私は10年近くPRコンサルタントとして現場に立っていたが、企業広報の方々の頭を悩ませていたテーマの一つが「既存商品/サービスのPR」だった。確かに、“既存”であるかゆえに新しさやニュース性がなく、話題作りは広報の力の見せどころだ。
一方で、新商品/サービスのPRでも、話題を最大化したいという相談だけではなく、どう打ち出していいか悩んでいるという相談も少なからずあった。こういう相談をいただくと毎回思っていたのが、「新商品/サービスを企画する段階から広報の視点を取り入れられていれば、これほど苦労されなかったのではないか」ということだった。
どんなに良い商品やサービスを開発しても、消費者/利用者に伝わらなければ意味がない。であれば、伝えることも加味し、逆算して開発すれば良いのでは!?という考えだ。
もちろん様々な理由でそれができないこともあるだろうが、実現できている企業は強い。
今回取材させていただいたGREEN SPOONは“新しいことしかしない”という意思決定を創業時からしていたことで、積極的な広報をしなくてもテレビや雑誌からの取材が次々に入ってきたという。
今回は、広報ノウハウではなく、メディアや著名人までもが思わず発信したくなる「広報視点を取り入れたプロダクトの生み出し方」について、社長の田邊さんと広報の熊本さんにお話を伺った。
これを読んだら明日から、新商品/サービスの企画会議に広報を入れてほしいと思う方が増えるかも?
(編集部・若林)
この記事の目次
食に気を遣うことは、自己肯定感を高めることにもつながる
―早速ですが、このサービスを始めようと思ったきっかけを教えていただけますか。田邊さん:サイバーエージェント勤務時代はかなり忙しく働いていたので、自分のカラダを気遣う余裕もなかったのですが、会社を辞めた後に、アメリカやヨーロッパなど海外に長く滞在し、「予防医学」や「予防思想」、「未病」という病気になる前に、自分の体をケアする習慣に触れたことがきっかけです。その習慣に触れ、自分自身も筋トレやランニング、食に気を遣うということを続けていく中で体調が良くなるとともに、ココロも健康になり自己肯定感が高まっていきました。帰国後、忙しく働いていた過去の自分と海外の予防医学の素晴らしさが結びつき、忙しく頑張ってる人が簡単に健康を気遣え、体だけではなく心も豊かできるサービスを提供できればと思い、GREEN SPOONを始めました。
―サイバーエージェントで働かれていたということで、飲食のビジネスはご経験がなかったと思いますが、立ち上げ時は大変じゃなかったですか。
田邊さん:大変でした。全て勉強するところから始めました。法律もそうですし、食は人の口に入るものなので安心安全なものをという意味では製造工程や物流に至るまで、これまで培ったウェブサービスには全くない知見でしたので、食品の関係の方を巻き込ませていただきながら勉強していましたね。
―人が食べるものだから野菜とか果物にすごくこだわりをもって仕入れられてると思うのですが、最初は生産者との交渉など大変ではなかったですか。
田邊さん:最初はつてもなかったので、電話で農家にアポをとり訪問するといったこともしていました。でも、製造物流過程を効率化することが持続可能なサービスにする上で非常に重要だと気づき、最近は商社との付き合いも増えてきています。
あと大変だったことと言えば、工場探しですね。瞬間冷凍機がある工場を探すのもそうでしたが、25種類のスムージーを作ってくれる工場に出会えるまでが大変でした。「1種類なら考えるけど、25種類!?」といった反応で…。サービスサイトもGREEN SPOONという名前もまだない状態でお願いできる工場を探し回っていたので、食品業界の方からみたら“クレイジーな奴”に見えていたのでしょうね。なので、自分たちがどういった世界を作りたいか等をプレゼンして回りましたが、そもそも聞いてくれる人自体が少なく、今お願いしている会社の社長が意気投合してくれたから今があるようなものです。
好き×ブルーオーシャンで、パーソナルスムージーにたどり着く
―2020年3月にパーソナルスムージーを始められましたが、なぜスムージーから始められたのですか。田邊さん:海外にいたとき、よくスムージーを飲んでいて好きだったということが一つです。もう一つは、帰国した際に、日本では想起できるスムージーのブランドがないにも拘らず、コンビニに行くと冬でも目線の高さにスムージーが置いてあるという違和感がありました。つまりビジネス観点で、スムージーブランドのポジショニングが空いていると思ったことです。
あと、個人的に肉は好きですし、積極的に意識しなくても食べている方が多いのかなと思うのですが、野菜やフルーツは生活に取り入れにくいなと感じていたので、一つの手段としてスムージーはいいのではないかと思いました。
