今回は、ナイル株式会社で事業部初の広報として採用され、YouTubeチャンネル「ナイルTV/SEO相談室」を立ち上げ、チャンネルの顔としても活躍される松中朱李さんに、『マーケ広報』としてのミッションや醍醐味を伺った。
(インタビュー:編集長)
この記事の目次
- イタリアでの靴職人見習いから、広報とSEOに軸足を置くキャリアへ
- 「マーケ広報」のミッションはサービスのリード創出につながる認知の獲得
- 動画に商機を見出し、YouTubeチャンネルの開設を提案
- リード創出につながるコンバージョンは月100件以上!
- 社内の専門家と既存コンテンツの活用で、YouTubeを効率的かつ効果的に運用
- 動画の内容はYouTubeチャンネルのフェーズに合わせて変えるのがポイント
- コンテンツ形成は企業の財産~でもノリで始めると失敗する確率が高い
- PRマガジン編集部の「編集後記」
- ―「事業会社の広報」が運営するYouTubeチャンネルの成功モデル
- ―「マーケ広報」は、これまでの事業広報の課題を解決できるかも?
- 今回のPRパーソン紹介
イタリアでの靴職人見習いから、広報とSEOに軸足を置くキャリアへ
編集長:私はYouTubeでもよく松中さんを拝見しているので、初めてお会いした感じがしないです。笑
いつも動画でSEOについて、学ばせてもらっています。
松中さん:ありがとうございます。嬉しいです。
編集長:YouTubeをちょくちょく見ていたので、元々松中さんのことは知っていたのですが、今回、取材させていただきたいと思ったきっかけは、松中さんのXでした。
少し前に「最近Xで『マーケ広報』というアカウント名が体感で増えている気がするのですが~」というポストを拝見しまして。
数年前は、急に「採用広報」をアカウント名にいれる方が増えたなという印象だったのですが、確かに、言われてみれば最近は「マーケ広報」というワードをみるようになったなと。そこから、松中さんのXやnote、オウンドメディアの記事など拝見し、是非お話を聞いてみたいと思い、ご連絡しました!
早速ですが、キャリアも興味深いので、これまでのご経歴から伺えますか?
松中さん:大学でファッションデザインを勉強し、在学中からアルバイトをしていたアパレル企業にそのまま就職して、約5年間、販売やバイイングに携わりました。バイイングを行っている当時、ファストファッションブームが起こり、コスト重視の風潮になりまして。量産されるものではなく、職人が作った温かみのあるプロダクトに携わりたいと思うようになりました。
元々、靴がすごく好きだったのですが、靴のデザインこそ大学で経験したものの実際に作ったことはなかったので、「靴と言えば、イタリアだよね!」と思って、イタリアに留学することにしました。
編集長:え…?靴と言えばイタリアっていうのは、わかる気がするんですが、すごい行動力ですね。イタリア語、話せたんですか?
松中さん:話せないですね。笑
イタリアに行こうと決めてから、半年くらい自分で勉強しました。イタリアに行ってからも、靴の専門学校でイタリア語も学びました。それでも専門用語などは辞書に載っていない用語も多く、はじめは身振り手振りで話す感じでした。
編集長:すごいですね。語学だけでも大変だろうに、靴職人になろうとは…
松中さん:靴職人になろうと思っていたわけではなく、靴づくりをしてみたいな、くらいの感覚だったので、最初は靴づくりについて学べる3か月のコースに参加しました。でも、それが楽しくて、1年コースに編入し、終了後はオーダーシューズ工房でのインターンをしながら、土日はファクトリーメイドの靴を売る店舗でアルバイトをして生計を立てていました。
その際、職人が作ると30万円くらいする製法の靴を私も作ってお店に置いてもらったところ、15万円くらいで売れたというとても嬉しかった想い出もあります。
帰国後は、メンズシューズブランドに広報PRとして入社しました。社員は8名しかいなかったのですが、自社ブランドの他、OEMを主軸にしており売上も社員数に対してすごくある会社でして、できることは何でもやる(やらないといけない)という感じでした。大学で、Photoshopやlllustratorも使えるようになっていたので、パンフレットやカタログ制作、メディア運営もいつの間にか、担当になっていました。笑
編集長:メンズシューズブランドには3年と8か月在籍され、メディア運営を行うSEO会社に転職されてから、ナイルに入社されたのですね?
