皆さんがジグソーパズルに抱くイメージとは、どんなものでしょう?
有名な絵画?キャラクターの可愛い絵柄?
私も小学生の頃に、ジグソーパズルにハマっていた時期があり、そこそこの大作にも挑戦し、完成したら額縁に入れ、自分の部屋に飾っていた。
でも、今回取材した「宇宙パズル」は楽しみ方が少し違うようだ。
何と言ったって、真っ白なのだから。
ただ、真っ白なパズルとして売り出していたら、ここまで長期にわたり売れることはなかっただろう。
やはり「着眼点」と「ネーミング」が良かったのだと思う。
・実際、宇宙飛行士になるための試験で白いパズルが使われている
(人気漫画「宇宙兄弟」でも、そのシーンがある)
・「宇宙パズル」という商品名にし、パッケージも宇宙を連想させるものにした
最近特に思うのは、広報にはネーミングセンスが大事ということ。
商品の名前だけではなく、事象に対するネーミングもだ。それをひねり出せるかどうかでメディアの反応も変わってくるし、お客様の反応も変わってくる。
私も「真っ白なパズル」では取材していなかったと思う。
余談だが、取材で完成できない人も多いと聞き、後日早速ネットで注文しトライしてみた。外枠は自分に甘く採点すればできた。けど、客観的にみると、フレームがガタっとしていたり、ちょっと隙間があるようにみえたり。恐らく合っていないのだろう。しかし、それすらよくわからない。
きっとあとちょっとで完成するかも、という頃には、1~2ピースなくなっていそうだ。(笑)
通常、1~2年くらいしか店頭に並ばず、売れるものでも年間2~3000個というジグソーパズルの世界で、10年というロングセラーかつ毎年2万個売れるという宇宙パズル。
今回は広報宣伝全般を担当する、株式会社やのまん・大山毅さんにその理由を伺った。
(編集長)
この記事の目次
「世界天文年」に合わせた商品企画の中で出てきた「白いパズル」
―「宇宙パズル」は、累計22万個売れているそうですね(2022年7月時点)。そもそも、なぜこういった商品を手掛けようと思われたのでしょうか。
大山さん:きっかけは、2009年の世界天文年です。ガリレオ・ガリレイが天体望遠鏡で初めて天体観測してから400年目という年を記念して、国際連合とユネスコ、国際天文学連合が世界中の人々に天文学と宇宙への関心を持ってもらおうと制定されたものです。その節目に合わせて我々も何か商品を企画できないかと考えていました。
2010年に宇宙飛行士・山崎直子さんのスペースシャトル搭乗が決まっていたのですが、その際、白いパズルを宇宙飛行士のテストで使っていたと話題になり、商品化できないかという話があがりました。
―その当時、世の中にまだ白いパズルはなかったのですか?