―どういうコンセプトでサービスを開始されたのでしょうか。
田邊さん:“パーソナル”というところが大きかったです。
健康に気遣おうと思っても、寝不足やダイエットなど課題は人それぞれで、それに対し「何を食べればいいのかわからない」という方が多いと思います。自分だったら体に合ったものを食べたいという想いがあったので、その方の健康状態やなりたい体、生活の課題を解決する野菜とフルーツを提案する“パーソナライズ”が大きなコンセプトとしてありました。
―パーソナルスムージーは2020年3月25日から発売されていますが、現時点での累計販売個数はどのくらいでしょうか。
田邊さん:昨年11月16日から販売を開始したパーソナルスープと合わせて約30万個です。
―スムージーを発売された段階から少しスパン開けて、スープも出そうと決めていらっしゃったのですか。それとも要望があってでしょうか。
田邊さん:どちらもですね。元々スープもいいのではないかと思っていたのですが、お客様に次に何が欲しいかインタビューをしたところ、「スープ」という声が多く上がってきました。また、GREEN SPOONに期待いただいているのも、やはり簡単に野菜やフルーツが取れるということでした。次の新商品がローンチできるのは秋冬だったこともあり、時期的にもスープが一番良いのではないかと考え、スープの発売に至りました。
著名人が次々に紹介!向こう2ヶ月後の在庫がなくなるほどの反響が!
―非常に順調に売り上げを伸ばされているかと思うのですが、ヒットのきっかけとなった出来事などあれば教えてください。田邊さん:サービスローンチしてから2ヶ月目の時に、指原莉乃さんがTwitterとInstagramで一週間置きくらいに「最近これが好き」とGREEN SPOONを紹介してくださり、そこから今度は指原さんと仲の良いフワちゃんがテレビで紹介してくれたことで、その先2ヶ月後くらいまでの在庫が全部なくなるくらいの反響を得ることができました。
―指原さんがGREEN SPOONを知ったきっかけは、御社が何か取り組まれたというわけではなく自然にですか。
田邊さん:はい、そうです。これまで当社はタレントの方にお金を払ってPRしたということが一度もないんです。
―なぜ芸能人や美容・健康に感度の高い方々に広まっていったと思われますか。
田邊さん:一つは商品が新しかったということだと思っています。
スムージーの状態で冷凍されているものや、スープも冷凍や粉の商品はいくらでもあるのですが、GREEN SPOONのような自分で作るという形式の商品は、未だに日本にはないと思います。
もう一つはデザインです。野菜やフルーツを使った商品には、当たり前の事なんですけど、クリエイティブに野菜やフルーツが入っているんですよね。でも、それは絶対にしないと決めていました。多くの商品がある中で、どういう風に見つけてもらえるかを考えた時に、“とにかくあらゆる点において新しいことをする”という意思決定を創業時からずっとしていたので、それが功を奏したのではないかと思います。
―デザインもそうですが、商品のネーミングがユニークですよね。このあたりもこだわった部分なのでしょうか。
田邊さん:私自身、自分を好きでい続けられる人生や自己肯定感の高い人生を送りたいと思っていますし、皆さんにも送ってほしいと思っています。そのため、私たちは「たのしい食のセルフケアの文化を創る」ことをミッションにしているのですが、“たのしい”というところが重要だと考えています。ジム通いやダイエット経験のある方もいると思うのですが、なかなか続かないですよね。続けるためには“たのしい”というファクターが大事という考えのもと、デザインでもネーミングでも開けた瞬間の見た目でも、何でもいいので、GREEN SPOONに触れる瞬間をたのしいと思ってもらえるよう工夫を散りばめています。
「今までにない新しいもの」だからこそ、メディアが注目してくれた
―有名な方々が愛用してくれている背景には、商品の新しさなどがあると思いますが、とはいえ、そういった方々に知ってもらうきっかけは必要ですよね。サービス開始時はどういった広報を展開されていらっしゃったのでしょうか。田邊さん:全くしていませんでした。
ただ、『パーソナルスムージー』という新しい言葉を作れたことは大きかったと思います。あとは本当にプロダクトが全てだなと思っていまして、「新しいもの」かつ「効用があるもの」を作ることができればメディアには注目していただけると思っていました。
結果、サービス開始3~4か月目頃まで、何もしなくても色々なテレビや雑誌から取材の連絡をいただき、サービスが広まっていきました。その時はまだ広報担当もいない状況でした。
