今回は、電動・小型・一人乗りのマイクロモビリティの短距離移動のためのシェアリング事業を展開する、株式会社Luupの松本実沙音さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集部 若林)
この記事の目次
- 「広報未経験者」が広報としてスカウトされたワケ
- サービスがない状態で取り組んだ、実証実験をベースとした情報発信
- 「企業の本来の姿」と「他者が抱くイメージ」~広報の細かい工夫でギャップをなくしていく
- 重要度が増す危機管理〜電動キックボードのネガティブな報道は、むしろ「正しい理解」を促すきっかけに
- 部署横断で継続的にネタ作りを行い、2021年の露出は2,000件以上に
- SNSの投稿から、CM、ドラマまで。細部まで確認し、わずかなリスクも見逃さない
- 広報KPIは「パーセプションチェンジ」
- PRマガジン編集部の「編集後記」
- ―1年半くらい前からずっと話を聞いてみたかった人
- ―「パブリックアフェアーズ」として機能する広報
- 今回のPRパーソン紹介
「広報未経験者」が広報としてスカウトされたワケ
若林:松本さんを最初にご紹介いただいたのが、食べチョクの下村さんで、初めて取材した際も、その後、2020度のPRアワードに選ばせていただいたときも松本さんのお話を伺っていたんです。なので、かなり前からLuupや松本さんのことを気にしてちょこちょこ情報をみていて。(笑)昨年の春夏くらいからメディアで目にする機会がすごく増えたのを感じて、今回取材依頼をさせていただきました!
松本さん:ありがとうございます、うれしいです。
若林:松本さんは、ご自身のことを、メディアやSNSであまり発信されていないですよね。
松本さん:静かにしてます。たまにTwitterでリツイートするくらいです。
自分を前に出すのがすごく苦手で、SNSでも自分の名前のアカウントで何かを発信するというのは性格に合わないみたいです。
若林:すごくわかります。私もあまりSNSは得意じゃない方なので。
ということで、あまり松本さんに関する事前情報を入手できなかったので、これまでのご経歴について伺えますか。
松本さん:小中高と10年間オーストラリアに住んでおり、高校卒業後に帰国して、東京大学に入学しました。大学4年の時からSpeeeでインターンをはじめ、卒業後そのまま入社し、コーポレートアイデンティティ(CI)とビジュアルアイデンティ(VI)刷新のプロジェクトアシスタントやデジタル広告の運用コンサル、人事などを経験しました。
実は、小学1年生の時にオーストラリアに引っ越したのですが、いきなり飛び級をしたんです。私が優秀だったというわけではなく、制度的に日本とはズレがあったようで。なので、小2を飛ばして小3に進級しており、そのまま大学に進学しているので、東京大学入学時は、ストレートで入った方たちよりも1歳若く、さらに就職も年齢的には2018年新卒の年なのですが、17年卒の方と一緒にスタートラインに立ちました。
自己紹介で年齢を言うと、周りの反応が「えっ!意味がわからない」というところからはじめる1年目でした。(笑)
若林:その後Luupに入社されたのですよね。どのような経緯で?
松本さん:Luup共同創業者の一人に広報ポジションでお誘いいただき入社しました。2019年春頃だったのですが、その頃Luupは初めて大きな記者発表会を行うことになっており、その実施をボランティア副業でお手伝いしたのが、私が初めて行った広報業務でした。
記者発表会のお手伝いを始めた際は前職の退職が決まっていたわけではなく、土日だけお手伝いをしていました。ただ、記者発表会の頃にはLuupへの入社を決め、6月からジョインしました。
若林:前職では、広報をされていないですよね。
松本さん:はい、広報には全く触れたことがありませんでした。ただ、Speeeにいた頃も推進力のあるリーダーについて、ナンバー2的にちょこまか動くような役割をしていたんです。スタートアップの広報もメインは広報業務であっても、初期は代表にくっつき何でも対応するケースが多いですよね?そういう意味では、広報は未経験でしたが、やりやすさはあったと思います。広報業務自体は、初めてでしたが。
若林:入社時、広報はいなかったということですか。
松本さん:そうです。社員数も一桁でした。
若林:その状態でどうやって記者発表会をされたのですか!?
