オンライン名刺Sansanの広報が語る「Withコロナ時代におけるBtoBサービスの広報戦略」 ~攻めと守りの施策を公開、オンライン記者発表会成功のコツも伝授

当記事は、2020年8月27日(木)に「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げ、法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』と個人向け名刺アプリ『Eight』を提供するSansan株式会社のPRマネージャー小池亮介さんをお招きし、「Withコロナ時代におけるBtoBサービスの広報戦略」について伺ったオンラインセミナーのレポートです。

コロナ禍で重要なのは「広報がコロナに踊らされない」こと

オンライン名刺でおなじみのSansan株式会社のPRマネージャー小池亮介さん

オンライン名刺でおなじみのSansan株式会社のPRマネージャー小池亮介さん

玉木:今回は、オンライン名刺でおなじみのSansan株式会社のPRマネージャー小池亮介さんをお招きし、「Withコロナ時代におけるBtoBサービスの広報戦略」というテーマで、Sansanが実践する広報戦略や、コロナ禍で実施したオンライン記者発表会について伺えればと思っています。

早速ですが、小池さんのご経歴からお聞かせください。新卒でPR会社に入社されたんですよね。

小池さん:2013年にPR代理店に新卒で入社しました。外資系IT企業に特化したPR代理店だったのでCADサービスやソーラーパネル、半導体といった技術系ITのプロダクトPRをしていました。キャリアを2~3年ほど積んだ後に、モバイルバッテリーやドローンといったユニークなコンシューマー向けプロダクトのPRに携わることになりました。
その後、2017年にSansan株式会社に入社しました。入社した時、広報は私ともう1名の2名体制だったのですが、今は4名体制で、私がPRマネージャーという形で入っています。

玉木:広報チームの中で、小池さんはどういった役割を担っているのでしょうか。

小池さん:まず一つは、プロダクトのPRです。弊社には、法人向けのクラウド名刺管理サービス「Sansan」と個人向けの名刺アプリ「Eight」というサービスがありまして、これらのPRをしています。もう一つは、コーポレートPRです。企業として発信するメッセージやPR戦略の策定をしています。また私がマネージャーというより現場として動いているのが、新規事業や新サービス、海外(シンガポール)でのPRです。

玉木:ありがとうございます。本日のセミナータイトルでもありますが、Withコロナ時代のPR戦略についてお話を聞かせてください。コロナにより、メディアのアポイントが取りづらくなったという声も多く聞こえてきますが、御社では何か工夫をされているのでしょうか。

小池さん:メディアアプローチで何か特段工夫しているかというとそうではなく、当たり前のことを当たり前にしているといった感じです。コロナにより何もかも変わったかのように感じますが、一方で変わらないものもあり、今まで通りやったほうがいいこともあると思っています。
一番大事なのは、我々がコロナに踊らされずに、何を変えるべきで何は変えないべきなのかを冷静に判断することです。
コロナも半年以上続いていますので、電車に乗りメディアのところまで行き、メディアブリーフィングをしていた頃が懐かしくさえあるのですが、今はメディアを注視し、現状を把握するとともに、Beforeコロナで自分たちは何をしてきたのかを振り返ることも大事ではないかと思っています。

メディアアプローチは、「新規開拓」と「既存メディアへの情報提供」に大別できますが、皆さんがメディアアプローチで難しくなっていると感じるのは「新規開拓」のほうではないかと思います。

新規の中にも専門媒体や地方メディア、新聞、ニュース、雑誌、Webなどがあり、これら全てが難しくなったかというとそうではなく、特にWeb媒体ではないかと思います。Webは編集者が完全リモートに切り替わるところもあり、電話してもつながらないことからアプローチに難しさを感じることもあると思います。

玉木:そうですよね、今は電話をかけてもつながらないというのがコロナ前と比べた一番大きな違いなのではないかと思います。既に面識のあるメディアであればメールでのやり取りもできますが、新規だとまずは電話で、ということが多いですよね。
そういった意味でも、オンライン上でいかにリレーションを取っていくかがポイントではないかと思うのですが、いかがですか?

