今回は、「23区」などのアパレル事業の他、ライフスタイル関連事業としてバレエやダンス用品、雑貨・ペット関連用品・食費・カタログギフト等の展開を行う、株式会社オンワードホールディングスの飯野愛さんと髙橋和佳子さんに、広報・PRパーソンならではのリアルな企業広報のお話を伺った。
(インタビュー:編集長)
この記事の目次
未経験で「攻めの広報」に抜擢
編集長:本日はよろしくお願いします!
飯野さんと髙橋さんは、2021年3月に広報に着任されたということですが、おふたりとも未経験での着任ですよね。しかも、「攻めの広報」として抜擢されたと。どういった経緯があったのでしょうか。
飯野さん:今まで以上に会社からの発信やメディアへの露出、ステークホルダーとのコミュニケーションを強化していきたいというトップの想いから、攻めの広報に注力することになりました。弊社はアパレル事業を中心とした会社ですが、ライフスタイル関連など、取り組んでいることは多岐にわたります。その中で、露出しきれていないものも多いという課題がありました。その部分の広報を強化していきたいということで、攻めの広報という話が会社として挙がったようです。
編集長:社長が広報に注力しなくてはという課題感をお持ちで、そこから話から始まったということですよね。社長は別に広報畑というわけではないんですよね?
飯野さん:社長も広報を一度経験してると聞いています。
編集長:ご自身も広報の経験があるからこそ「もっとできることがあるはずだ!」っていう想いがあったのかもしれませんね。様々な企業の広報さんとお話をしていて、経営層が広報に理解がないと、広報のミッションがメディア露出だけに限定されてしまったり、売上にKPIを置かれたりと苦戦することも多いようですが、トップの理解があると、いろんなことに着手できて、結果、想像以上の成果が出るということも多々あるなと思っています。ので、トップ発信で攻めの広報に注力することになったというお話を聞いて、やっぱり!と思いました。
ちなみに、あえて未経験のおふたりを抜擢した理由は、会社から聞いていますか。
飯野さん:そもそも広報チームは以前よりありまして、今も私たちの他に3名いるのですが、これまでの広報のやり方に捕らわれず、いわゆる広報を知らないからこそ柔軟な発想で新たな手法にチャレンジしていき、まだ繋がることができていない方々に情報を伝えていくということに期待されています。
あとは会社としても、若手をなるべく前に出していこうと取り組んでいまして、広報以外にも、我々世代くらいの社員が、積極的にブランドの立ち上げに参加したり、リーダーに抜擢されたりしています。その流れもあり、私たちが選ばれたと聞いています。
編集長:既存の広報との役割分担はどうされているのですか。
飯野さん:明確にはありませんが、髙橋が取り組んでいる社内報動画や、今、企画書を作りテレビにアプローチということもしているのですが、そういった従来おこなっていなかった手法での広報は、基本的に私たちが取り組んでいます。
こだわりの企画書にメディアも即反応!着任2か月で、テレビ露出を実現
編集長:未経験だからこその新しい目線を期待されて就任されたということですが、最初はどういうことに取り組まれたのですか。
飯野さん:新しい視点は期待されていましたが、まずは広報支援をされている会社から広報の基礎知識を学びました。業務としては、コロナ禍で2020年度版の会社説明資料が抜けていたので、その作成から始めました。
編集長:これまでにやってなかったことに着手しようということで、どういった考え方で「これをやろう!」と決めていかれたのですか。
飯野さん:何から着手すべきかは、すごく悩みました。認知度調査も行いましたが、上の世代の方だと、多くの方が新聞やテレビCMでオンワードを知ってくださっており、一方、若い世代は、SNSやWebまわりから知ったというパイが少し大きいという結果でした。そこで、既存の広報ではあまり開拓できてなかったWebメディアとのリレーションを強化することにしました。また、以前はブランドごとにCMを出している時期もあり、そこからの認知も一定以上あったのですが、近年はそこまでCMも出していないことからテレビ経由での認知がすごく減っている状況でした。ただ、テレビ経由でアプローチできる方もまだまだいると思うので、CMではない形でテレビに露出できるように、企画書を作成し、情報提供するといったこともしています。
編集長:テレビ向けの企画書も見せていただきましたが、動画にされたんですね。
飯野さん:はい、髙橋が制作してくれています。短時間で視覚的に取材できる要素が伝わればと思い、動画の形にしてみました。
編集長:企画動画は、番組に合わせ、どういった取材や体験ができるか2〜3分でまとめていらっしゃいましたよね。結構たくさん作られたんですか。
髙橋さん:動画形式はお試しで一回だけですが、企画書は随時作っています。ただ情報をまとめた資料を送るよりは、なるべくメディアの目線を想像して、こういう企画の要旨でこういうシーンが撮れますよと、そこまで提案する形で作っています。
編集長:企画書の反応はいかがですか。
飯野さん:動画の企画書に関しては、現時点ではまだ反応がないですが、諦めずに、これからも挑戦したいです。それ以外の企画書では、反応もありました。初めて露出につながったのは昨年6月で、「#Newans(ハッシュニュアンス)」というブランドを出すことができました。その際は、写真もふんだんに使った企画書を作成していました。
編集長:着任されてから、わずか2ヶ月ですごいですね!企画書をメールで送って、担当者の方にお電話したみたいな感じですか。
飯野さん:そうです。メールで企画書をお送りしたら、その日の夜にご連絡をいただきました。
編集長:へえ、すごい!
