コロナ禍の新たな食品販売方法として注目~なぜ冷凍自販機「ど冷えもん」はあらゆるテレビ番組からオファーが舞い込むのか?

コロナ禍で私たちの生活は大きく変わった。

外出するときは常にマスク。最近知り合った方は、顔の鼻から下を見たことがなかったり、当たり前のようにお店に入るときは消毒をする。3歳の子供でさえ、除菌スプレーを自ら手に吹きかけに行くし、体温計を向けられればおでこを出す。

昨年もこういったニューノーマルを切り口にした情報をメディアが連日のように取り上げていた。

そんな中で、密かに注目していたのが「ど冷えもん」だ。
発売直後からテレビをはじめ、様々なメディアで多数紹介されていたからだ。
しかも、ケーキ屋さんに餃子屋さん、ステーキ屋さんにラーメン屋さん、様々なお店が、それまで店内で提供していた商品を急速冷凍し、自動販売機で売ることにより予想以上に売り上げを伸ばしたり、新たな顧客開拓に一役買っているとのことだった。

「ど冷えもん」は、サンデン・リテールシステム

サンデン・リテールシステム「ど冷えもん」

取材をさせてもらうまで知らなかったが(恥ずかしい…)、サンデン・リテールシステムは、私たちも日々利用する自動販売機の生産台数がグローバルでもトップクラスの企業。さらに「冷やし」のプロでもあり、ヤマト運輸のクール宅急便は同社と共同開発したもの。そして、最近はその「冷やし」の技術がモデルナ製の新型コロナワクチンの運搬にも使われているという。

「ど冷えもん」は、サンデン・リテールシステムの強みである「自動販売機の製造」と「冷やす技術」を掛け合わせて完成した、いわば集大成のような機械だ。

発売から約1年が経った今でもメディアからの取材が数多く舞い込む「ど冷えもん」。なぜ、これほど長きにわたり、メディアから注目を集めるのか。今回は、広報室長の芳賀日登美さんにお話を伺った。

(編集・若林)

コロナ禍で発売時期を前倒し~半年で受注数は1000台以上!

「ど冷えもん」と広報室長の芳賀日登美さん

「ど冷えもん」と広報室長の芳賀日登美さん

―「ど冷えもん」は、まだ発売されてから1年くらいしか経っていないのですね。

芳賀さん: 2021年1月末に販売を開始しました。当社はコンビニエンスストアに冷蔵や冷凍のショーケースを納めているのですが、個食が進みコンビニエンスストアで一人分のご飯を買う方が増えていることを受け、これまで冷凍の自動販売機は主にアイスクリーム用だけでしたが、これからは食事系の冷凍食品の需要が増えるのではないかという仮説のもと2019年3月に開発チームを立ち上げました。本来は2021年の春以降に発売予定でしたが、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響を受け、1月に繰り上げ販売を開始しました。

コロナで飲食店は時短営業を余儀なくされましたが、売上を効率よくおぎなうということで「ど冷えもん」を導入されたお店も多かったようです。「ど冷えもん」は、オプションで何時に何が売れたかわかるシステムになっているのですが、それをみると、夜中や早朝にラーメンが売れたり、個食には反しますが、土日にファミリー層が松坂牛を使った1000円以上するハンバーグを購入されたりと、興味深い傾向も見えてきました。焼肉店では、総菜を「ど冷えもん」で販売したところ、すごく売上が伸びたそうです。

また、おうち時間が増えたことで、お店の方だけではなく、消費者のみなさんも家庭で一日三食作るのはとても大変だったと思います。こういった社会背景もヒットの要因だと思います。

―2021年9月までで、全国での設置数が1000台を超えているそうですね。発売時はどういった広報戦略で打ち出されていったのでしょうか。

芳賀さん:まず、2020年12月にプレスリリースを出しました。東商記者クラブと群馬の刀水クラブで配布したほか、プレスリリース配信サービスも活用しました。また、私どもからも積極的にメディアの方にアプローチし、「ど冷えもん」の特長特徴をお伝えしていきました。「ど冷えもん」発売前、アイスクリームの自動販売機はあったものの、食品の冷凍自動販売機はありませんでした。アイスクリームの自動販売機も、容器を自動販売機に合わせなくてはいけないため、自動販売機で売るためのアイスクリームを別ラインで作る必要がありました。。「ど冷えもん」では多様な大きさや形状に対応できるため様々な大きさの商品を入れることができるので、その点を特に訴求するようにしました。