小池さん:メディアに電話がつながらないという点でいうと、すごく初歩的ではありますが署名記事を探す、なんとなくあたるのではなく媒体に合わせた企画を提案する、あとはSansanなどを活用し自分の持っている人脈を整理するということがポイントですね。
メディアのオフィスにも誰かしらいるので、電話に出た方にコンタクトしたい記者名とどういった情報を提供したいか簡潔に伝え、つないでもらうといった工夫はできると思います。

また、PR担当者同士がつながるようなコミュニティで横のつながりを作り、その仲間からメディアを紹介してもらうといったやり方もあると思います。
私が運営しているコミュニティは、ベンチャー広報の方が多いので、ベンチャー系を担当している記者さんを紹介し合ったり、お互い持っているネタを合わせてメディアに提案したりといったことをしています。
以前から行っていたことではありますが、電話がつながりづらい今、広報担当者同士がタッグを組んでメディアに情報提供するという方法がより活きてくると思います。

玉木:先ほど、コロナに踊らされないといったお話がありましたが、具体的にはどういうことでしょうか。

小池さん:私が思う広報の理想像は、企業と世の中の中間にいるフラットな感覚をもっているということです。どちらにより過ぎてもバランスが崩れ、振り回されてしまうと思うのです。
事業会社の広報は、世の中の情報や状況を把握できているからこそ信頼されているケースが多いと思うのですが、焦ってネガティブな情報やコロナに偏った情報を出してしまうと会社側もすごく不安になってしまいます。そういった意味でも冷静に判断しなくてはいけないと思っています。

玉木:現状、メディアがコロナというキーワードを追いかけているので、それに関連した情報発信ができると取り上げてもらいやすいと思うのですが、そのあたりはどうでしょうか。

小池さん:世の中が複雑化しているなかで、こんなにも一つのことに注目が集まっていることってなかなかないと思うんですね。ある意味ニュースは作りやすいと思います。PR担当としては、上手く活用したいところではありますよね。一方で、世の中がコロナしか見ていないかというとそうではなく、企業の新しいサービス情報なども求められています。
こういった意味では、BeforeコロナよりPRはしやすくなっているんじゃないかなと思います。

他社に先駆け「オンライン記者発表会」を実施~攻めの広報を展開

Sansanは他社に先駆け「オンライン記者発表会」を実施した

Sansanは他社に先駆け「オンライン記者発表会」を実施した

玉木:Sansanがコロナ禍で行った攻めと守りの広報、それぞれどういったことを行ったのか教えてください。

小池さん:期間が長いので、全部お話するのは難しいですが、2月頃から攻めと守りを意識してどういったPRを展開するかメンバーと話しました。

攻めの広報という意味では、3~5月くらいまで企業が当たり前の活動をしてはいけないような空気感があり、イベントや記者発表会が中止される中で、できることはしようと3月11日にオンライン名刺に関するオンライン記者発表会を実施しました。
今でこそ、オンライン記者発表会を実施する企業も増えましたが、その時は割とチャレンジなところがありました。

専門家会議から新しい生活様式が発表された後は、追い風が吹いたこともあり、東京のメディアから多くの取材依頼をいただきました。その後、全国のテレビ番組に向けたブリーフィング資料を作成し、アプローチをするといったことも5月には行っていました。

玉木:オンライン記者発表会とリアルな場での記者発表会、どういったところに違いがありましたか。

小池さん:オンライン記者発表会のメリットは、人との距離を保たなくてはいけないという現状で、リアルな場に集まっていただかなくても実施できるということと、距離という障壁を超えることができたことだと思います。

地方メディアの方が参加してくださる等、オフラインではなかったことです。物理的には近い距離でも、これまで参加には至らなかったメディアの方も会場への移動がないことから、気軽に参加いただけたのは良かった点だなと思います。