ミッションは「働き方やDX、サスティナブルに絡めた露出」をいかに獲得するか
編集長:オンワードさんは、働き方やDX、サスティナブルに注力されている印象があり、おふたりはそのテーマでの露出を作るために頑張られているのかなと思っていたのですが、どうでしょうか。
飯野さん:その通りです。私たちが出す情報は、基本的に、働き方やDX、サスティナブルを組み立てて出してます。そのために、自分たちでメディアを研究して、働き方やDX、サスティナブルが、今、どういうところに注目されているのかを把握し、PR切り口を考え、それに合う社内のネタを探して情報を出していっています。経営戦略にもこれらのテーマは含まれているので、どう効果的に見せていくか考えて出しています。
編集長:となると、おふたりのミッションとKPIは、どういうところに置かれているのでしょうか。
飯野さん:ミッションは、働き方やDX、サスティナブルのイメージを拡大していくというところと、若年層を含めた幅広い層への認知拡大です。広報のKPIをどう設定するかはすごく難しかったです。私はもともと企画にいたので、その頃は、売上などを目標にし、数字で判断できたのですが。広報の結果は、広報の取り組みだけに寄らないところもあるので、KPIに関しては活動量を設定しています。プレスリリースやニュースレター、企画書、記者さんとのコンタクトの回数、あとは、社内広報も月2回の発信と動画の更新を活動目標として置いてます。
編集長:新規のメディア開拓という点では、おふたりで媒体研究をし、週一回は共有会を設けられているそうですね。これは、おふたりで目標を決めて取り組まれたのですか。
髙橋さん:そうです。専門紙や全国紙などは、既存の繋がりもあり記者さんのリストも社内で蓄積されていたのですが、メディアの幅を広げるというところで、Web媒体やとテレビ・ラジオをメインに絞って研究していました。Web媒体に関しては、サスティナブルやDXなどのキーワードで記事検索をしたり、Twitterなどで編集部にコンタクトをとるといったことをしています。あと、どういうコーナーがあるのかも見てみて、社内のネタでこれがちょっとハマりそうだなと思ったら、ヒアリングしてメディアさんに提案するというサイクルを回していきました。
編集長:媒体研究や新規のメディア開拓をした結果、どういう成果に結びつきましたか。
髙橋さん:これまでに、約120件の記事掲載とテレビ露出3回、ラジオは1回露出でき、メディアに露出する機会が増えました。社外はもちろん、社内の広報に対する認知拡大という点で、インパクトは大きかったのではないかと思っております。
企画から編集まですべて広報で行う“TikTok風”社内報は評判も上々
編集長:お話を伺っていると“社内への広報活動”も、おふたりの中でも大きなところを占めるように思ったのですが、どうでしょうか。動画社内報はおふたりが始めたと思いますが、そもそも社内報は以前からあったのですか。
飯野さん:Webの社内報がありましたが、そこまで活動できていない状態でした。
編集長:なるほど。社内報に注力しようと思われたきっかけは何かあったのですか。
飯野さん:私がアパレルの現場にいたときは、広報に対しての理解がなく、うまく活用できていませんでした。でも、自分が広報になってから、「現場にも、広報がどういうことをできるのかもっと知ってもらわないと、もったいない!」と思うようになりました。知ってもらうことで、社内によりよい循環ができると思いましたし、盛り上げていくこともできるのではないかと。そこで、社内の広報に対する認知を上げていこうと社内報にも注力し始めました。
実は先日、社内で「広報セミナー」も実施させていただきました。まだ1年弱ですが、自分が学んだことをなるべくわかりやすくお伝えしました。これらの取り組みもあり、徐々に社内のみんなも理解してきてくれて、「一緒に何かできないかな?」と、声をかけられる回数が増えてきたと感じています。
編集長:なるほど。DXやサスティナブルを出していくにしても、現場の方からの情報って欠かせないですから、そういう情報をもらいやすくするためにも、広報がどういうことをしているかを知ってもらう必要があったということですよね。
飯野さん:まさに、仰る通りです。
編集長:社内での広報セミナーって面白そうですけど、具体的にはどういう感じのものだったのでしょうか。
飯野さん:正直あまり面白くないかもしれません(笑)。
編集長:それも新しいチャレンジですよね!(笑) なかなか、広報のやってることって、経験者はわかっても、経験してない人はわからないじゃないですか。そういう人が会社のたぶん8割くらいを占める中で、広報についてのセミナーをしたって、正直、すごいなと思ったんです。勇者だなって!