SNSの使い分け~Instagramでは世界観を、noteでは深い情報を
―今Instagramのフォロワーは2.7万人ぐらいで、あと Twitterやnoteもされていますよね。SNSは当初から戦略的に展開されていたのですか。田邊さん:Instagramだけは当初から行っていました。というのも、Instagramは店舗の役割を果たすようになってきていると感じていたためです。そのため、GREEN SPOONの世界観が伝わることを意識し、Instagramを運用していました。特に意識したのは機能的な役に立つ情報をあえて発信しないようにするということです。例えば、アカウントをフォローしてほしいからお客様に対してフォローするメリットをつける、あるいはhow-toを紹介するという方法が主流ではあると思いますが、そういった情報提供の場に使うことだけはやめようと決めていました。まずはブランドの世界観を認識してもらえることに重きを置き、クリエイティブにこだわっていました。今後は少し変えるかもしれませんが、当初はこういった方針で運用していました。
Twitterとnoteはそれより後に開始しました。Twitter を始めた後、いろいろ反応などを見ていたら、GREEN SPOONのマーケティングやブランディングといったビジネス自体に興味を示される方も多いことがわかりました。そこで、長文で深い情報を伝えることができ、Twitterでの拡散力もあるnoteを始めたという経緯です。最初はそういった理由で始めたのですが、最近は、深い情報を伝えるという意味で、期間限定のスムージーを出した際に誰が作った果物なのか、どういった効果があるのかという情報をnoteで公開しています。
―深い情報を伝える役割をホームページではなく、noteにしているのは、やはり Twitterとの相性がいいからでしょうか。
田邊さん:そうですね、拡散性があるということですね。公式HPにも情報は記載してありますが、それ自体が拡散されることはなかなかないので、noteを活用しています。
プロダクトだけではなく、起業ストーリーもメディアの関心を集めるきっかけに
―広報に熊本さんが入られてからは、メディアキャラバンもされていると言うことですが、メディアの露出量を増やすことを意識して活動されているという認識であっていますか。田邊さん:そうですね。スープが2020年11月16日でるというタイミングに合わせ、9月ぐらいから本格的に広報を始めました。新レシピ、新カテゴリーのローンチというのはGREEN SPOONにとって非常に大きなニュースだったので盛り上げたいと思っていましたし、スムージーが響かなかった層にも刺さる可能性があると考えていたので、より多くの人に伝えるために、本格的に熊本と広報を始めました。
―広報戦略としては、女性誌や美容誌に注力されていらっしゃるのでしょうか。
田邊さん:その時はそうでしたね。雑誌はすべて掲載してもらえるよう頑張ろうと。
熊本さん:実際、25媒体にキャラバンを行いました。10代~50代の女性が読む女性誌や健康に気遣っている男性や読む雑誌などを回りました。GREEN SPOONは冷凍食品なので、持ち歩くことができないため、キャラバンの際は、スープの空カップやスムージーの食品サンプルを参考に持っていき、イメージしてもらいやすいよう工夫しました。
―今までにない新しいプロダクトということで、広報としてメディアに説明する際に意識したことなどありましたか。
熊本さん:スープのキーワードである「ゴロゴロ野菜」や「加水の楽しみ」、「ワクワク感」、「パーソナルスープ」という抑えるべきキーワードは意識して説明していました。
キャラバンを終えて、25社中23社が紙面でもウェブでも掲載してくださり、未だにそのキャラバンで回ったメディアから、次はこういった企画で掲載させて欲しいという連絡をいただきます。これはもちろん、プロダクトが良かったということもあると思いますが、田邊がGREEN SPOONを始めた背景を話すことで、プロダクトへの納得感や関心が高まったり、会社に興味を持ってもらえたことも大きいと思います。
商品をつくる段階で支持されるかどうかの勝負は決まっている!
―2020年の年末にサブスク大賞でシルバー賞を受賞されてからは、テレビにも結構露出されたかと思いますが、メディアからサブスク大賞を受賞されたということでオファーが入ったという感じでしょうか。田邊さん:そうですね。夏の段階でも「王様のブランチ」や「BACKSTAGE」、「今夜くらべてみました」など6番組くらいで取り上げてもらいましたが、それらもほぼすべてメディアからお話しをいただいたので、問い合わせに対応させていただいたという感じですね。
―当初、こんなにメディアから取材が入ると想定されていましたか?