結果的に、オンライン記者発表会の参加者数は40名ほどで、通常の記者発表会より多くのメディアに参加いただけました。

オンライン記者発表会では、資料を大きく表示する設定(話している映像は小さく)にしたため、資料をしっかり読んでいただけたのはメリットだったと思います。

一方、デメリットは手探りだったので、オンライン記者発表会前後でのメディアとのコミュニケーションは取りづらかったと言えるかもしれません。オフラインの記者発表だと記者発表会後にメディアとお話をして、質問を受けたり感想をヒアリングできますが、オンラインは終了次第画面から退出していきますから。なので、あえて時間を別途作らないと話せないというのがデメリットではありました。

もう一点はやり方次第ではありますが、ウェブ会議システムによっては、タイムラグが起きてしまうので、質疑応答などリアルタイムでのやりとりがしづらくなるというのもありました。3月の記者発表会については、30秒程度のタイムラグがあったんですね。プレゼンテーションが終わり、質疑応答に移っても30秒ほど空白の時間があるんです。それが怖くて。(笑)
登壇者含め30秒のタイムラグがあるのはわかっていたんですが、無言で30秒待つのはなかなか厳しいものがありました。

玉木:そういった点でいうと、突然画面が固まってしまったり、ということもありますよね。今後もまだオンラインでの記者発表会は続くと思われますか?

小池さん:私はハイブリットになるのかなと。弊社としては今後オフラインで記者発表会を実施することになっても、オンラインでの配信も行えるように準備は進めていこうと思っています。というのも、メディアの方々もオンラインで記者発表会に参加するというのに慣れてきていると感じていますし、地方メディアにも参加していただきやすくなりますし、海外メディアに対しての記者発表会も実施しやすくなると思っています。

オンライン記者発表会のメリット/デメリット

【メリット】

・(人との距離を保たなくてはいけないという現状で)リアルな場に集まってもらわなくても実施できる
・物理的な距離という障壁がなくなる
・資料をしっかり読んでもらえる

【デメリット】

・オンライン記者発表会前後でのメディアとのコミュニケーション
・タイムラグ

広報目線で“最も話題化できるタイミング”を見逃さない

取材の際はオンライン名刺交換という機能だけではなく、Sansanというプロダクトそもそもの価値を必ず伝えるということを心掛けている

取材の際はオンライン名刺交換という機能だけではなく、Sansanというプロダクトそもそもの価値を必ず伝えるということを心掛けている

玉木:今年6月からオンライン名刺の提供を始められましたが、このサービスをPRするにあたりどういった戦略を立てたのでしょうか。

小池さん:リリースしたのが3月だったのですが、この時期は多くの企業が情報発信をしたほうがいいのか、しないほうが良いのか迷っていたタイミングだったと思います。我々の選択としては、ビジネスとして活動できることはする、発信できることはするということでした。結果、オンラインで名刺交換ができるというのは、メディア受けもよく、様々な媒体で掲載してもらえましたし、SNS上の反響も良かったです。また、Sansanとしてはお客様である企業の反応も重要なのですが、お客様からも待望の声をいただきました。

その後もどうPRするか悩んでいた部分もありましたが、5月の専門家会議の発表によって世の中から盛り上げてくれたので、実は5~6月のタイミングで何か大きなことをしたかというとそうではないのですが、取材の話をいただいた際に、オンライン名刺交換という機能だけではなく、Sansanというプロダクトのそもそもの価値を必ず伝えるということを心掛けていました。

その後、少し落ち着いたタイミングから、サービス提供前の導入社数を出し、“これだけの企業が賛同してくれました”といったプレスリリースを出したり、オンライン名刺交換サービスを導入しますと言ってくださった大手企業も多かったので、その実績をメディアに発信したりと、ニュースは切らすことなくメディアに情報発信できていました。

玉木:そもそもの質問なんですが、6月に新サービスを出すというのは狙ってですか?それとも以前から決まっていたんでしょうか。

小池さん:個人向けのEightは2016年にアプリ同士で名刺交換できる機能を出していたこともあり、以前から法人向けのSansanについてもオンライン機能が欲しいよねっていう話がでてはいました。話は出ていたのですが、コロナにより、3月から急ぎで開発を進め、6月にリリースできたという感じです。

