「ヒト」がメディアとなる時代

こんにちは。横浜FCの松本雄一です。

2022シーズンが2月に開幕し、横浜FCは開幕から勝利を重ね1年でのJ1昇格という目標達成に向けて良いスタートを切っています。チームの調子が良いときはメディアにも取り上げられ、ファン・サポーターのクチコミもポジティブで活発です。ただ、少しずつ増えている露出に一喜一憂せず着実に日々の発信を継続することとコンテンツを創り続けること、それに伴う反応(エンゲージメント)と勝敗に左右されずに向き合うことが、中長期の事業の発展には欠かせないと改めて思います。

そこで今回はあらゆる情報伝達のために欠かせない、『メディア』とは、というテーマで今の時代におけるメディアの定義、特性、それらとどのような関係性を構築すべきなのか自分なりの考えをまとめてみたいと思います。

横浜FCサポーター

メディアとは

情報過多で誰もが気軽に情報を発信できる現代において「メディア」として何に優位性があり、何を優先させるかといった判断は年々難しくなっていると感じます。そもそも受け取る側の持っている情報量も違えば、趣味嗜好も人それぞれ異なる時代でそのように考えること自体が間違いなのかもしれません。

例えばTV、ラジオ、新聞、雑誌が中心の4マス時代。多くの人が同じテレビ番組を見て、翌日の学校や会社での話題もほぼ共通していた世の中から、次第にマスメディア以外の情報が増え、知らない間に誰かが世の中に提供した情報をインターネットで検索して探しにいく時代になりました。そして現在はSNSでのシェアは大前提となり、友人や知人のクチコミを中心にタイムライン上で偶然に出会う情報を最適化したり、取捨選択する時代になっています。個人的にはSNSの情報がすべてと捉えることは危険だと考えていますが、朝のニュース番組でもSNS上のバズり度をランキングにして構成するようなものも見られ、SNSが情報社会で主要なプラットフォームとなっていることは間違いないと思います。

そうした中で、TVやラジオ、新聞などを介して情報を届けることのできる“報道機関”がメディアであるというのは変わりないのですが、それ以外にも“ヒト”をメディアとして捉えて扱うということをブランドとしてはもっと柔軟に考える必要があると感じてます。
報道機関だけでなく、検索して情報を得る、自身の興味関心を最適化して情報を得るという流れの中でインターネットのニュースメディアやキュレーションメディアが全盛を迎えましたが、これからより注目したいと思うのは「ヒト」の力。

強烈な影響力を持つインフルエンサーも情報を届けるのに効果的なメディアといえますが、一人ひとりの影響力は小さくとも高い熱量で共通の話題に対して発信している人の集合体であるコミュニティは今注目すべきメディアであると考えています。

「ヒト」メディアとの向き合い方

この小さなコミュニティはブランド側が作為的につくるものでなく自然発生的に生まれるものですが、放っておけばただのクチコミとして流れていってしまいます。このコミュニティを生み出すきっかけを創り、影響力を持たせるのに大切なのがブランド側のリアクションです。

数年前、横浜FCでもSNS上でのコミュニケーションはオウンドメディアの「告知」か「報告」がほとんどでした。それをクラブから語りかけるような発信に変え、その反応に対してリアクションすることで、ファン・サポーターとのコミュニケーションが少しずつ生まれました。さらに継続して話題のきっかけとなるコンテンツを提供することで、UGCが少しずつ増えてきています。

Ex)

■サポーターへの問いかけでUGCが発生する

■社会に向けた共感されるメッセージ

■企画でUGCを生むコミュニケーション

■話題に乗っかる発信

こうして告知やお知らせ以外の発信が増え、次第にコミュニケーションの数と発信する人の数が増えると、その発信の連鎖は新しい発信者を生みます。そしてJリーグのSNSでの写真投稿の解禁よりサポーターによる試合の素材を活用したリッチなコンテンツも認められるようになりました。

これによりテレビ中継やインターネットライブ、ニュースや新聞などの報道機関よりも「ヒト」から即座に、リアルで伝わりやすい情報が発信されるようになりました。今起きている出来事をタイムリーに伝える、まさにクチコミそのものが大きな価値を持つようになり、「ヒト」がメディアの役割を担う時代がきていると考えられます。

その流れで最近ではサポーターのSNS上でのUGCに留まらず、横浜FC含め各Jクラブでサポーターが綴るnoteの記事での戦評や個人のクラブへの想いを記したものなど、様々な作品に近いコンテンツが生まれてきています。この流れを生み出しているのはクラブの直接的な働きかけではなく、サポーター同士のリアクションによるものです。