松中さん:はい。コロナ禍をきっかけに、広報の片手間ではなく、もっとしっかりSEOを学びたいと思いWEB業界に転職しました。
前職では、SEO研修を数カ月で終えると新しいメディアの立ち上げをしてほしいという話があり、インタビュー記事を掲載するビジネスメディアを立ち上げました。コンテンツも溜まりメディア運用が軌道にのったところで、広報に戻りたい気持ちもありSEOと広報の両軸で働けるナイルに転職しました。
編集長:それで、2022年6月にDX&マーケティング事業部初の広報としてナイルに入社されたのですね。
松中さん:はい、そうです。
「マーケ広報」のミッションはサービスのリード創出につながる認知の獲得
編集長:ナイルは、企業規模に対して広報が比較的多いそうですね。
松中さん:全社の広報室に責任者と採用広報担当がおり、事業部ごとに広報が1人ずついるので、計5人広報がいます。
編集長:松中さんは、DX&マーケティング事業部の広報として、どういうミッションをお持ちなのでしょうか。
松中さん:SEOコンサルティングといったWEBマーケティング支援サービスのリード創出につながる認知の向上です。
企業のウェブ担当者様やマーケターの方にとって有益な情報を発信し、第一想起してもらえるポジションを確立できれば、後々の発注にもつながっていくと考えているからです。
編集長:サービスの認知向上だけではなく、リード創出とナーチャリングまでをご自身の領域としているから「マーケ広報」ということなんですね。
松中さん:私の場合はリード創出に貢献するための認知獲得がマーケ広報の仕事だと思っています。一方で、「マーケ広報」といっても、マーケターと広報を兼任されている方もいらっしゃいますね。
動画に商機を見出し、YouTubeチャンネルの開設を提案
編集長:事業部の広報として主に取り組まれているのが、サービスPRとYouTubeの企画運営ということで合っていますか。
松中さん:はい、合っています。ただ、今はYouTubeの仕事が大半で、もうYouTuberなんじゃないかと思っています。笑
その他に、全社の広報チームにも所属しているので、会社を取り上げてもらうためのネタ作りからプレスリリースの配信、メディアプローチといった一連の動きもしていました。
編集長:WEBマーケティング支援事業の場合、メディア露出よりもYouTubeやSEO対策した記事でターゲットにリーチする施策を強化した方が、成果が上がりそうですよね。
松中さん:どちらも重要だと思います。フロントに立って情報発信できる人がいる場合、その人に専門家としての取材オファーをいただくことがあります。そういった記事は、第三者視点で自社の専門性の高さを示すことができますよね。
他にも、支援実績や成果などは、自社で発信するよりも第三者から発信してもらう方が、説得力が増します。
一方で、自社発信の場合は、我々が伝えたいことをそのまま伝えることができるのが魅力です。リード創出だけでなく、エンゲージメントを高める役割もあると思っています。
編集長:YouTubeチャンネル「ナイルTV / SEO相談室(24年8月に現名称に変更)」は2023年6月から始めたということですが、松中さんの発案で始まったのですか。
松中さん:そうですね。広報戦略を策定する過程で、動画配信に商機があると感じました。
当初はメディアの取材を獲得すべく活動し、掲載もしていただきましたが、1回の露出で指名検索が大幅に増え続けるということはまずありません。PRストーリーを作りづらい商材の特性上、1つのメディア掲載から報道連鎖を生むことは難易度が高く、露出し続けなくてはいけません。ただ、WEBマーケティングという領域で、マスメディアに露出し続けるのは、容易ではありません。
だからこそ、自社のYouTubeチャンネルでの発信を強化することで、ニーズのある方々に情報を届けられるのではないかと思い、上長 に「YouTubeを始めたい」と提案しました。
実際にはじめてみると、YouTubeをきっかけに出演者へ取材オファーをいただくこともあり、メディア掲載にも効果があるんだと驚きました。
リード創出につながるコンバージョンは月100件以上!
編集長:そのYouTubeが、かなり短期間で軌道に乗ったようですね。
開設5ヶ月でチャンネル登録者数が1000人突破、2024年6月には2800人、現在(取材時点の9月中旬)は、4010人になっていますね。
松中さん:ビジネスパーソンの中で、さらにSEOに興味のある方がどのくらいいるのかわからないので、このチャンネル登録者数をどう評価してよいのかは正直わからないのですが、テーマからすると非常に良い伸び率に思います。
編集長:実際、YouTubeを運営する上で、どの指標を重視されているのでしょうか。
松中さん:チャンネル登録者数の評価は確かに難しいのですが、同じような条件のチャンネルと比較するとかなりスピード感のある伸び方をしていると評価いただくことが多いです。
また、YouTubeチャンネルを開設した目的はリード創出につながる認知の獲得とナーチャリングですので、コンバージョンポイントは、問い合わせ数と資料ダウンロード数、メルマガ登録の3つを置いています。
立ち上げからちょうど1年現時点で、この3つの合計コンバージョン数が月100件を超えたので、BtoBのチャンネルとしては良い結果を出せているのではないかと思います。
編集長:コンバージョンが増えたのはどのくらいからですか?