ちなみに、3月に発表を行ったのは広報目線からです。そのタイミングで発表できていなかったらここまで盛り上がっていなかったかもしれません。ただ、このタイミングにしたのは、話題化だけではなく、発表後、ユーザー(企業)がどういった反応をするか吸い上げたかったというのもあります。

玉木:実際、Sansanを導入する企業は増えているということですが、利用する広報の方は増えていらっしゃいますか。

小池さん:増えているといいなと。(笑)
Eightのほうは、Zoomの背景に名刺のQRコードを張り付けられるようになっていて、ウェブセミナーなどで使用してくださっているのをみたりするので、結構使っていただけているのではないかと思っています。

私が広報として良い使い方だなと思ったのは、元々メールアドレスを知っているメディアとZoomで打ち合わせや取材対応をする前に、オンラインで名刺のやり取りをして、その方のフルネームを確認し、過去の記事を検索し情報をインプットした上で当日を迎えるという使い方です。こういった使い方がもっと広まれば良いなと思っています。

玉木:なかなかメディアと会えないという状況下で、やはりオンライン名刺交換というのは有効ですよね。

小池さん:そうですね、活用いただけると嬉しいです。今後メディアアプローチが全てオンラインに切り替わるというわけではないと思いますが、メディアとの出会いもオンライン/オフラインのハイブリットになる時代において、オンライン側の“初めまして”を支えるツールになれたらありがたいなと思っています。

守りの広報~「広聴活動」に重きを置き、正しい情報を社内に展開

sansanとしてコロナに関する情報発信の対策ができるようなチーム作りを行いました。

sansanとしてコロナに関する情報発信の対策ができるようなチーム作りを行いました。

玉木:続いては、守りの広報についても伺いたいのですが、対策委員会を設置されたということなのですが、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

小池さん:2月の中旬頃に、毎日ニュースを見る中で、コロナの話題は長期化するだろうなと思い、弊社としてコロナに関する情報発信の対策ができるようなチーム作りを行いました。
具体的にはコミュニケーションツールを用い情報交換ができるようにしたことと、一番大きなアクションだったのは3月の中旬に予定していた大型のビジネスイベントの開催可否を経営陣に仰ぎに行ったことだと思います。

主催者側としては、非常に難しい判断を迫られる局面だったので、この時、コロナに対してどういった報道がされているかや他社の動きなどをまとめ、開催可否の判断材料としてもらいました。結果、延期となったのですが、これが守りの広報と言えると思います。

また、当社で新型コロナウイルス感染者が出た場合のプレスリリースを書き上げました。その時は、まだ企業から感染者が出たという情報は出ていなかったので、万が一、当社が第一号となった場合、最速の広報対応ができるようプレスリリースの作成と想定Q&Aを作るということもしました。

あと、2~4月にかけては日々の情報収集ですね。いつ緊急事態宣言がでるのか、デマも流れていたので情報の精査、新しい情報については最速で経営サイドに伝えるという「広聴活動」をしていました。

特にデマに関しては、緊急事態宣言前は多く飛び交っていたと思うんですね。それらの情報の真偽を見極める力は広報としては一般の人よりはあるのかな、ないといけないと思っていまして、社内に間違った情報が広まらないように、正確な情報を届けるようかなり注意していました。

玉木:広報だけじゃなく広聴も重要ということですね。

小池さん:そうですね、情報発信ばかりに目が行きがちですが、守りがないと攻めもできませんし、攻めてばかりだと何かあった際、ブランドイメージを守れませんし、そのバランスはかなり気を付けました。

BtoBサービスは「長期目線」と「営業とのコミュニケーション」が肝

BtoBサービスをPRするにあたり、意識する点は2点ある。

BtoBサービスをPRするにあたり、意識する点は2点ある。

玉木:今日のセミナーの本題でもありますが、BtoB企業の広報は簡単ではないと思うのですが、BtoBサービスをPRするポイントなどありますか?

