広報活動をする際に欠かせない視点の一つが「世の中に対して、社長をどのように見せていくのか」ということです。企業のブランディング戦略において、社長自らのメッセージ発信は重要な役割を担うためです。
前回の記事では、社長が前面に出ることで良い効果が得られる具体的場面や、社長のプロデュース方法についてお伝えしました。
本記事では、社長が広報活動に積極的に参加できるよう、担当者が意識するべきポイントを、実践編として、メディアとの交渉から本番まで段階ごとに詳しくご説明します。
この記事の目次
忙しい社長が広報活動に参加するには、広報のフォローが肝要
基本的に、どの企業の社長も常に忙しくしていることでしょう。
それがゆえに、ともすると広報活動に協力的ではない社長もいるかもしれません。そんな社長の負担を少しでも減らしながら、社長に広報活動に参加してもらうため、担当者が工夫すべきポイントを「メディアとの交渉時」から「社長への依頼時」、「本番時」まで5つのフェーズに分けて詳しく解説します。
【1】メディアとの交渉
取材対応やイベント登壇などに、社長自らの露出が有効であることは、前記事でもお伝えしました。そのためには、メディアの方との交渉段階から広報担当者が意識するポイントがあります。
それは、社長が話す必然性のあるテーマを積極的に提案することです。仮にメディア側からは社長の指名がなかったとしてもです。ただし、やみくもに社長の存在をアピールするのではなく、社長が話すからこそ意義のあることを取材内容として提案することが重要です。
当社を例に挙げると、「副業(複業)人材を対象に取材したい」とメディアから打診があった際には、副業をしているメンバーを何人かピックアップしたうえで、「副業人材を受け入れるにあたっての企業文化のつくり方」をテーマに、社長が話す機会を作ってもらえないかとメディアへ提案をしたことがあります。
副業の「具体的な働き方」については社長ではなく、実際に副業を実践しているメンバーが語った方がよいと思いますが、「企業文化」について語るなら、社長の言葉で話したほうが説得力が増すと考えたからです。
「何を話すか」はもちろん、「誰が話すか」は内容に説得力を持たせる大きな鍵となります。
【2】社長への依頼
メディア取材や登壇が決まれば、次に社長へ依頼(場合によっては説得)が必要です。その際、前面に出ていくことに消極的な社長の場合は特に、広報担当者としての熱量を伝えるだけでは社長の協力を得ることは難しいかもしれません。
大切なのは、「『なぜ』社長自らが前面に出て発信する必要があるのか」を論理的に説明し、心の底から納得してもらうことです。
【3】スケジュール調整
メディアと良い関係を構築するために、スピード感は欠かせません。メディアから「社長を取材したい」と依頼があったとき、即座に社長のスケジュールが確認できますか?もし、依頼のたびに代表にスケジュールを確認していては、タイムラグが生じてしまいます。理想は、メディアからの打診があったその場で回答できる状態にしておくことです。
その一つの方法として、社長のスケジュールを、Googleカレンダーなどで広報にも共有してもらい、更には、代表の許可なくスケジュールを押さえることも約束できていれば、メディアとのスケジュール調整がスムーズにできます。
ダブルブッキングを防ぐために、常にGoogleカレンダーのスケジュール表を最新に保つよう社長に念押しすることを心がけておくといいでしょう。できる限り、プライベートな予定も含め、すでに埋まっている時間を常に共有してもらうことで、スケジュールの調整ミスを防止できます。
【4】イベントに向けた準備
前記事でも述べたように、期待する効果を最大限発揮できるよう、メディア出演やイベント登壇の際には、スピーチ原稿を社長と一緒に作り、予行練習を行うと安心です。
また、社長が本番でベストパフォーマンスができるよう、前日の社長の体調管理にも気を配りたいところです。例えば、社長が前夜遅くまで仕事をしていたり、会食に出席したりしていた際には、頃合いを見てメッセージを送るなどして、翌日に向けてコンディションを整えられるよう取り計らうといいでしょう。
【5】本番当日
さて、いよいよ本番です。当日は社長へのリマインドを忘れずに。その際、時間と集合場所に加え、改めて取材の趣旨を簡潔に伝えておくと、話す内容が整理され、社長もスムーズに本番に臨めるでしょう。
本番中に広報担当者にできることは限られています。その中でもできることは、社長の発する言葉に頷き、話しやすい雰囲気を作ることです。登壇など、スピーカーが一方的に話すシーンでは、自分の話が聴衆に響いているかどうか誰でも不安に思うものです。担当者は、社長が自信を持ってスピーチできるような空気感を演出することを心がけましょう。
メディア対応やイベント登壇時の質疑応答では、社長がスムーズに回答できるよう、資料やメモを予め用意しておくと安心です。社長が言葉に詰まったときには、広報担当者が代わりに回答したり、代表の話を要約したりといった柔軟な対応が求められることもあります。広報担当者も、いつでも前に出る心づもりで本番に臨むことが大切です。
日頃から社長が広報活動に参加することで得られるメリット
このような工夫をしながら、広報担当者が積極的に社長に働きかけ、発信の機会を増やすことで何が得られるのでしょうか。それは主に3つあると考えています。
1つ目は、取材や登壇に慣れていない社長でも、数をこなすことで、スピーチが洗練されることです。
社長が前面に出てメッセージを発するシーンが限られていると、「ここぞ」という重要な局面でも一発勝負で挑むことになります。普段から人前に立つことに慣れておけば、そのようなシーンでも本領を発揮できるでしょう。
2つ目は、積極的に広報活動に巻き込むことで、社長自身がその価値をより実感できる点です。
広報の活動は短期的な定量効果が見えづらいため、なかなか周囲の理解が得られないこともあります。しかし、社長自らがメディア出演などを経て、周りからの反響を感じる機会があれば、少なくとも定性的には広報活動のインパクトを知ってもらうことができます。
3つ目は、広報活動の成果として、採用にも良い影響があるということです。
より多くの人にメッセージが届けば、応募人数が増えるだけでなく、応募者の質の向上も期待できます。社長自身が自社のビジョンや求める人材像を語ることが、採用の観点でも良い効果を発揮するでしょう。
広報では中長期的な目線を持つことが大切
広報担当者として重要な視点は、中長期的な目線で企業の価値を上げていくという心構えです。広報活動は、マーケティングや人事などとは異なり、成果がすぐに表れるものではありません。例えば、マーケティングの場合は新規顧客のリード獲得数、人事の場合は応募者数・採用者数として成果が数字で見えますが、広報の場合は短期的に効果を実感できることはあまりないでしょう。
しかし、中長期的な視点で見れば、広報活動はマーケティングや採用活動にも良い効果を与えるものです。広報活動を通じて企業やサービスの認知度を高めることができれば、間接的にリード獲得や応募にもつながるからです。
広報活動は企業のさまざまな側面に影響を与えるという意味で、経営と一体化したものだといえます。つまり、客観的な視点で会社を全体的に捉え、経営や事業に対して提言していくことも、広報の重要な役割だと私は認識しています。
短期的には効果を実感できなくても地道な広報活動を続ければ、数年の時を経るころには、企業価値につながっていたことを感じられるはずです。その効果を最大化するためにも、社長自らによるメッセージ発信が大切なのです。
執筆者プロフィール
株式会社ニット(https://knit-inc.com/)
小澤 美佳
Twitter:@mica823