャルリスニングは効果的とはいえ、SNSで起きていることがすべてと錯覚しないであらゆる情報を認めて判断すること。

ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。

執筆者プロフィール

株式会社横浜フリエスポーツクラブ[横浜FC]
松本 雄一
https://www.yokohamafc.com/

早稲田大学卒業後、カネボウ化粧品、サイバー・バズ 広告メディア事業部 局長を経て、2019年5月にJリーグ 横浜FCに入社し、現在マーケティング部部長 兼 広報グループリーダーを務める。
Twitter:@yu_boasorte