小池さん:意識する点は2点あると思っています。まず一つは長期目線を持つことです。BtoBの場合、商談・受注に至るまでが長いですよね。そういった先まで見据えなくてはいけないと思っています。
もう一つは営業と二人三脚で進めるということです。お客様のことを一番知っているのが営業です。営業というと、しゃべり倒して売りまくるというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、私は顧客の話をたくさん聞いてきている人たちだと思っています。ニーズや業界の課題などリリースのポイントになるものをいっぱい知っているので、営業とは頻繁にコミュニケーションを取るようにしています。

玉木:ちなみにSansanさんの知名度ってすごく高いですよね?知名度が一気に高まる分岐点があったのでしょうか?それともジワジワと段階的に積み上げてきたのでしょうか。

小池さん:知名度はまだまだですが。(笑)
クラウドやアプリで名刺管理ができるというサービスも創業当初はほとんどなかったですし、市場もありませんでした。その後も市場を作ってくれる第3者はいませんでした。なので、営業をはじめ、「名刺はデジタルで管理した方が楽!」という認知をジワジワと広げていった感じです。

とはいえ、ターニングポイントを2つ挙げるとすると、一つはテレビCMです。「早く言ってよ~」というニーズを一言で表したCMでサービスを訴求できたのは良かったなと思っています。

もう一つは、個人向けのEightですね。それまで法人向けのSansanのみで、会社が契約してくれないと使えないという状況だったのですが、個人向けに無料で使えるアプリを開発したことで、使うと便利だから法人契約をしたいというニーズも高まったのではないかと思います。この経営判断は大きかったなと。

広報としても、Eightを出した際は、ビジネスパーソン向けに情報をアレンジし発信したり、IT寄りのビジネスコミュニティを運営されている方などに先行して使っていただき、クチコミで広げていただくなどの活動をしました。

その他、マーケティングと連動し、ルノアールさんにSansanのスキャナを設置させていただきタッチポイントを増やすといった施策も展開していました。

ご質問の「BtoBサービスをPRするポイント」に戻るのですが、広報活動において、テレビに取り上げられて打ち上げ花火的にアクセスが増加してということもあると思うのですが、それはあまり本質的ではないなと考えています。日々の活動の中でコンセプトを伝えていき、情報に触れた人が意識してくれるようになるというのが、BtoBの広報においては必要なのではないかなと思います。

「伝える」ことが難しくなる時代において、プランニングできる広報PRパーソンが求められるように

その分野でプロフェッショナルとして専門スキルを持ってやっていけたらPRパーソンはもっと楽しくなるのではないかと思っています。

その分野でプロフェッショナルとして専門スキルを持ってやっていけたらPRパーソンはもっと楽しくなるのではないかと思っています。

玉木:これから広報PRの仕事はどう変わっていくと思いますか?

小池さん:自分たちが発信したいことを、世の中の方たちが聞きたい形にして発信するという本質的な部分は変わらないと思います。外部環境的な変化でいうと、冒頭でコロナに目が向けられPRはしやすい環境とお話しましたが、一方でコロナが落ち着いたタイミングで世の中が複雑になる波が来るのではないかと思っています。
好みやライフスタイル、時間の使い方、色々なサービスの登場。今までであれば若い人にはこれ、お年寄りにはこれといったコミュニケーションの取り方で良かったところ、お年寄りでも好みは若い人よりになるなど複雑化することによって、伝えるということが難しくなるのではないかと考えています。

なので、本当に必要なのはPRするものの方向性、つまりどういう人に伝えたいのか、今一度PRするものに向き合い咀嚼することが大事になり、これまで通りの概念に当てはめたPRは難しくなってくると思います。

玉木:日本はこれまでマスメディアの影響力が非常に大きかったという特徴があったと思います。ただ近年はSNSの影響力が増し、また状況もわかってくるのかなと思います。

小池さん:どの媒体に情報提供しますかというのは、当たり前にやらなくてはいけなくて、これは新しい話ではないですよね。何を伝えなくてはいけないのかという所が大事です。競争的に売るのではなくコンセプトやミッションなど経営サイドと議論して、どういう世界観で出していきたいかを考えないと人に刺さらなくなってくると思います。