松中さん:開設から半年ほどで月間のコンバージョンが十数件発生するようになり、そこから4カ月で約6倍に増加しました。
編集長:その先はインサイドセールスにバトンタッチという感じですか?
松中さん:そうですね。インサイドセールスから電話をさせていただき、営業へのトス商談に繋がることも徐々に増えてきています。
この成果はもちろん、コンバージョン数が上がったことだけではなく、メルマガやSNSといった他施策との相乗効果や、インサイドセールスの方たちが適切なアプローチもしているからこその結果だと思っています。
当初は、ここまで事業貢献できるとは想像していなかったので、やっと今、YouTubeチャンネルの方向性は間違っていなかったと実感できています。
社内の専門家と既存コンテンツの活用で、YouTubeを効率的かつ効果的に運用
編集長:今、YouTubeチャンネルをはじめ、XやInstagramなど手軽に始められますが、間違っていない方向性で運用し続けるって、実は結構すごいことですよね。
でも、上手いなと思ったのが、動画の企画は松中さんがされていると思うのですが、基本、松中さんはファシリテートで、具体的な話は毎回専門家を出演させて話をしてもらうっていう手法です。
広報って、広報の専門知識はあっても、必ずしも事業の専門知識があるわけじゃないので、専門家と一緒にチャンネルを回す座組にすると成功するイメージが湧くなと思いまして。
社内の専門家も最初から結構協力的だったのですか?
松中さん:事業部に良い方しかいないので、成り立っています。笑
はじめは、マーケティングユニット内で完結させるという前提ではじめて、半年間の運用でチャンネルをしっかり伸ばせたことから、徐々にコンサルタントやアナリストにも出演を打診していきました。
編集長:確かに、テーマによって出演する専門家が違いますね。
松中さん:それが、我々のYouTubeチャンネルの特徴の一つです。
基本的に出演者が多いと調整も大変になるのですが、弊社の場合、皆さん、本来の仕事もあり、御自身の目標とは全く関係ないのに、嫌な顔一つせず協力してくれるんです。
これが、チャンネルが成功した一番の理由だと思っています。
編集長:確かに。YouTubeの場合、テーマを企画するのも大変だけど、話す人も準備にすごく時間がかかるから大変ですよね。
松中さん:本当にその通りです。ですので、私の方でもなるべく、負担を減らせるように、台本の大枠は自社のオウンドメディアをベースに構築しておき、そこに専門家の知見をプラスしてもらう形で運用しています。
編集長:成功のもう一つのポイントは、0から企画するのではなく、オウンドメディアの記事を活用するということですね。
動画の内容はYouTubeチャンネルのフェーズに合わせて変えるのがポイント
編集長:ちなみに、どんなテーマをYouTubeの企画にするかは、どうやって決めるのですか。
松中さん:YouTube立ち上げ初期と今では、企画の作り方が異なります。
最初の3ヶ月から6ヶ月ぐらいまでは、チャンネルの存在があまり知られていないので、検索流入を狙う必要がありました。
そのため、YouTube内のSEO対策と検索ボリュームのあるキーワードの中から自社の商材の強みを活かせるキーワードを見つけ、企画を考えていきました。
編集長:今はどのように企画を考えているのですか。
松中さん:今は、認知を獲得するための企画が 7割、コンバージョン狙う企画を3割といった感じで企画をしています。
認知獲得を目的としたコンテンツは、検索ニーズも狙いつつ、ChatGPTのようなその時々のトレンドに合わせた企画やSEOに役立つツール紹介などYouTube上で伸びやすい企画を意識的に取り入れています。
コンバージョンを目的とした企画は、公開無料相談や資料ダウンロードから逆算した企画などです。弊社の場合、すでにホワイトペーパーが複数あるので、その内容をブラッシュアップした内容を動画で解説しています。
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編集長:本当に上手く設計していますよね。あぁ~ダウンロードして見たい!って、何回も思いました。笑
松中さん:ありがとうございます!。笑
動画の内容を改めて見たいと思う時、動画で巻き戻すよりも活字のほうが見やすいということもありますし、動画の内容を誰かに伝える際には、資料があった方が便利ですので、資料をダウンロードしてくださる方も多いのではないかと思います。
編集長:ちなみに、最近一番コンバージョンに繋がった動画はどれですか。
松中さん:「2024年最新版SEO対策の教科書」という動画です。
この動画単体で、資料ダウンロード数は100件以上になっていまして、今も視聴回数が伸び続けています。
コンテンツ形成は企業の財産~でもノリで始めると失敗する確率が高い
編集長:オウンドメディアというか、コンテンツの蓄積って、企業の財産だと思うのですが、コンテンツマーケティングを成功させるポイントは何だとお考えですか?
