PRマガジンAWARD2020受賞インタビュー、メディアでも多数取り上げられ話題となった「食べチョク」~広報の次なるミッションとは

第1回PRマガジンAWARD「ベストPRパーソン」受賞

若林:下村さん、第1回PRマガジンAWARD「ベストPRパーソン」受賞おめでとうございます。
本日は受賞インタビューということで色々とお話を聞かせていただければと思います。よろしくお願いします。

下村さん:ありがとうございます。光栄な機会をいただき、とても嬉しいです。

若林:初めに「PRマガジンAWARD」について、少しご紹介させていただけたらと思います。
「PRマガジンAWARD」は広報PRの実務担当者を表彰する賞として新設いたしました。

「第1回 ベストPRパーソン賞」に下村さんを選ばせていただいた理由は、大きく2つあります。ひとつは、コロナ禍で販路を失った生産者さんの売り上げに繋がるような広報展開をされたこと。もうひとつが、一人広報でありながら、報道の連鎖を意識したメディアアプローチを展開され、2020年5月から7月の3か月間で1,000件以上のメディアに露出されたということです。これらの実績を称え表彰させていただきました。

昨年の9月に下村さんにインタビューをさせていただき、そこまでの活躍ぶりは、昨年10月に公開したPRマガジンの記事でご紹介させていただいています。本日は、前回の取材から約8カ月経過したこともあり、その間どのような変化があったか、また、今後の展開などをお聞かせいただきたいと思っております。
どうぞ、よろしくお願いします。

3ヶ月でメディア露出1000件以上! 戦略的な「露出の連鎖」を巻き起こすPRの仕掛け人。 — 「食べチョク」広報・下村彩紀子さん

中長期のプロジェクト増、企画段階から深く広報が関わるように

第1回PRマガジンAWARD「ベストPRパーソン」受賞者、下村彩紀子さん。

第1回PRマガジンAWARD「ベストPRパーソン」受賞者、下村彩紀子さん。

若林:昨年の秋以降、秋元社長はテレビ番組のコメンテーターに就任されたほか、書籍も出版されるなど飛躍的な活躍を遂げられ、下村さんご自身も取材を受けられたり、登壇される機会も増えていらっしゃいますよね。
この8カ月での「食べチョク」や広報としての変化についてお聞かせいただけますか?

下村さん:この8カ月はとても濃厚だったと思っております。
お話の通り、秋元がコメンテーターとして出演させていただくテレビ番組が現在3本あり、その他、初めての試みとして書籍の出版もいたしました。次に広報チームとしての変化もありました。私は、もともと一人で活動していましたが、今は専任のインターンもおり3名体制で動いております。
また、これまで以上に他部署との連携を強化しており、企画が出るタイミングから他部署のミーティングにも参加し広報視点も合わせ一緒に企画を作っていくような動きをこの半年間は行っていました。

若林:理想的ですね。
企画の立案時から携わることは広報にとって非常に大きな意味のあることですよね。

下村さん:そうですね、とても大きいです。
昨年の9月まではコロナの影響もあり、色々なところで困っている生産者さんへ向けたあらゆる施策を急いで企画しリリースするということを続けて来ました。10月以降もコロナの影響を受けている生産者さんは後をたたなかったのですが、全社的に改めて中長期を見据えた企画を作って行くという方針もあり、広報も連動して仕込んで行く取り組みが増えました。
一方でコロナや自然災害の影響で困難に直面している生産者さんは後を絶たない状況なので、そこも引き続きサポートしております。

若林:御社はこの8カ月で社員数も増え、社屋も移転されました。そのような面でも大きな変化があったのではないでしょうか。

下村さん:まさにそうなんです!
私が入社した頃は従業員数が10名程度でした。今は70名程度と約7倍に増え、以前ご取材いただいた9月のタイミングでは、恐らく30人~40人だったので、そこから見ても倍ぐらいの人数になっています。
ですから、より広報が独立しないように色々な部署の方と積極的にやり取りし、チームやメンバーの動きをキャッチアップすることに、これまで以上に力を入れています。

若林:組織が大きくなると出てくる課題のひとつに、広報が各部署や各人の動きをキャッチしづらくなることがあります。社内には様々なネタがあるのに全てキャッチするのが難しくなる…。御社はその辺りをどのようにコントロールされているのでしょうか。

下村さん:弊社は、もともと他部署のメンバーが広報の特性を良く理解してくれており、「この内容は広報が興味を持つだろう」と思えば、早い段階で共有してくれるので、情報収集や活動の把握の手助けになっています。
個人的には、社内のほとんどのチャットに参加するようにしています。なので、メンバーが話している事柄で気になることはこちらから会話の中に入っていき、積極的にキャッチアップするよう意識しています。