一方で、東京にこれだけ人が集まっていて、地方と言われているエリアはこれまでと変わらず、地方紙が強い、そういった環境は残ると思います。
どこに伝えたいかでも考え方は異なってきますよね。情報を出すときにこういったところを吟味しなくてはいけないですし、吟味できるPRパーソンが増えていくということが大事なのではないでしょうか。

玉木:これからも広報PRは必要だということですね。

小池さん:そうですね。伝えることが難しくなるがゆえに、PRは必要になってくると思います。個人的にはもっと難しくなれと思っています。(笑)
物事を伝えるのは難しいです。でも、人は人に何かを伝えないと生きていけないので、その分野でプロフェッショナルとして専門スキルを持ってやっていけたらPRパーソンはもっと楽しくなるのではないかと思っています。

玉木:小池さんご自身の今後の目標は?

小池さん:先ほどこれからのPRパーソンはこうあるべきというお話をしましたが、自分もまだ完璧にそうなれているわけではないので、そこに近づけていくということですね。

あとは、情報を伝えるだけではなく、コンセプトメイクやクリエイティブなどを「創れる」ようになること、イベントや広告を含め、コミュニケーション領域を広げていきたいと思っています。

玉木:視聴者にむけ、メッセージがあればお願いします。

小池さん:コロナ禍において、皆さんが不安に思っていることは企業によってバリエーションがあり、全てにお答えできているかわかりませんが、何かあればご相談ください。

KPIは掲載ごとにスコアリングし、四半期ごとに目標値を設定

Q,広報のOKR、KPIなどの効果測定項目を設けていますか?

Q,広報のOKR、KPIなどの効果測定項目を設けていますか?

玉木:質疑応答に入ります。事前にいただいていた質問を読み上げていきますね。

広報のOKR(Objectives and Key Results「目標と主要な結果」)、KPI(Key Performance Indicator「重要業績評価指標」)などの効果測定項目を設けていますか?

小池さん:はい、弊社は全社的にOKRを設けていて、広報もカンパニーが掲げるOKRを後押しするようなOKRがあります。広報独自のというより、ブランドコミュニケーション部というクリエイターやデザイナーと一緒にPRしていて、いわゆるブランディング部分において、定性的なものをおいています。

KPIも置いていて、OKRを追うというより活動した結果を追う指標として考えています。記事掲載のクリッピングのフォーマットを作っているのですが、そこにスコアを付けています。6項目あり、各項目は3点満点なので合計18点満点です。15点以上に関しては良記事と認定して、クウォーターごとに数値目標を作っています。

6項目の内容は、例えば
・メディアの優先順位付け
・記事の評価(ポジティブかネガティブか)
・掲載に至った経緯
です。

掲載に至った経緯の項目については、プロアクティブ(自分たちが積極的に企画を作ってアプローチしたもの)、リアクティブ(メディアから問い合わせがあって記事化したもの)、ノーアクション(自分たちの知らないところで記事化していたもの)か、なのですが、自分たちで能動的に動いたものに重きを置いています。

玉木:SNSでもそういった指標も設けているのですか?

小池さん:SNSはリリースなどニュース発信をする一つのツールとして割り切っています。なので、現状KPIなどは設けていません。

社内に広報の活動を知ってもらい、広報の居場所を作る

Q,クリッピングサービスの必要性や活用方法について伺いたいです。

Q,クリッピングサービスの必要性や活用方法について伺いたいです。

クリッピングサービスの必要性や活用方法について伺いたいです。

小池さん:会社によりけりかなと思います。掲載されたものを社内にきちんと報告するということだけではなく、広報の活動を知ってもらい、会社の中で広報の居場所を作るという意味で有効だとは思います。

例えば当社もテレビのクリッピングは良く利用します。スマホで録画するのも限界がありますし、きちんと保存するという意味ではクリッピングサービスを利用した方がちゃんとしたものを保存しておけますので。