松本さん:さすがに一人ではできなかったので…(笑)。業務委託の方にサポートいただきつつ、基礎的なことを色々教えてもらいました。
若林:2019年6月にLuupにジョインされてから、今に至るまでずっとひとり広報ですか。
松本さん:ずっとひとりでした。(取材時点)たまにインターン生がサポートで入ってくれたりはしましたが。でも、やっと2月から広報経験者を1名増員できたので、広報活動の幅を広げていきたいと思っています。
サービスがない状態で取り組んだ、実証実験をベースとした情報発信
若林:松本さんがジョインされたタイミングは、まだサービスは始まっていない段階でしたよね。広報として、何から着手されたのですか。
松本さん:仰る通り、サービスもないので、ユーザーもおらず。メンバーはいても、売上を追っているような状況ではありませんでした。では、Luupが何をしていたかと言いますと、創業半年から1年くらいは、電動キックボードの実証実験を全国各地の私有地で繰り返していました。
電動キックボードは、原付に該当するので、原付のルールを守れば走行できますが、日本にとっては新しい乗り物ということで、原付としてのルールが適切か、国として確認が取れていない状況でしたし、原付のルールのままでは色々な方にシェアリングサービスとして乗っていただくのは難しいと思っていました。そのため、国にも適切な規制を検討していただきたいというのが会社としての想いでした。
ただ、ベンチャー1社が政府に働きかけるくらいでは、動いてもらえないのではないかということで、まずは、電動キックボードを含む“電動マイクロモビリティ”、つまり「電動で動く小型のひとり乗りの乗り物」が日本の未来にとって必要であるといった声を集めることや安全性の確認が最初に取り組むべきことでした。
そこで、広報としては、半年くらいかけ、全国30カ所以上の私有地(私有地なので原付のルールは関係ない)で、電動キックボードの実証実験を行い、乗ってくださった町の方々や自治体、地場企業の方々に「乗り方を習得できるまでの期間」や「安全や危険をどのくらい感じたか」というアンケートを行い、ひとつひとつプレスリリースとして発信していました。
同時に、国内における電動キックボードのシェアサービス実現を目指す事業者を集め、弊社代表の岡井が会長となり、マイクロモビリティ推進協議会という業界団体を作り、業界の足並みをそろえた上で、政府との対話をするという取り組みを行っていました。
そのため、広報のターゲット、情報を伝えるべき相手は、ユーザーというより行政を含めた関係者だと考え、少しずつ理解を得ていく、信頼に値する会社であることを伝えるためのプレスリリースを積み重ねていました。
若林:その際のプレスリリースは、メディアに出すことも目的にしていたのですか。それとも、情報を対外的に発信し、安全性や利用者の声を情報として出していくことに重きを置かれてたのですか。
松本さん:どちらかというと、後者です。ひとつひとつ実証を積み重ねてきたという事実が重要だったので、メディア露出件数は一切追っていませんでした。ただ、メディアに出すことをまったく意識していなかったわけではありません。地元メディアに取り上げていただき、地元の方の声が集まってくるという効果もありました。
「企業の本来の姿」と「他者が抱くイメージ」~広報の細かい工夫でギャップをなくしていく
若林:シェアサイクルのサービスが始まった段階で、サービスPRに注力し始めたのでしょうか。
松本さん:はい、2020年5月に自転車のシェアサービスが開始し、そこで初めてマーケティングが始まり、ユーザーが現れ、ポートオーナーへの取材やユーザーへの取材ができるようになりました。サービスが生まれたことで、広報の業務内容もすごく変わりました。
若林:広報の活動としては、どのような変化がありましたか。
松本さん:初期は代表について動くことが多かったのですが、サービスが始まってからは、他部署と連携して動くようになりました。例えばサービスに関する取材については、どういうポートについて情報を出していきたいかを営業と一緒に考えて、お願いするオーナーさんを決めたり、マーケティング部と連携しどんなユーザーの声を集めるか考えるなどです。