若林:以前、取材をさせていただいた際は、様々な企画を社内で立ち上げ、短期間で幾つもリリースする状況でしたが、今現在はどのような状況でしょうか。

下村さん:今もその状況は変わりません。短期間で様々な企画が立ち上がり、そこから1日ぐらいでリリースを配信するようなスケジュール感で動くこともあります。
一方で、3カ月から半年ぐらいのスケジュールを見越し、準備を進めるプロジェクトもあります。昨年、インタビューを受けた時は短期のプロジェクトを次々出す事に非常に注力していましたが、今は時間軸が様々な企画や動きを同時進行で行うスタイルです。

取材に関しては、当時はWebの効果もあり企画を出せばインバウンドで取材依頼をいただく機会も多かったです。現在は社員数も増え、広報チームもメンバーが増えたこともありインバウンドに加えてアウトバウンドでゼロからアプローチをして行く動きも同時進行で強化しています。

若林:アウトバウンドを強化するとは具体的に言うと、どういうことですか。

下村さん:全く接点の無いメディアの方に対しては問い合わせフォームから連絡をし、返信が返って来たらアポイントを取り、その後、メディアキャラバンでゼロから「食べチョク」のお話をさせていただきます。
一方で弊社を既に知っていただいているメディアの方には、改めて情報のアップデートという形でお話をさせていただいています。
なぜなら、その方が把握されている情報と今現時点の情報には誤差もあり以前より活動内容も変化している場合もあるからです。メディアキャラバンから記事の企画に繋がることもあり大事にしています。

「食べチョク」に興味をもってもらうため、多彩な切り口でアプローチ

下村さん「食べチョクのいろんな捉え方や切り口を用いたメディアアプローチも進めています。」

下村さん「食べチョクのいろんな捉え方や切り口を用いたメディアアプローチも進めています。」

若林:前回、取材させていただいた際は「報道の連鎖を意識したメディアアプローチ戦略」が印象的でした。結果、現在もですが、秋元社長や「食べチョク」を見ない日が無いくらいメディアで取り上げられていますよね。メディアでの認知は物凄く高まっていると思うのですが、現在も報道の連鎖を意識したメディアアプローチをされているのですか。それとも別の方法を取り入れ、違うやり方をはじめているのでしょうか。

下村さん:報道の連載が起こるのはベストだと思います。しかし、これは結果論のことも多く、私達がコントロールできない部分もあります。そこで、「食べチョク」のいろんな捉え方や切り口を用いたメディアアプローチも進めています。

もう少し具体的にお話すると、例えば「食べチョク」では高齢の生産者さんへの支援を強化したいという思いから、自治体との連携を強化し、地域の関係人口を増やすためのプログラムを展開したり、高齢の生産者さんと若手の生産者さんが一緒にチームとして出品できる「ご近所出品」という仕組みをリリースしたりしています。また、定期便の内容が充実したことを機に、生産者さんにファンがつくことを目的としたアプローチも強化しています。
このように、施策自体はメディアを意識したものではないですが、いろんな切り口で「食べチョク」というプロダクトは切り取ることができるので、それぞれを活かしたメディアアプローチを展開することができます。

そして、アプローチを重ね気がついたことがあります。それは、メディアの方が「食べチョク」の何処に面白いと感じてくださるかは様々であること、また、皆さんに知っていただいているプロダクト情報が断片的で一部の事である場合もあることです。
ですから、会話を通して、「このような取り組みも行っているのですね。だったら、こちらの方か面白そうですね!」というような、新たな魅力に気づいていただくことに注力しています。すると、その気づきがきっかけで全然違う切り口から「食べチョク」を紹介していただけます。結果、露出の幅がどんどん広がっています。ですから、キャラバンを強化することは、とても有意義だと感じています。

遠隔操作で行うメディアリレーションと取材アテンドの成功の秘訣は緻密なコミュニケーションから成り立つ軽快なパス

下村さん「メディアさんによって多少違いはありますが電話やLINE、メッセンジャー、Zoomなどを駆使し、しっかりコミュニケーションをとり企画を固めてから現地で取材してもらっています。」

下村さん「メディアさんによって多少違いはありますが電話やLINE、メッセンジャー、Zoomなどを駆使し、しっかりコミュニケーションをとり企画を固めてから現地で取材してもらっています。」

若林:地方自治体とコラボレーションをする際、メディアリレーションという観点から考えると、その県や自治体のあるエリアのメディアに対して情報提供されているということでしょうか。