ただ、クリッピングサービスにお金を使うのがマストかというとそうではないと思います。会社の規模も大きく、露出がたくさんあって把握するのが大変という場合、モニタリングの手間を省くという意味では良いと思います。
また、前職でいうと(日経テレコンやグーグル検索でも出てこない)専門媒体に露出したら報告してもらうという仕組みを作っていました。このあたりは取捨選択ですよね。

活用法で注意しなくてはいけないのは転載ですね。そのまま画像をSNSで転載したり、営業資料に活用したりしてはいけないので。専門紙などは割と良心的な価格で購入できたりするので、ちゃんと購入して使うということが必要です。

記者会見の形態より、何をどのタイミングで伝えるかが重要

Q,オンライン記者発表会後のメディア露出量は、オフライン記者発表会と比べいかがでしたでしょうか。

Q,オンライン記者発表会後のメディア露出量は、オフライン記者発表会と比べいかがでしたでしょうか。

玉木:参加者の方々から色々な質問をいただいていますので、読み上げさせていただきます。

オンライン記者発表会後のメディア露出量は、オフライン記者発表会と比べいかがでしたでしょうか。

小池さん:オンライン名刺をぶつけていったというところもあるので、露出量という意味ではかなり多かったです。ただ、オンライン記者発表会後にプロのカメラマンを入れて撮影した素材をメディアに提供したのですが、メディアが使用したくなる写真というのは似ているので、どのメディアにも同じ写真を使ってもらうことになってしまったというのは申し訳ないなと思いました。

玉木:記者発表会の形態ではなく、発表の内容が成果に関わるということですかね。

小池さん:そうですね、オンライン記者発表会というのは手段の一つに過ぎないですし、何をどのタイミングで伝えるかだと思います。オンライン記者発表会のメリットというのもあるので、手段の一つとして持っておくという考えが良いのではないかなと思います。

メディアが欲しい情報を提供できる環境を社内で構築

Q、サービスPRや企業PRをする上で、重要視をしている媒体はありますでしょうか。

Q、サービスPRや企業PRをする上で、重要視をしている媒体はありますでしょうか。

サービスPRや企業PRをする上で、重要視をしている媒体はありますでしょうか。

小池さん:究極、モノによると思います。サービスを誰にどう伝えたいのか、そもそもそのサービスって何なのかというバランスかなと思います。その時々の状況を分析して、必要と思われるところに攻めていくという考え方です。

媒体の選定も大事ですが、メディアがどんな情報を欲しがっているのか、それを絡めながら提案していくというところに力点を置いたほうがいいと思っています。メディアが欲している情報を提供するためにも、営業に話を聞きに行くというのはお勧めです。

そういった意味では、先ほどお話したクリッピングサービスの活用についても、露出したらすぐに共有して、広報に対し営業も時間を割く価値のある人たちなんだよということを伝えて関係値を築くというのも必要かなと思います。

繰り返しですが、広報は露出したからすぐ売り上げが上がるというわけではないので、社内の理解を得て居場所を作っていくというのも重要です。

資金調達した金額をほぼ投下し、経営判断でCM出稿を決断

Q、テレビCMに踏み切れたのはPRからの提案か、それとも経営トップの判断ですか。

Q、テレビCMに踏み切れたのはPRからの提案か、それとも経営トップの判断ですか。

テレビCMに踏み切れたのはPRからの提案か、それとも経営トップの判断ですか。

小池さん:テレビCMの第一弾を決めたのは8年前くらいですが、そこそこ売り上げも安定してきて、今後上場するのかもっと違う選択肢があるのかというのを当社の社長・寺田が考えていた時に、もっと爆発的な成長をしないと何のために我々はこの会社を経営しているんだということに行き着き、資金調達をして、そのお金をほとんどテレビCMにつぎ込んだといった背景があります。なので、当社でいうと社長の意志決定です。

テレビCMもただ流すだけでウケるだろうと思ってやったわけではなく、当社はSaaSサービスの会社なので、テレビCMを売った結果何社くらい受注できたらペイできるか計算して、このくらいの件数であればテレビCMをやったら集まるのではないかというところまで詰めて踏み切ったと聞いています。