若林:ポートを増やしていきたいという思いがあったから、ポートオーナーの取材も結構されてたんですね。
松本さん:そうなんです。Luupのサービスは、関係省庁のみなさんはもちろんですが、自治体のみなさん、ポートを置いてくださるオーナー、使ってくれているユーザー、街で新しいモビリティが走っているのを見かける一般の方々など、関係者がすごく多いんです。そういう意味で、サービスが生まれてからは、広報がすごく多角化した感じがあります。
若林:最初は自転車のシェアサービスから始められましたが、その前から電動キックボードの実証実験をされていたということは、最初から電動キックボードの普及を視野に入れていたのですか。
松本さん:最初から電動キックボードの社会実装を目指していて、その中間地点としてシェアサイクルを位置付けていました。今は電動キックボードというわかりやすい”モノ”があるので、「Luup=電動キックボードの会社」と理解いただくことが多いのですが、Luupは、電動でひとり乗りできる小型モビリティ(電動マイクロモビリティ)の普及により、中・短距離移動インフラを創りたいと考えている会社なんです。
なので、代表も電動キックボードが日本に不要だと判断されたらいつでも撤退すると言ってますし、ゆくゆくは自転車でも電動キックボードでもない、若者も高齢者も乗れるようなモビリティが出てくれば、電動キックボードはやめてもいい!くらいまで言っています。
若林:なるほど。そのお話からすると、広報としては今仰っていたようなLuupが目指すところは電動キックボードの普及ではなく、電動マイクロモビリティで交通のインフラをつくることであるということを訴求していくことにミッションを置かれているのでしょうか。
松本さん:仰る通りです。「電動マイクロモビリティといえばLuup」にシフトしていきたいと思っています。まだサービスがない段階から広報の正社員を採用しようとしたのも、「Luupは電動キックボードの会社ではなく、短距離移動のインフラを創りたい会社」ということを伝え理解してもらうことの重要度と難易度がすごく高かったからではないかと思っています。これは引き続き、地道に取り組んでいかなくてはいけないと考えています。
若林:そのために何か工夫されていることはありますか。メディアは、わかりやすい表現が好きだと思うので、今も電動キックボード切り口で御社のことを取り上げることが多いですよね。その中で広報として伝えたいことと、少しギャップもあるのかなと思いまして。
松本さん:飛び道具的なものはないので、たとえば、原稿を確認させていただく時とか、取材に対応する時とかに、「電動マイクロモビリティとは」というところからきちんと書いていただくとか、私のZoomの背景もそうですが、モビリティの絵を見せる時にキックボードをメインにせず、自転車と高齢者モビリティのイメージ図も一緒に出すなどの工夫をしています。
重要度が増す危機管理〜電動キックボードのネガティブな報道は、むしろ「正しい理解」を促すきっかけに
若林:最近、電動キックボードの違反や事故に関する報道も出てきているようですね。多くのサービスがそうですが、認知が上がり利用する方が増えるとポジティブな面だけではなく、ネガティブな情報も出てきますよね。御社はこういった報道にどう対応されているのでしょうか。
松本さん:危機管理広報は、非常に重要になってきています。その要因の一つとして、公道で目にする電動キックボードには3種類あるのですが、そのことがメディアの方含め一般に理解されていないということが挙げられると思います。
例えば、今一番多く見かけるのは、悲しいことですが、家電量販店などで購入できるミラーやナンバーがついてない電動キックボードです。私有地内で乗る分には問題ないのですが、公道を走ると違法になってしまいます。その次に多いのが、おそらく実証実験に参加している弊社のLUUPのような電動キックボードだと思います。これは政府の特例措置のもと、ヘルメットは被らなくても良いのですが、ナンバーやミラーは必要ですし、基本的には車道を走るというルールになっています。3つ目が、原付としての電動キックボードです。特例措置を受けずに、販売されているキックボードにインカムやミラーを取り付け、原付の免許を持ち、原付のルールで走行しているものです。