下村さん:その自治体があるエリアのメディアさんはもちろんのこと、近年はデジタル産業庁の呼びかけもあり、全国的に一次産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入が進み関心が高まっています。そのため全国メディアさんも興味を持っていただけることもあり、そちらへのアプローチも行っています。

若林:ちなみに、なかなかコロナが収束せず、地方へ頻繁に移動してメディア対応を行うのは難しい状況かと思います。離れた地方メディアの方と、どのように円滑なメディアリレーションや取材対応をされていますか。

下村さん:メディアさんによって多少違いはありますが電話やLINE、メッセンジャー、Zoomなどを駆使し、しっかりコミュニケーションをとり企画を固めてから現地で取材してもらっています。
ちなみに、取材の際は、取材対応してくださる生産者さんやユーザーさんと事前に取材意図や記者さんから事前にいただいた質問事項など、かなり細かいところまで情報をすり合わせるよう心がけています。取材の中でなるべく素の状態でお話しいただくためにも、この事前準備が安心感を生み、その状態でメディアの方へパスをすることで取材が円滑に進むようにしています。

若林:確かに、広報が現場に立ち会うことができれば問題が起きても間に入り、臨機応変な対応ができます。でも、そうじゃない場合は事前の共有が非常に重要になってくるということですよね。

下村さん:はい。なので、遠隔で取材対応していただいている時は、私も予定を空けておき、メディアの方や生産者さん、ユーザーさんに「電話は繋がるようにしておくので、いつでも電話くださいね」と、お伝えすることを徹底しています。

若林:確かにそれは、取材を受けられる方にとっても安心材料になりますね。取材に慣れていない方の方が多いと思うので、予測できないこともありますよね。

下村さん:そうなんです。「この場合どうしたらいい?」と突然ご連絡をいただくこともあります。私が取材現場へ行けないので取材を受けられる方の安心材料に少しでもなり、安心して取材を受けていただけたら良いなと思っています。

若林:先ほど話題に出た高齢生産者の方をサポートする「ご近所出品」というサービスも非常に画期的な取り組みですね。御社の場合は生産者さんがインターネットを通して商品を販売していくビジネスですから、ネット関連のサポートというのはどうしても必要ですよね。
出品したくてもネットの操作がネックになり参加を躊躇されている高齢の生産者さんが参加しやすくなるように周囲の若手生産者さんや親族の方に情報を届け、若い世代からおじいちゃんやおばあちゃんに「一緒に試してみない?」と誘いかける。すると、苦手とするネットへのハードルも低くなり出品しやすくなる。サポートする御社にとっても、販路を広げたい生産者の方にとってもプラスの仕組みですね。

下村さん:はい、生産者さんにとっては勿論そうですが、消費者さんに対しても、そのような持続可能な取り組みを行っている会社だと興味を持っていただき「試しに商品を購入してみようかな」との思いが湧いて消費に繋がる。このように、見る角度により様々な共感の形があり、その共感が繋がり広がって行く取り組みの一つだと思います。

キャラバンで具体的な企画に発展させるポイントは「読者目線での雑談」

下村さん「企画書は、ほぼ持っていないので手ぶらで行きます。」

下村さん「企画書は、ほぼ持っていないので手ぶらで行きます。」現在はほぼオンラインなので、本当に手ぶらだそう。

若林:下村さんをはじめ広報の方の頑張りで「食べチョク」というサービスをいろんな角度から切り取り情報提供した結果、2020年は様々なメディアで取り上げられています。その素晴らしい様子は私も一視聴者として拝見しておりました。
しかし、そのようにメディアに出尽くしてしまうと同じメディアに対して新しい切り口を提案することが難しくなったりしますよね。
御社の場合は新しいサービスやソリューションが次々と出てくるので少し違うのかもしれませんが、何を切り口にメディアとコミュニケーションを図っているのでしょうか。

下村さん:正直、メディアの方によって興味を持つ切り口が180度違うので、私もわからないことばかりです。ただ、弊社は「切り口」というボールを沢山持っています。メディアキャラバンでは雑談ベースの会話でボールを投げ反応をみて「このメディアさんはこういう切り口に興味を持っていただけるんだ!」と感じとり、集めた情報を広報チームで体系化していっています。

若林:今、「メディアの方によって興味を示される切り口が違うので、どの話題が先方の心に刺さるかわからない」と、お話されていましたが、メディアへ訪問される時、あらゆる話題へ対応できるよう、切り口となる企画書やリリースといった資料を大量に抱えてメディアの方に会いに行かれるのですか。