テレビCMのクリエイティブに関しても有名なクリエイティブ企業に依頼し、ハイクオリティなものを作っていただきました。当然、自分たちで作るよりお金はかかりますが、自分たちにはない視点で非常に良いものをつくっていただけました。

玉木:御社は宣伝部と広報部の連携はしているのですか

小池さん:当社の場合、宣伝部という部門はなくマーケティング部門が広告宣伝を担っています。連携は頻繁にしていて、PR広告とマーケティング、カスタマーサクセスとの連携をしています。
PRであれば毎週のメディア露出であったりコミュニケーション全般をみていますし、マーケティングでいえば新規獲得、カスタマーサクセスでいえば契約していただいた後のお客様にどう利用を拡大していただくかを担当しているのですが、一緒に方向性をすり合わせたりしています。意見の食い違いは当然生まれますが、話し合いをし、お互いが同じ目線で動いていけるというのが一番いいのかなと思います。

広報コミュニティは「新たな発見」や「共感」を得られる場

Q,広報の横のつながりが重要ということでしたが、「広報たん勉強会」はどのようなきっかけで始めたのでしょうか。

Q,広報の横のつながりが重要ということでしたが、「広報たん勉強会」はどのようなきっかけで始めたのでしょうか。

玉木:最後の質問です。

広報の横のつながりが重要ということでしたが、「広報たん勉強会」はどのようなきっかけで始めたのでしょうか。

小池さん:私は途中から運営メンバーに加わったのですが、発起人の方がいて、ベンチャーの広報担当になったが右も左もわからなくて、いろんな先輩広報に話を聞いていたというのが出自です。そこから、もうちょっとシステマチックにやろうという話になり、定期的に勉強会を開いたり、コミュニティに「●●メディアがこういったネタを探しています」と共有してマッチングするなどの動きも出てくるようになりました。今、私はなかなか手が回らず運営にあまり参加できていないのですが、もっとうまく活用してもらえるようになるといいなと思っています。

玉木:本当に広報のコミュニティって色々ありますよね。

小池さん:そうですね、メディアとネタをマッチングするものであったり、最近だとLT(Lightning Talks(ライトニングトーク))で広報が自分の取り組みなどをアウトプットすることを前提に参加する勉強会など、FacebookやWebで探すと色々あって、入り口は全開なので見てみるのもいいかもですね。

私が広報勉強会の運営をするなかで、色々な広報の方と話しさせていただき、サービスにより課題が全く違ったり、反対に会社規模の大小で課題が似ている部分があったりと、色々発見があり悩んでいるのは自分だけではないんだと思える場でもあると思いました。キャリアの形成にプラスになったりもするので、まずは飛び込んでみるというのも良いのではないかなと思います。

玉木:本日は、色々とお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
伝えることが困難な時代が来る、複雑になるからこそやりがいがあるという部分は非常に共感いたしました。
先ほどのお話でもありましたが、広報という職種はなかなか理解が得られづらい、非常に重要なのに価値がわかってもらえないという残念な部分もあり、こういったセミナーを通して小池さんのように活躍していらっしゃる広報がいるということをお伝えしていけたらと思っています。

次回PRセミナーは10月16日(金)に近畿大学の広報室室長の加藤公代さんをお招きお話を伺う予定です。是非、こちらにも皆さんご参加ください。

今回のオンラインセミナー登壇者プロフィール

Sansan株式会社ブランドコミュニケーション部副部長PRマネジャー小池亮介さん

Sansan株式会社 ブランドコミュニケーション部副部長PRマネジャー小池亮介さん

小池亮介(こいけ・りょうすけ)さん

Sansan株式会社ブランドコミュニケーション部副部長PRマネジャー。個人情報保護士。2013年からITに特化した外資系広報代理店で、広報のキャリアをスタート。BtoB、BtoCサービスまでIT企業の広報業務を幅広く経験。2017年にSansan株式会社に入社し、広報・PRに従事。800名を超える広報の勉強会FBコミュニティ「広報たん勉強会」運営メンバー。

Sansan株式会社(https://jp.corp-sansan.com/