この3つが混在してるのが電動キックボードの現状です。ただ、メディアの方々も最初からこういった情報を把握されているわけではありません。その中で、急遽電動キックボードの報道をしないといけなくなり、リサーチをされるケースも多いようです。
例えば、違法機体の事故の特集で「電動キックボードとは」と紹介したいので、LUUPの素材を使わせてくださいという相談をいただくこともあります。そのままLUUPの情報をお渡しすると、違法のものと、LUUPの実証実験中のものが混在した状態で報道されてしまうことになります。そのため、事前にそれぞれの電動キックボードの違いをご説明させていただき、ご理解いただいた上で、違法のものとLUUPの電動キックボードは違うということを報道の中でも説明してもらえるようコミュニケーションをとるといったことが、今、広報としては一番重要で、時間を使っているところです。
若林:まずは、メディアに理解してもらった上で、メディアから発信される情報で、一般の方に誤解を与えないようにするということですね。
松本さん:メディアの方にご理解いただけないと、一般の方にわかっていただくのは難しいと思うので。内容としては違法な電動キックボードに関するテーマが多いですが、せっかく電動キックボードについて発信していただけるのであれば、ネガティブな報道であったとしても、正しい情報の周知に繋がるのであれば、弊社としてはすごくありがたいことです。
基本的には誠実に対応するという方針のもと、優先度を上げて対応するようにしています。一方で、LUUPユーザーによる違反行為が起きてしまうこともあります。重大な違法行為の場合は、ユーザーのアカウント停止などの措置をとっています。また、これらについての報道が出た場合は、コーポレートサイトでも、しっかりと報道された内容に関するLuupの対応について説明をさせていただいてます。
若林:話は変わりますが、以前、ハンドルのついていない膝だけで操作するセグウェイに乗ったんですね。「絶対、誰が乗っても転ばないように出来ているんで」と言われたんですけど、グラグラするじゃないですか。(笑)「グラグラするのは機械のことを信用してないからです。足を離さなければ絶対転ばない乗り物です!」って言われて。坂道とかいくと、すごく揺れてバランスとるの難しいんですけど、確かに、倒れないんですよ。でも老若男女が乗れるものではなさそうだなと。(笑)
電動キックボードは、練習をしなくても誰でも乗りやすい乗り物なのかなと思っていたんですけど、利用者ってそれでも若い方が多かったりするんですか。
松本さん:ある程度のバランス感覚が必要なので、足腰に不安のある方におすすめできる乗り物ではないのですが、年代の幅でいうと、20〜50代くらいの方があまり偏りなく利用してくださっています。
短距離移動のために、タクシーよりも少し安く、バスや電車よりもパッと乗れる乗り物として、日々の通勤やお買い物で使っていただくことが多いようです。ただ、SNS等で話題にしてくれるのは、若者の方が多いです。
若林:東京の交通網って整ってはいるんですが、目的地に行こうとすると迂回しなきゃいけないところもありますよね。まっすぐ行けばすぐなのに!という場所だと、電動キックボードのような乗り物はすごくいいですよね。
松本さん:LUUPは、ポートが高密度で置けていることが大きな特徴で、結果として一直線で移動する選択肢を提供できています。
部署横断で継続的にネタ作りを行い、2021年の露出は2,000件以上に
若林:LUUPはたくさんメディア露出もされていますが、ポジティブな面で、最近反響のあったPR事例があればぜひ教えていただきたいです。
松本さん:個別のこれっていうのが、実はあまり思い浮かばず…。2021年は、2,000件以上(転載を含む)のメディアで取り上げていただきました。これは、様々な部署と連携しトピックを生み出しストックし、それを継続的に発信できているからこそで、広報実績として誇れることかなと思っています。
