今回は、オンラインストア開設「STORES」、キャッシュレス決済「STORES 決済」、オンライン予約システム「STORES 予約」など、「STORES プラットフォーム」を展開する、ヘイ株式会社の上野瑠衣さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集部 若林)
この記事の目次
- 認知度10%からの挑戦~広報未経験者に課せられたミッション
- ただ知名度を上げるのではなく、他社との差別化を図るメディア露出を増やす
- 「データの初公開」で、事業説明会へのメディア誘致に成功
- 画的な課題を抱えるIT企業~テレビ取材に繋げるポイントとは
- 電話営業で鍛えられた「度胸」で次々にメディアを開拓
- 広報の評価にスコアリング制度を採用~より良い露出を追求
- コロナ禍で変わるメディアリレーション~SNSからのアプローチで返信率は脅威の90%
- 「自分は何のために広報をしているのか」がクリアになり、広報活動が加速
- プライベートは、読書と動画制作で、エモい感性を養う
- PRマガジン編集部の「編集後記」
- メディア開拓力がずば抜けている…!
- メディアからのリプ率9割!?
- 今回のPRパーソン紹介
認知度10%からの挑戦~広報未経験者に課せられたミッション
若林:さっそくですが、上野さんは「ごきげんよう」から始まるような学生時代を経て、日本女子大学に進学され、その頃から、株式会社ユーザベースでマーケティングのインターンをされていらしたんですよね。上野さん:はい。ユーザベースの前は、人材系のレバレジーズ株式会社でインターンをしていました。
若林:なぜ、その2社を選んだのですか?
上野さん:インターンの1年前まで交換留学に行っていまして、就職活動で外資やスタートアップが受けられない時期に帰国したので、卒業をあえて半年遅らせました。そういった時期に、先輩がスタートアップのインターンをされていて、じゃあ私も働いてみようかなと最初に応募し合格をいただいたのがレバレジ—ズさんでした。
若林:そのあと大手IT企業などから内定をいただきつつも、ユーザベースに入社されたんですね。何年くらい、いらっしゃいましたか?
上野さん:インターン時期を含めると、3年くらいだと思います。
若林:そのあと、ビジネスマッチングのアプリで、ヘイ株式会社・代表の佐藤さんと出逢われたんですよね。
上野さん:はい、2019年の3月に佐藤のアシスタントという形でヘイに入社しました。ただ、秘書キャリアを積み上げていこうとは考えておらず、会社に対して何か貢献したいと思っていた時に、たまたま広報のポストが空いていて、5月から広報になりました。当時は、ECの事業とキャッシュレス決済の事業部が分かれていたので、EC事業の広報をしていました。今は組織が統合されているので、サービス全体の広報を担当しています。
若林:なるほど、ありがとうございます。当初は、認知向上を目的とされた広報を展開されていたんですか?
上野さん:仰る通りで、当時はテレビCMもまだ行っていなかったので認知度にはかなり課題感がありまして、ネットショップが簡単に開ける STORES の認知度を上げることが最優先でした。
若林:2020年の始めくらいに認知度調査をされていて、その時の結果が10%くらいと拝見したんですが、この1年で急激に伸びてきたんですかね。
上野さん:そうですね、やはりコロナの影響もあり、EC化ニーズや非接触決済ニーズといったところで事業自体も伸びまして、それに付随してメディアからの取材も増えました。また、アンジャッシュ児嶋さんを起用させていただいて、テレビCMを打っていますので、そこで認知度が少しずつ高まってきたかなとは思います。
若林:広報ミッションは、どういうことを掲げていらっしゃるんですか?
上野さん:メインミッションは、ネットショップ開設サービス「STORES」、お店のキャッシュレス決済「STORES 決済」、サービス提供者向けオンライン予約システム「STORES 予約」のの3サービスの認知向上です。広報は4名のチームで、そのうち1名はマーケティング部のマネージャーと兼任という形なので、実際の業務は3名です。
若林:その中で、上野さんの立ち位置は?
上野さん:私は基本的に、入ってくる取材の対応や新規のメディアアプローチ、メディアキャラバン、掲載確認など、メディアリレーションまわりを中心に行っています。あとは、弊社はまだ、コーポレートPRのチームが立ち上がったばかりでサービスPRがメインではあるのですが、ありがたいことに、経営陣や組織へのインタビューをいただくことが多くあります。そういった依頼への対応も私の方で行っています。
若林:ほかの2名は何をなさってるんですか?