大山さん:白いパズルは雑貨メーカーが出していました。寄せ書きのパズルやポストカードサイズでバラバラにして郵送出来るようになっているものなど色々出ていました。弊社も含め、ジグソーパズルメーカーは白いパズルなんて作ろうなんて思っていなかったのです。(笑)絵柄があってのジグソーパズルという固定概念がありましたし、販路も絵柄を求めてくるところとは違うと考えていましたので。
ですので、専業のジグソーパズルメーカーで、白いパズルを出したのは、弊社が初だと思います。
―雑貨メーカーが出す白いパズルと御社の白いパズルで、仕様上の決定的な違いはどこなのでしょうか。
大山さん:仕様上の決定的な違いはありません。ただ、打ちだし方が異なりました。弊社は、宇宙食のようなパッケージで、白いパズルは宇宙飛行士の訓練に使われていることを訴求しました。
―打ち出し方が秀逸だったということですね。
「絶対に売れない」、社内反発で発売できたのは企画から3年後
―発売当初から順調に販売個数は伸びていったのでしょうか。
大山さん:発売してからは順調でした。それよりも発売するまでがかなり時間を要しました。2009年に企画し、実際発売できたのは2012年1月です。「白いパズルなんて売れない」という意見が大半だったというのが理由です。そこから数年経ち、発売に至ったのは、社内の営業が売りたいと言ってくれたことと、テスト販売が好評だったことです。テスト販売は、ワンフロアがジグソーパズル売り場で主に雑貨などを扱う専門店で1か月販売させてもらいました。結果、200個も売れたのです。ジグソーパズルは1000ピ-スのものであれば、月間で2個売れたら良い方です。当初、あまり期待していなかったのですが、白いパズルは、それほど色々な方に興味を持っていただけました。
―宇宙パズルのラインナップの中では、現在どれが一番売れているのでしょうか。
大山さん:ピースと大きさで難易度が異なる3種類を発売しているのですが、99ピース(440円/税込)が一番売れています。真っ白な宇宙パズルは、絵柄があるジグソーパズルに比べ2倍くらい難しいので、ジグソーパズルをやったことのない人は永遠に終わらない可能性があります。(笑)
絵柄のあるジグソーパズル同様、外枠から作るのが一番いいと思うのですが、真っ白なので、それも大変です。基本的には、総当たりで取り組むしかないですね。
恐らく、ほとんどの方が完成していないのではないでしょうか。
絵柄のあるパズルは、「完成しない…!どうにかして」というお電話をいただくこともあるのですが、宇宙パズルはそういったお問い合わせもありません。完成できないことを前提に買われているのではないかなと。(笑)
―宇宙飛行士が訓練で使っていたと聞くと、そもそもそんな簡単なものではないと思って買うかもですね。
大山さん:そうですね。ですので、宇宙パズルという企画が良かったのだと思います。
―購入する方はどのような方が多いのでしょうか。
大山さん:ジグソーパズル好きの方というより、普段パズルはしないけど、面白そうだから買うという方が多いように思います。
パズル好きな方は、絵柄をくみ上げて部屋に飾るというのを楽しまれる方が多いのですが、真っ白なパズルを部屋に飾るということはないと思いますので。
―御社のメインターゲット以外に訴求する必要があったと思うのですが、何か工夫したことはありましたか。
大山さん:当時は広報のセクションもなく、インターネットも今ほど普及していませんでした。営業が新しい販路を開拓してくれたというのが大きいですね。中でも、博物館での物販が大きかったです。小学生くらいのお子さんがいるファミリー層が面白いと思って買ってくださり、非常に売れました。一つの博物館で好調だと、横展開も上手くいき、今でもこのルートが一番売れています。
反対に、パズル売り場にはほとんど置いてないですね。
10年ぶりのリリースで「Yahoo!ニュース」トップにも掲載~テレビ取材にもつながり増産へ
―売上が劇的に伸びたタイミングというのはありましたか?