また、東京・錦糸町にショールームがあるので、メディアの方にもなるべく見に来ていただきました。実機を見ていただくと、すごく関心を持っていただけ、テレビ番組から非常にたくさんの取材依頼をいただきました。番組もニュースからバラエティーまで様々ありましたし、BSではSDGsの食品ロス文脈でも取り上げていただきました。

テレビやWebメディア、新聞、雑誌と様々なメディアで取り上げていただいたことで、面白い商品があると認知されていきました。

リリース直後の1~3月から問い合わせが増え、その後3月から受注が増え続け、5月の連休明けに1回目の受注ピークが訪れ、大幅受注に対応するため8月に増産体制を整えたことで、その後2回目のピークを迎えました。現在も右肩上がりで受注が増え、47都道府県すべてで「ど冷えもん」が設置されるまでになりました。

広報だからこそ!消費者目線で、製品のネーミングにも意見

新宿区にある新宿餃苑(餃子の直売所)。

新宿区にある餃子の直売所、新宿餃苑。

―メディア露出をして、問い合わせが増えた実感はありますか。

芳賀さん:あります。ホームページのPV数は掲載後やTV放映後にすぐ跳ね上がります。たとえば、2年近くかけアプローチして放送までたどり着いた「がっちりマンデー」は、放送当日のPVが通常の5倍以上になりました。

―余談ですが、社内で「ど冷えもん」の取材が決まった際に共有したら「今朝、情報番組で自販機のロゴに『ど冷えもん』って書いてあるのを見たばかりだよ!」と言われました。(笑)それくらい、たくさんのメディアで取り上げられていますよね。

芳賀さん:裏話なのですが、当初は製品の上部に今「ど冷えもん」と書いてあるところに「Frozen Item Vender」と書かれていたのです。弊社はグローバル企業ということもあり、どの国の人がみてもわかるように横文字の名称が付くことが多く、MMV(マルチ・モジュール・ベンダー)とかそういった名前が付けられる傾向にあります。でも、それだと一般の方には何なのかわかりませんよね。今までBtoB向けに製品を販売していたので、問題なかったのですが、「ど冷えもん」は飲食店からの引き合いも多かったため、珍しく和名を付けた製品でもあります。せっかく「ど冷えもん」という名前があるのだから、その名前を自動販売機にも付けてくださいと広報から強くお願いしたという経緯があります。

―BtoCに向けた情報発信は広報からもかなりアイディアを出したのですね。

芳賀さん:はい、開発や事業部など、社内の各部署との関係が良好なので、そのあたりは伝えています。私は広報歴が長いのですが、一貫して「広報は黒子」であるという考えを持っています。広報の目的は営業支援やその先にいらっしゃる消費者の方々の利便性を上げることです。そのための潤滑油となるのが我々広報ですので、消費者目線での意見を社内に伝えることも我々の仕事だと思っています。

ショールームには毎日メディアが来場!密にならないスケジューリングに苦悩することも

東京本社ショールーム

東京本社ショールーム

―社内で導入事例を共有してもらい、リリースを出すといったこともされているのでしょうか。

芳賀さん:リリースは新製品が出たタイミングや企業として動きがあった場合のみ出しています。ただ、メディアに対し、導入先のご紹介が必要なケースも多いので、新規導入先は把握するようにしています。

―非常に多くの店舗で導入が進んでいますが、メディアへの紹介先はどのように選定されているのでしょうか。

芳賀さん:一つは、事業部からの推薦があった店舗です。「ど冷えもん」は機械ですので、正しく使っていただくということがとても重要です。「ど冷えもん」について熱心に勉強してくださり正しく利用いただいていることがまず大前提です。その上で、珍しい使い方をされていたり、導入の目的がユニークな店舗をご紹介するようにしています。

例えば、ロケ弁で有名なお店もその一つです。元々BtoB展開をしていたため、看板も出されていなかったのですが、コロナによりロケがなくなりBtoCのきっかけづくりという目的で「ど冷えもん」を店頭に設置したところ、非常に売上が伸びたということで、お礼の言葉までいただきました。
他には「いくら」や「ケーキ」なども、ユニークであったことから、テレビ等メディアで多数紹介されました。