上野さん:ユーザーさんの事例取材やSNSの更新などを行っています。
ただ知名度を上げるのではなく、他社との差別化を図るメディア露出を増やす
若林:なるほど、すごくよくわかりました。具体的にサービスのことも伺いたいのですが、御社はなぜ、「商売」を「お商売」と表現しているのですか。上野さん:私たちが抱えているユーザーさん(=オーナーさん)は、アパレルや飲食店など、自分の好きなことで活動されている方が多いんですね。弊社のミッションである「Just for Fun」は、自分が楽しいとか、こだわりを追求していった先にある経済を回していこうという意味なんですけど、そういった、「好きとかこだわりから生まれる営みって、すごく神聖で尊いものだよね」という社内認識があるので、みんな、オーナーさんのことがすごく好きなんです。ですので、そこに敬意を表して、「お商売」という言い回しをさせていただいているのと、あとやっぱり、「商売」って言うよりも、柔らかい感じがするというのもありますね。
若林:サービスの内容について、佐藤社長は過去のインタビューで、他社のBASEさんやShopifyさんなどは、デジタルのインフラを提供していて、御社とは少し違うとお話されていたかと思います。ただ、売るためのサイトを手軽に作れるという意味では競合になってくるのかなと思い、さっき上野さんが仰っていた認知向上の中には、競合他社との差別化というのも広報ミッションとして入っているのではと思ったんですけど、そのあたりはいかがですか。
上野さん:仰る通りで、さすがですね。ネットショップというサービスだけでみると、BASEさんやShopifyさんなどは競合にはなってくるかもしれませんが、弊社は STORES 決済 という決済まわりや、STORES 予約 という予約システムなど、「お商売」のデジタル化を推進しています。ですので、例えば、バックオフィスのデジタル化を全般的にされているfreeeさんのように、ヘイはフロントオフィスといわれるお客様とお店の間のレジまわりの統合的なデジタル化が方針なので、会社全体でみると山の登り方が違うんです、といつもご説明しています。
とはいえ、もともと、STORES というブランドは、ネットショップのイメージが強く、課題として捉えていました。そこで、2020年12月にブランドを統合したタイミングで、メディア向けに事業説明会を開催し、会社の方向性についてご説明する機会を設けさせていただきました。
「データの初公開」で、事業説明会へのメディア誘致に成功
若林:広報が主導権を持ち事業説明会のメディア誘致を進めたと思いますが、こちらがいくら説明したくても、記者さんが興味を持たないと集まってもらえないですよね。どういったところを意識してメディアに話を持っていって、どのくらいの集客に繋がったんですか?上野さん:やはり、メディアさんにとってメリットのある情報が聞ける場に、という想いがありましたので、まず一つは、ヘイが吸収合併しますというお話と一緒に、改めて事業説明をさせてくださいという形にしました。
二つ目は、事前に、懇意にしているメディアさんに、実際どういう情報があるとうれしいかを直接聞きました。そこで、コロナ禍での数字の変動であったり、新しいECの活用法を知りたいというお話があったので、記者さんのニーズに合わせてコンテンツを作り込み、今まで出してこなかった数字の初公開に踏み切りました。
たとえば、昨年はコロナ禍でのEC化や、中小企業や個人の動きについての情報ニーズがすごく高かったので、2020年に伸びた新規ネットショップ開設のカテゴリーや、決済の新しいニーズとして、オンライン診療やオンラインレッスン、来店予約が伸びているという数字も公開しています。
当日は、オンライン配信とオフラインを合わせて15名くらいの方にご参加いただきました。記者発表会ではなく事業説明会に近い形での実施という意味では、多くのメディアさんにお越しいただいたと思います。
若林:基本、経済系のメディアですか?