飯野さん:以前、管理職研修の場で広報の話をさせてもらった時に、アンケートの反応がすごく良かったんです。「広報について知れて良かった」とか、「機会があったら活用したい」という声を結構いただきまして。そういった経緯もあり、社内にもっと伝えた方がいいなと、広報セミナーは動画でもみんなが観れるような形で発信しました。
編集長:おふたりの広報活動において、「動画」はキーワードなのかもしれませんね!社内報「水曜日のコウホウサン」も事前にお送りいただきましたよね。各事業部の担当者などの紹介をTikTok風にされていて、めっちゃ面白かったです!本当はPRマガジンでも公開したいくらい。(笑)この動画社内報の狙いは何なんですか。
髙橋さん:「若い人の発想で広報活動をやってみて」と期待いただき、自分に何ができるのかを考えた時に、コロナ禍もあって、対面でのコミュニケーションが減っていると思い、堅苦しくなく観てもらえるコンテンツを作りたいというところから始まりました。仰るとおり、今はTikTokのように動画の主流が縦なので、縦動画にしています。社員の紹介動画をあげているのは、社員間のコミュニケーションが活性化されるきっかけになればと思ったからです。弊社はアパレル以外にウェルネスやビューティー・コスメ分野、ギフト、ペット分野など様々なグループ会社があるのですが、横の情報共有ができきれていないところもあるのではないかと新入社員時代に思いまして、この動画が橋渡し的な存在になればいいなと。
編集長:社員に観てもらえているという感触は得られていますか。
髙橋さん:最初はどういう反応が返ってくるか、内心ドキドキしていたんですけど、「面白いね!」と言っていただけることも多くて、最近は「社内でお知らせしたいことがあるから、今度、動画出させてよ」と逆オファーをいただけたりして、うれしいです。
編集長:広報の活動を通して、社内からの相談も増えているそうですね。どういった相談が増えているのでしょうか。
飯野さん:対外的な情報発信でいうと、例えば、ブランドごとにSNSを活用して販促をしているのですが、広報というまた違った角度から露出の機会を増やせるということが伝わり、新サービスや新商品を出す際、広報で何かしてもらえることはあるかと相談をもらうこともあります。
対社内という意味では、情報システムの担当者から社内に周知したいことがあるから協力してほしいという相談をされたこともあります。
編集長:そういうご相談をいただいた時って、「水曜日のコウホウサン」にご招待するという感じですか?
飯野さん:まずは何を出したいかを聞いて、動画と記事のどちらが適切かを判断します。「水曜日のコウホウサン」は様々な企画をチャレンジ中でして、人を紹介するものもありますし、事業の取り組みを1分間の動画に髙橋が編集しているものもあります。一番適した企画、あるいは新たに企画を立てたら面白そうと思えば「水曜日のコウホウサン」で取り上げています。
編集長:髙橋さんが動画に関しては企画や編集を一手に担っているんですね。
髙橋さん:はい、撮影から編集までひとりでやっています。
編集長:プライベートでもSNSの運用や動画の編集をされているんですか?