■横浜FC noteまとめ

横浜FC 記事まとめ(※note公式より引用)
https://note.com/notemag_sports/m/m0038a4a73a04

こうして「ヒト」がメディア化することで、発信者同士でコミュニケーションが生まれ「コミュニティ」ができあがります。そして共通の話題でコミュニティ化したものを“メディア“が取り上げるというこれまでの情報の流れとは逆説的な現象も起きています。

このコミュニティが育つと、コミュニティの中の熱量の高いファンとのコミュニケーション設計もできますし、その熱量を持って情報を発信する人が増えることでよりリアルにコミュニティの外にいる人に対しても情報は届き、ブランドの認知の向上、興味喚起につながるのではないでしょうか。

こうした動きが実際に活発化していることからも、これまでのメディアに「ヒト」そして「コミュニティ」が加わり、企業はこのコミュニティとのコミュニケーション設計が求められる時代になってきているのだと感じます。

コミュニティとの関わり

情報を拡げ、ブランドを認知させ、多くの人に興味を持ってもらうための一つの手法としてこのコミュニティとの関わり方はとても重要になると思います。

横浜FCで起きている例で考えてみると、横浜という地域社会におけるリアルコミュニティではなく、共通の話題で繋がることができたコミュニティであるため横浜に住んでいる人だけが対象ではありません。地域密着のクラブだからこそ、この地域コミュニティである横浜の中でプロモーションをし、売上をあげるということばかりを考えがちですが、共通の話題で繋がるコミュニティを通じてより多くの人に認知されることによって、間接的に売上アップに寄与するという考え方が大切になります。この考え方があるだけで、すぐに成果が見えないアクションに対しても意味付けができ、様々な可能性にチャレンジできると思います。

ファン・サポーターは試合に来場して応援するだけでなく、試合の興奮や勝利の余韻、日常の選手の素顔などを知り、共通の話題のコミュニティに対して発信することでクラブの宣伝活動を担う広告塔にもなってくれています。インフルエンサーによるPRや、実施はすることはありませんがステマ(ステルスマーケティング)とはまた異なる形で、大きな影響力を与えられるマーケティング手法であると言えます。そうした意味で、コミュニティの重要性、「ヒト」メディアの重要性は今後も増してくるのではと思います。

また、この活発化したコミュニティの中でコミュニケーションを深めることで、自分たちでは気付けないような事柄に対する解決策、見過ごしてしまっている問題への気付き、新しい切り口のアイディアなどを得ることも期待できます。

実際に、先日私自身が発信した内容に対しても多くの参考になる意見をいただきました。

この時にいただいた意見の中には、現状では難しいもの(何度もクラブから改善をしようと試みたが外部要因も含め実現が難しいもの)、コロナ禍を理由にストップしていてそのままになってしまっていたもの、今すぐ検討可能なもの、今までやっていたのにいつの間にかできていなかったこと、など多くの気づきがあり、即座にクラブ内に展開させていただきました。

実際にこの発信も2,000人程のフォロワーですが多くの意見をいただくことで情報が拡がり150,000ものインプレッションを獲得するなど、コミュニティの中での露出がフォロワー以外にも広く届いた例であるといえます。

まとめ

1.生活者を取り巻く情報量が増大し、その情報の受け取り方も様々になっている中で「ヒト」がメディアとしての役割を担うようになってきており、その集合体である「コミュニティ」が情報伝達のメディアとして重要な役割を担う。

2.クチコミが自然発生するようなコミュニケーションをすることで発信が増え、新たな発信者を生み出す。その発信に対してブランド側のリアクションがより多くのコンテンツ生成を生み出すきっかけとなり、このコミュニティとのコミュニケーション設計が必要な時代になっている。

3.コミュニティとの関わり方は、そのコミュニティの中で成果を生み出すという視点だけでなく、共通の話題で繋がるコミュニティを通じてより多くの人に認知されることによって、間接的に成果に繋げる視点が大切。

執筆者プロフィール

株式会社横浜フリエスポーツクラブ[横浜FC]
松本 雄一
https://www.yokohamafc.com/

早稲田大学卒業後、カネボウ化粧品、サイバー・バズ 広告メディア事業部 局長を経て、2019年5月にJリーグ 横浜FCに入社し、現在マーケティング部部長 兼 広報グループリーダーを務める。
Twitter:@yu_boasorte

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