上野さん:経済系のメディアもそうですし、たとえば、EC系の通販新聞さんだったり、決済系では週刊金融財政事情さんのようや専門媒体や、西日本新聞さんなどにもいらしていただきました。
若林:おっしゃっていたように、はじめて数字を公開するというのは、すごく大きな要素ですよね。
上野さん:そうですね、記者さんもファクトデータを知りたいと思ったので、結構意識して数字を出しました。それまでも過去に2回、STORES では調査リリースを出しており、反応が良かったんです。そういう経験もありましたので、一般的にも言われてますが、しっかりした数字やデータを出すと本当にメディアさんにご興味を持っていただけるという実感はありました。
若林:STORES に関しては、2020年の4月から6月で、食品関連の新規開設が増えて、同年同時期対比で約13倍という結果が出ていますよね。これって、すごく大きなことですよね。
上野さん:そのデータも、事業説明会ではじめて出させていただきました。
若林:STORES 予約 の2020年1月比で、2020年5月はオンラインレッスンや接客サービスが増えて約40倍という結果も事業説明会で出されたのでしょうか。
上野さん:そうです、初めて出して、当日もリリースを出させていただいたという形です。こうしたデータを出すことで実際に掲載してくださったメディアさんもありました。
画的な課題を抱えるIT企業~テレビ取材に繋げるポイントとは
若林:リリースなどを拝見すると、上野さんが2019年5月に広報担当になられて1年後くらいの2020年8月くらいから、御社の動きが加速していると思いました。特に、ベインキャピタルからの約70億の調達というのが、ニュースとしてすごく大きかったのかなと。同社のスタートアップへの出資は初ですよね。この時も、広報として注力して動かれたんですか?上野さん:そうですね、私以外にも経営陣やアドバイザーの方と連携しながらメディアアプローチを行っていきました。
若林:御社の露出を拝見すると、テレビにも結構注力されているのかなと感じました。御社含め、IT企業の場合、画的な問題でテレビに苦戦されるケースも多いようですが、そのあたりはどういった工夫をして露出を繋げているのでしょうか。
上野さん:テレビ取材については私もすごく課題感がありましたので、他社の広報さんにも聞いてみたところ、テレビ局に売り込んで取材に繋がるケースより、プレスリリースから取材・放映に繋がったケースの方が多いようでした。
そうなってくると、メディアリレーションに関しては、今すぐに放映や掲載につながらなくても、ディレクターさんや記者さんの中で、ECや決済について取材したいと思った時に「ヘイさんがいたな」と頭に浮かんでもらえることが重要だなと思うようになりました。ですので、まずは「ご挨拶させてください」という形でアプローチをし、事業内容についてご説明させていただくというのを、常日頃から意識してキャラバンしています。
電話営業で鍛えられた「度胸」で次々にメディアを開拓
若林:結構、積極的にキャラバンされてるんですね。メディアまわりって、ほぼ上野さんお一人が担当じゃないですか。キャラバンってそれぞれの媒体に対して、何が有益な材料なのかを考え、電話して準備して訪問して…と、結構工数もかかりますよね。それも、お一人でされてるんですか?上野さん:プレスリリースはチームメンバーと回して書いていますが、電話でアポをとって、資料を用意してご説明というのは基本私がメインでやってます。
若林:アポがとれる必勝法みたいなものはあるんですか?
上野さん:たぶん、物怖じして電話をかけられない広報の方もいらっしゃると思うんですね。でも私は、インターン時代に電話での飛び込み営業をひたすらしている時期がありまして。警戒されたり、すごく怒られることもありました。こういった経験もあり、そもそも、メディアさんに電話することに、まったく物怖じしないというのが一つあると思います。もし電話でのアプローチをされていないという方は、どんどんやった方がいいかなと思います。
メディアアプローチの際、最近すごく意識しているのは、メディアさんが喜ぶ情報を提供するということです。自社のサービスを「こんなに簡単にWEBページが作れるんですよ、こんなに安いんですよ」というようにPRするよりも、STORES を使ったことによって、ユーザーさんがどう助かっていて、ほかにどういった取り組みをされているのかといった情報の方がやっぱり反応が良かったんですね。
たとえば直近ですと、今までBtoBのみの販売だった、「丸山製麺」という製麺屋さんが、新しく STORES でネットショップを作成されBtoCですごく売上を伸ばされたんです。その情報だけですと、コロナ禍でのEC化は、かなり普通になっていますから、ほかに「丸山製麺」さんが実施された施策をヒアリングして情報をまとめ、記者さんにお渡ししたり…と、ユーザーさんの声をたくさん聞いてメディアキャラバンに生かしてます。