松中さん:おっしゃるようコンテンツマーケティングはどの企業にとってもすごく大事なものだと思っています。そのコンテンツが記事なのか動画なのか、何が適しているかは企業により違うと思いますが、継続的に発信できる仕組みを作ってから、目的に応じたメディアを作ることが大事だと思います。SNSが流行っているし、動画が人気だからYouTube始めようという考え方だと、失敗しやすいのではないでしょうか。
弊社の場合も、すでにSEOノウハウなどのテキストコンテンツの蓄積があり、それをベースに動画を制作しているので、効率よく継続できていると思います。
企業によっては、コンテンツマーケティングは広報の領域ではないこともあると思うので、マーケティング部署と連携することで、広報としてできることも広がるのではないかと思います。
編集長:本当に、コンテンツが蓄積されていくことって、企業の財産を増やしているのと同じだと思うんですよね。でも、会社としては、コンテンツが増えるだけでは「で?」って感じで、その先に、問い合わせや資料ダウンロードといった利益貢献につながるコンバージョンに繋がっていないと、評価されづらいのかなとも思います。
もちろん、コンテンツを通して啓蒙をしていくとか、認知を拡大するというところまででも、広報としては十分役割を果たしてると思うんですけど、そのあたりは企業風土によるかもしれないですね。
松中さん:私も広報を何年もやってきていますが、広報という仕事は、会社によって求められる役割が全然違うと実感しています。
他社の広報さんとお会いしても、どんなことをされているかお聞きしないとお互いの仕事がわからないぐらいの粒度だと思います。
私は今、広報ではありながらも、リード獲得という目標を掲げていますが、それがマーケ広報の良さだと思っています。自分で認知獲得からリード創出まで行い、売り上げに直接貢献できるやりがいがあります。
事業(サービス)広報をされている方は、マーケティングチームとの連携を深めると良いシナジーが生まれるはずなので、積極的に関わっていくと良いのではないかと思います。
編集長:余談ですけど、広報もGA4やサーチコンソールはつかえるようになっておいたほうが良いと思うんですよね。
自社の顧客となりうるターゲットがどんな課題やニーズを持っているかを知ることはとても重要だと思うのですが、対面でヒアリングをする機会はなかなかないと思います。でもサーチコンソールでクエリとか見ると、何に関心を持って自社のサイトに来てくれたのかがわかるので、PR戦略やPR切り口を検討する材料になります。
あと、広報PRの効果測定として、サイトへのアクセス数をみるという方法もあると思います。
ツールの使い方がよくわからないという方は、ナイルさんの動画をみて学んでいただくのもいいですよね。笑
松中さん:ぜひ広報のみなさんにも見ていただけると嬉しいですね。
PRマガジン編集部の「編集後記」
―「事業会社の広報」が運営するYouTubeチャンネルの成功モデル
広報の業務領域は、年々広がっているように思う。
中でも、SNSが広報の担当領域であったり、広報戦略の一環としてSNSの立ち上げを考えている広報も少なくないだろう。
でも、実際SNSで成果を出すのは簡単ではない。
特にYouTubeは動画撮影や編集という手間もかかる上に、誰を出演させるかというブッキングや事前の打ち合わせ等も非常に工数がかかる。
広報自らチャンネルの顔として出演し、動画を完結させられればよいが、広報が事業領域の専門家であるケースは少ないだろう。
その点、松中さんが企画したYouTubeは、テーマに応じ社内の専門家に出演してもらう座組で、コンテンツのクオリティを高めつつ継続しやすい形になっている。
この形は、他の企業でも取り入れやすいのではないだろうか。
ただし、ナイルのように既存のテキストコンテンツやホワイトペーパーがない場合、動画の企画や台本作成、CVへの落とし込みといった点で少し苦労するかもしれない。
―「マーケ広報」は、これまでの事業広報の課題を解決できるかも?
事業広報が取り組む認知やブランディングは、会社にとって会社を支える基盤となる。非常に重要な役割を担っている。しかし、認知やブランディングが会社にどう貢献しているのか測りづらく、広報を経験したことのない人からは理解を得られづらいという面があるのも事実だ。
一方、マーケ広報は、マーケティング課題に向き合い、リード獲得や売上など、会社にとってわかりやすい指標を立てることができる。貢献度合も可視化しやすいという面がある。
会社が広報に何を求めているかによっても変わってくるが、マーケ広報の需要は増していきそうだ。