おかげさまで、最近は取材依頼をいただくことが多くなり、いかに攻めていくかより、いかに対応するかという状況になってきています。
若林:今でこそ、インバウンドの取材が増えていらっしゃると思いますが、広報に着任された当初というのは、社名を知っているメディアも少ないし、当然サービスもないということで、最初にサービスが出た当時というのは、積極的にメディアリレーションを展開されていたんですよね。
松本さん:シェアサイクルのサービスを始めた時はかなり積極的にアプローチしていました。当時、展開エリアは渋谷近隣のみ、ポートは50か所、台数も50台と規模は小さめにはじまりました。
今は、全国で850ポート以上、台数も1000台を超えているので、それと比べるとローカルなサービスでしたが、ワールドビジネスサテライトさんやおはよう日本さんをはじめ、ニュース番組で取り上げていただけました。
メディアで取り上げてもらえるよう戦略的にアプローチを実施しました。サービス開始時は、新型コロナウイルスが蔓延しだし、最初の緊急事態宣言が発令され、テイクアウトの需要が急増していた時期でした。ポートの設置先として飲食店に注力していたこともあり、本当は、もう少し先にサービスを開始する予定だったのですが、会社として開始時期を早める決定をしました。
そのため、サービスの規模は予定よりも小さくスタートすることになりましたが、「LUUP for LOCAL HERO」という、街を支える飲食店のみなさんのテイクアウト需要の急増に対する対応のひとつとしてサービスを始めますというメッセージにのせ、企画書を作りアプローチしました。その甲斐あり、サービス規模が小さかったにもかかわらず、しっかりと取り上げていただくことができたと思います。
若林:松本さんが一件一件、メディアに情報提供されたのですか。
松本さん:はい、ペライチの企画書を送り、お電話をして「もしよろしければ15分補足させてください」といったアプローチをしていました。そこからすぐに取り上げていただいたわけではありませんが、サービスを開始してからTwitterでも盛り上がり、それを受けて「やりましょう!」とご連絡いただいたパターンが多かったです。
若林:すごく細かくて恐縮なんですけど、それって、リリースじゃなくて企画書にした理由はなにかあるのですか。媒体ごとに企画書を作ったということですか。
松本さん:メディアに合わせ多少のカスタマイズはしましたが、企画書にした理由は、伝えたい情報量が多すぎて、文字だと伝わらないだろうと思ったからです。資料にモビリティやポートのイメージ図をたくさん入れたかったんです。リリースは、どうしても縦に長くなりますよね?
読んでいて楽しいものを作ろうと思い、写真やポートのイメージ図、ポートマップなどをたくさん入れた企画書を作りました。あとは、純粋にリリース公開前にアプローチを始めていたということもあります。
SNSの投稿から、CM、ドラマまで。細部まで確認し、わずかなリスクも見逃さない
若林:アンバサダーを活用した展開も拝見しましたが、これは広報主導ですか。マーケティング主導ですか。
松本さん:マーケティング主導です。ただ、広報とも連携しています。広報としては、アンバサダーのみなさんに走行ルールの啓発についても投稿時に触れてくださいとお願いしています。
若林:その他のSNS運用も基本はマーケティング主導でされているのですか。
松本さん:基本はそうです。ただ、広報の方で全投稿を確認するようにしています。
若林:全投稿を!?
松本さん:UGCの創出がSNSとしては大事だと考えているのですが、投稿の内容によっては、違反はしてないけど、ちょっとあぶなく見えるものや、歩道を走っていないことはわかるけど片足をキックボードの上 に置いてる…といった投稿もあります。ルールを誤って理解させてしまう可能性のある投稿は、公式アカウントにリツイートや再投稿をして欲しくないんです。そこは、口うるさく入るようにしています。
若林:すごく細部まで確認されているのですね!