若林:すごいですね。ヒアリングとかは、ほかの広報さんと連携しながらやっているんでしょうか。
上野さん:そうですね。他のメンバーはオウンドメディアに載せる記事を書くための事例取材を1時間ほどかけてやってくれているのですが、他にもメディアに情報提供することを目的に、オーナーさんに直接ご連絡し10分くらいヒアリングさせていただいています。
若林:やっぱり、広報だとどうしても自社のサービスのことを話したいし、自社のことを中心に掲載を獲得したいと思っちゃいますけど、メディア側からすると、そういうのは広告でやってください、ということになってしまいますよね。逆に、ユーザーさんや、コロナ禍で頑張っている方の話を聞きたいというメディアの方が多いかもしれないですものね。
上野さん:そうですね。実際に、「池上ベンチャーズ」に出た時は、埼玉県の「せんとり」という焼き鳥屋さんと一緒に出させていただいたのですが、10分くらいの放映時間で過去最高の売上があったそうで、すごく喜んでくださいました。弊社は、お客様の売上が上がると弊社の売上も伸びるというビジネスモデルですので、広報としても、事業にちゃんと効いた、すごくいい露出だったと思います。
若林:御社は、お客様だけがメディアに露出する結果になったとしても、そこで売上が上がると利用者さんも喜んでくれるし、手数料が会社にバックされるので、広報として損はないんですね。
上野さん:そうですね。事業に響いてくることですし、オーナーさんの満足度にも繋がるので、個人的にはオーナーさんをお取り上げいただくことは非常に嬉しく思っています。
広報の評価にスコアリング制度を採用~より良い露出を追求
若林:広報のKPIは、どういったところに目標値を置いているんですか?上野さん:会社やサービス名の露出数をおいています。ただこちらからお渡しした情報が、記者さんの書きたいネタかというところにも左右されますから、行動目標には、リリースの本数やメディアリレーション数も置いています。
あとは、たとえば資金調達のように大きなリリースがある時は、スコアリング制度を採用していたときもありました。大きいリリースであるほどお取り上げいただける可能性は高いですが、広報としては、それがいい露出だったかというところを見ていく必要があるので、「じゃあ何点を目指していきましょう」というようにスコアしてますね。
若林:それは、御社が狙っている媒体に、どれくらいの文量で、かつポジティブな感じで出たかを点数化して評価していくということですか?
上野さん:はい。以前は、PV数やターゲットメディアであるかというところだけでスコアをつけていたのですが、文量や伝えたいことが伝わっているかというところも、ちゃんと評価していこうと思っています。
若林:お商売全体のデジタル化を支援しているとか、そういう内容を出せているかということでしょうか。
上野さん:そうですそうです! たとえば、資金調達のニュースでしたら、「ヘイが資金調達をしました」だけなら1点ですが、「ヘイは、資金調達をして、お商売のデジタル化をさらに加速させていく」というような、会社が目指す方向性が入っていたらプラス1点など、どういう露出だったかを細かく見ていこうと思っています。
若林:ちなみに、直近1年で一番反響のあったPR事例は何でしょうか。
上野さん:やっぱり、資金調達と事業説明会ですかね。
若林:資金調達の目的が人材やマーケティング活動への投資で、人材の数も増やされていく話をされていたと思いますが、採用PR的な要素も展開されているんですか?
上野さん:採用PRは、今後、コーポレートPRの体勢を整えていくタイミングで、PRチームが持つ可能性はあるかもしれませんが、現在は人事チームに一任しています。
コロナ禍で変わるメディアリレーション~SNSからのアプローチで返信率は脅威の90%
若林: 2月18日から新型コロナウイルスワクチンの接種予約の提供を開始されましたが、このあたりはどうですか?上野さん:日経さんなどに掲載いただき、身近な方はSNSでシェアしてくださいましたが、弊社だけですと、当時はまだ「導入を開始します」ということだけで、事例も出せないような状態でした。ですので、個人的にはメディアさんが欲しい情報が足りないと感じ、3月の時点のワクチン接種においての各自治体の動きや、自治体やクリニックの課題などをセールス担当にヒアリングして集めたり、ユーザーさんの課題や、他社さんの対応なども簡単にまとめて、リリースと一緒に記者さんに送りました。
若林:なるほど、そういった資料をもとに、キャラバンのアポをとっていったんですね?