大山さん:これをきっかけに爆発的に売れたというのはほんとになくて、初年度から2万個売れ、その後毎年コンスタントに2万個売れています。我々から特別にアクションしたこともなく。
ただ、今回は、たまたま発売から10年で、4月には久しぶりにJAXA(宇宙航空研究開発機構)さんが宇宙飛行士の募集を出されたので、PRの切り口になるかもと累計を調べたところ、22万個売れていることに気付きまして、せっかくなのでリリースしました。
―発売時を除き、10年間で1回もプレスリリースは出さなかったのですか。
大山さん:はい、出していないです。本当に空気のような商品で。在庫がなくなったら追加生産という形でここまできました。
―他の商品も同じような感じなのでしょうか。
大山さん:他の商品は、広報も結構頑張りますね(笑)特にライセンスが関係するキャラクター商品などは。こちらも発信を頑張りますし、キャラクターや風景のジグソーパズルは量販店にも置いていただくので、初速がいいです。よく売れるもので年間2~3000個。でも、そういったパズルはだいたい1~2年で新しい柄に変わるので、そもそも10年も売っている商品というのは、あともう一つくらいしかありません。5年売っている商品ですら、ほとんどありません。年間で2万個はすごいことなのですが、社内での反響はあまりないんです。(笑)
―今回、10年ぶりに宇宙パズルのリリースを出し、反響はどうでしたか。
大山さん:まずItmediaの記者さんが興味を持ってくださり、その記事がYahoo!ニュースのトップに掲載されました。そこから、フジテレビの情報番組も取材に来てくれ放映につながりました。さらに、絵柄にお金をかけているパズルをおさえて、Amazonのジグソーパズルランキング1位に。
そういったこともあり、今年の春は例年より宇宙パズルが売れ、増産しました。
―普段の絵柄のあるパズルのプレスリリースもかなり反響があるのでしょうか。
大山さん:ものによります。IP(キャラクターなどの知的財産)ごとにも違いますし、ネットと相性がよい絵柄は反響があります。
過去にとても反響があったものとしては、2017年に発売したランプシェードパズルです。息を吹きかけるとランプが点灯するパズルなのですが、リリースからNHKの番組での取材・放映につながっています。
また実はPULLで、ジグソーパズル自体の取材というのも結構あります。
ジグソーパズルメーカーは、国内に何社かあるのですが、日本国内で自社工場の運営から製造まで全てを行っているのは弊社のみということで、NHKをはじめ工場取材なども入ります。そういう時に、自社オリジナル商品として宇宙パズルを紹介させていただいています。
やはり、メディアで紹介されると売上にも好影響を及ぼします。
―これだけ売れている商品となると、シリーズ展開など考えないのですか。
大山さん:実際、真っ黒な宇宙パズルを温めるとスペースシャトルが浮き出るという商品を作ったこともありましたが、思ったほど売れず、今は真っ白な宇宙パズル一本に絞っています。
「間違い」を上手く広報に活用
―株式会社やのまんのTwitter(@puzzle_yanoman)はフォロワーが6400以上いますね(2022年7月時点)。このアカウントの運用も担当されているのでしょうか。
大山さん:そうです。もう一つ「やのまんボードゲーム部」というアカウントもあるのですが、どちらも担当しています。アイコンに使っているキャラクターはクアッカワラビーという私が大好きな動物がモチーフになっています。名前は「やまのん」と言います。
実は以前から、インターネット検索で3番目くらいに多いのが「やまのん」でして、結構多くの方が「やのまん」を「やまのん」だと思っていらっしゃるんです。Googleも「やまのん」を「やのまん」に連れてきてくれるような状況です。であれば、それを活かして、まじめに宣伝しようとキャラクター名を「やまのん」にしました。
本日は #オルトくん の🍰バースデー🎊
好きなボードゲームに囲まれてもらいました✨
これからはマスク越しにいろんな表情見せてくれそうですね😊https://t.co/8iXIO4Ci6A#オルト・シュラウド生誕祭#オルト・シュラウド誕生祭#オルト生誕祭 #オルト誕生祭#ツイステ #ジグソーパズル#蒼井翔太 pic.twitter.com/PUSw8woSqk— 株式会社やのまん (@puzzle_yanoman) August 13, 2022
―宇宙パズルに関して今後の目標はありますか。
大山さん:来年、やのまんは、ジグソーパズルを売り始めて50年になります。なので、あと50年くらい細く長く売る!ということですかね。
―なんだかいけそうな気がしますね!ありがとうございました!
宇宙パズルについて
実際の宇宙飛行士試験にて実際に使用された”ホワイトパズル(白無地パズル)”をモチーフに宇宙飛行士に必要な忍耐力をトレーニングする為に最適なジグソーパズルを目指して開発された商品。現在、難易度違いで3種類展開。難易度が「そこそこ難しい」99ピース: 440円(税込)https://www.yanoman.com/page/spacepuzzle.html