田邊さん:いえ、広報には明るくなく、ベースもわかっていなかったので、想定もしていなかったです。本当にわかっていなかったので、有難いなと思っていたのですが、周りの方からは「そんなのありえないことだよ!」と言われていたので、すごいことなんだなと。(笑)
―そもそも、広報で広めようというお考えはなく、新しい価値あるものを提供すれば必ず見つけてもらえるとお考えだったということでしょうか。
田邊さん:そこまで楽観的ではありませんでしたが、お客様に新しいベネフィットを提供できる商品を生み出せれば、一定はいけると思っていました。そもそも、枝葉のマーケティングやPR戦略を練る以前に商品を作る段階で勝負は決まると考えています。プロダクトの価値が新しくないとどんなにPRを頑張っても限界がありますし、競合との差別化や強みの明確化、顧客理解、こういったところが自分の中で整理できていたので、一定の反応はあると思っていましたが、結果的にはそれ以上の反響が得られたと思っています。
今後のビジョン~サブスクには固執せず、1個から購入できる体験を増やす
―販売戦略についてもお伺い出来ますか。田邊さん:広告業界出身なので、基本的には広告、特にFacebookやInstagramは相性が良いと思っていたので初期のマーケティングはこれらのプラットフォームで戦い勝とうと決めていました。
―広告も認知獲得には一定の効果がありますしね。
田邊さん:おっしゃる通りですね。
―3月に「MarkeZine Day 2021 Spring」の「スタートアップ企業の急成長サービスに学ぶ、サブスクモデル成功の秘訣」に登壇予定なのですね。今後の目標についてもお聞きしたいのですが、サブスクリプションモデルでまた違った方向のサービスを検討されている、あるいはスープの次に第3弾となる何か考えていらっしゃるなど、教えていただける範囲でお願いします。
田邊さん:僕らがやりたいのは先ほど申し上げたセルフケア文化を創るため、自分に合った野菜とフルーツを簡単に取れる世界をつくるということで、これは変わらず続けていきます。ただ、野菜とフルーツを取る手段というのは、スムージーとスープだけでなくてよいと思っています。その考えのもと、プロダクトのローンチは大きなニュースにもなりますので、新たなプロダクトを出すことは予定に入っています。
後は、サブスクリプションということにも最終的に固執する必要はないのではないかと思っています。セルフケアの文化を創るという意味でサブスクリプションのビジネスモデル自体はすごく相性がいいと思うのですが、僕らのサービスベネフィットが自分に合った野菜とフルーツを簡単に取れるということであるとするならば、パーソナライズは前提、野菜とフルーツがカップに入っていて、あと一手間加えれば完成する状態というのがすでに価値になっていることに気付いたからです。
もちろん、我々は習慣にしてもらいたいと思っているので、サブスクリプションの方に特典をつけたり、より深いパーソナライズが受けられるなどサービスを拡充し、サブスクリプションに誘導していくことは必須と考えていますが、一個から買える体験も作っていきたいと思っています。
―それはありがたいですね。スーパーとかでその時の自分に合ったスムージーやスープを選んで帰れるようなったら嬉しいです。最近、身の回りにサブスク増えすぎて、まだ消費しきれていないのに次のが届いてしまったり…。新たにサブスク契約をすることに対して一瞬ためらうようになってしまったりしているので、まずはお試しで、一個買ってみて、月4個とか8個とか消費するなと思えてからサブスクに移行できるっていいですよね。
田邊さん:食だけではなく、あらゆるサブスクリプションサービスが増えてきていますよね。この10ヶ月ぐらいで、我々にはサブスクだけではない価値があると感じられてきたのが大きいと思います。今後、一個から買える体験を増やしていきたいと思います。
GREEN SPOONについて
2020年3月、自分のカラダや日々の生活に合わせて、毎月自宅に必要な野菜やフルーツが瞬間冷凍された状態で届くパーソナルスムージー25種類を開始。同年11月から野菜とゴロゴロ食材からなるパーソナルスープ15種類も展開。またこれまでにないコンセプトやパッケージデザインで初期から有名芸能人などの心を掴み、スムージーとスープで累計30万個販売。毎月8個プランで7,200円(税抜)+送料。その他、毎月12個プランや毎月20個プラン、単品(4個から)購入も可能。スムージーとスープを組み合わせることもできる。