上野さん:キャラバンのアポにも使いましたし、繋がりのある記者さんにも情報提供という形で送らせていただきました。3月はワクチンのニュースは多かったのですが、結局、接種が始まるのは4月からですから、4月のタイミングで注目が集まる可能性があるなと思い、ヘイのワクチン接種予約の支援を記者さんに知っていただく必要があったんですね。実際に、日経の記者さんから、「すごくタイムリーな情報なので助かります」とお声をいただいたりしました。
若林:すごいですね。仰ったように、サービス開始というのは、ストレートニュースとかでWEBニュースなどに載せようという意味合いであればいいですけど、もっと掘り下げた記事を掲載して欲しいとなると、事例がないとなかなか厳しいですよね。そういう時に参考資料を送っておいて、メディアが然るべきタイミングで、接種に関する記事を書く時に役立てていただいたり、ヘイがもれないように情報提供しておくということですよね。
上野さん:仰る通りで、事例はセールスチームが頑張ってくれてますので導入も増えていますが、実際にどうなるかというのは、正直、広報PRチームでアンコントローラブルな部分はあります。ですので、まずはリリースのタイミングで記者さんの頭に留めておいてもらうことを意識して、今回の新型コロナウイルスのワクチン接種予約に関しては動きました。
若林:すごく手間はかかりますけど、リリースが1枚ぺらっと送られてくるより、参考資料が添付されていると、ちょっと見てみようかなという感じになりますよね。すごく偏見ですが、上野さんのプロフィールで、「ごきげんようからはじまる」という一文を拝見して、こんなに物怖じせずにアプローチする広報手法を取られていると思ってなかったので、すごい!とびっくりしました。
上野さん:ありがとうございます、結構好きです(笑)。今、電話は、コロナ禍でいらっしゃらない方もいるので、TwitterやFacebook、LinkedInなどを活用しながらアポ取りをしてます。
若林:何のつながりもない記者さんでも、SNSを活用してアポを取れたりしますか?
上野さん:とれます!
若林:今までは電話したら繋がっていたのが、最近は繋がらなかったり、FAXをなくしたり、個人名を言わないと取り次いでもらえないとか、多くの広報が課題に感じてらっしゃるみたいですが、コツはありますか?
上野さん:賛否両論が分かれるかもしれませんが、個人でSNSをやられてる記者さんにはSNSから直接ご連絡するということもしています。たとえば、コロナが拡大し始めた頃、STORES でライブハウスの支援施策を行っていました。そこで、ライブハウスの記事を書かれている記者さんをTwitterで探し、「こういう記事を拝見してご連絡させていただきました。弊社でライブハウスを支援する取り組みを始めましたので、一度、直接ご説明させていただけませんか」というようなメールを送りました。五大紙中心に送りましたが、アポ率はかなり良くて、9割ほどは返信をいただいたと思います。
若林:すごーい!!!
上野さん:ライブハウスの動向を記事にされている記者さんだけに送ったので、反応がかなり良かったのだと思います。他のアプローチ方法としては、「資料を先に送っておきますね」と、あらかじめ参考資料を先に送ってご案内をしたパターンや、完全にごあいさつパターンもあります。毎日記事をチェックしていて、何か弊社に繋がるような記事を書かれている記者さんが見つかったら、「先日のこういう記事を拝見して、ご連絡しました。一度、事業説明を兼ねてごあいさつさせていただけませんか」という形で、候補日時を送ってご連絡しています。
若林:毎日メディアをチェックされているのが肝となるところだと思うんですけど、どういった感じで自社に必要な情報を仕入れられているんですか?
上野さん:Twitterはずっと見てチェックしていますね。佐藤の投資先であるスタートアップの会社さんなどをフォローしてますので、スタートアップ系の記事が出やすいタイムライン構成になっています。あとは、競合他社さんだったり、直近でよくメディアに露出している企業さんなどを追っています。
「自分は何のために広報をしているのか」がクリアになり、広報活動が加速
若林:上野さんは未経験で広報になってますよね。短期限でこんなに成果を出されたのは、ご自身なりの広報のやり方を見出されたからと思ったのですが、当初は迷ったり大変なことが多くなかったですか?上野さん:多かったですね…。
若林:どうやって、ここまでたどり着かれたんですか?