髙橋さん:SNSは日常的に使っていて慣れ親しんではいますが、動画の編集はほとんどしたことがありませんでした。でも、やってみたいなと思い、触りながら徐々に覚えていきました。
編集長:社内からの反響も上々ということですが、世代が上の社員からの反応はかがでしょうか。
髙橋さん:むしろ上の世代の社員から「いいね!」と言っていただくことが多いです。「若手がのびのびやってる感じが観てて楽しいです」といったコメントをいただいたり、「(髙橋さんの)思うままにやっている感じが、見ていて元気出ます」と言っていただけたりして、私も元気をもらっています。
広報主導での記者発表会やイベントにも着手
編集長:おふたりが新しい目線で広報にチャレンジされているということで、以前はやっていなかった施策で、おふたりが取り組みはじめ反響のあったPR施策があれば教えてください。
飯野さん:これまで全く行っていなかったわけではないですが、記者発表やイベントです。私たちとしては、半期に1度は記者発表やイベントを行うと活動目標を立てています。これまでも、経営に大きく関わるテーマでの記者発表会は実施していましたが、商品に関する発表を広報主導で行うということはありませんでした。
そういったなかで行ったのが「UNFILO(アンフィーロ)」という新ブランドの新商品発表会です。この新商品は今年1月に誕生したのですが、そこに向け広報として何かできることはないかと事業部から相談を受けまして、広報主催でオフライン記者発表会を行いました。60~70媒体にお声がけし、10媒体が来場、最終的に7社のメディアでの露出につながりました。
編集長:どういったメディアを中心に露出できたのですか。
飯野さん:今回、テレビにはお声がけしなかったので、新聞や業界誌、Webメディアです。
編集長:オフラインでのイベントを開催するにあたり、何か工夫したことはありますか。
飯野さん:コロナ禍での開催でしたので感染対策はもちろんのこと、事業部とメディアの方のコミュニケーションが取れるといいなと思っていましたので、質疑応答の時間を長めにとりました。また、環境に配慮した軽量のニットシューズが目玉だったので、サンプルを用意して、試着会も一緒に行いました。
編集長:メディアを集めるという点では、どういった工夫をされましたか。
飯野さん:サスティナブルというキーワードを前面に出して、「UNFILO(アンフィーロ)」以外のブランドやグループ会社のサスティナブルな取り組みも一緒にご紹介しますといった形でメディアにお声かけしました。
編集長:働き方改革に関するトップ対談イベントも企画されたんですよね。
2019年8月に働き方改革プロジェクト「働き方デザイン」をスタートされて、そこからの2年間の取り組みをワーク・ライフバランス社の小室さんとお話されましたよね。これは、メディアの方だけではなく、一般の方も聞けるような形で開催されたのですか。
飯野さん:そうです。オフラインでは記者だけが参加できるようにし、一般の方はオンラインで参加できる形にしました。合計130名くらいに参加いただきました。
編集長:メディアからの反応はいかがでしたか。
飯野さん:社長の対談ということで、反応は良かったです。イベントに関する露出は正直さほど多くなかったのですが、それがきっかけとなり、後々、特集取材のお声がけをいただくなど、働き方改革に積極的に取り組んでいるイメージはメディアにもってもらえたのではないかと感じてます。
編集長:イベントの事後リリースで、かなり具体的なレポートを配信されてましたよね。この辺もこだわった部分ではあるんですか。
飯野さん:対談の中で伝えたいことが自然と話される部分が多々あったので、その場にいた方にしか伝えられないのはもったいないなと思いまして、レポートとして残すことにしました。
広報1年目の経験を2年目に活かし、最短でミッション達成へ
編集長:本当に、今までやってなかったようなことをおふたりで模索しながら着手して成果が出始めているという状況なんですね。今後、広報として実現したいことや、やってみようと思っていることがあれば、最後にぜひ教えていただけますか。
飯野さん:この1年間は駆け出しで、広報の知識を得るところから始まり、いろいろやってみるということでいっぱいいっぱいでした。同時に、オンラインでの対談や記者発表など、チャレンジしたことの成果や課題も見えてきました。
今後は、そういった知見を生かしながら、最短でミッションを達成できるように広報活動を取捨選択しながらやっていきたいなと思っています。
編集長:この取材でオンワードさんのイメージが少し変わりました!広報2年目を迎えたおふたりが、今後どういった取り組みを始められるのか楽しみにしています!
PRマガジン編集部の「編集後記」
―自由な社風の中で、新たなことに楽しみながらチャレンジする広報
「歴史ある大手アパレル企業」のイメージが強いオンワード。なんとなく広報さんも百戦錬磨な感じの方々なのかな、というイメージを抱いていた。でも、飯野さんと髙橋さんはイメージとだいぶ違った。それがきっと会社の狙いでもあったのだろう。
TikTok風の社内報に、メディア向けの動画の企画書。粗削りではあるかもしれないが、それも新鮮で見る側としては面白かった。
今、YouTubeだって一発撮りとか編集は最低限の短尺が増えてきている流れからすると完成度は高いけど、費用も時間もかかるものより、気軽にポンポン公開できるようなもののほうがいいのかもしれない。そのほうが逆に面白いということも。
動画社内報「水曜日のコウホウサン」を読者のみなさんに観ていただくことができないのが残念だ。
―PRマガジンまで分析してくれて、感謝!
インタビューの中で、媒体分析を頑張っていらっしゃるという話があったが本当だ!(もちろんウソなんて思っていませんが!)
当取材に際し、PRマガジンがインタビューで聞きそうなことを事前にたくさん送ってくれた。動画もその一つ。もっと言えば、今回はそれが取材の決め手でもあった。3月から広報2年目を迎えたおふたり。こうやって今後も多数のメディアでオンワードを露出させていくんだろうな。
もっともっと他社の広報が行っていない斬新な手法をみせてほしい!