下村さん:企画書は、ほぼ持っていないので手ぶらで行きます。オフラインの時は企画書ではなく、食材などをお持ちすることはあります。しかし、現在はほぼ、オンラインなので本当に手ぶらです。(笑)ただ、企画の切り口は様々あるので過去に出したプレスリリースや社内にあるデータ等は書類として持っています。ですので、会話の中で必要な際には資料として提示することはあります。それ以外は完全にフリートークです。

若林:へぇー、凄いですね。
では、メディアにアポを取られる際は、切り口を提案してアポを取るのではなく、「一度お話したいのですが・・・」といった感じでアポを取られるのでしょうか。

下村さん:はい。ただ漠然と会話を進めるのではなく、お会いするメディアさんが興味を持たれそうなテーマはある程度目星をつけておきます。美容なのか食なのか、食であれば料理なのかレシピなのか。その上で、「このようなお話ならできそうなので一度フランクにお話させていただけませんか?」とスタンスを広く取るような感じでお願いしています。
その後、雑談をして行く中で興味を持っていただける切り口がわかったら、その切り口のお話をして、「では、こういう企画を作りましょうか」という流れで決定して行く感じです。

若林:その雑談が難しいじゃないですか・・・
例えば、「いい天気ですね~」のような雑談じゃダメですよね(笑)どんな雑談をしてメディアから情報や関心のあることを聞き出しているのですか。

下村さん:例えば、雑誌編集の方とお話する際は、主語を「読者」にするようにしています。そして、読者の方はどのようなことを考えている人で、最近はどんなことに悩まれている方が多いのか?とか。もし、私に近い世代が対象読者であれば、「世代の近い私としては、このような話題に関心を持っていますが、御誌の読者の方はどうですか?」といった感じでディスカッションさせていただいております。
そこから、メディアの方から「ウチの読者はこういうことに興味があるから、こんなこと考えているよね」といったヒントを得ることもあります。そこで、「では、『食べチョク』だったらこういう切り口で情報提供できると思います」といったすり合わせをしていくようなキャラバンスタイルをとっています。

若林:今のお話、とてもいいですね。
「読者の視点で話す」ということは大事な事だと思います。メディアの方も自分達が携わる媒体のターゲットに合わせ情報収集をしているので、その目線で話しながらヒアリングをしていくのは非常に良いやり方だと思いました。

下村さん:他の企業広報さんはどのようなリレーションを取っているのかわからないですが、こちらで企画を固めて持って行っても一方的になってしまうので、広くスタンスをとるように心がけています。
そもそも、読者の方にどんなニーズがあり、どのような事に興味があるのかは、私よりメディアの方が詳しいですよね。だから、そこはむしろ教えていただきながら進めて行くと「食なら最近はこのようなトレンドがありますよ」と企画提案のヒントをいただける。だから、読者視点での雑談を大事にするようにしています。

若林:凄く良いことを聞かせていただけました!
これまでインタビューを通じて色々な立場の広報の方とお話をして来ました。メディアリレーションがお得意な方も多く、その方たちも下村さんと同じように決めつけることなく、相手のニーズをくみ取りながら適切なネタを出して行く会話を心がけていて、それは雑談の延長線上で行っているというお話をされていました。
でも、その「雑談」って何!?というモヤっとしたものを感じていました(笑)

意味のない雑談は中身が空っぽいじゃないですか。では、意味のある雑談とはどのようなことで、何を話されているのだろうと個人的にとても興味がありました。なので、「読者目線で繰り広げる雑談」という方法があったか~!と。

下村さん:私の言うところの雑談は、「御誌の読者の中には、このような事が好きな方が多いと思うのですが、これを好きな方達が注目している事はコレで、トレンドはコレですよね?」と話題を当ててみます。すると、メディアの方から「そうなんですよ~」と返ってきたり、その斜め上の回答が返ってきたりします。なので、そこから一緒に「このような情報を届けたら読者の方達は面白がってくれそうじゃないですか?」といった話を行っている感じですね。

若林:上手いフリートークをするためにも、メディアへ訪問する前に媒体分析をしっかりしていかないとですよね。

下村さん:はい、最低限は行ってから伺います。

若林:それがなければフリートークは難しいですよね。
メディアの方に「先日、こういう企画をやりましてね~」って話題を振られても知らなければ、そこで会話が折れてしまいますからね。

下村さん:そうですね!あとは、「雑誌でこれ見ました!」と言い、「この企画で!」と決め打ちで話をしてしまうと、相手の方がその企画を担当されていないことや、その企画自体に興味をお持ちでないケースもあります。だから、「最近はどのような企画をされたのですか?」といった会話から入ります。それでも、話題を広げるために最低限の準備はして臨みます。

第1回PRマガジンAWARD「ベストPRパーソン」受賞