―お話を聞いていると、メディアに出すという点においては、あまり苦労はなかったように思いますが、大変だったことなどありますか。

芳賀さん:実機をみて「ど冷えもん」を理解していただきたかったので、なるべく錦糸町のショールームにお越しいただくようにしています。ただ、商談のお客様も連日大勢いらっしゃるので、ショールームが密にならないように、スケジューリングするのが大変でした。一週間5日間全てにメディアの方が取材に来てくださることもありました。

あとは、テレビ取材の場合、撮影時間などでトータル2時間半程度かかりますよね。餃子を販売する新宿餃苑さんで導入いただいた時は、初の実機設置店ということもあり、テレビ取材が何社か重なり、6時間立ちっぱなしで対応ということもありました。前日は水断ちしましたね。嬉しい悲鳴ですが。(笑)

―これまでどれくらいのメディアに露出しましたか。

芳賀さん:予想を上回る反響に我々も驚いているのですが、4桁は言っていると思います。プレスリリースを1回配信すると50件以上には露出しますし、ありとあらゆるニュース番組やWebなどでたくさん取り上げられていますので。

―今回、「ど冷えもん」がこれだけ多くのメディアで取り上げられましたが、受注以外の副次的な効果は何かありましたか。

芳賀さん:社員にもメディア露出を共有しているのですが、テレビ番組で紹介されたときなど歓声が上がるということもありました。自社の製品が紹介されたことで、モチベーションも上がったのではないかと思います。また、「ど冷えもん」の露出に関しては、赤城工場にいる開発・生産部門の社員の出演回数も多く、更なるやる気にもつながったのではないかと思っています。

―BtoBということで、一般の方はサンデン・リテールシステムの商品を利用されたことはあっても社名を知らない方も多かったかもしれません。でも、今回一つの商品をきっかけに、認知が高まったり、社員やそのご家族の方々の会社に対する想いも大きく変わったかもしれませんね!

製品PRと企業PRのバランスを意識~想いや目指す未来の発信にも注力

ショールームには毎日メディアが来場する。

ショールームには毎日メディアが来場する。

―最後に、今後の広報戦略を教えてください。

芳賀さん:現在は製品PRが多くなっていますが、今後は「製品を使い、いかに生活を豊かにするか」にフォーカスした戦略PRを展開したいと考えています。企業広報にも注力し、サンデン・リテールシステムの想いや目指すところを発信していきたいです。

―BtoBtoCの広報、今後も注目させていただきます!

「ど冷えもん」について

サンデン・リテールシステム株式会社「ど冷えもん」

サンデン・リテールシステム株式会社「ど冷えもん」

業界初の多彩な梱包形式の商品販売を可能 にした冷凍自動販売機。サンデン・リテールシステムの強みである「自販機」と「冷やし」の技術を掛け合わせた製品。新型コロナウイルスによる飲食店の課題を解決する製品として発売9か月で1000台以上を販売。
超ド級の「ど」、どえらく冷えるの「ど」。そして、最後に「もん」をつけ、同社では珍しく和名のかわいいネーミングに。

広報担当者プロフィール

サンデン・リテールシステム株式会社の広報室長、芳賀日登美(はが ひとみ)さん。

サンデン・リテールシステム株式会社の広報室長、芳賀日登美(はが ひとみ)さん。

サンデン・リテールシステム株式会社
広報室長
芳賀日登美(はが ひとみ)

外資系企業の広報責任者や役員など一貫して広報畑を歩む。過去には、サンデン株式会社(現サンデンホールディングス株式会社)の外部アドバイザーとして役員のトレーニングやIRに関与していた時期もある。現社長からのオファーを受け、数年前に広報室長として就任し、現在に至る。

サンデン・リテールシステム株式会社 (https://www.sanden-rs.com/

2019年10月1日設立。飲料の自動販売機はグローバルで生産台数トップクラス。ヤマト運輸と共同でクール宅急便を開発するなど、「冷やし」のエキスパート。そこから発展したレボクール(電源がなくても10時間保冷できる)はモデルナを運ぶのに使われている。

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