松本さん:めちゃくちゃ細かいなと自分でも思いながらやってます。本当に申し訳ないと思いながらも、少しでもリスクがあると感じれば「NGです」と伝えています。
若林:松本さんの「あ、これは危ないかもしれない」という感覚は、どういったところで培われたのでしょうか。
松本さん:入社初期から継続して省庁関係の方やメディアの社会部の方などとの接点が多かったこと、パブリックアフェアーズ領域の業務も岡井と共に行っていたことから感覚的にわかるようになった気がします。
企業の映像CMで電動キックボードを使いたいというお話も最近多くいただくのですが、電動キックボードのような黎明期のプロダクトは、無意識に誤った使い方をしてしまうなど、ディスブランディングに繋がる懸念もあります。例えば、楽しそうな映像だと、どうしても乗りながら一瞬よそ見をしてしまい、「前方不注意」になってしまうこともあります。それは良くないので、SNS同様に丁寧にルールをお伝えし、細かく確認をさせていただいています。
若林:ドラマでLUUPの電動キックボードが使われたこともあったようですが、大変だったのではないですか。
松本さん:ドラマで起用いただいた時は、コロナ禍で撮影の立ち会いができない状況でした。そのため、担当ディレクターに乗り方を細かく解説させていただくとともに、“やりがちなNGリスト”を作りお送りしました。
広報KPIは「パーセプションチェンジ」
若林:ちなみに、松本さんが2019年6月に広報に着任してから今に至るまで、広報として一番大変だったことは何でしたか。
松本さん:最初は、業務量の多さに衝撃を受けました。自分ひとりしか対応する人がいないので、いくつもの取材対応を抱えながら、急遽テレビからのお問い合わせをいただいたらそれも対応するといった感じで。
最近は、電動キックボードに関する正しくない理解が広まっていることへの対応が、一番重要ですし、大変だと思っています。誠実な対応を重ねていくしかありませんが、その過程で、電動キックボードがルール整備前に普及してしまった乗り物という事実をご理解いただき、ルール整備に向けた実証実験をLuupが行っているということを知っていただけたらと思っています。
若林:お話をお聞きしていると、業務は多岐に渡りますよね。KPIはどうされているのですか。
松本さん:メディア露出件数は追っていません。Luup内で、広報の成果が具体的に見える点としては「ライド数増加」、「ポート設置のインバウンドお問い合わせ増加」などがあり、社内の他部署からの喜びの声が直接届くこともあります。ですが、KPIという意味では「パーセプションチェンジ」を定性的に追っています。というのも、新しいサービスで、かつ、場合によっては電動キックボードに対し間違った認識を持った方もいるので、いかにみなさんの認識を変えていけるかが重要だからです。定性の部分では、報道のポジネガを見ています。
若林:SNSのポジネガは特には見ていませんか。
松本さん:参考程度に見ています。
若林:お話を聞かせていただき、ありがとうございました!
PRマガジン編集部の「編集後記」
―1年半くらい前からずっと話を聞いてみたかった人
食べチョク広報・下村さんと初めて会った2020年秋頃に、すでにLuup広報の話を聞いていた。そこから、定期的にLuupや松本さんの情報を見に行き、いつ取材させていただくのがベストか?とずっとタイミングを見計らっていた。実はこういったことは多く、私の取材リストにはたくさんの候補者とTwitterアカウント、メディア掲載情報などが一覧になっていて、定期的に情報を見に行き、取材のタイミングを見計らっていたりする。
1年半越しで実現した取材。インタビュー中にも話したが、松本さんは本当にめったに表に出てこない方で、過去トップクラスで事前に入手できた情報が少なく、ある意味楽しみな取材だった。
―「パブリックアフェアーズ」として機能する広報
呼称は「広報」であっても、様々な広報が存在すると思っている。事業部から依頼された新商品・サービスをメディアに露出させることを第一ミッションとしている広報。PR(パブリックリレーションズ)を意識した広報。広報という枠組みを飛び越え、会社にとってプラスとなることは何でも行う広報。松本さんは、これら全部にパブリックアフェアーズをプラスした広報だ。
Luupの場合、警察や業界団体、自治体といった関係者とのやり取りが必須だ。入社直後は、まだ電動キックボードのシェアサービスもローンチ前で、むしろこれらの関係者とのコミュニケーションが大部分を占めていたはずだ。なかなか大変な方たちだ。すごく揉まれたのではないだろうか。
なぜそう思ったかというと、インタビューの随所で「細かさ」を感じたからだ。打ち上げ花火のように、バンバン情報を出すというわけではなく、一般の方やユーザーに「誤解」を与えないように、リリースの文言一つ、SNSの画像一つとっても、リスクの芽を徹底的に取り除く姿勢が垣間見れたのだ。
「社内では口うるさい人と思われていると思う」と松本さんはおっしゃったが、私から言わせれば守護神だ!