上野さん:広報になりたての時にすごく迷ったのは、そもそもの目標設定でした。最初は、ネットショップの新規開設数を追ってたのですが、結局それは、マーケやCMでの伸びもあるので、広報PRだけで上がった数字ではないですよね。広報って、半年から1年くらいかけてじわじわ効いてくるものもあって、1ヶ月単位では見れない部分があるなと今では思います。当時は、そういう成果を追いかけていったので、数字にも出ない、自分のやり方が合ってるかわからないという不安がすごくありましたが、途中から、行動目標や掲載目標、スコアリング目標を設定して動き出しました。事業数字に直結するのが一番理想的ではあると思うのですが、すぐに効果が出ないものも多いので、そこをスコアリングでカバーしながら目標設定できたのが大きかったと思います。
あと最近は、STORES をお取り上げいただくのはもちろん嬉しいのですが、オーナーさんをお取り上げいただき、すごく喜んでいただいたことで、自分の仕事がユーザーさんのためになってるんだな、というのがわかるようになってから、何のために自分が広報をやってるかがすごくクリアになり、動きやすくなってきました。あとは、他社の広報さんにお話を聞いたり、本を読んだり、一般的な知識と行動で、ここまでやってきました。
プライベートは、読書と動画制作で、エモい感性を養う
若林:なるほど、今回の取材のきっかけになったのは、「広報の集い」の木村さんと江川さんから上野さんのお名前があがり、リリースや御社の情報を見て、ぜひ取材したいなと思ったんです。広報未経験から、たった2年でこれだけの成果を自己流で出されるのは本当にすごいことですよね。ほかの悩まれてる方にとってもヒントになるお話がたくさんあったと思います。ちなみに、プライベートはどう過ごされてますか?上野さん:最近は、意識的に本を読むようにしてます。ヘイは“エモさ”を大切にしてる部分があり、経営陣のnoteも結構エモめな文章が多いんです。その辺の感覚って、勉強してできるもんじゃないなと思い、ビジネス書だけじゃなくて小説なども読んでいることが多いですね。あとは動画編集でしょうか。会社の動画ではなく、旦那さんと出かけて、手ブレを抑えるスタビライザーという器具と一眼レフを使って撮ってます。
若林:それは、YouTubeなどに投稿してるんですか?
上野さん:はい、全然更新できてないのですが、200人くらいチャンネル登録してくれてます。
若林:動画編集って、時間かかりますよね…。
上野さん:かかりますよね。私たちがやってるのは、シネマティックVlogというジャンルで、音楽と映像だけのものなので、編集に結構時間がかかって大変です。
若林:Vlog系の動画をされてるんですね。それは目的があってされているんですか?
上野さん:もともと旦那さんが写真を撮ってて、動画とかもすごく好きで、一緒にやるようになりました。
若林:ご夫婦で共通の趣味が一緒にできるっていいですよね。本日はありがとうございました。
PRマガジン編集部の「編集後記」
メディア開拓力がずば抜けている…!
大学時代のインターンでフリーペーパー片手に片っ端から営業電話をしていた経験から、面識のないメディアに電話をかけることに何の抵抗もないという上野さん。
「ほわん」としたかわいらしいご本人のイメージとはかけ離れているが、プッシュで新規開拓できるというのは広報にとって非常に強みになる。
なぜなら、問い合わせをきっかけにメディアと良好な関係を築いたり、メディアの目を引くPR企画を立案するというのは、ある程度時間をかけ、経験を積めばできるようになるが、このプッシュ型でのメディア開拓は、時間をかけたからできるようになるというものではないからだ。
それは、「メンタル」が大きく関わってくるから。
メディアの人は忙しいというのが基本。だから、広報からの電話に愛想良く対応してくれるのは稀。「リリース送っておいてください。ガチャッ!」も珍しくない。(経験がある方も多いのではないだろうか?)
日々この作業を繰り返すと、メンタルがやられてしまい、電話しないで済む方法を模索したくなるのだ。
でも、上野さんのように強靭なメンタルで、繋がりたいメディアに自ら飛び込んでいけば、それだけ繋がれる確率が高まる。
メディアからのリプ率9割!?
新型コロナウイルスによる働き方の変化はメディアにも及び、記者も基本在宅勤務になったりと、これまで以上に一見さんでの電話アプローチが難しくなっている。
ただ、TwitterなどのSNSを実名でされているメディアの方は増えている。
上野さんも最近はTwitterやFacebook、LinkedInなどを活用し、メディアにアプローチしているという。メディアから何かしら返信をもらえる確率はなんと9割!! これは非常に高い数値ではないだろうか。
今までSNSからメディアに連絡したけどレスポンスがもらえなかったという方、是非本文で上野さんがメッセージを送る際に意識していることを実践してみてはどうだろうか。
9割は難しくても、7割ぐらいは目指せるかもしれない。
今回のPRパーソン紹介
上野 瑠衣(うえの・るい)
その後、2019年3月に社長秘書としてヘイ株式会社に入社。同年5月により広報を兼務するようになる。4名いる広報社員の中で、メディアリレーションや経営陣に入る取材対応などを中心に担当する。
ヘイ株式会社(https://hey.jp/)
オンラインストア開設「STORES」、キャッシュレス決済「STORES 決済」、オンライン予約システム「STORES 予約」など、「STORES プラットフォーム」の展開を通じて、お商売のデジタル化を支援する。